79.それが真の魔女というものなのです
時刻はお昼過ぎ。
俺たちは簡単な昼食を摂ることにした。
メインは塩漬けにした干し肉。冒険者の代表的な保存食だ。
とってもしょっぱいけど、焚火で沸かしたお湯に通せば少しはマシになる。
アレスはこの干し肉が大嫌いで、近くに食事のできる宿のない場所に行くのを嫌っていたっけ。
(旅人さん、旅人さん。願ってくれれば夢の中で豪華なお食事を用意できるわ)
そんなことを考えていたからか、頭の中でナイちゃんが囁きかけてきた。
(それは助かるけど、いいの? ナイちゃんのことをみんなに話さないといけなくなるけど)
(それは困る、困るわ。みんなには嫌われたくないもの。ごめんなさい、旅人さん)
シュンとしたナイちゃんが頭の奥に引っ込んでいく気配がした。
みんなに怖がられるのを嫌がっているナイちゃんは、自分のことを秘密にしている。
きっと大丈夫って言ってるんだけど、強要する気まではない。
ナイちゃんにはみんなの夢が見えるみたいだし、同じ唯一種の魔王みたく恐れられるのが不安なんだろうなぁ。シーチャもすごくビビッてたし、あれが普通の反応なのかも……。
「それにしても、さっきは調子に乗って矢をほとんど使い果たしてしまったのだわ」
エチカがさっきの戦闘を反省してか、ため息を吐いた。
だけど、言葉とは裏腹に彼女の矢筒には矢がたっぷりと詰まっている。
「それくらい私が【弓矢作成】を使えば、こうしてすぐに補充できるのです」
レメリが力こぶを作ろうとしてみせた。
《怪力》スキルは見た目には関係ないので、ほっそりした腕のままだけど。
「だからエチカは気にしなくてのいいです。そんなことより、私はさっき思いついた計画についてみんなに話しておきたいのです!」
先ほどの謎テンションのまま、レメリが不穏な笑顔を浮かべた。
さっき言ってた一石二鳥の方法ってやつかな。
ひょっとしてエチカにも俺の危惧を話すつもりなのかな?
と、思いきやレメリは本当にとんでもないことを言いだした。
「名付けてスラッド勇者化計画なのです!」
「えっ」
思わず素で返してしまう。
エチカじゃなくって、俺の勇者化計画……?
「ほえ? スラッドはユニークスキルの代償で、どんな職にもつけないんじゃなかったっけ?」
エチカの言うとおりだ。
《全自動支援》の効果によって、俺は戦士や魔法使いといった冒険職はもちろんこと、普通の大人であれば誰でもなれる一般職にもなれない。
しかし、レメリはそんなことは問題ないとばかりに指を左右に「ちっちっちー」と振った。
シーチャの真似なんだろうけど、なんだか不慣れでかわいらしい。
「何も《勇者の資質》を持っている必要はないのです。スラッドが勇者っぽく活躍できればそれでいいのです」
何がいいんだろう。
レメリの言ってることが、さっぱりわからないんだけど……。
「ひょっとして俺に強化魔法をかけまくるってことかな? でも、毎回使うわけにもいかないんじゃないかな。いつでも魔法を事前に使っておける時間があるとは限らないし、解除魔法をかけられると一気に戦局がひっくり返ることもあるよ」
「むっふっふ。そんなことはわかっているのです」
また、あの笑みだ。
レメリがいつになく饒舌になっている気がする。
「私は常日頃から考えていたのです。スラッドに本物の勇者みたいな活躍をしてもらうにはどうすればいいか。なんとかしてスラッドの《全自動支援》の効果をスラッド自身にも及ぼす方法はないか。そもそものスキルのペナルティを無効化してスラッドを勇者にする裏技はないか。それが無理でもスラッドにやる気を出してもらうのに有効な魔法薬の調合法はないか……などなどをです」
レ、レメリの想いが重い。
みんなもドン引きしている。
「むむっ、みんながヘンな顔をしてるですが……本来、魔女は『そういうこと』を考える冒険職なのです。できないことはできないとしても代用する手段をネチネチ考える、それが真の魔女というものなのです」
みんながみんな「そんな真の魔女は嫌だ」という顔をした。
レメリのお母さんも魔女だったらしいし、もしかしたらお母さんの教えなのかもしれない。
彼女の独り語りは続く。
「アレスがあんな奴だったのを知ったときにも、それはもう絶望しましたですが、それで泣き寝入りはしなかったのですよ。アレスを善人にしたり、女の子に興味を持てなくなる魔法薬を考えるのは至福タイムだったのです。残念ながら勇者だったアレスには《精神耐性》があったので考えるだけでしたが」
《精神耐性》がなかったらアレスに一服盛る気マンマンだったのか。
わかってたことだけどレメリって根暗だよね……。
いや、さすがに本人には言わないけどさ……。
「そういうわけでシーチャには先に謝っておくのです」
「えっ、なんでその流れでボクの名前が出るのさ!? どんな計画だか知らないけど勘弁してよ!!」
巻き込まれる気配を鋭敏に感じ取ったシーチャが、ものすごい勢いでレメリから距離を取って大声で叫んだ。