54.僕が壊してしまった幸せだよ
抽象的な白い空間に、五人の人影が見えた。
四人まとまっているのは、おそらく親子だ。
父親、母親、そして子供が二人。
それをかなり離れたところからシーチャが見守っている。
「ここはひょっとしなくてもシーチャの夢の中だな……」
少し迷ってから、ナイちゃんに言われたことを思い出してシーチャの方へと向かった。
「シーチャ」
「スラッド!? どうしてここに……」
なんだかレメリやディシアのときと様子が違う。
俺のことをはっきり覚えているみたいだ。
「ここで何をしてるの?」
「それはボクが聞きたいよ。なんだか気づいたときにはここにいんだ」
シーチャが親子のほうに視線を戻す。
なんだか、とても悲しそうだった。
「彼らは?」
「……僕が壊してしまった幸せだよ」
「そうなんだ……」
「スラッド……ボクの懺悔を聞いてもらってもいいかな」
俺は頷いた。
「ボクはかつて“スキルスティーラー”っていう称号を持つ旧大陸の冒険者だったんだ。その名の通りのスキル泥棒さ。悪い奴から盗んで、苦労してる人を助ける。悪人からスキルを奪って、その力でいろんな人を助けてたんだ。やってることは今と同じ偽善者だよ。ただ、あの頃は悪人にも家族がいるってことを考えてなかった」
シーチャが楽しそうに笑っている家族たちを指差す。
すると、父親が首を吊った。
母親が父親の死体に縋りついて泣きわめき、子供たちがそれを茫然と見ている。
「この光景を忘れたことはない。それはそうさ。あそこにいる父親から盗んだスキルは《超記憶》なんだから」
「シーチャ……」
「まさか自殺するなんて思わなかったんだ! ボクは調子に乗ってる小悪党を懲らしめてやろうと思っただけで……反省したらすぐに返すつもりだったのに」
シーチャは、泣いていなかった。
寂しそうに、時の流れの中に置いて行かれたような笑みを浮かべていた。
「彼が死んで、ようやく気付いたんだ。スキルは、その人の一部。切り分けて考えていいものじゃない。その人にとって当たり前にあるもので……それを奪うってことは、とても残酷なことなんだ。だから……《才盗り》は二度と使わないって誓ったんだ」
そういうことか……。
きっと、王はシーチャの過去を調べ上げて知っていたんだ。
シーチャに《才盗り》は使えない。
だから王はあんな舞台まで整えてまで「《勇者の資質》を奪えるか奪えないか」だけをシーチャに答えさせた。
アレスに勇者の地位が不動のものではないと思い知らせ、その慢心を挫くために。
周囲に《勇者の資質》は他のふさわしい誰かに受け継がれるのだと錯覚させるために。
「ボクは遺族に仕送りをし続けた。母親は駄目だったけど、子供たちは父親の死を乗り越えて立派な大人になってくれた。結婚して、今では新しい家族と暮らしてるはず……」
「そうなんだ」
「はは……さすがはスラッドだね。そこで『よかったね』っていつもみたく言わないあたり、よくわかってるよ」
これは壊れてしまった過去だ。
すでに終わったこと。
そこによかったも何もない。
「本当に身勝手だってわかってる。でも、駄目なんだ。ボクにアレスのスキルは盗めない」