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たとえ貴方が地に落ちようと - 第16話 ちょっと鏡を見させてください!
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たとえ貴方が地に落ちようと  作者: 長岡更紗


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第16話 ちょっと鏡を見させてください!

 サビーナが採寸をしてもらった翌週のこと。

 来客の知らせを受けてサビーナが玄関に向かうと、そこにはあの洋服屋の主人が紙袋を持って立っていた。


「ご注文の品を持ってきたんだが……」

「あの、もしかして、私の服ですか?」

「そうそう、お嬢ちゃんのメイド兼騎士服だ。完成したんだが、ちょっと着たところを見せてほしいんだよ。構わないかね?」


 まさか、こんなに早く仕上がるとは思っていなかったサビーナは、目を広げた。完成したとなれば今すぐにでも着てみたいが、セヴェリに報告が先だろう。


「少し中でお待ち下さい。セヴェリ様を呼んで参ります」


 洋服屋の主人を来客用の一室に通すと、セヴェリを呼びに行った。例の服が完成したことを告げると、彼もあまりの早さに驚いているようだった。

 すぐにセヴェリは服屋の主人が待つ部屋へと向かい、サビーナも後に着いて行く。ドキドキとワクワクが入り混じってニヤニヤしてしまう。

 服屋の主人とセヴェリが挨拶を交わし始めると、サビーナは決して出張らず、後ろに控えめに立っていた。


「それにしても、早かったですね」

「いやあ、イメージができたら早く完成させたくて。楽しんで作らせて頂きましたよ。こちらなんですが……」


 袋からガサゴソと取り出そうとする服屋の主人を見て、セヴェリは止めた。


「彼女に着てもらいましょう。楽しみが減ってしまう」

「おお、そうですな。セヴェリ様の反応が楽しみです」


 そう言って、サビーナは紙袋を渡された。隣の部屋で着替えるように指示されて移動し、紙袋の中を覗く。瑠璃紺色した服を引き上げると、新しい布地の香りがした。

 広げてみると、ピースは全部で四つだった。インナーにジャケット、スカート、レギンス。

 サビーナは服を脱ぎ去ると、ひとつひとつ袖を通していく。

 まずはインナーだが、基本色は白だった。しかし宮廷を思わせるような金の装飾がなされていて結構仰々しい。袖はなく動きやすいが、丈は太ももに当たるほど長かった。

 次にレギンスを手に取る。黒色で丈は五分、これも金で装飾がされていた。この格好だけ鏡に映して確認すると、真夏にだらけている不良騎士のように思えて、苦笑いした。

 ジャケットはメイド服と同じく瑠璃紺色だ。メイド服のような丸襟ではないので、一番上までボタンを留めるとかなりカッチリした印象になった。丈は短く、ジャケットと言っても生地は柔らかい。着心地はとてもいい。

 最後にスカートに足を通す。これはハイウエストで、腰のあたりはコルセットらしく見せてある。でも実は通されている紐はただの装飾で、ウエストは幅広いゴムだった。そのゴムの下は前開きのスカートになっていて、今まで穿いていたメイド服と同じくミモレ丈。つまり膝下だ。


「あ、わかった」


 サビーナは唐突に気が付いて、ジャケットをスカートの中に入れた。コルセットに似せたゴムなので、さっと入れやすい。

 思った通り、そうするとメイド服と言ってもおかしくない格好となった。白のフリルが一切付けられていない、可愛げのないメイド服ではあったが。


「……ちょっとそっけない服になっちゃったなぁ」


 幾分落胆しながら、セヴェリたちのいる部屋に戻る。するとやはりセヴェリも同じ事を思ったらしく、少し眉を顰めていた。


「どうですか、セヴェリ様! ちゃんとメイド服に見えるでしょう?!」

「ええ、まぁ、そうですね。見えることは見えますが……私は騎士服も兼ねて、と頼んだはずですよ?メイド服の可愛さをなくすだけでは、意味がありません」

「もちろんわかってますとも! お嬢ちゃん、ちょっと失礼」


 そういうと服屋の主人はサビーナに近寄ってきた。そしてジャケットとスカートのボタンを外すように指示される。セヴェリの眼の前でボタンを外すという行為が恥ずかしかったが、中にはちゃんと服を着ているのだ。下着姿を見られてしまったことを思えば、なんてことはない。

 ジャケットをスカートから出してボタンを外し、スカートも下から順にひとつひとつ外して行く。五分丈の黒いレギンスが現れ、そして太ももの辺りからは、白地に金の装飾がなされたインナーが顔を見せた。

 ジャケットを開くと、やはり仰々しいインナーが姿を現して主張している。前面が開かれたスカートは、サビーナの健康な足をチラつかせ、コルセットに似せたゴムはキュッとサビーナのウエストを強調して、女性らしさを引き立ててくれている。


「いかがでございますか?! セヴェリ様!」


 服屋の主人の自信満々の言葉に、セヴェリはハッとして視線をサビーナから外した。


「そう、ですね。素晴らしいと思います」

「ありがとうございます! お嬢ちゃんは、どうだね!?」

「す、すみません、ちょっと鏡を見させてください!」


 サビーナはそう言うと急いで鏡の前に立ち、己の姿を確認した。そこには正式な騎士服ではないにも関わらず、それっぽい自分がいる。これなら腰に剣を携えていても違和感はないはずだ。


「か、かっこいい……」


 サビーナは思わず、そう呟いてしまった。もちろん自身の事ではなく、この服が、であったが。


「そうだろう、お嬢ちゃん! まぁ、メイド服の方はちょっと寂しくなってしまって申し訳ない。もし気に入らなければ、ジャケットやスカートに白いフリルをつけることも可能だが……」

「いえ、このままで! そんなのつけちゃったら、騎士の格好になった時に変になっちゃう」


 そう言うと、服屋の主人は嬉しそうに笑って帰っていった。

 ボタンを留めてメイド姿になり、仕事に戻ろうとする。その姿をじっと見つめてくるセヴェリに、サビーナは目を向けた。


「あの、セヴェリ様。本当にありがとうございます。こんなに素敵な服を頂けて……」

「似合ってますよ、その姿も騎士の姿も」


 完全なるエセ騎士だが、それでも褒めてもらえると嬉しかった。サビーナは込み上げる笑みをセヴェリに向ける。


「しかし……普段はその格好でいるなら、私はあなたの騎士服姿を見られませんね」

「はい、まぁ……そうなりますが」


 セヴェリはあまり鍛錬所に行かないので、サビーナの騎士服になった姿を見ることはほとんどないだろう。

 そう思って答えるとセヴェリはしばらく考えた後、そっと目を細めて一人頷く。そしてなぜかクスクスと笑い始めた。


「セヴェリ……様?」

「いいことを考えつきました。明後日、私はユーリスの街に行くつもりなのですが、その時の護衛にサビーナも連れて行きましょう。そうすれば、その間ずっとあなたの騎士服姿が見られる」

「え、ええ??」


 ユーリスの街はオーケルフェルトの所領外だ。馬車でも丸一日はかかる場所である。


「あの、私などが行ってもなんの役にも立たないと思いますので……セヴェリ様のお帰りをお待ちしています」

「別に、サビーナに魔物と戦えとは言うつもりはありませんよ。道中は暇ですし、話し相手になってほしいと思っただけです」


 それは、ずっと騎士服姿で話し相手をして欲しいということだろうか。彼は、余程この服が気に入ったようである。

 実はサビーナ自身もメイド服姿ではなく、ずっと騎士服姿でいたいくらいだと思っていた。つまりセヴェリとの利害は一致している。


「では、本当にお話し相手くらいにしかなりませんが、ご一緒させてください」


 サビーナがそう告げると、セヴェリは本当に嬉しそうに目を細めて笑ってくれた。


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