57、聖地リガロ 〜青の神の罠
ジャックさんが先導するように、洞穴に向かって走っていく。僕達も、その後ろを追った。
(あっ、リュックくん)
走っている途中で、僕は、また、不思議な鎧に包まれた。これは、魔道具『リュック』が作り出している、リュックくんの一部なんだ。
『ライト、タトルークを支配している呪術系の青の神には、普通の攻撃は効かねーぞ。逆に、奴の攻撃は、バリアでは防げない』
(えっ……やばいじゃん)
『あぁ、アイツら3人には無理だ。おまえが殺らなきゃ、全滅だぜ』
(僕なら倒せるの?)
『さぁ? 今のおまえにできるかは、わからねーけど……タトルークを支配している奴が、大魔王の座を狙っている』
地底が、その青の神に支配されたら、星の保護結界が消えると大変なことになる……ってことだよね。
今の僕には、無理かもしれないんだ。でも、僕一人じゃない。クライン様もジャックさんもレンフォードさんもいる。何とかしないと……。
キン!
ジャックさんが、剣で何かを弾いた。
「聖地リガロに、うす汚ないアンデッドが入ってくるとは」
「排除せよ!」
完全に人化した奴らが、剣を抜き、僕達に迫ってきた。ジャックさんはゾンビ服を羽織っているだけなのに、アンデッドに見えているのか。
(す、すごい)
ジャックさんは、洞穴に入ると、襲ってくる奴らを次々と、斬っていく。だけど、殺しているわけではなく、確実に動きを止めているんだ。
レンフォードさんも、剣を抜いた。ジャックさんほどではないけど、僕よりは圧倒的に強い。
クライン様は、剣を抜かない。走りながら、魔法を使っている。アンデッドの魔王のフリをしているのかな。
「ライト、奥に急ぐぞ」
クライン様が叫んだ。僕達の進路は、ジャックさんとレンフォードさんが、切りひらいてくれる。
(みんな、凄すぎる)
僕は、必死に止めようとしてくる奴らを避けながら、クライン様に遅れないようにと走った。
リュックくんの鎧がないと、こんなスピードは出せない。それがわかっていて、リュックくんが早めに鎧を出してくれたのかな。
暗い洞穴を奥へと進んでいくと、大きな池が見えた。そして、急に明るくなっている。上を見上げると、月のようなものが見える。
(ここは、外なんだ)
だけど、高い壁に囲まれている。洞穴の一部が崩れて、空が見えているのかな。
ザザッ!
大きな池から、水音が聞こえた。
『ライト、来るぞ!』
リュックくんが映像を見せてきた。池の水がバサッと僕達にかかると、僕以外の3人が動けなくなる。あの水をかぶってはいけないんだ。
僕は、スピードを上げて、前を走るジャックさんを追い抜いた。そして、すぐさま、水よけの何かをと意識すると、地面から、キラキラ光る何かが生えてきた。
「水に触れてはいけない!」
僕がそう叫ぶと、彼らは止まった。そのキラキラしたものが、僕達を包んだ。
バシャッ!
何かが池の中で跳ねるような音がして、水がバサッと、キラキラした何かに当たった。
シューッと白い湯気のようなものが発生し、視界が白く染まっている。
「な、なぜクリスタルが……溶けているんだ?」
クライン様が、ポツリと呟いた。
キラキラとした何かのこと? いや、池の水が、塩のクリスタル? バシャッと水がかかった地面には、塩の塊のようなものが現れた。
(もしかして……あの水って、熱いんじゃ?)
『あぁ、さっき、水辺にいた奴が持っていた呪剣と同じものを使ってるみたいだ。青の神は、塩のクリスタルを溶かして、巨亀が近寄れないようにしているよーだな』
(あ、燃える剣……)
『ライト、すぐに霊体化できるようにしとけよ? 鎧も溶かされる』
(リュックくん、そんなに灼熱なの?)
それなら、霊体化しても、溶けるんじゃ?
『おまえは霊体化したら、溶岩の中でも泳げる。そう教えなかったか?』
(そうだっけ……)
「へぇ、勘がいいのですね。塩壁か。バリアなら一瞬で溶かしてあげたのに、残念だなぁ」
嫌な感じの声が聞こえた。すると、僕達を覆っていた何かに亀裂が走った。
パリンと音を立てた直後、キラキラした壁が崩れた。これは、塩の壁だったのか。
(あれが、青の神?)
キラキラした壁が壊れると、池のほとりには、青紫色のオーラに包まれて浮かぶ男性の姿が見えた。
あっ、そういえば、さっき、リュックくんが、青の神の攻撃はバリアでは防げないと言っていたっけ。
「ライト、これ、罠だったかも」
クライン様の視線は、空に向いている。あれ? 空にも池のほとりと同じ姿の男性が浮かんでいるようだ。
僕は、ゲージサーチをしてみた。
(あっ、池のほとりの男性は、この星の人だ)
そして、空に浮かぶ人に、ゲージはない。幻ってことかな。
『ライト、浮かんでいるのは、オレと同じだ。おそらく、兵器として造られた魔人だ。池のほとりにいるのは、タトルークだろーな。青の神のバリアに包まれているみてーだが、こんな場所で耐えられるのは、爺さんくらいだろ』
(リュックくん、じゃあ……)
『あぁ、水の中に、もう一人の爺さんがいるはずだ』
(池のほとりに浮かんでいるのが、老師じゃないの?)
『タトルークは、人化すると、爺さん二人になる。双頭亀だからってことらしーけどな。この星に土着したから、ゲージの関係で、二人に分かれるんだろ』
(この星の住人は、ゲージが1本ずつだから? タトルーク老師は、もともと外来なんだよね?)
『あぁ、この星より長く生きてるからな』
「ライト、変なオーラの人は、たぶんタトルーク老師だよ。二人に分かれるんだけどな……もう一人はどこだ?」
クライン様も、リュックくんと同じことを言っている。でも、さっきの声は、タトルーク老師の声とは違って聞こえた。亀の姿のときとは変わるのかな。
「はい、でも、声が違う気がします。空に浮かぶのは、魔人みたいです」
僕がそう言うと、クライン様は頷いた。その表情に余裕はない。
「えっ、青の神じゃないの?」
「レンさん、空に浮かぶ人には生体反応がないっす。青の神は、物理攻撃が苦手だから……兵器だと思うっす」
ジャックさんが、レンフォードさんに説明をした。ゲージサーチとは言わないんだな。
「じゃあ、青の神は、どこに?」
レンフォードさんは、あたりを警戒するように見回している。でも、他に人の姿はないんだよな。
(あれ? 何か変だな)
池のほとりに浮かぶ人も空に浮かぶ魔人も、僕達の様子を伺っているが、全く動かない。
「たぶん、ここの様子は見ているが、ここにはいない。さっきの声は、青の神の声だったのかもしれないな」
クライン様は、そう言いつつ、あちこちを探しているようだ。
「なぜか、奴らは止まりましたね」
レンフォードさんは、首を傾げている。
「タトルーク老師は、自分から仕掛ける気はないんすよ。空に浮かぶ魔人も、こっちが動かないと、動けないみたいっすね。決められた迎撃専用っすかねー」
「ジャックさん、だけど、俺らも動けないよな。立ち去ろうとすると、背後を狙われそうだし、ここには強い結界があるから、転移もできない。やっぱり、罠を用意されてしまったな」
クライン様は、硬い表情だ。だから、急ごうと言ってたのか。
(どうすれば……)
「でも、この場所でジッとしているわけにもいかないな。干物になりそうだ」
クライン様はじわっと汗をかいている。ゾンビの仮装が、やはり暑いんだ。
「ライトさん、俺、あの魔人ならいけるっすよ」
(うん? あー、そういうことか)
ジャックさんは、僕に、池を任せたいんだ。青の神がどこに現れるかわからないもんな。早めに逃げ道を確保しないとマズイ。
「ジャックさん、僕は、池の方に行ってみます」
「了解っす。じゃあ、俺は、あの魔人をなんとかするっす。お二人は、新たな敵が出てきたら、お願いするっす」
「青の神は何人いるんだ……」
レンフォードさんは、不安そうな表情を浮かべた。
「レンさん、たぶん青の神は、あと一人っす。ライトさんが何とかしてくれるっす」
「ライト、タトルーク老師のどちらかに取り憑いているかもしれないよ」
僕は、頷くだけで精一杯だった。
(責任重大だよな……)
『ライト、行くぞ』
(えっ? リュックくん?)
『池の中の爺さんが、青の神と入れ替わったぜ』
僕は、霊体化! を念じた。僕の見た目は、青い幽霊になっている。池は、塩のクリスタルが溶けた灼熱の水なんだよな。
「作戦開始っす」
ジャックさんは、空へと跳躍した。