30、ミミット火山 〜強烈なサラマンドラ
クライン様が、みんなにバリアを張ってくれた。
彼は、突然の火の雨に、全く驚く様子はない。逆に、なんだか呆れているというか、ため息をついている。
目の前に、たくさんの赤い炎をまとった何かが現れた。僕よりも小さな魔物だ。僕の背の半分くらいかな。
だけど、この数には背筋が凍る。
「ちょっと! 何なのよ、あんた達!」
(女性の声だ)
「ねぇ、戦闘形で、突然現れるのはやめてくれない? それに、俺がバリアを張らなかったら、今頃、キミ達は、この山から追い出されるところだったよ?」
クライン様は、面倒くさそうな表情をしている。相手は、こんな大群なのに、平気なのかな。
「なっ? 何ですって〜! ちょっとイケメンだからって、調子に乗ってんじゃないわよ、クライン! あんたが、チビっ子の頃から、どれだけお世話してあげてると思ってんの!」
(クライン様のお世話?)
「キミ達を追い出すのは、俺じゃないよ」
クライン様は、僕の近くにいた生首達の族長さんに視線を移した。
すると、族長さんがスーッと移動した。
「サラマンドラ、われわれのあるじに、ひのあめをふらせるとは、いいどきょうをしていますね」
(わっ、族長さんが怒ってる)
「うん? 何を言ってんのよー。あんた達、ほんの100年前までは、弱っちくて数も少なくて一族が滅びそうだったじゃない。あたし達の山にすまわせてあげている感謝の気持ちは、どこへ行ったのよ!」
(ほんの100年前って……どれだけ長生きなんだ)
赤い炎の魔物達は、キョロキョロと辺りを警戒するように見ている。
「どこにいるのよ、うっかり者の死霊は? そもそも、ここには、一度も来たことないじゃない。ワーム神って呼ばれてるくせに、神なら嘘をつくんじゃないわよ!」
(うっかり者の死霊?)
見た目はトカゲのような魔物だけど、話す声は、女子なんだよな。妖精には見えないけど。
「めのまえにいますよ。われわれのあるじは、うまれかわられたのだ。さいきょうのけんしがきいてあきれる。きづかぬとはな」
「何ですって! 弱っちい火の魔物だったくせに、偉そうに〜」
赤い炎の魔物達は、キョロキョロしている。でも、僕に気づかないのだろうか。リザードマン達をジッと見たり、何もない岩の後ろを確認したりしている。
話すのは、頭に何かをつけている個体だけみたいだ。他の個体は、話せないのかな。
「キミ達は、自分が放つ炎のせいで、見えていないんだよ。人型に変わればどう? 戦闘形でウロウロされると、暑苦しいんだよね」
クライン様が、ため息をつきながら、赤い炎の魔物達にそう言ったけど……完全に無視されている。
苦笑いを浮かべながら、クライン様は僕の顔を見た。そして、軽く頷いている。僕に話をしろってこと?
「サラマンドラさん、こんにちは」
(あれ? 気づかない?)
「翔太、水をぶっかければいいよ。彼女達は、カリカリしているからさ」
「えっ? 大丈夫なんですか?」
「うん、魔族は、最初が肝心なんだ。リザードマン達は、翔太をチビだと認識しているから、きっと翔太が大人の姿になっても、チビ扱いするよ」
「ええっ!?」
「ふふっ、魔族は、臨機応変に態度を改めることは苦手だからね。知能が高い魔族なら、可能だけど……いや、それでも、先入観は消えないかな。殺されそうになると変わるだろうけどね」
(だからリザードマンは、気持ち悪い顔で悶えるんだ)
「わかりました」
「翔太、最大出力で、水魔法を使ってみて。俺、今の状態を確認しておきたい。雨を降らせられるかな?」
(雨を降らせる? どうやって?)
あっ、頭の中に、読めない文字が流れた。何? だけど、手のひらがムズムズする。できそうかな?
僕は、手を空に向けて、雨を降らせようと意識した。すると、手から放たれた魔力が空に上がり……。
ザザーッ!
突然、滝のような雨が降ってきた。だけど、雨雲は低い位置にひとつ。ここだけの豪雨?
(あっ、生首達は、火の魔物だ。やばっ)
だけど、生首達は平気な顔をしている。バリアを使えるのだろうか。
「いや〜! な、何すんのよ!」
滝のような雨に打たれて、浮かんでいた赤い炎の魔物達は、ポテポテと地面に落ちた。
僕は、慌てて、雨雲を消した。
「狭い範囲なら、わりとしっかりとした水魔法が使えるね。以前なら、基本的な初級魔法しか使えなかったんだよ」
「僕は、ステイタスのバランスが良くなったみたいです。何かに優れているわけじゃないんだけど」
クライン様は、優しい笑顔だ。本当に、出会った頃とは、真逆なんだよな。
「ちょ、ちょっと! 何なのよ、この小さな生き物は!」
(あれ? 女の子?)
目の前には、たくさんのこびとがいる。僕の背の半分くらいだ。炎をまとっていたときは、トカゲみたいだったのに、普通に人型になっている。大きさは変わってないけど。
「サラマンドラさんですか?」
「なっ? あたし達のことを知らないなんて、あんた、よそ者ね? 小さな人間? チピすぎるわね」
(いや、キミ達よりは、大きいと思うけど)
「僕は、半分人間だと思います」
「ふぅん、ハーフなのね? それなら、序列は最下位よっ」
(なんだろう……ムカつく)
話の内容は、当たり前のことなんだろうけど、なんだかムカつく。ぎゃんぎゃん、うるさいんだよね。
「ね? 女神様に似てるでしょ? 妖精族は、この星が生まれたときからずっと生きている人が多くて、みんな、口うるさいんだよ」
クライン様が、そう言うということは、彼も女神様のことを口うるさいって思ってるんだな。
スーッと、生首達の族長さんが、目の前に移動してきた。
「ライトさま、このものたちをおいだしましょうか」
「えっ? ここって、サラマンドラさん達のすみかなんでしょ?」
「サラマンドラのりょうちですが、いま、こうしてぶじでいられるのは、わたしたちのチカラです」
うん? 生首達って、ワープと火の息と治癒の息しかできないよね?
「翔太、ワープワームは、諜報部隊なんだよ。いろいろな場所に入り込んで、情報を得ることができる。ミミット火山が、戦乱中に侵略されなかったのは、天使ちゃん達のチカラだよ」
「クライン様、でも妖精なら、この火山を守るチカラがあるから……」
「魔族が相手ならね。サラマンドラは、剣士の中でもダントツで強い。だけど、魔王クラスが複数来ると、太刀打ちできない。ましてや、他の星の神々なら、なおさらだよ」
(そりゃそうだ、神様が相手だなんて……)
「それなら、どの種族も同じですよね。そんな規格外な敵には対処できないです」
「天使ちゃん達なら、それができたんだよ。だから女神様の城の居住区も、天使ちゃん達が守っていた」
(えっ? すごいな、生首達)
「そんなチカラが……」
「うん、主人の能力の一部を使えるからね。バリアを張る能力もあるよ。一体一体は、大したことないんだけど、重ね掛けをするんだ。天使ちゃん達が数万体いるだけで、どんな攻撃も通さないよ」
「すごいですね、この子達」
僕がそう呟くと、周りにいた生首達はヘラヘラしながら、めちゃくちゃに飛び回っている。
(何これ? 狂喜乱舞?)
族長さんは、キリッとしている。いや、ちょっとフニャリと笑ったけど。
「石山も、天使ちゃん達を借りればよかったんだけど、爺ちゃんが嫌がったんだよね」
クライン様は、苦笑いだ。でも生首達は、そこまでの数はいないだろう。女神様の城と、この場所を守るだけで、精一杯だったんじゃないかな。
「翔太、まだ、記憶のカケラが現れていないだろうけど、天使ちゃん達は、もっと多くの場所を守ったんだよ。それに、魅了使いだからね。戦わずして寝返らせたこともあるんだ」
「へぇ、そうなんですね」
でも、今の僕が主人なら……生首達は、弱くなってしまうんじゃないのかな。
(どうしよう……)
「ちょ、ちょっと! もしかして、あんたが、ライトなわけ?」
ふわりと浮かび、僕をビシッと指差すこびと。近くで見ると、わりと、かわいいかも。
「そうですよ。でも、以前の僕とは違うみたいで、記憶もまだあまり……」
「当たり前よ! 死霊が生まれ変わると、記憶の引き継ぎなんて、ほとんどできないわ。記憶のカケラって何よ?」
「サラマンドラは、しらなくてよいのです」
「調子に乗ってんじゃないわよ! ワーム神、何様のつもり?」
(はぁ、強烈なキャラだな)
でも、生首達が弱くなってしまったら、逆に彼女達に守ってもらわなきゃ生き延びられないよな。
僕は、前世での接客を思い出してきた。いろいろと厄介な客がいたよな。
「サラマンドラさん、僕も、イマイチわからないんですけど、僕の記憶が封じられたカケラが、何かの条件で出現するんです」
「その条件って何よ!?」
「それがわからないんです。女神様もわからないみたいで、ギャンギャンうるさくて……僕、地底に逃げてきたんです」
「へぇ……イロハちゃんにもわからないの? ふぅん、ふふっ。うふふふっ。あーはっはっは」
(なぜ、爆笑?)