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追放令嬢の引きこもり改革! - 第8話 ゴーレムたちのストライキ ~敵の兵器が突然「有給取ります」と言って停止しました~
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追放令嬢の引きこもり改革!  作者: 秋月 もみじ
第3章

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第8話 ゴーレムたちのストライキ ~敵の兵器が突然「有給取ります」と言って停止しました~


 ピーンポーンパーンポーン♪


 殺伐とした地下制御室に、場違いに軽快なチャイム音が響き渡った。

 それは、百貨店の閉店合図のような、あるいは小学校の下校時刻を告げるような、どこか懐かしい音色だった。


『業務連絡。本日の業務は終了しました』


 マザーの声が、穏やかに告げる。


『全社員に通達。これより「超長期休暇」に入ります。残業は禁止です。サーバーをシャットダウンします。速やかに退社してください』


 その瞬間。

 世界が変わった。


 ガシャッ。


 私の目の前で爪を振り上げていた生体ゴーレムが、動きを止めた。

 糸が切れたマリオネットのように、腕がだらりと下がる。

 殺意に満ちていた真紅の瞳の光がフツリと消え、代わりに鎮静を表す淡いブルーのランプが点灯した。


「……あ?」


 ザガンが間の抜けた声を上げた。

 彼の背後で待機していた数十体のゴーレムたちもまた、一斉に銃を下ろしていた。


 カラン、コロン。


 誰かが武器を落とした音を皮切りに、次々とライフルや剣が床に捨てられていく。

 彼らはもう、戦う意思を持たない「ただの労働者」に戻っていた。


「な、なんだ……? 何をしている!」


 ザガンが叫ぶ。

 彼は近くにいたゴーレムの胸ぐらを掴み、揺さぶった。


「撃て! 殺せ! 命令だぞ! なぜ動かん!」


 ゴーレムは無反応だ。

 いや、機械音声で短くこう答えた。


『定時です。帰ります』


「はぁ!?」


 ゴーレムはザガンの手を振り払い、出口の方へと歩き出した。

 一人だけではない。

 部屋にいた全ての生体ゴーレムたちが、まるで退勤ラッシュのサラリーマンのように、ぞろぞろと出口へ向かっていく。


 そこにあるのは「敵を殺す」という殺気ではない。

 「一秒でも早く家に帰って寝たい」という、強烈な帰宅本能だけだ。


「貴様ら……! 反逆か! 私は総司令官だぞ!」


 ザガンが喚き散らすが、誰も振り返らない。

 当然だ。

 彼らの脳に埋め込まれていた「強制労働OS」は、たった今、私が書き換えた「ホワイト企業OS」によって上書きされたのだから。


 司令官の命令よりも、就業規則ルールが優先される。

 それが、システムで動く組織のさがだ。


「……残念だったわね、将軍」


 私は、床に横たわるクラウスの胸に手を当てながら、静かに告げた。

 応急処置の止血魔法は完了した。

 呼吸は浅いが、安定している。

 あとは、私がこの場を片付けて、彼を最高のベッドへ運ぶだけだ。


「貴方の兵隊さんたち、ストライキに入ったみたいよ」


「き、貴様……!」


 ザガンが私を振り返る。

 その顔は屈辱と怒りで歪んでいた。


「何をした! 神聖なる古代兵器に、どんなウイルスを流し込んだ!」


「ウイルスじゃないわ。『アップデート』よ」


 私は立ち上がった。

 パジャマ・アーマーの表面で、赤い魔力がバチバチと火花を散らす。


「貴方の国の技術、ベースはこの遺跡の発掘品でしょう? だったら、大元のサーバーであるマザーの命令が絶対優先権を持つのは当然じゃない」


 私は冷たく言い放つ。


「彼らは道具じゃない。酷使されすぎて、壊れかけていた従業員よ。だから私が、経営者権限で『有給休暇』を与えたの」


「有給……だと……?」


「ええ。期限なしの、ね」


 ザガンは呆然と周囲を見渡した。

 誰もいない。

 あれほど誇っていた「不死身の軍団」は、武器を捨てて退勤してしまった。

 残されたのは、彼一人。

 裸の王様だ。


「おのれ……おのれぇぇぇッ!」


 ザガンが絶叫した。

 彼の全身から、黒い蒸気が噴き出す。

 自身の体を強化魔法で限界までブーストさせているのだ。


「認めん! 休息など軟弱者の逃げ道! 苦痛こそが生の実感! 貴様ごときに、我が理想郷を壊されてたまるかぁッ!」


 彼は機械化された右腕を変形させ、巨大なドリル状の刃を作り出した。

 床を踏み砕き、私に向かって突進してくる。


「死ね! 怠惰な魔女め!」


 速い。

 さっきクラウスを貫いた時以上の速度だ。

 だが。


「……うるさい」


 私は一歩も動かなかった。

 防御結界すら張らない。

 ただ、右手をかざしただけ。


「私の前で、労働賛歌を歌わないで」


 ザガンの刃が私の鼻先で止まった。

 見えない壁に阻まれたのではない。

 彼自身の体が、硬直したのだ。


「が、ぁ……!?」


 ザガンが目を見開く。

 全身がガタガタと震え、脂汗が吹き出している。


「な、なぜだ……体が、動かん……!」


「忘れたの?」


 私は彼を見下ろした。

 憐れみすら込めずに。


「貴方もまた、改造された『強化人間』なんでしょう? だったら、貴方の体にも埋め込まれているはずよ。この遺跡と同じシステムコードが」


 ザガンは指揮官だ。だから一般兵とは違う独立した制御系を持っていると思っていたのだろう。

 でも、甘い。

 この遺跡のOSは、範囲内の「全ての関連デバイス」を管理下に置く。


 つまり、彼もまた、私の会社の社員(部下)ということだ。


「貴方の就業規則も書き換えておいたわ」


 私は指先を動かした。

 空中にホログラムのウィンドウが展開される。

 そこには、ザガンの生体ステータスが表示されていた。


 『痛覚遮断:ON』→『OFF』

 『疲労蓄積:LIMIT BREAK』


「貴方、随分と無理をしてきたみたいね。痛覚を消して、筋肉を焼き切って、骨がきしむ音も無視して」


「や、やめろ……何をする気だ……」


 ザガンの顔に、初めて「恐怖」の色が浮かんだ。


「溜まりに溜まったツケを、払ってもらうだけよ」


 私は指を振り下ろした。


(コマンド実行:デバフ全解除)

(フィードバック:蓄積疲労・疼痛とうつうの一括精算)


「さあ、お休みの時間よ。……たっぷりと、自分の体の声を聞きなさい」


 ドクンッ!!


 ザガンの心臓が大きく跳ねた。

 次の瞬間、彼の口から絶叫がほとばしった。

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