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そうだ。奴隷を冒険者にしよう - 第37話 生きる少女たちのパヴァーヌ②
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そうだ。奴隷を冒険者にしよう  作者: HATI


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第37話 生きる少女たちのパヴァーヌ②

 アズが広い窓を興味深そうに眺める。

 風の音が絶え間なく響いている。

 自分たちは地下に降りたはずなのだが、間違いなく窓から風が吹いてくる。

 窓から外は淡い緑色をした壁が広がっていた。


 カズサは身を乗り出そうとするアズの手を引っ張った。


「あんまり窓に近寄らないで。強風に煽られて落ちるよ」

「うん。これって外に出たらどうなるの?」

「何にもなかったらしいよ。魔物もいないみたい」

「そうなんだ。不思議だねぇ」


 アズが顔だけ窓の外に出すと、髪の毛がめちゃくちゃになるほど強い風に押し返された。


「何やってるのよ。ほら、これ食べて体を休めなさい」

「はーい」


 アレクシアは野菜と炙った干し肉を薄い生地のパンに包んだものをアズの口に押し込む。

 アズは両手でそれを支え、もぐもぐと食べた。

 ピリッとしたソースがアクセントになり美味しい。


 カズサはスープをゆっくり飲みながら壁を背にして座っている。

 アズはパンを食べ終わるとカズサの横に座った。


「何階まで行ったことがあるの?」

「私は六階層まで。でも結構大変だったな。そこまでいくと身を守るどころか逃げ回らないといけなかった」

「そうなんだ。私達はどう? そこまで行けそう?」

「バランスはいいよね。司祭様と……何でか斧を振ってるけど火が得意な魔導士に回避系の前衛」


 えへへ、とアズは照れる。

 主人が褒められたような気がして自分も誇らしくなったのだ。


「何で照れてるの? まぁ五階層は大丈夫だと思うよ。六階層は……いけると思うけどあんまりお勧めできないかな」

「ふぅん。とりあえず五階層を隅々まで探索してから考えるかぁ」

「そうしなよ。五階層でも十分」


 やがて休憩を終え、再び立ち上がる。

 カズサの荷物はまだ空きがある。帰るにはまだ早い。


 四階層の魔物は狩りつくして新たには現れない。

 階段へ行き、五階層へ降りる。


 中の様子は四階層までとあまり変わらない。


 アズが先頭を歩き、周囲を見渡す。


 すると何か軽快な足音が聞こえてきた。

 一人分の足音だ。


 たったったっ。


 アズは剣を抜いて構えると、奥から出てきたのはワニの魔物だった。

 二本足で立ち、剣を持ち、軽装ながら鎧を着ている。まるで戦士だ。


 アズは一瞬だけ呆気にとられるが、すぐに魔物だと思いなおして構えた。


「なんで? こいつは六階層からしか現れない筈」


 カズサはワニの魔物を見て驚いていた。

 どうやら五階層で遭遇するような魔物ではないらしい。


 まずアレクシアがワニの魔物へ火球の魔法をぶつけるが、ワニの魔物は軽快な足取りで回避し、最後の一発を剣で弾いた。


「んな、魔物の癖に」


 魔法は易々と防がれたアレクシアは戦斧を握りしめて震えている。

 プライドが刺激されてしまったのだろう。


「アズちゃん、支援はオッケーだよ」

「はい!」


 アズがワニの魔物の進路を遮るように立つ。


 たったったっ。

 軽快な足音でワニの魔物は距離を詰めてくる。


 ワニの魔物の構えは常に揺ら揺らとしており、剣筋が読めない。

 そもそも、アズは剣を持つ相手と戦った経験がない。


 アズの目がワニの魔物の持つ剣を見つめる。

 しかし突然見つめていた剣が消える。


 背筋に寒気が走ると同時に、咄嗟にアズは自分の剣を振った。

 剣と剣がぶつかり、弾ける。


 続けて振られるワニの魔物の剣をアズはギリギリで弾く。

 アズの剣はなんとかワニの魔物に追いついているが、アズの技量が足りない。

 四回目を弾いたところでワニの魔物の剣は更に早くなり、アズの右腕が斬られた。


「っ~~」


 アズは激痛に叫びそうになりながらも、咄嗟に後ろへ飛ぶ。

 ワニの魔物は追撃しようとするが、そこへアレクシアの魔法が再び撃ち込まれる。

 体勢が悪かったのだろう。全てを剣で弾けずに魔法が直撃した。


 それを見たアレクシアはよし、と右手を握りしめていた。

 しかしワニの魔物はまだ平然としている。ダメージはあるようだ。


 アズはエルザのところまで下がる。


「やられました!」

「それじゃ治すね~」


 エルザの癒しの奇跡でアズの右腕の傷から出血が止まり、癒されていく。


 ワニの魔物はそれを見逃す気はないらしく、軽快に一気に距離を詰めてきた。


「じゃあ私が前に出るねー。アズちゃんは傷が塞がるまで来ちゃダメだよ」

「え、でもあの魔物は強いですよ」

「ふふ。私も仕事しないとね」


 エルザは癒しの奇跡をアズに行った後、メイスを持って前に出る。


 ワニの魔物は軽快なステップとゆらゆら揺れる剣先で相手を惑わす。

 その剣速は目で捉えるのは難しい。


 ワニの魔物がエルザへ斬りかかる。

 エルザはメイスの腹でそれを受け流す。

 まるでどこを斬られるかが分かっているかのようだ。


 最小限の動きでワニの魔物の剣を弾く。

 6度弾いた後、ワニの魔物が距離を縮めて鍔迫り合いの格好になった。


 ワニの魔物とエルザの目が合う。

 エルザは何時もの微笑みから表情が変わらない。


 エルザが力で押し負けて後ろへ下がる。


 三歩下がったところでワニの魔物が力を込めてエルザを押し飛ばした。

 エルザが着地すると、そこにワニの魔物が剣先を向けた。


「魔法が来るよ!」


 カズサの叫びと同時に風がワニの魔物に集まり、ワニの魔物の剣が振り下ろされるとエルザに向かって放出される。


 不可視の風の刃は鎌鼬のようにエルザの全身を切り裂こうとする。

 エルザはメイスを振りかぶり、一気に振りぬいた。


 メイスが見えない風の刃を幾つか霧散させるが、残った風の刃がエルザの頬を裂いた。

 エルザは頬の血を拭うと、それを舐めとる。


「ふふ」


 普段はあまり開かれない目が、少しだけ開く。

 その紫の目はワニの魔物をねめつける。


 そこには暗い感情が潜んでいることをワニの魔物だけが気付いた。

 ワニの魔物の口がそれに応えるように歪んだ。


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