61.まだ見ぬ勇者の始まりに!
「っていっても、こっちの新大陸には詳しい話は伝わってないんだけどな。十年ぐらい前にスラッドのパーティは“竜皇后”に遭遇したらしいんだ。ほれ、仲間が聞きたがってるぞ。教えてやれよ。俺も聞きたいしな」
カシウが俺に話を振ると、みんなの注目が俺に集まる。
「うん。みんなものすっごい苦戦してたし、何度も死ぬかと思ったみたいなこと言ってたけど何とか勝ってたよ」
「「「「「雑っ……!」」」」」
「だって、俺が直接戦ったわけじゃないし。そこにいただけだし。みんな強かったよ」
あっ、もしかしなくても俺のSSSランク認定ってアレのせいかな。
“竜皇后”が世界を破壊してから再生するみたいなこと言ってたし。
スキルが有名になって追いかけまわされたのも、あの頃だったしなぁ。
「……な? イカれたエピソードだったろ? まあ初めて聞いたとき、俺はそれほど意外に思わなかったけどな。俺がまだ現役だった頃、スラッドは十五で成人したばかりなのにドラゴンを倒してるし」
「あれは、とどめを刺したのカシウじゃん」
「ああ、そうなんだよな……あの頃の俺はお前のスキルを過小評価してた。自分の実力でドラゴンを倒したと勘違いして自信をつけたせいで、当時まだ発見されたばかりだった新大陸に渡って一旗あげるなんて柄にもないこと考えちまった」
「じゃあ、スラッドはセイウッド建国にも間接的に関わってたっていうの……?」
ディシアがわなわなと震えている。
「そんな大げさな話じゃないよ。俺のいたパーティにカシウもいたってだけ」
「いや、それがそうでもないんだ。もうオチがわかると思うが、俺は新大陸に渡った後にとんでもなく苦戦するようになったんだ。仮にもドラゴンを倒したパーティの戦闘職がだぜ? それこそ、スラッドをクビにした後のアレスみたいなもんだったな。それで、俺が強かったのはスラッドのスキルのおかげだったんだってようやく気付いたんだよ。そこから俺は死ぬほど努力して、本物の実力を手に入れて……気づいたら国ができてたってわけだ」
「昔っから脳筋だったもんねぇ」
カシウ、笑顔で関節極めるのもやめて!
「どっちもおかしいわ……」
「どっちも化け物なのです」
ディシアとレメリがドン引きしている。
「へへっ、俺に言わせれば冒険者の『おかしい』は誉め言葉だぜ」
『おかしい』はやっぱり普通だと誉め言葉じゃないよね……。
「ま、そういうわけだ。俺が勝手にスラッドに期待しちまったんだよ。でも、アレスが俺と同じ錯覚に陥るとは……いや、違うな。錯覚したまま魔王を倒してくれればって思ってたのかもしれない。まさか、あいつがスキルのことも知らないままスラッドをクビにするなんて、考えてもみなかった……」
「カシウ……」
「俺の尻ぬぐいに付き合わせてすまなかった。このとおりだ」
カシウが俺たちに深く頭を下げて謝罪する。
無礼講とはいえ、本来なら国王のする行為ではなかった。
「特にスラッド。引き篭もってたお前に無理言って勇者パーティなんかに入れちまって……」
「謝る必要ないって。カシウにだって事情があったんだし、やるべきことはやってくれた。なによりカシウがいなければ、みんなにも会えなかったんだし。頭を上げてよ」
「悪い。こうでもせんと俺の気が済まんかったのだ」
気を取り直したカシウが大真面目な顔で宣言する。
「ともあれ、旧大陸の神殿勢力と王家への根回しはあらかた終わった。これでアレスから正式に勇者の資格を剥奪できる。奴にはこれまでの罪を償ってもらわなきゃならん。世間にはスキルを失ったと発表するが……あくまで大衆向けの発表だ。本当にやる必要はない。シーチャ、お前さんには悪いことをしたな」
「……ん、それなんだけどさ」
シーチャが頬をぽりぽりと掻く。
「ボク、いいよ。《才盗り》しても」
「……本気か?」
カシウが驚いて目を見開く。
「いいんだ。ボクもそろそろ前に進まなきゃって思ったし。正直、ベルクラフト陛下の『冒険者不要論』にはちょっと納得しかねるし。それに……」
シーチャがぺろりと舌を出す。
「《才盗り》するの、アレスなら別にいっかなって」
みんなが、どっと沸いた。
部屋の中にみんなの笑い声が響き渡る。
「あ、でも勇者になるのはカンベンだからね~。《才盗り》したスキルは飴玉になるから、それで今度こそ勇者らしいのに食べさせてあげてよ」
「そうか……そうか! それは助かるぞ! よくぞ決意してくれた!」
カシウがシーチャの肩を叩いて、うんうんと頷いた。
「よかった、です」
レメリがぽろぽろと涙を流し始める。
「ようやく世界が、アレスの呪縛から、解放されるのです」
「そうね。これで、ようやくすべてが正されるわ」
ディシアも晴れやかな笑みを浮かべていた。
「よーし、祝杯をあげよう! 勇者アレスの終わりと、まだ見ぬ勇者の始まりに!」
カシウが杯を掲げると、みんなも笑顔で乾杯する。
みんながみんな、本当に嬉しそうだった。
そう……この日をもって、世界はようやくアレスの呪縛から解放されたのだ。