17.そのベッド、俺も使うんだけど
ゴブリン退治を終えて街に着く頃には、もう夜だった。
ランク特典のおかげで加盟店の宿代が無料だったんだけど、そこがびっくりするほど豪華な宿だった。
しかも個室に風呂付き。明らかに貴族が泊まるような部屋だ。
ゴブリンの洞窟でついた悪臭を風呂でしっかり落として、ふわふわのローブを羽織る。
キャビネットにはワインまで入っていて、本当に至れり尽くせりだ。
これでルームサービスまでランク特典で無料だというのだから、いっそのことここで暮らせばいいんじゃないかと思ってしまう。
当然のようにスイーツだって食べ放題!
最高かな?
「スラッドの部屋がすごいのだわ!」
エチカが部屋に遊びに来た。
パーティメンバーも全員特典が受けられるんだけど、エチカの部屋はここまで豪華じゃなかったみたいだ。
「そっちにはお風呂あった?」
「湯浴みはできるスペースがあったから体の汚れは落とせたけど、浴槽はなかったのだわ!」
入りたそうだったので「入っていいよ」と言ったら、なんとその場で脱ぎだした。大慌てで脱衣所に押し込んで、扉を閉める。
「別にスラッドだったらいいのに……」
と扉越しに聞こえた気がするけど、聞こえなかったことにした。
そういうセリフは男の理性を難なく破壊するから本当にやめてほしい……。
「ベッドも広くてやわらかいし、布団は羽毛であったかーい!」
お風呂が済むと、俺と同じくバスローブ姿になったご満悦のエチカがベッドの上でゴロゴロ寝転がり始めた。
「すごいのだわ! 見て見てスラッド! このベッド跳ねる!」
「壊したら迷惑がかかるから、ほどほどにしてね」
エチカがぴょんぴょんする姿は、まるっきり子供みたいだ。
バスローブの隙間からまろび出そうになってるメロンは立派な大人なのに。
「ワイン飲む?」
「飲むのだわー!」
その場から離れるための咄嗟の提案を、エチカは一も二もなく快諾した。
ゴブリン退治で疲れているだろうに元気だなぁ……とワインを注いで戻ってきたら、エチカは力尽きて眠ってしまっていた。
「マジか。そのベッド、俺も使うんだけど……」
もともとダブルベッドだからスペース的には問題ないんだけど、俺にも人並みの性欲はある。過ちを起こさない自信がない。
今日一日、エチカの煽情的な姿を見続けていたのもあってムラムラしているし。
「スラッド……仲間をそんな目で見るなんて最低だぞっ、と」
とはいえ見てしまうものは仕方ない。本能だもの。
ひとまず目の毒なので、エチカには羽毛布団をかけておく。
ひとりで飲むのは寂しいけど、もったいないのでワインも飲んだ。
「あ、やばい。これ死ぬほど美味しいわ」
エチカの分はほこりが入らないようグラスに布を被せて、テーブルに置いておいてあげよう。起きたら飲めるように。
「うーん。あんまり身の丈に合わない気もするけど本当に特典で暮らすのもいいかもしれないなぁ。とはいえ権利を享受する以上、義務も果たさないといけないし。正直、田舎でのんびり暮らしている方が性に合ってはいるんだけど……」
久しぶりにゴブリン退治に行って思った。
やっぱり冒険は楽しい。
『旧大陸』では俺の能力が知れ渡ってしまったせいで、それどころじゃなくなっちゃったけど……こっちの『新大陸』なら冒険者としてやり直せるかもしれない。
今はまだ保留。
路銀を貯めて家に帰りながら、じっくりと考えてみよう。
「いや、そんなことより今夜の寝る場所どうしよう。同じベッドで寝るのは論外として、エチカの部屋で寝るという手もあるけど……」
ふと思い出して、ギルドマスターからもらった特典の冊子をぺらぺらとめくる。
実は最初に読んだときに気になるサービスがあった。
ずばり冒険者向けの風俗店の無料利用権だ。
男女混合の冒険者パーティとかだと、一夜の過ちからパーティクラッシュなんてことも珍しくない。
そんな冒険者のいろんな事情を察した上で接客してくれる風俗店があるのだ。
かくいう俺も普通にスケベなので、現役の冒険者だった頃は向こうの大陸で大変お世話になっていた。
勇者パーティもアレス以外は全員女性でかなり溜まってたので、そろそろ行きたいなぁとも思っていたところだ。
「久々に行ってみようかな。夜の街」
せっかく無料なんだし。
このままだとエチカを襲っちゃいそうだし。
自分に言い訳しながらも、俺はわくわく気分で夜の街へと繰り出した。