勇者3.あのモンスターはなんだ!
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時は、スラッドがゴブリン退治に行った日にまで遡る。
『聖女』と『魔女』のスラッド捜索は空振りに終わっていた。
アテもなく街をさまよい、聞き込みも不慣れ。
スラッドが元冒険者だと知らないのでギルドにも訪れなかった。
さらに当の本人もゴブリン退治で街を離れているとあっては、どうしようもない。
かくしてふたりは昼には捜索を打ち切り、渋々ながらも勇者アレスとともに街を出発していた。
何故か『義賊』までいなくなっていたが、勇者アレスは「ふらっといなくなった」と言ったきり口を開かなくなった。極めて不機嫌そうだ。
「ねえ、やっぱりなんだか変じゃない?」
「はいです。アレスの発言はおかしいです」
『聖女』の耳打ちに『魔女』がささやき返す。
スラッドが自分たちに一言も告げずに去った事実は、ふたりに大きなショックを与えている。
『聖女』は、スラッドが王から課せられていたはずのパーティ随行の使命を放棄したと思いこんでいた。
好人物と認めていただけに、自分自身の見込み違いを恥じている。
逆に『魔女』の方は勇者アレスの「スラッドが逃げた」という言葉を額面通りに受け取っていなかった。
スラッドは、まめな気遣いを欠かさない男だ。
そんな彼がアイテム目録の引継ぎすらしないで失踪するはずがない。
『魔女』の中には勇者に対する強い疑念が渦巻いていた。
「そうよね。あいつ、ふたりもいなくなったのにメンバーの補充すらしようとしないし」
『聖女』の受け取り方は『魔女』とは違ったが、それでも勇者への不信感を拭えないでいた。
スラッドはともかく『義賊』は立派な戦力だ。
代わりの人員を冒険者ギルドで募集しないのは、さすがにおかしい。
ひょっとしたらパーティを解散して新しく集め直す気なんじゃないか、と『聖女』は勘ぐっていた。
「まったく、どいつもこいつも……」
一方、勇者アレスの真意は『聖女』が懸念しているよりも、ずっと単純だった。
まず、あの街にはAランク以上の冒険者がいない。
勇者パーティは既にSランク相当の活躍をしている。
Bランク以下は足手まといにしかならないと、勇者アレスは考えていた。
そして、そのBランク冒険者すらガンザとかいう男しかいない。
勇者アレスは女以外を仲間に加えるつもりなど毛頭ないのだ。
王が「絶対に役に立つ男だ」というから、荷物持ちだけは仕方なく加えたのである。
そして、荷物持ちの実態は役立たずのサボリ魔だったと勇者アレスは断じている。
だからクビにしたのは正しいと信じて疑っていないし、王には文句のひとつでも言ってやりたい気分だった。
何はともあれ、もっと大きな街に移動して新たなAランク以上の女冒険者を見繕おうと考えていたのだ。
そんな気楽な道中に暗雲がかかったのは、牛のようなモンスターの群れと遭遇したときだ。
牛の群れは道なき原野の木やら岩やらを吹き飛ばしながら、街道に真っすぐ突き進んできている。
ちょうど勇者たちのいる地点を横切っていくルートだ。
「おい、あのモンスターどもはなんだ!」
勇者アレスが叫ぶ。
「さあ?」
「私は知らないです」
『聖女』と『魔女』のすげない返事に勇者アレスが舌打ちする。
いつもだったら荷物持ちがモンスターの名前と特徴、弱点を聞かれる前に叫んでいたことを勇者アレスは思い出した。
まあ、どうせ力押しで倒せるのだ。
今回もそうだろう。
その考え自体は間違っていなかったが――
「クソッ、思ったより手強かったな」
正体不明のモンスターは何回も斬りつけないと倒せなかった。
これまで、アレスの聖剣で一撃で倒せないモンスターなどいなかったのに。
「私の魔法もです。効きにくいです」
同じく『魔女』が【爆裂火球】で群れを爆撃したが、同じく倒し切れなかった。
「まあ、強いモンスターだったんじゃない? こっちまで突撃してきたときは肝が冷えたわ」
回復役の『聖女』はこれといって異常を感じなかったが、その発言は勇者アレスの不興を買った。
「オレが抜かれたって言いてえのか」
「別にそんなこと言ってないじゃない! ただ、いつもだったら……」
いつもなら『義賊』が引き付けて後衛まで敵モンスターが来ないようにしてくれていた。
そもそも勇者ひとりで一度に受け持てるモンスターの数には限度がある。
前衛は最低でも二人以上というのは冒険者の間では常識だ。
だから『聖女』も勇者アレスを責めるつもりはない。
「チッ、先に進むぞ」
このときはパーティ内に少し気まずい雰囲気が流れただけだった。
事態の深刻さがいや増してきたのは、この後のことである。