Deprecated: The each() function is deprecated. This message will be suppressed on further calls in /home/zhenxiangba/zhenxiangba.com/public_html/phproxy-improved-master/index.php on line 456
たとえ貴方が地に落ちようと - 第39話 お可哀想なセヴェリ様……
[go: Go Back, main page]

表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たとえ貴方が地に落ちようと  作者: 長岡更紗


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/117

第39話 お可哀想なセヴェリ様……

 サビーナは現在、セヴェリの部屋にいる。

 なぜか膝枕という約束をしてしまっていて、サビーナは微妙に緊張をしていた。

 セヴェリは部屋に入ると黒縁眼鏡を外している。彼の眼鏡姿は似合っていたのに、少し残念だ。

 名残惜しく外された眼鏡を見ていたら、セヴェリがこちらを見て不思議そうに首を傾げた。


「どうかしましたか?」

「あ、いえ……眼鏡がお似合いだったので、もう少し見ていたかったなって……」

「おや、サビーナは眼鏡フェチでしたか」

「いえ、違います。リカルドさんを見てもなんとも思いませんし」

「限定で眼鏡好みとは、シェスカルのようですね」

「あー……はい。その感覚に近いかもしれません。眼鏡姿のセヴェリ様、とても素敵でしたから」


 すべて漏れなく本心だ。本来サビーナは眼鏡好きではないが、セヴェリが眼鏡を掛けるなら大賛成である。


「私限定で眼鏡が好きとは、嬉しいことを言ってくれますね」


 そう言いながらセヴェリは眼鏡を手に取り直すと、こちらに向かってきた。

 サビーナの真正面に立たれ、その眼鏡をこちらに向けてくる。


「セヴェリ様……?」

「サビーナも掛けてみてください」


 そう言うのと同時に、セヴェリに眼鏡を掛けさせられてしまった。この黒縁眼鏡は、サビーナには少し大きくてずり落ちてくる。


「お似合いですよ、サビーナも」

「いえ、絶対似合ってない自信があるんですが……」


 こういう大きな黒縁眼鏡は、爽やかな人間が掛けるから似合うのであって、爽やさの欠片もない平凡顔の女が掛けても似合うわけがない。きっとただの根暗に見えてしまっていることだろう。


「そうですね、サビーナには眼鏡などない方が可愛らしさが引き立ちます」

「あの、可愛くないですから……」


 そう言ってから気付く。そういえば、次に可愛いと言われる機会があった時には、素直にありがとうと言ってみたいと思っていたことを。もし時間を戻せたとしても、やはり言えそうにはなかったが。

 セヴェリはサビーナに掛けていた眼鏡を取ると、にっこりと微笑んだ。

 至近距離の笑顔は困る。ドギマギしてどこを見ればいいのかわからなくなってしまい、不自然に顔を逸らした。


「私が可愛いと思っているのですから、可愛いのですよ」

「うー……」


 やはり言われ慣れないため、素直に返事はできなかった。レイスリーフェやキアリカに比べて明らかに劣る自分に『可愛い』などと言われても、やはり疑念しか湧いてこない。


「本当なのですけどね。そんな風に困る姿を見ていると、つい意地悪を……おっと。あなたを可愛がってあげたくなります」


 意地悪を可愛がるに訂正し、ニッコリと微笑みを見せるセヴェリ。サビーナはタラリと額に汗を流す。


 思いっきり意地悪って聞こえたんですが……


 サビーナが苦味のある笑いを向けると、セヴェリの方が困ったように眉を下げた。


「……聞こえてしまいましたか?」

「えと……はい」

「私の悪い癖ですね。気に入った人にはつい意地悪をしたくなってしまう」

「はぁ……」


 気に入った人には、ということは、サビーナも気に入られているということか。それは嬉しいが、意地悪をされるとなるとたまったものではない。


「では、膝枕をしてもらえますか」


 セヴェリは唐突に、なんの脈絡もなくそう言った。庭園ではそういう話になっていたが、どうにも戸惑ってしまう。


「どうしました? デニスにはできて、私にはできませんか?」

「あの……こういうことは、レイスリーフェ様に……」

「私が彼女に頼めると思っているのですか」


 セヴェリの若干の苛立ちを感じて、サビーナは口を噤んだ。

 強く要望すればレイスリーフェは言うことを聞いてくれるかもしれないが、セヴェリにもプライドというものがあるだろう。言えないに決まっている。


「じゃあ……ソファで構いませんか?」

「ええ、いいですよ」


 セヴェリに確認を取ると、サビーナは長いソファの端にちょこんと腰を下ろした。その隣にセヴェリが微笑みながら座り、そしてゆっくりと頭をサビーナの太腿の上に下ろしてくる。

 金色の髪が、ふわりとサビーナの足の上で広がった。セヴェリは軽く目を閉じている。

 彼はデニスほどではないが整った顔立ちをしていて、男前の部類に入るだろう。そんな男前の高位貴族を膝枕しているなど、なんの冗談だろうか。今ある状況がどうにも理解しきれない。


「ああ、これは確かに……気持ちよく眠れそうですね」

「……眠れていないんですか?」

「そうですね……婚姻の日が決まってから、ずっと眠れていないです」


 それは、どういう意味でだろうか。婚姻が決まって嬉しくて眠れないのか、それとも……


「サビーナ」

「は、はい」


 名を呼ばれて改めて彼を見ると、閉じていた目は開けれてこちらを見据えている。そしてセヴェリは言った。


「あなたは幸せになってくださいね」


 微かに笑みを見せながら放たれたその言葉に、胸が痛んだ。

『あなたは』ということは、自分は幸せにはなれないと思っているのだ。


「……嫌です」

「え……?」


 サビーナの返答に、セヴェリは眉を寄せた。


「今、なんと?」

「嫌です、と言いました」

「なぜ……」

「セヴェリ様を差し置いて、私だけ幸せになどなれません! セヴェリ様が幸せになれないのなら、私に幸せなどは必要ありませんから!」

「それは……困りましたね……」


 セヴェリは本当に困ったように眉を下げている。


「セヴェリ様……ただのメイドがこんなことを言える立場でないのはわかっていますが……」

「なんですか?」

「レイスリーフェ様とのご結婚は、考え直された方がよろしいのではありませんか……?」


 本当に何て失礼な申し出をしているのかと、サビーナは自分でわかっていた。

 これはリックバルドのためを思って言っているのでは、もちろんない。

 セヴェリがレイスリーフェのことを愛しているのはわかるが、このまま結婚したとしてもきっと二人とも幸せになどなれない。

 彼には……セヴェリには、幸せになってほしかった。


「もう、決まったことなのですよ。今さら……今さら、どうにもなりません」

「そんなことはありません! まだご成婚前なのですから、どうにでも……」

「どうにもならないのですよ。ようやくここまできて、父が許すはずがありませんし」

「あ……マウリッツ様が……」


 セヴェリがレイスリーフェと結婚することでクラメルの軍事を傘下に置けるとあらば、この婚姻は是が非でも結ばなければいけない事項だろう。

 いちメイドであるサビーナがどうこう言ったところで、覆るはずもない。ないのだが。


「……サビーナ?」


 セヴェリの目が大きく開かれる。その彼の顔がぼやけて見えた。

 胸には爪を立てられたような痛みがチリチリと熱を持ち、喉の奥からは悔しさが漏れ出しそうになる。

 そして目からは、いつの間にか熱いものが滲んできていた。


「……ごめん、なさい……っ」

「どうしてサビーナが謝っているんですか」

「セヴェリ様は……本当は、幸せな結婚ができるはずだったのに……兄のせいで……」


 堪え切れず、瞳から一滴の丸い涙が溢れ落ちる。それは頬を伝わずに直接セヴェリの目元へと注がれ、まるで彼の方が泣いているように見えた。


「彼女の心を惹きつけておけなかった私が悪いのです。悔しいですが、レイスリーフェの私への想いというのはその程度のものだったのでしょう。互いに想い合って結婚しても、いずれは心が離れていく運命だったのかもしれません。彼女だけではなく、おそらく私の方も……」

「ならば……ならばやっぱりこの結婚はするべきではないと思います! 心が離れていく運命とわかっていながら結婚するなんて……」

「馬鹿だと思いますか? ……それでも私は、まだ一縷の望みにかけているのですよ。何事もなかったかのように過ごしていけるという望みに」


 サビーナはセヴェリから目を逸らした。

 面と向かって無理だ、などとは言えなかった。セヴェリとレイスリーフェとの間には、もう取り返しのつかないほどの大きな確執が生じている。リックバルドのことも然り、謀反のことも然りだ。

 セヴェリはレイスリーフェと謀反を諦め、別の誰かと婚姻を結ぶ方が幸せになれる。少なくとも、サビーナにはそう思えた。


「私は……お優しいセヴェリ様がつらい思いをなさるのは、我慢できません……っ」

「私は優しくなどありませんよ。腹黒で、底意地の悪い男なのです」

「そんなことは!」

「ありますよ。レイスリーフェをリックバルドの元へやって幸せになどさせたくない。私は自身のエゴと思惑のためだけに、彼女と結婚するんです」


 そう言い放ったセヴェリの目は、今までに見たことがないくらいに冷たかった。

 レイスリーフェとリックバルドを幸せにしたくない。謀反を成功させるために結婚する。そう宣言しているのだ。

 そんな悲しい結婚があるだろうか。いや、世の中にはきっともっと悲愴な婚姻を結ぶ人はいるのだろう。

 でも、セヴェリにはそんな結婚をしてほしくはない。

 皆に祝福され、互いに愛し愛される結婚をして、一生幸せに暮らしてほしい。


「……お可哀想なセヴェリ様……」

「……え?」


 サビーナは耐え切れずにひとつ、またひとつと涙を落とし始めた。セヴェリがそれを顔に受け、ゆっくりと上体を起こす。

 太腿の上にあった体温が、外気に触れることで冷たく感じた。


「なぜサビーナが泣くのです」

「セヴェリ様……私にできることはありませんか? セヴェリ様が幸せになれるなら、私はどんなことでも(いと)いません」


 己の兄のせいで、セヴェリの幸せが奪われたことに深い罪責を感じる。時間を巻き戻して元に戻せたならどんなにいいか。しかし今さらリックバルドとレイスリーフェを引き離したところで、レイスリーフェの気持ちがセヴェリに戻るとは思えなかった。

 だからこそサビーナは、そんな哀れなセヴェリの心に寄り添いたいと強く思う。


「優しいのは……私などより、あなたの方ですよ」


 そう言って、セヴェリの手がサビーナに伸びてきた。その手はサビーナの頬に触れ、優しく涙を拭ってくれる。


「少しだけ……」


 今度はセヴェリが、今にも泣きそうな顔をして。


「少しの間だけ、あなたを抱き締めてもいいですか」


 その問いに、サビーナはゆっくりと首肯した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

男装王子の秘密の結婚
せめて親しい人にくらい、わがまま言ってください。俺に言ってくれたなら、俺は嬉しいですよ!
フローリアンは女であるにもかかわらず、ハウアドル王国の第二王子として育てられた。
兄の第一王子はすでに王位を継承しているが、独身で世継ぎはおらず、このままではフローリアンが次の王となってしまう。
どうにか王位継承を回避したいのに、同性の親友、ツェツィーリアが婚約者となってしまい?!

赤髪の護衛騎士に心を寄せるフローリアンは、ツェツィーリアとの婚約破棄を目論みながら、女性の地位向上を目指す。

最後に掴み取るのは、幸せか、それとも……?

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 騎士 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ