死霊術師3.これでわかったかしら?
「勇者パーティの聖女――」
「ディシア、テメェーーーッ!!!」
ゼルハーニが言い切る前にアレスが突撃を開始した。
ディシアに向かって大斧を振り下ろさんとする。
しかし――
「……は?」
何が起きたのかわからず、ゼルハーニは呆然としてしまった。
豪風が吹き抜けたかと思うと、アレスの胸に風穴が空いたのだ。
他のオークたちも同じように斃されている。
「動かないで! あなたのことも狙っているのだわ」
ディシアとは別の女の声だった。
姿は見えない。何をされたかもわからない。
だからゼルハーニは動きたくても動けなかった。
いや、《死霊の王》でアンデッドたちを復活させようとは試みた。
しかし、アンデッドに憑依させていた死霊も聖女に祓われてしまっている。これではアンデッドを復活させるための魔力が回収できない。
今やられたオークたちをゾンビ化すればとも思ったが、おそらく今も先ほどの弓で狙われている。
もう打つ手がない。だからかろうじて、声だけを絞り出した。
「お前か。聖女、お前が僕の無限の軍勢を……」
「無限かどうかは知らないけど、確かに数はやたら多かったわね」
既に勝敗は決している。
ゼルハーニにできるのは、可能な限り情報を引き出して『次』に繋ぐことだけ。
「確かにお前の《アンデッド浄滅》は僕の天敵のようなスキルだ。だからといって、この一帯のアンデッドすべてを祓うことはできなかったはず。いったいどうやって――」
「祓ってないわよ?」
「な、にぃ……? それはどういうことだぁー……?」
「だから祓っていないわ。実際に祓うのはこれからよ。まあ、他の冒険者の手も借りたりしないといけないでしょうけど」
「馬鹿な! だったら、どうして僕の招集にアンデッドが集まらなかったんだ!」
「【聖域結界】よ」
ディシアが口にしたのは、神殿が大きな街に設置する儀式魔法の名前だった。
「このあたりの大地を【聖域結界】ですべて聖域化したのよ」
たしかに彼女の言うとおり、【聖域結界】の中にいる野良のアンデッドは停止して一時的に無害になるのだが……。
ゼルハーニは髪をボリボリと掻きむしりながら叫ばずにはいられなかった。
「馬鹿なぁー! そんなことできるはずがないぃ! ハイドラ山脈は新大陸を真っ二つに分かつ大山脈なんだぞ! いったいどれだけ広大だと思ってるんだぁーっ!?」
「できたわ。わたしが一番驚いてるけどね……」
《全自動支援》の効果でパワーアップしているディシアは、山麓一帯に瘴気を払いのける結界を張った。
本来なら何人もの神官が総出になってかかる大事業を、たったひとりで。
「う、嘘だ。そもそも【聖域結界】で《アンデッド作成》の効果を無効化することはできないはず――」
「そうね、できないわ。だけど、アンデッドにあなたの命令を届かなくすることはできた」
《アンデッド使役》で制御されたアンデッドなら、【聖域結界】を乗り越えて活動することはできる。
しかし、聖域内部の命令を受けていないアンデッドに《アンデッド使役》をかけることはできない。
つまり今回のように放置されているアンデッドに【聖域結界】は有効だ。指示待ち状態のアンデッドはゼルハーニの集合指示に応じることができず、今もどこかで立ち尽くしている。
これらの法則を知っていたスラッドが、今回の作戦を立てたのだった。
「とはいえ【聖域結界】から漏れるアンデッドはどうしたって出るわ。だから仲間といっしょにあなたたちを追跡して、アンデッドを呼び集めたところで一網打尽にしたってわけ。これでわかったかしら? 命を冒涜する死霊術師さん」
「ぐぬぬぬ……」
ディシアからの軽蔑の眼差しを向けられたゼルハーニは、地面に転がったハイオークの死体を憎々しげに睨みつける。
結局、アレスは何の役にも立たずに瞬殺された。
事ここに至ってゼルハーニは「勇者アレスが強かったのは仲間の支援が優秀だったからでは?」という、もっとも真実に近い仮説に辿り着いていた。
このまま死なせておきたいところだが、勇者が役に立つと証明できなければ魔王の怒りを買うことになる。
「これで勝ったと思うなよ……」
そんな呟きを漏らしてから、ゼルハーニは《死霊の王》のスキルを用いてアレスの魂を回収した。
一連の行動は密かに行われたが――
「こいつ、今何かしたわ!!」
聖女が叫ぶ。
魂の回収が《常時アンデッド探知》に引っかかったのだ。
直後、ゼルハーニの胸にエチカの放った魔法の矢が突き立つ。
「ここまでか……クク、構わないさ。僕が死んでも、魔王様がきっと……」
こうして死霊術師は斃れ、王都がアンデッドに包囲される未来は防がれるのだった。