43話 バリア魔法と街計画
本格的な地盤調査が進んでいく中で、街づくりの計画を立て始めた。
思ったよりも大きな街になりそうで、流石に領主の資金だけでは賄えそうない。
「うーむ、困った」
税金を上げるのはだめだし、一時的に徴収するのもなし。
死の領主たるもの、人の首は撥ねたりするものの、金は取り上げない。モットーはあるのだ、一応。
金は足りず、実は人員も足りない。
資材は何とかなりそうだが、軍船のほうに人も物資も優先的に回している現状、やはり街造りが遅くなってしまう。
急ぐものでもないが、どうせなら早めにほしい。
新しいものが手に入ると思うと、ワクワクが抑えきれない。
「仕方ない。金があるところから巻き上げるか」
「それがよろしいかと」
アザゼルに、首都建設の情報を市民に流させることにした。
ミライエでは地価が上がりすぎている問題が以前からある。
新しい街、しかもミライエの中心となる街ができることで、地価の上昇を抑えられる気がした。
新しい街の土地の価値が上がれば、相対的に他の需要が減るからだ。
やはり仕事の速いアザゼルは、たったの数日で首都建設情報を領内のもっともホットな話題にさせてみせた。
予想通り、上がりすぎた地価は数日で効果が出て、収まりつつある。
このまま経過を待てば、適正とはいかないまでも、今の異常な価格からは抑えられるだろう。
そして、時を待つことなく商人どもが食いつた。
日ごとに大物商人が屋敷を訪ねてきては、首都についての情報を求めてくる。
この展開を望んでいた俺は、情報を与えるとともに、彼らに先行的に土地を購入する権利を与えた。
購入する土地の広さに制限はありつつも、どの区画を選ぶかは任せる。
ただし情報は一部出さずに。
俺の城がどこに立つか、メインの通りはどこを通るか、交易の中心地はどこになる予定か、それらすべての情報を伏せて置いた。
別に意地悪しているわけではない。
そこを見抜くのも商人の腕の見せどころだろう?
土地を理解し、有利な場所を見極める。最悪ハズレを引いても自身の商売で頑張ればいいだけだ。
運もあるにはあるが、運も実力のうちってことで。
「どうだ?権利を買っていくか?」
訪ねてきた商人たちに、一様に同じ条件を与えた。当然かもしれないが、全員食いついた。
安くない買い物だ。結構ぼったくった価格といってもいいほどに。
ただし、確実に土地を得られるのと、開発前に選べるというメリットは当然ある。
こうしてまんまと作戦は成功し、ものの数日で大量の資金が集まった。
人望を失うことなく、むしろ一部商人には感謝さえされ、資金を得ることができた。土地は多少失ったが、まあいい。領主ばかりが土地の権利を持っていては不健全だろう。
「それにしても……」
「これは面白い」
ものの見事に商人どもは海付近の土地をかっさらって行った。
俺が大きな港を建設すると踏んでいるな?
くっそー、吹っ掛けた価格だったが、これだけ海沿いを抑えられるともう少し金を取れた気がする。
もちろん最低限の海沿いの土地はこちらも抑えているが、軍船を管理する土地が少し手狭になるかもしれない。
「逆に山沿いに街を建ててやりましょうか」
アザゼルが意地悪なことを口にする。
ひどいやつだ。けれど、面白くもある。
首都を建てる予定の土地名は、先の建国時の戦争名にもなったサマルトリア。
サマルトリア戦争を経て、ウライ国とミライエが建国された歴史ある土地だったりする。
北にはウライ国まで入る、広く続く平地があり、東に港に適した海がある。
南に大きな山脈があり、その山脈を超えた先に俺たちがいる街がある。現領主の街ルミエスだな。
あの生意気な小娘と同じ名前だ。先代領主め、街の名前を娘につけると粋なマネを。
その優秀で大事な忘れ形見は、現在俺にバリア魔法を習わされています。(笑)
西には森や荒野が広がり、そこを通り抜けるとアルプーンの街へと続く。以前少しお世話になった田舎街だ。
うーむ、暮らしやすい土地だが、条件を考えると少し難しい土地でもある。
森や荒野を開拓するのは可能だが、南の山を切り拓くってのはきつくないか?
アザゼルの意地悪な案に乗ってみたい気もするが、サマルトリアの南を中心地にするってのは、現状無理がある。
改めて地図を開いて見てみる。
交易路を考えると、北はウライ国。しかもウライ国側も北の平地を開発していないどころか、ざっと上空から見た感じミライエ側よりも人が住んでいない気配があった。
北を使う商人はいるかもしれないが、死んでいる道も同然。
東は海。俺が港を作ると踏んでいる連中からしたら、一番の交易路になるだろうな。
西は切り開けるには切り開けるが、その先にあるのがアルプーンの街じゃあな……。
アルプーンの北はまた山脈があり、ウライ国への交易路は死んでいる。
北は死んでおり、西は田舎のアルプーン。東の海は鼻の利く商人どもに抑えられた。
これまでミライエ商人たちは、アルプーンの更に西にあるミナントの領地ヘリオスを通って北のウライ国と商売するか、南に下ってミナントの中心地へと行っているかだ。
主にこの二つのルートを使われる。
現状だと、サマルトリアから南へ行くには港を使うしかなくなる。山脈があるからな。人の流れが死んでしまう。
少し考える。
「アザゼル。勝負に出るか」
「考えがおありですね。お聞かせ願いますか?」
俺は計画の全容を話した。
これがうまくいけば、サマルトリアは本当の意味ででかい街になる。
首都の名に恥じないいい街になるだろう。
「面白いです。計画に役立ちそうな男がいます」
「誰だ?」
「先日シールド様を担ぎ上げた男を覚えていますか?」
ああ、覚えているとも。
体長3メートルを超す巨体のあいつだろ?
忘れるはずもない。
あの後に催した祭りで、フェイの次くらいに食べていたのもあって、よく覚えている。俺はよく食べるやつをみると、昔の記憶が戻ってきて少し恐怖するんだ。路銀のなくなるあの旅を……うっ。
だから顔もよく覚えていた。
「覚えている。覚えているとも」
「資金と人員を回してもらえれば、その男、エルグランドを中心に回せる計画かと」
いいね!
やはり魔族は最高だ。
文句は少なく、仕事量は多い。
有能で非常に使いやすい。
「金ももっと入る予定だ。そして人員にも当てがある。これで行こう」
「ええ、さっそくエルグランドを寄こします」
「頼んだ」
アザゼルを遣いにやって、そして俺は悪い顔で笑った。もう少し商人どもから金を巻き上げることができそうだ。
最近領内に流れ込んできている大物商人ばかりを屋敷に通していたが、少し格を落として幅広い商人に土地を買う権利を与えた。
即日で金を用意できるなら、成金でも、多少信頼がなくとも通した。
もちろんベルーガセンサーに引っかかった者は首が飛ぶ。
3つほど飛んだらしいが、俺のいないところだったので死の領主の汚名はこれ以上悪くならない! 俺がいない場で起きた処刑は、俺の汚名にならないはず! セーフ!
「くっくく。あっはははは」
計画を握っている身としては、なんとも愉快な結果だ。
ものの見事にほぼ全員海側である東を選んでいた。
海岸沿いはびっしり抑えられ、当初は城建設予定だった場所も売り渡した。……釣りはあきらめるか。
別に彼らをだましている訳じゃない。
港は建設してやるし、高値で買い取った彼らも10年もすれば元が取れるだろう。おいしい投資には違いない。
けれど、残念。
そこじゃないんだよな。中心は。
アザゼルとエルグランド、そして俺で計画の詳細を詰めて行く。
エルグランドは細かいことは苦手みたいで、説明にはついてこられていなかった。
実務担当にしておき、軍の人間を一人引っ張ってきて補佐につけた。頭の切れる女らしく、オリバーのお墨付きだ。使えそうなのが人間側にもいて助かる。
「おや、これは?」
首都サマルトリア建設予定地の地図には、現状と計画、そして商人たちに売り渡した土地を記録しているのだが、アザゼルが目ざとく一つの印を見つけた。
南側、山脈に沿った地点、場所はほぼルミエス領主邸真北に位置する土地を、一人抑えているポイントがある。
「発見したか。一人、気づいたやつがいる。一人というか、一家だな、あれは」
「まさか貴族の者ですか?」
「さすが」
言い方を変えたからだろう、アザゼルはまたもピンポイントに正解を言い当てる。
商人に紛れて貴族も今回の話に食いつていてきた。それもかなりおいしい条件で。
「先見の明もあるし、何より条件がおいしかったためその地をくれてやった。サービス付きでな」
土地は自由に選んで良いと言ってある。
選ばれた後でそれはないなんて言えない。ここを選んだその才能を評しておまけ付きで土地を分けてやった。
なにより、俺の計画はまだまだある。この程度のサービスは痛くも痒くもない。
「どうせ後日また来る。その時にお前も同席しろ。おもしろい話を聞けるぞ」
「楽しみに待っております」
――。
「おおっ!! 女神よ! よくぞ我らをお救いなさいました」
大時化の中、剣を高々と掲げるオリヴィエは、またも女神と呼ばれてもてはやされていた。
雨に濡れ、雷の光を浴びる彼女は、本当に人ならざる存在に見えた。
その強さと相まって、神々しさは人々の信仰を得るには容易かったかもしれない。
オリヴィエが迷い込んだ船は、ただの商船ではなかった。
ミライエから人をさらい、ミナントの首都へと売り渡す闇の奴隷商船だったのだ。
何の因果か犯罪組織を一人でつぶし、またもや神扱いされる彼女は、空気感的にここから去れなくなっていた。
奴隷になった人たちを放っておけば、港に辿りつけるかどうかさえ分からない。
助けたからには最後まで面倒を見てやる必要があった。
「……なんで私、こんなことに」
オリヴィエの伝説がまた一つ増える。伝説が増えるのは素晴らしいことだが、シールドとは当分会えそうにもない。