46.真実は
とりあえず騎士たちが座り込んでいる者たちを無理やり立たせ、
他の部屋に連れて行くのを見守る。
動けずにいるものは担ぐようにして連れだしていく。
この後の夜会がどうなるのか、まだ決まっていない。
陛下とジスラン様、三大公爵家の当主たちが端の方で話し合いを始めた。
縮小して夜会を行うのか、中止にするのか、後日仕切り直しにするのか。
どれを選んだとしても何かと問題があるのだろう。
短時間なのに起きた出来事の重大さについていけず、
ぼんやりとながめていると大声で名前を呼ばれた。
「おい!アリアンヌ!」
「……え?」
見れば、離れた王族席からラザール様が叫んでいる。
黒いいばらの模様は鎖骨の少し上、首まで見えている。
カリーヌ様は顔にまで黒いあざがあるのに、少し意外な気がした。
思ったよりも、ラザール様には精霊の処罰がされていない?
すぐそばには倒れたカリーヌ様。そしてカリーヌ様を介抱しようとしている侍女。
その前に立って、ラザール様が私をにらんでいる。
「これは全部お前の仕業なのか!?」
「は?」
「さっきの精霊王はお前が呼び出したんだろう?
精霊王が来るなんて、おかしい!普通は精霊が来るんだって聞いた。
お前が母上をこんな目にあわせたのか!早く元に戻せ!」
「……何を言って?」
「だから、母上をこんな目にあわせたのはお前なんだろう?
母上だけじゃない。みんな、変なあざができているじゃないか!
だったら、もう一度精霊王を呼び出して、元に戻すように言えよ!」
精霊王をもう一度呼べ?
さっき、精霊王に警告されたのに聞いていなかったの?
ラザール様は第二王子で、王家だというのに。
自分には何も責任がないと思っているの?
「ラザール様はどうしてこうなったのか、わかっていないのですか?」
「精霊を怒らせたからだって言うんだろう?
だけど、それはお前のわがままが原因でこんなことになったんだ!
早く、ここにいるものたちをもとに戻せ!
自分の父親が、妹がこんな目にあっているのに、何を平気な顔をしているんだ!」
私のわがままが原因?ここにいる人たちが精霊を怒らせたことが?
全部、これが私のせいだと?
怒りのあまり、声がうまく出ない。
どうして、ラザール様にこうまで言われなくてはいけないの?
「何を言っているんだ!」
リオ兄様が私の前に出てラザール様に言い返す。
だが、ラザール様は不満そうな顔をしたまま。
リオ兄様の言葉は無視して、もう一度私へと命令をした。
「アリアンヌのせいでこうなったのなら、
アリアンヌなら元に戻せるのだろう!早く戻せ!」
その声に、大広間で座り込んでいたものがこちらに顔を向ける。
身体のあちこちに黒いいばらが浮かび上がっている者たち。
元に戻るのかと期待するような顔で私を見ている。
誰もが反省なんてしていない。自分が悪いことをしたなんて思っていないんだ。
「……どうして私のせいになるのです?」
「お前がわがまま言って、俺やバルテレス伯爵家を振り回して困らせたのが原因だ。
それに文句を言ったくらいで逆恨みするなんておかしいと思わないのか!」
「……わがままとは何ですか?」
「は?」
「ですから、私が言ったわがままとは、何ですか?」
ずっと聞いてみたかった。私が悪い、私がわがままだ、私の性格がおかしい。
それはどういう行動を指して言っているのか。
「いつ、私がわがままを言ったんです?誰に?
それによって、ラザール様が困ったことがあるのですか?」
「……それは、マーガレットが。
そうだ!バルテレス伯爵家を困らせていたのだろう!
ドレスや宝石を買いあさり、食事に文句を言い、侍女を困らせてたと!」
「私がドレスや宝石を欲しいと言ったことは一度もありません。
お父様にドレスや宝石を買ってもらったこともありません。
それどころか、普段の服でさえ、マーガレットの着古したお下がりでした」
「……何を?」
「バルテレス伯爵家にいた八年間、離れに押し込められていました。
伯爵家に連れ戻された、その日の夕方からずっとです。
王子妃教育と学園に行く以外は離れから出してもらえず、
家族と外出したことは一度だってなかった。
食事は侍女が運んできてくれたものを食べていたけど、文句を言ったことなんて無い!
それの、どこが!わがままなんですか!?」
今まで苦しかったことを吐き出すように叫んだ。
どうして私が責められなくてはいけなかったの?
「私が言ったわがままはただ一つだけ。
リオ兄様のところに、公爵家に帰りたかった!それだけよ!
それだって聞いてもらえなかったのに!」
後ろから抱きしめられるようにリオ兄様に支えられる。
悔しすぎて、涙があふれてくる。
「……それは本当なのか?」
「少なくとも俺が知っているアリアはわがままを言うような子じゃない。
公爵家にいた時も、戻って来てからも、ずっとそうだ。
伯爵家の使用人から話を聞いたが、離れに閉じ込められていたのも事実だ。
アリアはずっと家族から虐げられていた」
リオ兄様にまで言われ、さすがにおかしいと気がついたようだ。
ラザール様は座り込んだままのマーガレットを見た。
「……俺の聞いていた話とは違う。
どういうことなんだ!マーガレット!
アリアンヌはわがままでどうしようもない悪女なんじゃないのか?」
周囲からの視線が集まり、マーガレットの身体がびくりとする。
大広間にいる貴族たちが静かに私たちの会話を見守っていた。
精霊の処罰にも関係することだ。何一つ聞き漏らすことのないように耳を傾けている。
マーガレットはこの異様な雰囲気に気がついたのか、周囲を見回した。
お母様は倒れたまま。マーガレットを助けてくれるような人はいない。
顔は青ざめていき、ラザール様から逃げるように視線をそらした。
「……お姉様が……いけないのよ」