99、スチーム星 〜地下空間に広がる街?
本日より、再開します。
長いお休みになり、申し訳ありません。
よろしくお願いします。
「名探偵サラドラ? 知らないな」
多重結界の先にいた、イロハカルティア星からの遭難者の男性は、首を傾げている。集まってきていた他の人達とも顔を見合わせているが、やはりわからないみたいだな。
「むきーっ、な、何ですって!? 赤いワンピースの名探偵サラドラを知らないなんて、あんた達、バカじゃないのっ」
(いや、それは言い過ぎですよ)
「バカはおまえだ、サラマンドラの魔王サラドラ。ハロイ島に出入りしない者を、地上の人族が知るわけがないだろ」
ノームの魔王ノムさんは、それとなく彼女の素性を、遭難者達に教えている。
それを聞いた人達の表情は、引きつっているみたいだ。やはり、サラマンドラの魔王は、有名なんだ。
「シャイン、どういうことだよ? サラマンドラの魔王が、なぜハロイ島に居たんだ?」
(うん? なぜ僕を見る?)
「ちょっとあんた、シャインはこっちよっ。それはライトなんだからっ」
珍しくサラドラさんが、適切なフォローをしてくれた。だけど、みんなは首を傾げているんだよね。
あっ、そうか。ライトという名前は、珍しくないから、どのライトだかわからないんだ。
「皆さん、僕は、シャインの父のライトです。知り合いの方もいらっしゃるかもしれないんですが、今、僕は記憶があまりなくて……」
「えっ? マスター? うっそ、なぜそんな……」
(マスター? あ、バーを経営してるんだっけ)
「父さんは、青の神ダーラと相討ちになって、消滅してしまったんです。生まれ変わったけど、まだ、記憶はあまり戻ってないです」
シャインは、僕の腕にしがみついて、彼らに説明してくれている。人と話すのが、あまり得意ではないみたいだな。
少し手が冷たくなっている。シャインは、かなり緊張しているみたいだ。
「えっ? 青の神ダーラって……ええっ!?」
集まっている竜人が混乱しているようだ。未来の話を聞かせるべきではないのかもしれない。
ドラゴン族のマーテルさんの眷属の彼が、何かの術を使った。すると、竜人は、なんだか、僕達を初めて見たかのような反応をしている。
やはり、未来の話を聞かせてはいけないんだな。
「皆さん、俺達は、この時代から110年ほど先の世界から来た未来人です。彼が、ポーションの行商をして回っています。俺達は、彼の護衛と手伝いをしています」
レンフォードさんは、竜人達に、そう説明している。いや、イロハカルティア星の人達にも、現状を知らせているみたいだ。
「えっ? 未来人なのか。ポー……何だ?」
(やはり、僕達のことを忘れてる)
「何を言ってるの? この人達は……」
イロハカルティア星からの遭難者が何か言いかけたのを、ジャックさんが手で制している。
「未来人が、未来のことを語るのはマズイっす。この星の未来をおかしなものに、変えてしまうかもしれないっすよ」
「私も、未来人なの? どういうこと?」
イロハカルティア星からの遭難者は、時を越えたことに気づいてないんだ。
「皆さんは、次元の狭間に落ち、時空を越えてしまったのですよ。現地の人には、未来のことを話さない方がいいみたいです」
レンフォードさんが、穏やかな声で、そう話すと、その女性は、いろいろと悟ったようだ。
「なるほど、だから、サーチがおかしいんだな。俺達は、サーチでは正しく測定されない」
違和感を感じていた人もいるんだ。
「イロハカルティア星の皆さんを集めてもらえますか? そこで、皆さんの状況を説明します」
レンフォードさんが、そう話すと、遭難者達は互いに頷いている。
「じゃあ、こちらへ。俺達に用意された宿泊地があるので、案内します」
竜人達は、もう僕達が侵入者だということも忘れたのか、移動を始めると、どこかへと去っていった。
(マーテルさんの眷属の彼の力かもしれないけど)
チラッと、彼の方を見ると、頷いている。やっぱり、何か記憶操作をしたのかな。そういえば、マーテルさんは魅了使いだと、誰かが言っていたっけ。
なんだか、断片的に思い出しているのか、誰かが話していたことなのか、区別ができなくなってきた。
(シャインと触れているからかな)
僕の腕にしがみついて歩くシャインは、いつもよりも、不安定な感じがする。さっき、失言をしたと、責任を感じているのかもしれない。
「シャイン、手を繋ごうか」
「えっ? あ、はい!」
(ちょっと元気になったかも)
シャインは、僕の腕から手を離し、僕の手を握った。まだ、種族的に赤ん坊なんだもんな。
「今の僕とシャインは、どっちが背が高いかな?」
「えっ? えーっと……うーんと……」
シャインは、僕の頭を見て、自分の頭を触って……なぜか指折り数えている。何を数えているんだろう?
(でも、楽しそうだね)
「耳が立ってるときは、シャインの方が大きいよっ」
目の前に、赤いワンピースの少女が現れた。
「サラドラさん、それなら、シャインの耳がふにゃっとしているときは、僕の方が高いですか?」
(うん? なぜギクリとする?)
彼女は、僕達の方を見ながら歩いているけど、そんな下から見てもわからないんじゃないのかな。
頭の上の花がピコピコと動いている。しかし、これって、謎だよな。だけど、尋ねるのもマズイ気がする。
「シャイン! じっとしてなさいよっ」
(あっ、キレた)
怒鳴られたシャインは、キョトンとしている。僕達は、普通に歩いているだけだもんな。
「サラドラさん、立ち止まらないとわからないくらい微妙な差なんですね」
ぴょんぴょん飛び跳ねる彼女に、そう問いかけても返事はない。こんなことに、彼女が必死になるとは思わなかった。
「ふん、バカの行動は無視していればいい。人族から見れば、おまえ達は、よく似ているだろうな。魔力で識別する者には、全くの別人だが」
ノームの魔王ノムさんが、珍しく話しかけてきた。
「そうなんですね。僕達は、そんなにそっくりなんだ」
「あぁ、髪色は、この空間では、似た色に見えるからな。魔道具が作り出す空間だから、光が歪な反射をする」
(へぇ、そっか。だから、か)
シャインのことを知る人が、僕をシャインだと感じたのは、髪色のせいなのかもしれない。頭の上に耳はないんだけどな。
目の前をちょろちょろされるけど、魔王サラドラさんは、さっきからずっと無言だ。
こんな風に、ただ歩いて移動するのは、魔王達には退屈なことなのだと思う。だから、背比べに必死なんだよね。
しばらく歩くと、景色が変わった。突然、街の中に入ったような感じだ。
「わっ、なんだか神族の街みたいです」
シャインが驚いて声をあげた。そして、僕の顔を見て、しまったという表情を浮かべている。
(このままだと泣くよね)
「シャイン、僕には、前世の景色に見えるよ。そっか、僕が作った街だからかな」
「母さんが、そう言ってました。父さんの記憶を使って、ティアちゃんが街を造ったから、面白い街になったって」
(ふふっ、シャインは、キラッキラだな)
「そっか。シャインは、いろいろなことを知ってるね。しかし、なぜ、その街がここにあるのかな」
僕の問いかけに、シャインは首を傾げ、考え込んでしまった。だけど、楽しそうだから、いっか。
何かを思いついた表情の直後、首をふるふると振って、また考えている。
(なんだか、懐かしい気もするな)
シャインの反応を見ていると、以前にもこんなことをしていたような気がしてきた。何かを問いかけて考えさせることは、教育の一環だったのかもしれない。
「これが、神スチームの力だろう。魔道具を操る能力に、絶対的な自信がありそうだったからな」
魔王ノムさんが、そう教えてくれた。
「遭難者が住みやすい環境を整えてくれているんですね」
僕がそう言うと、彼は首を横に振っている。
「捕獲した遭難者を逃したくないんだろ。この時代の神スチームは、イロハカルティア星からの遭難者を、簡単には返す気がないかもしれん」
「えっ? まさか」
「その証拠に、救出に来たと聞いても、特に何も反応がないだろう? 何かを解決してやらないと、逃げられないかもしれんぞ」
ノームの魔王ノムさんは、基本、心配性というか用心深いとは思う。だけど、この話が聞こえているはずのレンフォードさんやジャックさんは、何も反論しないんだ。
(まさか、そんなことないよね?)
だけど、未熟な神だと言っていたっけ。それに、住人を狩ろうとする青の星系からの侵略者で、地上は大変なことになっている。
僕は、この時代の神スチームには会ってないけど、110年後の彼は、良い神だと感じた。
住人の姿が全く違うことも、気になる。110年後のスチーム星では、ロボットみたいな巨大な住人しかいない。竜人の姿は、見ていない。
(何か、モヤモヤする)
「さぁ、どうぞ。こちらが、メインの宿舎です」
到着したのは、まるで都会のオフィスビルのような場所だった。