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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~ - 第六話 最強の陰陽師、添い寝する
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最強陰陽師の異世界転生記 ~下僕の妖怪どもに比べてモンスターが弱すぎるんだが~  作者: 小鈴危一
四章(アスティリアのドラゴン編)

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第六話 最強の陰陽師、添い寝する


 その日の夜。

 明日準備するべき物を考えていると、あてがわれた部屋の扉がノックされた。


「はいはい……って、イーファ?」


 使用人かと思って出てみると、そこに立っていたのは寝間着姿のイーファだった。

 少し不安そうな様子で、イーファは言う。


「セイカくん……実は、その……さっき部屋に、侍女(メイド)さんが来て……セシリオ殿下が呼んでるって……」

「……は? 君をか? こんな時間に?」

「わたしと話したいからって、言ってたんだけど……」


 ぼくは顔を引きつらせる。


 おい……順番があるだろ。

 まずは恋文で歌を贈るとかないのか……いやこれは前世の話だった。

 百歩譲ってもお前が来いよ、どれだけやんごとない立場のつもりなんだ……いやこれも前世の話だし、向こうは皇子、じゃない王子だった。


 い、いや落ち着け。なんか混乱してるな。

 しかしどういうつもりだあの王子。お前の恋人でも侍女でもないんだぞ。というか本当に、今女にうつつを抜かしてる場合なのか?


「ど、どうしよう……」


 泣きそうなイーファに、ぼくは手を振って言う。


「あー、行かなくていいよ。あのバ……殿下にはぼくから言っておくから」

「う、うん。その……」

「……もしかして、部屋に一人でいるの不安か?」

「……うん」


 イーファがこくりとうなずく。

 来客用の部屋が与えられてるとはいえ、そもそもここ、プロトアスタ首長用の公邸だしな。無理もない。


「じゃあ、こっちで寝る?」

「! う、うん」

「わかったよ。おいで」


 イーファがこくこくとうなずいたので、ぼくは笑って招き入れる。


 そういえば前世でも、親を亡くしたり、戦火で焼け出されたばかりの弟子は、一人で寝るのを怖がってぼくや兄弟弟子のそばで寝ていたっけ。なんとなくそんなことを思い出す。


 ただ、この子の場合ちょっとその……目のやり場に困るというか。

 やっぱり制服だと着痩せしてたんだな。考えてみれば、イーファも大きくなってるんだから成長していて当たり前……。

 いや、これ以上はよそう。


 ぼくは灯りのいくつかを消しながら言う。


「イーファ、ベッド使っていいよ。ぼくはもう少し起きてるから、後で長椅子ででも寝る」

「え! わ、悪いよ。わたし、従者なのに……」

「いいって。子供は遠慮するもんじゃない」

「こ、子供って、セイカくんの方が年下でしょ……。じゃあ、その……一緒に寝よ?」

「え?」

「ほ、ほら、ここのベッド大きいから……二人でも大丈夫だよ」


 恐る恐る言うイーファに、ぼくは少し笑って答える。


「じゃあそうしようか。それなら、ぼくももう寝ようかな」


 灯りを消していると、頭の上でユキがもぞもぞと動き、耳元で言う。


「あ……セイカさま。でしたらユキは、どこかへ行っておりますね……」

「……? なんでだ? むしろ今出て行くと見つかるからやめろって」


 ささやき返すと、ユキはしばらく沈黙した後、またもぞもぞと頭の上に戻った。なんだよ。


 最後の灯りを消すと、ベッドの隣で固くなっていたイーファが言う。


「よ、よろしくお願いします」

「何が……? いいから入りなよ、ほら」


 ベッドに横になりながら掛け布団を捲ってやると、イーファもいそいそと潜り込んできた。


 ぼんやりと天蓋を眺めながら、ぼくは考える。

 山に入ってからイーファを一人ここに残しておくのは、やっぱり少し心配だ。念のため式神を置いていこう。こちらにはあまり注意を向けられないだろうから、ちゃんと式を組んだうえで。


 月明かりだけが差し込む部屋。

 日本と違い、夏でもこの世界の夜は静かだ。

 稲作が盛んじゃないから水田がなく、おかげでカエルや虫の鳴き声を聞かない。


 話をするには、いい機会かもしれないな。


「イーファ」

「は、はいっ!」


 隣で素っ頓狂な声を上げるイーファに、ぼくは言う。


「セシリオ王子のこと、どう思ってる?」

「え……?」


 イーファの声が、困惑の色を帯びる。


「どうって、特になにも……」

「殿下の後宮(ハレム)に入るって話、考えたりしてるか?」

「え……か、考えてないよ! どうして急にそんなこと……」

「ぼくに遠慮しているなら、大丈夫だから。正直に言ってくれていい」

「な、なんで……わ、わたしっ、そんなに迷惑だった?」

「え?」


 イーファが震える声で言う。


「き、昨日のことなら、謝るから……ちゃんと、魔法を使えるようになる。こ、公用語以外だって勉強して、ぜったい読めるようになるよ! だ、だからっ……」

「いや違う違う。そうじゃない」


 ぼくは体を横にして、隣のイーファを見やる。

 こちらを見つめる少女の目元は、薄暗い中でも濡れていることがわかった。


 ぼくは腕を伸ばし、それを指先で拭ってやりながら言う。


「誤解だよ。別に、君が邪魔になったわけじゃない」

「そう、なの? じゃあ、どうして……」

「悪い話じゃないと思うんだ」


 ぼくは言う。

 メイベルとの約束を破ってしまうのは心苦しいが……やっぱりこのことはきちんと話すべきだ。


「帝国の属国に過ぎないとはいえ、王族の後宮だ。有力な貴族の娘でもない限り、本当なら望んだって入れるような場所じゃない。後ろ盾がないと苦労するかもしれないけど、君ならやっていけると思うよ。ぼくのせいで難しい立場で入学したのに、学園でもあんなに友達ができたんだから……。もし君が望むなら、アスティリアで解放の手続きをするよ。そしてこのままこの国に残ってもいい」

「わたし、そんなこと……」

「もちろん今すぐ決めなくてもいいよ。学園にも心残りはあるだろうしね。でも、考えておいてくれ。君ももうすぐ大人になるんだから」

「……セイカくんは」

「ん?」

「セイカくんは……わたしが、後宮に入っても、なにも思わないの?」


 イーファの震える声に、ぼくは少し考えて答える。


「寂しいとは思うよ。だけど……誰だって、いずれは自分の道を進まなきゃいけない」

「……わかった」


 イーファはごしごしと目元を拭って、ぼくに笑いかける。


「いろいろ考えてくれてありがとう。セイカくんがご主人様になってくれて、本当によかった」

「……うん」

「あんまり気は進まないけど……ちょっとだけ考えてみるね」

「ああ」

「じゃあ……おやすみ、セイカくん」


 そう言って、イーファは顔を背けた。

 その表情の見えない横顔をしばし眺めた後、ぼくも体を仰向けに戻し、目を閉じながら呟く。


「おやすみ、イーファ」



****



 翌朝。

 ぼくが目覚めた時、すでにイーファの姿はなかった。

 日はすっかり明け切っている。やや寝過ぎたようだった。


「セイカさま……いささか、酷だったのでは?」


 着替えていると、卓の上にちょこんと座っていたユキが話しかけてくる。


「何がだ?」

「昨夜のことでございますよ。後宮に入りたければ入っていいだなんて……。ユキはだんだん、あの娘が不憫になってまいりました……」

「? だから、何がだよ」

「以前、ユキは申し上げたではないですか……あの奴隷の娘は、セイカさまを好いていると」

「はあ? いつの話してるんだよ」


 ぼくはシャツのボタンを留めながら呆れる。


「一年以上前の与太話をまだ引っ張るか」

「ユキにはわかります。あの娘は、あの頃からずっと、セイカさまを恋い慕っておりますよ。もちろん、今でも」

「……どうだかな」


 ユキは人間の色恋沙汰が妙に好きだし、絶対先入観ありそうだ。

 ぼくは溜息をついて言う。


「あのな。今回のことは、どうあれイーファの問題なんだ。誘いを受けるも受けないも、あの子が決めるべきことなんだよ。ぼくは余計な邪魔をするつもりはないぞ。とにかくイーファに任せる」

「な、なんですかその、信念めいたものは……」


 困惑するユキに、ぼくは少し口ごもってから説明する。


「……ぼくの弟子にいた、あの娘を覚えてるか? ほら、占星術と料理が得意だった」

「あー、あの器量のいい」

「そうそう。それで、明らかにあの子目当てでぼくの屋敷にしょっちゅう来てた童がいたよな」

「たしか、貴族の子弟でございましたね。あの娘の方も話していて楽しそうで、まんざらではない様子でした」

「そうそう。にもかかわらずぼく、一度小言を言ったよな。童の方に」

「あー……はい。来すぎじゃないか、のような旨を、ちょっと怖い感じで言っておりましたね……」

「で、その日からぱったり来なくなったよな」

「……はい」

「それでどうなったか覚えてるか」

「…………あの娘に、口を利いてもらえなくなってましたね。十日ほど……」

「今だから言うけどぼく、あれかなりショックだったんだよ」

「セイカさま、見たことないくらい動揺されてましたものねぇ」

「弟子にあんなに嫌われたの初めてだったから」


 師匠(せんせい)なんて知らない、と泣きながら言われた時のことを思い出す。娘に嫌われた父親の気分ってこんな感じなのかと思った。

 また来てくれるようになっていなければどうなっていたことか。


「まあそういうわけで、あれ以来ぼくは弟子のそういう事情には余計な口を挟まないと決めたんだ。いやイーファは弟子じゃないけどさ」

「うーん……」


 ユキが考え込む。


「それは結構なのですが……この場合、また違うのでは? 奴隷の娘が本当に想っているのは、セイカさまなのですから……」

「百歩譲ってそうだったとしてもだな」


 ぼくはもう一度溜息をついて言う。


「イーファももうすぐ十五になるんだ。恋人ならともかく、結婚相手は好き嫌いで選ぶものでもないことくらい、あの子にもわかるだろ」

「むぅ……おっしゃることももっともなのですが、あの娘はなにも、高貴な生まれではないのですよ? 愛情で輿入れ先を選んでもよいではありませんか」

「高貴な生まれでないからこそだよ。実家を頼れないんだ、金のあるところに嫁いだ方がいいに決まってる。それにな……」


 ぼくは、少し迷って付け加える。


「……愛情なんて、意外と後からついてくるものだぞ」

「むむ……ん?」


 ユキが耳をぴょこんと立てる。


「セイカさま、ひょっとしてそれは……経験談でございますか?」

「ん……まあ」

「も、も、もしかしてセイカさま……結婚されていたことがおありで?」

「若い頃、短い間だけどな」

「えーっ!!」


 ユキが急に歓声を上げた。

 そして身を乗り出し、はしゃいだように捲し立てる。


「なんですかそれは! ユキは初耳ですっ!!」

「そりゃあ言ってなかったから」

「どうしてそんな大事なこと言ってくださらなかったんですかっ!」

「き、機会がなかったし……あと別に大事でもないだろ……」

「気になります気になりますっ! セイカさまがおいくつの頃ですか? 奥さまはどんな方でした? ご結婚の経緯は? セイカさまからは、どんな風に愛をささやかれたのですかっ?」

「あー……うるさいうるさい」


 ぼくは耳を塞ぐ。

 やっぱり言わなきゃよかったよ。

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