77、カリン峠 〜面倒くさい魔王たち
「じゃあ、皆さん、僕に協力してください」
僕は、魔王達に向かって、そう言ってみた。チラッと、猫耳の少女の方を見てみると、彼女はニヤッと笑った。これで正解みたいだな。
女神様は、平和とすべての種族との共存を望んでいる。
おそらく、星の保護結界が消えると、再び、侵略戦争が起こってしまう。そして、地底の魔族達は強い。神狩りを見ていて、それがよくわかった。
それなら、あとは団結するだけだ。
「坊やに、協力?」
「何か、困ったことがあるのか?」
「魔王に、頼み事とは、あまりにも無礼であろう」
返ってきたのは、優しい言葉だけではない。少し僕を警戒するような視線もある。
「はい、僕は、地底から外来の侵略者を排除したいんです。外来の魔物も排除したい。じゃないと、ニクレア池に近寄れないんです」
「なるほどな。坊やは、侵略戦争で犠牲になったのか。そして、ニクレア池には、確かに今も外来の魔物が集まっている」
(やはり、僕がアンデッドだとわかってるんだ)
確かに、僕は、その戦争で死んで生まれ変わったけど、ちょっと彼らの考えていることとは、違うんだよね。でも、あえて否定はしない。軽く頷いておいた。
「そうか、大変だったな」
魔王達は、僕をなぐさめるかのように、頷いている。やはり、子供には優しい。そして、魔族の国で最も格の低いアンデッドには寛大だな。
そっか、魔王カイさんは、アンデッド達を守る手段として、格を捨てたんだ。あんなに強いのに、それをおそらく隠している。
魔王が格を捨てることで、他の魔族達は、アンデッドよりも優位にあるという安心感から、こんな風に優しく寛大になるんだ。
「地底に隠れていた外来の神々は、ほとんどが狩られたと聞きました。実際には、どうなのでしょう?」
これは僕の予想だ。たぶん、地底の神狩りは進んでいるはずだ。
「あぁ、アンデッドの魔王カイが、積極的に狩っていたらしいからな。いや、ライトが魔王になっているなら、元魔王カイか」
(えっ……本人の前で元魔王って……)
魔王カイさんが、ピクリと反応している。だけど、猫耳の少女に腕を掴まれているから何もできないようだ。
「どの程度の力があるかも、わからない奴だからな。だがアイツも、女神様の番犬である神族には、敵わないってことだ」
「地底には、外来の神は、もういないだろう。だが、地上から、毎日のように入り込む侵略者もいる。今、この瞬間にも、門を通ったかもしれん」
「そうだな、さっき、闇竜が出て行ったが、ここを狙った愚か者がいたのかもしれん」
(あっ、マリーさんに命じられた件?)
さっき、アダンは、高く飛んで行ったよな。迎撃に行ったのかな。
「あたしの妹が、狙われているのよ」
マリーさんが、突然、ワープしてきた。
(びっくりした)
他の魔王達も、ギクリとしている。
「魔王マリーの妹?」
「そうよ。貴方達、チラチラ見てたでしょ。あの子は、パパとアマゾネスの女王ローズの子よ」
マリーさんの言葉に、魔王達の視線が、丸いテーブルに向いた。
「あの銀髪の子だな。やはり、アマゾネスか。男を卑下するような眼差しから、そうかと思ったぜ」
(目つきで、種族がバレるんだ)
「あの獣人は、友達か? 同じ服だが、あの二人は姉妹か?」
「友達だよ。ハロウィンとクリスマスを勘違いしてるのよね〜」
マリーさんは、ゾンビ服を着ている理由を、ハロウィンだということにしておくみたいだ。本当は、アンデッドのフリをしているんだけどな。
(あの作戦のことを、忘れてるかもしれない)
「は? はろ、何だ?」
「ハロイ島の神族の街のお祭りだよ。あの子が、侵略者に狙われてるから、猫耳の女の子も、同じ服を着てるのかも」
「ふん、まぁ、魔人の子なら、いろいろと役に立つから狙われるのだ。だが、人間のようだな。かわいそうに」
(やはり、子供には優しい)
「あたしは、妹となるべく一緒にいるから、みんなにお願いがあるんだよね〜」
そう言って、マリーさんは、魔法袋から、大量のポーションを床に出している。ほとんどが、パナシェ風味のクリアポーションだ。
「おっ、呪い解除のポーションじゃないか。あちこちで売り切れていると聞いたが、ある所にはあるんだな」
「ライトさんの魔力で、あたし達のパパが作ったポーションだからね」
この魔法袋は、さっき、猫耳の少女が持っていたものと同じだ。そうか、マリーさんに渡したんだ。
「なるほど、これが、報酬ってことか。まぁ、ドラゴン族になら、雇われてやってもいい」
「外来の侵略者と、外来の魔物だな」
そう言いながら、魔王達は、次々とポーションを取っていく。
「じゃあ、みんな、さっそくよろしくね。星の保護結界が消えた直後が、特にヤバイよ」
マリーさんがそう言うと、魔王達は、やる気をみなぎらせている。ヤバイと言われると、やる気になるのかな。
「たいしたことではない。メトロギウスに付いても、ライトに付いても、どちらにせよ、神殺しの正当な理由があるからな」
(そのために、僕が大魔王を狙う噂をまいたんだ)
「別に、ポーション目当てというわけではない。その坊やのような、かわいそうな子供がたくさんいるからな」
「大魔王争いの前に、外来の奴らを駆除しなければならないと、思っていたところだ」
「俺達の地底は、俺達で守る。チカラを示しておけば、大魔王の座も近づいてくるというものだ」
(なんか、どれも言い訳に聞こえる)
マリーさんの解散の声で、魔王達は次々と部屋から消えていった。
「はぁ、やっと帰ったよ。面倒くさいんだよね〜」
マリーさんは、配下に何かの指示をしている。10歳くらいに見える女の子の命令でも、みんなキチンと従うんだな。
そういえば、今だけ、マーテルさんと役割を交代してるんだっけ。仮の魔王って感じなのだろうか。
「デイジーの歓迎会をするから、ライトさん達も、今日は泊まって行くでしょ?」
(えっ? ドラゴンの魔王城に?)
「うむ、泊まるのじゃ」
猫耳の少女は、スケルトンを振り回しながら、そんなことを言っている。完全にペット状態だな。
「えっ? ティアちゃんも?」
「うむ。妾は、しばらく、ここにおるのじゃ」
(はい? まじ?)
「ティアちゃんは、城に戻らなきゃダメじゃないの?」
「良いのじゃ。どうせ、寝ておることになっておるだけじゃ。デイジーには、昨夜、襲われた恐怖が強く残っておる。だから、しばらくは、妾と遊ぶのじゃ」
やはり、女神様は、子供の扱いがよくわかっている。デイジーさんは、強いショックを受けているもんな。
本当なら、リュックくんが世話をしてあげるべきなんだろうけど、リュックくんは、姿を現さない。いや、そうしたくても、できないのかもしれないな。
「それに、もうすぐ、デイジーの7歳の誕生日じゃろ? お祝いをせねばならぬからの」
女神様がそう言うと、デイジーさんは、やっと笑みを見せた。
その夜は、ドラゴン族の城で、晩ごはんを食べた。すべての皿が大きい。
「マリーさん、とんでもなくお皿がおっきいですぅ」
「ミューは、大食いだから、ちょうどいいでしょ」
(ミューさんって、大食いだっけ?)
デイジーさんのために、大食いキャラを演じていると思ってたんだけどな。
「でも、これで地底は、大丈夫じゃな。ライトは、チビのくせに、悪知恵がはたらくのじゃ」
(女神様ほどではないですよ)
「うん、ほんと、ライトはよく気づいたよね。魔王達の前で念話を使うわけにもいかないからさ」
「レンフォードさん、念話は、僕は使えないですよ」
「受信はできるでしょ? でも、念話って必ず傍受されるんだよね。普通に話す方が聞こえないみたい」
(へぇ、魔王ってコワイ)
「うん? ライトは、あまり食べないのか? だから、チビのままなのじゃ」
「食べてますよ。でも……」
チラッと、マリーさんに視線を移した。
(ありえない光景だ)
マリーさんがとんでもない大食いだとわかり、僕は、大食い番組を観ているような気になった。
「マリーは、ドラゴンじゃから、胃袋は底無しなのじゃ」
(なるほど)
スケルトンは、ついに、猫耳の少女によって、テーブルに繋がれている。逃がさないようにしているのかな。そんなことをしなくても、女神様の命令には、絶対服従だと思うんだけど。
僕が見ていることに気づいたジャックさんが、こっそりと耳打ちしてくれた。
「魔王カイさんがいないと、面倒くさいらしいっすよ」
「うん?」
「女神様の城から、居場所が特定されるっす。魔王カイさんは、その妨害をさせられてるんす」
「そんなことに利用していいんですか?」
「たぶん、護衛も兼ねてるっす。俺達は、明日の朝には、地上の迷宮に行く予定っすから」
そうか。魔王カイさんは、女神様の護衛なんだ。
「護衛なら、あんな扱いは、ひどくないですか」
「きっと、強制されているように見せてるんすよ」
(うーん? よくわからないけど、ま、いっか)