90、スチーム星 〜遭難者の保護施設
広い部屋に数歩入ると、後ろの扉はバタンと閉められた。
(なんだか、軟禁されてる気分)
部屋の内側にも、案内の人がいる。だけど、特に仕事をする気はなさそうだ。もしかしたら案内じゃなくて、見張りなのかな。
チラッと見ても、その表情は何を考えているか、全くわからない。ロボットが立っているだけみたいに見える。
僕は、シャインと手を繋ぎ、部屋の中を進んでいく。
部屋というより、めちゃくちゃ巨大なホールという感じだ。扉は、少し大きいかなというくらいだったけど、天井は、描かれている模様が見えないほど高い。
だけど、この星の住人が入るには、狭いのかもしれない。ここまで運んでくれたロバートという子なら、天井に頭がついてしまうかもしれない。
(はぁ、なんだか蟻になった気分)
部屋の中をかなり進んでいくと、巨大なテーブルを見つけた。僕達にも使えるように、とても低いテーブル……というか、テーブルの天板だけなのかな。
シャインのお腹が、ぐぅぅ〜っと鳴った。
テーブルの近くには、ロボットみたいな住人がいる。僕達が近寄ると、こちらを向いた。
「小さな生き物ね。食べられるものはあるかしら?」
「あ、あの。食べてもいいんですか」
テーブルの上には、見たことのない料理が並んでいる。そして、その近くには、床に座って何かを食べている人達もいる。
「ええ、食べられそうなものをどうぞ。ここは、神スチーム様が、遭難者のために用意をしている食卓です。この奥の方にも、種族ごとの仕切りがあり、食卓もあるのですが、食べ物は、この台に取りに来てもらっています」
奥の方を『眼』のチカラを使って『見て』みると、確かに、いろいろな仕切りがある。たぶん遭難者が、各自で勝手に作っているんだろうな。
本当にここは保護施設なんだ。見たことのない種族がたくさんいる。
「ありがとうございます。じゃあ、遠慮なくいただきます」
僕がそう言うと、案内の住人は、ニコリと微笑んだ。ロボットっぽい顔が笑うと、不思議な気がする。
でも、さっきの子の方が表情豊かだったかも。ロボットじゃなくて、この星の住人なんだよな。
シャインは、僕の顔を必死に見ているんだよね。僕が選んであげなきゃいけないみたいだ。
僕は、テーブルの上の料理を見てみた。ただ、シャインが何を食べるのかは、よくわからない。
でも、肉が好きみたいだよな。それに、迷宮でもらったハンバーグ入りのパンは、少し塩味が強かった。あれが、シャインが好む味なのかな。
巨大なテーブルを一周してみる。そして、シャインが鼻をヒクヒクさせた料理に近寄ってみた。
(肉料理に見えるけど、これって生だよね?)
知らない星の知らない肉って、食べていいのか不安だ。火魔法で加熱したいけど、魔法は使ってはいけないんだっけ。
「それは、食べられないっすよ」
聞き慣れた声に、ハッとして振り向くと、ジャックさんとレンフォードさんがいた。
「ジャックさん! よかった、心配されてるかと思ってました」
「ライトさんとシャインくんが居ないから、二人は転移しなかったのかと話してたっす」
ぐぅぅ〜
シャインの無言の抗議だ。あはは、お腹が空いてるのに、立ち話をするなと言われている気がする。本人は、恥ずかしそうに、うつむいてしまったけど。
すると、ジャックさんが、ひょいと大きな丸太のようなものを取り、シャインに渡してくれた。
「これなら、食べられるっす」
満面の笑みで受け取り、僕をチラチラ見るシャイン。食べる許可が必要なのかな。なんだか、昔、飼っていた犬を思い出すよ。
「ブルーくん、食べていいよ」
「はい!」
シャインは、パクリとかぶりつき、一瞬、微妙な顔をしたけど、お腹が空いているからか、そのままガツガツと食べている。
「シャインくんには、味が薄いかもしれないっす。あっ、ブルーくんって呼んでるんすね。ここなら、大丈夫っすよ。外はわからないっすけど」
レンフォードさんは、いくつかの食材を集めている。ここに、食べ物を取りにきたみたいだな。
「そうなんですね。あの、一体、何が起こったんですか。砂漠から、ここに運んでくれたゴーグルをつけた人達は、箱庭が落ちてきたと言ってましたけど」
「あはは、迷宮だよ。星の保護結界が消えたから、仕掛けが作動したみたいだ」
レンフォードさんは、シャインにお代わりを渡してくれている。
「仕掛け、ですか?」
「ライトさん、たぶん、隠れていた神々が迷宮ごと星へ帰還しようとしたんすよ。それを、カースさんが妨害したから、ここに飛ばされたんす」
ジャックさんも、食べ物を集めながら、そう話してくれた。僕も、食べ物集めをする方がいいのかな? でも、何が食べられるか、わからない。
「じゃあ、神々も……」
「いや、神々は、もう脱出してるっす。この星の神スチーム様は、他の星系の神を嫌っているっす。だから、強制的に宇宙に放り出してるっす」
(す、すごい)
「自力で出て行った人もいるみたいだよ。この星の空気は、他の星系の人の視聴覚を奪うみたいだからね」
(あっ、見えにくいと思ってた)
「じゃあ、ここにいる人達は、黄の星系の人だけですか」
「そうみたいっすよ。砂漠で、見えているかと聞かれたっすよね? アレで見えていない人は、変な道具を使って、次々と宇宙に放り出してたっす」
「言葉はわかるか? 目は見えているか? って、聞かれました。遠くは見えにくいから、あまり見えないと答えなくてよかった」
「あはは、大丈夫っすよ。他の星系の住人だと、その問いかけへの返事もできないんすよ。耳も聞こえなくなるみたいっすから」
「あー、なるほど」
二人は、すごい大量の食料を抱えている。
「じゃあ、ついてきて。ここでは、同じ星ごとに、まとめられてるんだ。今夜、神スチーム様が、各星へと送り返してくれるらしいよ」
「そうなんですね。よかった」
「でも、ライトさん、俺達は残るっすよ」
ジャックさんが、小声で変なことを言ってる。なぜ、残るんだよ。何か、目的があるのかな。
レンフォードさんにも、目配せをされた。今は、話せないのかもしれない。
僕は、3つ目の丸太のような何かにかじりついているシャインの手を引き、ジャックさん達の後をついて行った。
しかし、シャインの食欲はすごいな。僕は、見ているだけで胸焼けがしてくるよ。小さな身体のどこに、そんなに入るんだろう? あっ、狼の姿だと、けっこう大きかったっけ。
ジャックさん達は、かなり奥の方へと進んでいく。
そして、小さな小屋のような場所の前で、立ち止まった。
(部屋の中に、小屋を建ててる)
小屋に入ると、ブワンと何かの結界を通ったような感覚。魔法は使ってはいけないんじゃないの?
「おぉ、やっぱり、迷い子になっていたのね。あたしの目に狂いはないわ。あーはっはっは、わははは」
なぜか、威張る幼女。いや、ちょっと、どういうこと?
「魔王サラドラ、騒ぐな、うるさい!」
小屋の中には、サラマンドラの魔王サラドラさんと、ノームの魔王ノムさんがいる。
「あの、これは……」
「ライトさん、迷宮内には、3人の魔王が居たみたいっす」
「3人? もう一人は?」
「魔王カイなら、迷宮にいるよ。迷宮が朽ちないようにするんだって〜。たぶん、魔法を使えないから、引きこもってるんだよ」
(あ、そっか。魔王カイさんも居たんだった)
「ここは、魔法使ってますよね?」
「結界バリア内だから、大丈夫だよっ。ライト、ごはん作れるよね? ここのごはん、不味いのー」
「あ、はぁ、でも、調味料も何も……あるんですね」
小屋の中には、普通の家のように、いろいろと揃っているみたいだ。魔王サラドラさんがふんぞり返っているということは、彼女の私物なのかな。
僕は、適当に食事を作った。魔王が何を好むかは知らない。だから僕は、自分の食べたい物を作った。
シャインは、さすがにもう食べないと思うけど、一応、塩ダレも用意しておいた。ここに残るなら、そのうち使うだろう。
「いただきまぁす!」
早速、がっつく小さな女の子の横の席に、ちょこんと座っているシャイン。魔王サラドラさんが、シャインのために取り分けてくれている。
そして、何を尋ねることもなく塩ダレを使い、普通に食事が始まっている。
(どれだけ、食べるんだ?)
「やっぱり、父さんのごはんは美味しい」
ニコニコと笑顔で頬張るシャインを、とても愛しいと感じた。そっか、記憶はなくても、僕の息子なんだな。
「ジャックさん、さっきの話ですけど……」
「あぁ、ここに残るってことっすね?」
僕が頷くと、魔王サラドラさんが口を開いた。
「侵略戦争で行方不明になった数百人を、捜すのよ。だから、名探偵サラドラがここにいるのよっ」
「えっ? 次元の狭間の?」
「カースが、この星だと突き止めたみたいよっ。でも、時も超えてるから、どの時代のどこに居るかわからないから、あたしの出番なのっ」
皆様、いつもありがとうございます♪
金土はお休み。
次回は、10月31日(日)に更新予定です。
よろしくお願いします。