ロバート
――ロバート・ブラウン視点――
(引き上げ時を見誤ったか……)
冒険者ランクがノービスのEからDへランクアップして気が緩んでいたのかもしれない
街中のお使いクエをこなし、資源採取クエも薬草採取から低ランクモンスター倒して素材集めと順調に行って冒険者暮らしに慣れて来たところに落とし穴が有った。
「山くらげ」からの胞子収集、「ワイルドボア」から牙と皮、肉集め
毒の危険は有るが「マタンゴ」からの体液採取
チームで狩れば経験値獲得とスキルレベル上げ、それと資金稼ぎに「キノコの森」は楽勝のはずだった
狩りに慣れてきてモンスター1匹に五名で掛かるやり方からPTを二手に分けて
盾持ちの俺と射撃手のルークで「マタンゴ」狩り、
双剣戦士のハンスと精霊魔導士のレナが「山くらげ」狩りで
神聖魔導士のアイリスは時々補助を掛けに両チームの間を行き来する
ある程度の数倒したらモンスター解体して素材採取だ、この時体内から稀に魔石が手に入る
一般モンスターから手に入る魔石はそんなに高額で買い取りは期待できないものの
数が集まればアイテム購入の資金になるし種類にもよるが装備にはめ込めて属性防御アップや
武器による攻撃力や魔法の威力あげにも利用できる。
「マタンゴ」倒した数が十数体になろうとしたとき「紫水晶の欠片」が出た
これは魔法使いの杖にはめ込めば魔法の威力が8から10程度上昇する
レナに渡せば喜ぶだろうなと幼馴染の笑顔を思い浮かべた時悲鳴が聞えてきた
「山くらげ」を狩ってたレナチームの方向からだ
駆けつけるとレナが倒れ、ハンスが黄色いでかぶつと戦っている
ここに狩りに来る前にギルドの資料室で読んでいた特徴が即座に見て取れる
「大型のキノコ型モンスターで体色は黄色、四本の触手を持ち体技スキル<旋回>と複数回の麻痺攻撃を仕掛けてくる」
この森のボスモンスター『黄色茸ファンガス』に間違い無い。
足音に気付いたらしいハンスが振り向かずに叫ぶ
「逃走した「山くらげ」を追ってレナが止め刺したら
その近くの木陰にこいつが居てレナが奇襲受けて倒されたっ!」
「山くらげ」は残りHPが1割切ると<遁走>と言うスキルを発動する
そうなった場合近接戦闘の剣士より遠距離攻撃手段持つ魔導士のレナが止めさす役に最適なのだが……
順調すぎる狩りにPTの誰もが油断していた
いや、一番油断していたのはPTリーダーのこの俺だ
『黄色茸ファンガス』の目撃例の大半は「山くらげ」生息域で
「マタンゴ」と「ワイルドボア」の出没する場所ではほとんど無い
気持ちのどこかで「山くらげなら危険度ほとんど無い」とレナに安全地帯での狩りだと錯覚させてしまった。
『後でするから後悔』そんな言葉が脳裏に浮かぶが、頭を振って追い払う
今やれる事はレナの倒れている場所からボスモンスター引き離し彼女に治療施す事だ
「ハンス、攻撃しつつ右に下がって奴をレナから引き離すんだ」
俺も盾に斧の背を叩きつけて音を立ててボスモンスターの気を引く試みをする
「ああ、やっているが奴の範囲攻撃からレナが逃げられない」
拙いな
「麻痺だ」
「ちきしょう、なんでここにボスが湧いているんだ」
ルークが到着してボスを引き離すべく射撃を始めるが『黄色茸ファンガス』の触手で阻まれる
「回復は後二回分しか残っていませんっ!」
アイリスの声はほぼ悲鳴に近かった、ちらっと横目で見ると青ざめた顔は泣き顔だ
長時間の狩りでアイリスはMPをほとんど使い果たしたらしい
撤退すべきなのだろうか、このままだとPT全滅の可能性が出てくる
判断に迷っている間にハンスに触手の一本が当たった
幸い麻痺には至らなかったが疲労が激しいのかハンスの動きかかなり落ちてきた
ハンスを後退させて回復掛けさせるべきか、盾持ちの俺なら防御に徹すればハンス回復の時間程度は稼げるが……
それだと回復の使用回数が残り一回になりレナの生存率が限りなく低くなる。
ボスのタゲが俺に固定できればレナを救出してこの場から離脱させ、俺は移動しながら機会を見て全力で離脱すると言う手もとる事出来るが
『黄色茸ファンガス』はこちらの手の内を気付いているのか攻撃して後退する俺を追いかけず、レナの倒れた場所から離れようとしない、見かけより賢いと唇を噛みしめる。
PTのみんながチラチラと俺の方を見てくる、口に出さないが「判断」下すのを待ってるのだろう
それはレナ救出を諦める事だが誰もがそれを言い出すのは躊躇っている
それはリーダーである俺の専権事項だからだ。
思考がネガティブ方向に堂々巡りをしている時それは起きた
「ファイアーバード・レベルスリー」
その声が聞えたのと同時に俺の左手方向から、ハンスとルークの間を赤い何かが通り抜けた
『黄色茸ファンガス』の頭部、傘の部分に到達すると轟音を立てて破砕する
俺たちの斧や剣がかすり傷程度の手傷しか負わせられなかったのが一目見てわかる傷跡を生み出した
新たな敵の存在に気付いた『黄色茸ファンガス』はその姿を求めて向きを変える
俺たちも戦いの手を止めて声の聞えてきた方向を向いてしまう
そこには明るい灰色の地に黄金と瑠璃色の飾りを施した見慣れぬ装備をつけた男が立っていた。
「横から手を出してすまんが、助太刀要るか?」
その口調は自慢の色は無く、こちらの許可を得るような響きがあった。
『黄色茸ファンガス』は遠距離でダメージ加えてきたこの人物を敵として最優先で倒す相手と判断したのだろう巨体に似合わぬ俊敏な動きで移動を開始した
レナを救う好機だがあの人物は大丈夫だろうか、高火力魔法を持つとはいえ魔法使いは基本的に防御力低く「紙装甲」と言われ、モンスターに攻撃されて詠唱中断されれば蹂躙されるのは目に見える
防御力ある戦士が前衛として盾役となり、後衛の魔導士の呪文詠唱する時間を稼ぐ
それがHP高く、一撃で倒すのが困難な対ボスモンスター戦闘の鉄則である
ハンスとルークの二人でレナを保護させて場所を移動してアイリスに回復魔法掛けさせる
俺は魔導士らしい人物の盾役としてモンスターとの間に入るべき
そう判断してPTとして指示を出そうとした時
「迸れ我が魔力、盾となりわが身を守れ フォースフィールド レベルツー」
俺がいままで聞いた事の無い呪文を彼が発した瞬間、彼の身の回りに光る球体が出現した
なんだ?! はじめて見るぞあの魔法、
想定外の事態を目の当たりにして身体が硬直してしまった
しまった、もうすぐ『黄色茸ファンガス』が彼のところに到達してしまう
だがボスモンスターの体当たりを受けてもその光球は微動だにしなかった
彼は己の防御に自信が有ったのだ、そして気軽な調子で次の言葉を口にした。
「このキノコ野郎倒してOK?」
「あ、あぁ頼みます」
我ながら気の抜けた返事をしてしまった、彼なら軽く『黄色茸ファンガス』を倒せるかもしれない
PTメンバーも同様に度肝を抜かれたのだろう、ハンスは口開けて呆然とした状態だ
モンスターは彼に任せて俺もレナの救出に向かうべく行動を始めた
「それではでかい奴見舞うから巻き込まれないよう離れていてね」
えっ、ちょっっ なんか物騒な事言いませんでした?
あわててレナのところに向かい、彼女を抱きかかえて移動したとき大地を揺さぶる震動と轟音が森の中に響いた