14)新聞部
吉田に手を引かれて、わたしはその後を着いて行く。
何でこんなときに、わたしのお腹は鳴るんだろう。
幽霊に命を狙われているんだよ?
吉田は気にすんなっていうけれど、恥ずかしいよ、ほんとに。
お願いだから、もう鳴らないでね?
お腹になんとなく目線で語りかけると、吉田がわたしの顔を覗き込んだ。
「新聞部にならなんかお菓子が置いてあるからさ。ちょっと一息つこうぜ」
あわわ、お腹を見てたの、お腹すいてるからだって思われた?!
「ぷっ、幹原、そんなに慌てるなよ。俺もお腹減ってるだけ」
「ほ、ほんと?」
「ほんとほんと」
くっくと吉田は笑って、新聞部のドアを開く。
パチンと電気を付けると、ここでもちゃんと電気が付いた。
でも電気がついてもあの幽霊の女の子が来ないってわけじゃないから、安心は出来ないけれど。
明るいだけで、ちょっと嬉しくなる。
「新聞部は二階だから、鍵かかっていないのね」
「いや、これは武志がズボラなだけ」
「武志……あ、片山?」
「そそっ。あいつが部長になってから、ここの鍵は常時開いてるんだよね」
「スクープとか盗られちゃわないのかな?」
「パソコンにパスワード入れてるから大丈夫なんだと。ノーパソだからあいつが持ち歩いてるしね」
まぁまぁ、こっちのイスに座ってよって言いながら、吉田は食器棚からお菓子を取り出した。
クッキーの缶と、アソートチョコレート。
一口大のチョコが包まれてて、美味しそう。
「クッキーとチョコレート、どっち食う?」
「勝手に食べちゃって、大丈夫なのかな」
「へーきへーき、俺もちょこちょこお菓子差し入れてるからね。こっちのチョコレートは一昨日俺が持って来たやつだし」
「じゃあ、チョコレート欲しいかな」
「ほいほい」
わたしはチョコレートを数粒貰って口に運ぶ。
うん、美味しい。
あ、ポットも紙コップもあるのね。
……学校始まったらわたしも片山に紅茶を差し入れすれば、大丈夫、かな?
わたしは吉田の分と自分の分の紅茶を淹れる。
「お、サンキュー」
「勝手に使っちゃったけど、紅茶を今度持ってくるね」
「紅茶よりも、珈琲持って来てやって。片山は実は珈琲党」
「じゃあ、珈琲も置いてあるの?」
「うん。ドリップだとさらに喜ぶね」
「ブルーマウンテンとか、キリマンジャロとか、かな」
「種類は何でも飲むよあいつは」
珈琲は苦くて苦手だから、あまり種類も違いも分からない。
買うときに、店員さんに確認しておこう。
ほわほわと湯気の立つ紙コップを両手で包むと、指先がじんわりと温まってくる。
わたし、寒かったのかな?
いっぱい怖かったし。
「あー、やっぱり流石に塩はないか」
さらに食器棚の奥を確認していた吉田が、残念そうに呟く。
「塩って、珈琲には使わないものね」
「まぁな。真夏だったらあったかもな」
「真夏だと、珈琲に塩を入れちゃうの?」
「違う違う、ほら、夏場ならスイカ食べるだろ。あいつスイカも好きだから、持ち込んでたりしたんだよ」
「学校に、スイカを?」
「うん」
「冬は食べないのかな」
「いやいや、そもそも売ってないよな?」
あ、また笑われたっ。
うー、なんかさっきから笑われちゃってる。
恥ずかしいな。
「さーて、それじゃあいっちょ探しますか」
吉田がうーんと伸びをして立ち上がる。
わたしも立ち上がる。
新聞部には、この学校の関係者が関わった事件がファイリングされている。
二十年ぐらい前までのだったら、小さな記事でも残っているみたい。
だから、もしこの学校の生徒が、何らかの事情で亡くなったなら、その記事が見つかるかもしれない。
幽霊になってしまって、ここに取り残されているのだし、制服を着ていることからもこの学校の生徒だったはずだから。
わたしと吉田は、それぞれ資料棚の右と左からファイルをチェックしていく。
資料は本棚いっぱいにぎっちりと詰め込まれていて、正直、調べるのは大変。
でも、ファイルは年代ごとに分けられているし、中を開くとそれぞれジャンル毎にきちんと分けられていた。
部活動で賞をとったり、ボランティア活動で市から表彰されたり、事件だったり、事故だったり。
お祝い事のほうが多くファイリングされていて、事故や事件は少なくて、これならすぐに見つかるかも。
小さな記事も見落とさないように、わたしは一ページずつ丁寧に見ていく。
特に、事故のページは念入りに。
何冊目だったろう?
わたしが次のファイルに手をかけたとき、吉田が叫んだ。
「見つけたっ! この子だ……」
吉田がファイルを開いてわたしに見せてくれる。
そのページにはいくつかの記事が貼り付けられていた。
名前は伏せられているけれど、うちの学校の女性徒が、裏門のところで交通事故に合ったという新聞記事。
そして、学校新聞の記事では、彼女の写真と、彼女を悼む言葉が綴られていた。
掲載された写真は、間違いなく、あの幽霊の女の子だった。