39、ガラク城 〜避難者を癒すリビング
「だいたい終わったかな」
「はい、クライン様。怪我人は、もういないと思います」
僕は、クライン様と一緒に、ガラク城に避難している魔族の怪我の治療に回った。
ガラク城には、たくさんの広い部屋があった。城といっても巨大な建造物ではない。廊下には、狭い間隔で扉があり、扉を開けるとその先は、端が見えないほどの広い部屋になってるんだ。
(どういう構造なのか、謎すぎる)
クライン様の説明によると、ガラク城は、滝の奥の洞窟内を改造したものだそうだ。ガランとした洞窟だった場所を、黒魔導の魔王スウさんの空間魔法によって、拡張して作られているらしい。
どの部屋も、扉の近くに怪我人を集めてくれていたから、僕達の移動は楽だった。部屋の中は、種族関係なく、ごちゃ混ぜで使っているようだ。避難者が増えるたびに、部屋を増やしていたらしい。
「部屋ごとに、種族が分かれているんじゃないんですね」
「最初は、種族ごとだったみたいだよ。でも、戦乱が激化したときに、分類を諦めたらしいね。魔王スウは、あんな性格だからさ」
クライン様は、苦笑いだ。確かに、片付けられない魔王に、避難者の整理整頓はできないだろうな。
「アンデッドを嫌う種族がいるなら、部屋を分ければいいだけですよね?」
「引越しをさせるのが面倒なんじゃないかな。みんな、それぞれ、私物を広げていただろう? アンデッドのための部屋をもう一つ作れば解決するだろうけど、もう増やしたくないみたいだね」
(私物? 縄張りのためかな?)
「魔族って、あまり魔法袋を使わないんですか?」
「魔法袋は、魔力を消費するからね。それを嫌う種族が多いんだよ。人型で行動する種族は、みんな持っているけどね」
確かに、魔物に近いような種族の方が多かったよな。すべてを見たわけではないけど。
種族はごちゃ混ぜだけど、それぞれの部屋には、特徴があった。キチンと整理された部屋、草原のような部屋、湿気の水辺のような部屋、変な臭いがする部屋、他にもいろいろ……。
でも共通するのが、リーダーがいて、他の人がそれに従う関係性だ。部屋それぞれが統制されているみたいだな。
「部屋ごとに、小さな国みたいになってますよね」
「ふふっ、そうだね。だから、引越しをさせるのも難しいんだろうね。やる気になれば、できないことではないけど、魔王スウは、ごちゃ混ぜでいいと思っているみたいだ」
「なるほど。でも、いろいろな種族が共存できる空間って考えると、悪いことではないと思います」
僕がそう言うと、クライン様は、目を見開いた。
(えっ? 変なことを言った?)
「ふふっ、やはり翔太は、生まれ変わっても変わらないね。俺は、幼い頃から、そんなキミに憧れていたんだよ」
「ええっ!? クライン様が主君ですよね? 僕は、配下なんですよね?」
「逆だよ。キミは、俺の配下になってくれたんだ。父親を失くして不安定だった俺を、支えるためにね。だから、爺ちゃんは、俺が騙されていると言っていた」
「僕がクライン様を騙す、ですか?」
「悪魔族はね、おそらく魔族の中で最も、他者を信用できない種族だと思う。他者への情がないんだろうね。自分の血族しか信じない」
「そう、なんですか」
「キミが俺の配下になることは、キミには全くメリットがなかったんだ。逆に、俺は、とんでもない恩恵が得られる。だから爺ちゃんは、キミが何かを企んでいると信じて疑わないんだよね」
(僕をライトと呼ばないように、気遣ってくれてるのかな)
僕が生まれ変わる前のことになると、僕を翔太とは呼べないんだ。クライン様にとって、僕は、ライトなんだな。
「クライン様、僕のことは、ライトでいいですよ」
「えっ? あはは、ありがとう。参ったな〜、翔太はまだこんなに、チビっ子なのに、あはは」
笑顔のクライン様は、なんだか少し幼く見える。そっか、幼かった彼は僕に、甘えていたのかな。
「しかし、ほんとにゴミ城だね。魔王スウの歩く場所は、ゴミだらけだ」
急に、何かを誤魔化すように話が変わった。
確かに廊下も、ゴミで埋まっている。僕達は、ゴミの上を歩いている状態だ。
たぶん部屋から、不用品を廊下へ出しているのだろうな。綺麗な部屋の扉の外は特に、ゴミの山ができている。
さっきの広間が、魔王スウさんのいわゆるリビングらしい。本来なら、謁見の間と呼ぶべきなんだろうけど……。
「魔王スウさんの個室も、ゴミだらけなのかな」
「うん? どうだろう? 気になるね〜」
クライン様は、悪戯っ子のような表情だ。何かを思いついたのかな。
広間に戻ると、部屋の暑さが気になった。クライン様も、同じらしい。ふぅ〜っとため息をつくと、無言で、魔力を放った。
キラキラとした風が部屋の中を吹き抜けると、温度は一気に下がった。ちょっと冷えすぎかもしれない。
「ちょ、クライン! やめなさいよねっ。寒いじゃないのっ」
赤いワンピースのこびとが、ブルブルっと震えた。サラマンドラは、やはり氷には弱いんだな。
この城の主、魔女っ子は、クライン様が空気を綺麗にしたことを歓迎するように、パチパチと拍手している。
「名探偵サラドラさん、とても深い謎が見つかってしまったんだけど、どうします?」
クライン様は、部屋を見回しながら、さりげなくそう言った。さっき、何かを思いついたような顔をしていた件かな。
「深い謎? 本当に謎なの? この部屋のゴミを燃やしても、スウちゃんの秘蔵のゴミは見つからないわっ」
(秘蔵のゴミって言い出したのは、誰だよ)
さっきよりは、かなり減ったけど、まだまだゴミは溢れている。魔女っ子が、燃やされたくないゴミをレジストしているみたいだ。
部屋にいる大勢の避難者は、楽しそうにしている。魔王ふたりの攻防が面白かったんだろうな。
「まだまだ、部屋はゴミだらけじゃないか。それに廊下にも、ゴミの山がたくさん出来ていたよ」
「なっ? まさか、スウちゃんの秘蔵のゴミは、廊下にあるのかしらっ」
(秘蔵のゴミって何なんだろう?)
「そうかもしれないね。俺には、お宝を察知する能力はないから、わからないけど」
すると、魔女っ子が焦った表情で近寄ってきた。
「クライン、廊下はダメよ。あんな場所でサラドラちゃんが炎を吐いたら、空間魔法で繋げている部屋が維持できないもん」
(魔王サラドラさんは、炎を吐いているの?)
「それなら魔王スウさん、廊下を片付けなさい。俺達は、ゴミの上を歩いて回ったんだよ?」
「踏み固めれば、道になるわよ〜」
(ゴミの道? 生ゴミもあったよな?)
クライン様は、苦笑いだ。
「クライン、深い謎って、ゴミの道のことなの?」
赤いワンピースのこびとは、つまらなさそうな顔をしている。もうゴミ掃除には飽きたのかもしれない。
「違うよ。翔太が疑問に思ってたことなんだよ」
(えっ……僕のせいにされる?)
「うん? なぁに?」
「城の中は、こんなにゴミだらけだけど、避難者の部屋は綺麗な部屋もあったんだ。魔王スウさんの私室は、どうなっているのかなぁって」
すると、周りにいた避難者も、頷いている。
「スウ様は、私室には、誰も入れないようにしておられます。私達としては、お掃除に伺いたいのですが」
「ゴミに埋もれて眠っておられるのは、身体によくありません。配下の方々も心配されています」
(配下の人もいるんだ)
人が多すぎて、しかも、みんなゆるい雰囲気だから、配下って感じじゃないけど。
すると、サラマンドラの魔王サラドラさんは、ニマァっと笑みを浮かべた。それに反して、黒魔導の魔王スウさんは、オロオロしている。
「あーはっはっは、それは、深すぎる謎だわっ。名探偵サラドラに任せなさいっ!」
「ちょ、サラドラちゃんには、任せないよ。クライン、いきなり何を言い出してるの。私の私室は……ないわよ」
(スウさんって正直だな。嘘をつくと目が泳いでいる)
必死に抵抗する魔女っ子。それを見て、楽しそうに笑う避難者。この部屋は、避難者全員の憩いのリビングなんだな。
みんな戦乱で、すみかを奪われて、おそらく大切な人も失っているだろう。だけど、ここにいる人達は、種族に関係なく楽しそうに話している。
怪我人の治療に回っていたときに、どの部屋にも、このリビングを映すスクリーンが設置されていることに気づいた。
だから、みんなは、僕達が治療をやりやすいように、怪我人を扉の近くに移動させていたんだ。このリビングでの話は、避難者みんなに共有されているようだ。
(こういう世界って、いいな)
種族に関係なく、みんなが共存できる場所を、魔王スウさんは築きたいのだと感じる。
ゴミ城になっていることは、逆に、魔王である彼女への親しみやすさを演出しているのかもしれない。
こんなに多くの人が種族に関係なく、彼女の私室の心配をして、掃除をしようと申し出ている。掃除なら、誰でも力を貸すことができるもんな。
(彼女は、わざと、ゴミ城にしているのかな)