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黒の錬金術師 -黒の称号を冠する者- - 第88話 暗き闇の奥で
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黒の錬金術師 -黒の称号を冠する者-  作者: 辻ひろのり
第4章 特区構想計画編
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第88話 暗き闇の奥で

 野盗たちは撤退し、ねぐらとする洞窟に帰ってきていた。

 全身に火傷痕のある男が仲間たちを野次る。


「クソッ!! テメエらがトロいから逃げられたじゃねえか!!」

「手筈通り隊長は殺ったじゃねえですか。あの金髪野郎が厄介過ぎなだけですって」

「あの金髪野郎……公開裁判にいた奴じゃねえか。あそこまで小賢しい奴だったとはな……」

「ですぜ。追撃があると考えた方がいいですぜ」

「すぐに移動するとするか……おい! まだ済まねえのか!?」


 洞窟の脇道の奥に向かって叫んだ声だったが、声は洞窟に響くだけで、呼びかけられた者からの応答は無い。


「アイツ、ヤクを決めると女が欲しくて堪らなくなりますからねぇ。発狂しながら犯りまくってるんですよ」

「いや……変だ。静か過ぎる……」


 洞窟は静まり返り、篝火のパチパチという燃える音と、岩から染み出る雫の滴る音しか聞こえない。


「ちょっと見てきますぜ。あーでも……ウヒヒヒ。俺も済ませて来るんで」

「さっさと行け! お前らはノーテンキで羨ましいぜ」


 野盗の一人は女のいる脇道へと消えていく。

 しかし……一向に帰ってくる様子が無い。


「やっぱり変だ! すぐに支度を始め……」


 カシャン……カシャン……

 鉄鎧がぶつかり合う足音が……ゆっくり近づいてくる。

 野盗たちは警戒し、剣や弓を構え迎え撃つ……。


「うがぁぁっ……」


 突然、一人の野盗が大声を上げた倒れた。

 そして、次から次と倒れていく。


「どういう事だ!? 足音はまだ遠くのはずじゃねえのか!?」

「呼んだか?」


 急に後ろから呼び掛けられ、慌てて振り向こうとするが、強引に押し倒される……。

 押し倒して来たのは……黒鎧を纏う男、ろうだった。

 ろうはその名の如く、まるで牙を剥く魔獣のような強烈な殺気を放っている。


「クソォォォ!」


 殺気に気圧けおされ、野盗たちは一斉に飛び掛かった。

 が、しかし……一瞬でズタズタに引き裂かれ、血の海が広がっていく……。


 ろうは取り押さえた野盗に、低い声で問い掛ける。


「これで八度目の質問だ。前の七人は質問の意味すら理解できず、死んだ。……お前は、誰に動かされた?」

「……アンタ、俺たちの仲間だろ!? なぜ襲ってきやがる!?」

「何の話だ?」

「アンタのその鎧、ぬえと一緒じゃねえか! 俺たちはぬえの指示で動いてるだけなんだ!」

ぬえ……だと?」

「ああ! 奴に雇われて、「暴れろ」って指示が出てるんだ! アンタ、ぬえと一緒に居たろうって奴なんだろ? なっ! 話したから助けてくれよ!」

「…………ぬえが……ぬえがそんな事言う訳ねえだろが!!」


 押え付けた頭を、ガンガンと地面に叩き付ける。

 野盗は何度も「本当だ!」 「堪忍してくれ!」 と叫び、鬼気迫る表情で訴えてくる。

 血を垂れ流す野盗の頭をグィと持ち上げ、再度質問を重ねる。


「それは輸送車を襲う指示だな? 裁判の時は誰に指図された?」

「か……陽炎かげろうだ。俺は陽炎かげろうから指示を受けた……だけだ。だから依頼主までは分からねえ……。あの依頼のせいで全身火傷を負っちまったし、散々な目にあってるんだよ! 頼む! 頼むから見逃してくれぇぇぇ!」


 ろうはそれを無視し、何度も地面に叩き付ける……。

 野盗は途中から応答すらしなくなったが……それでも叩き付けられる。



 ……やっと叩き付けを止めた。

 野盗の顔は原型を留めていない。

 目玉が飛び出し、脳漿のうしょうを撒き散らしている。


 ろうは立ち上がると……


「ウウオオオオオオオオォォォォォォォ!!」


 わめらすかのように叫んだ。

 その悲しく痛々しい叫びは、静かな洞窟に木霊していく……。



 ◇



 ピチャン……カシャン……ピチャ、カシャン……。

 雫が滴る音と、鎧の歩く音が洞窟に響く。

 ろうは「足音を演出」するために使った蓄音機を回収し、その足で女が居る場所に向かっていた。

 脇道を奥に進むと木造りの小さな小部屋があり、その前に止まるとドアに越しに話し掛ける。


「入ってもいいか?」


 すると、中から小さく「どうぞ」と聞こえる。


 ドアを開け、中に入ると……一糸纏わず、白い肌を肌蹴る女が寝ていた。

 ろうは慌てて外に出ると、勢い良くドアを閉める。

 想像だにもしない状況に、荒く息を立てながら問う。


「な、なぜ服を着ていない!?」


 女からの返答は……無い。

 仕方なくその場に座り込み、着替えが終わるのを待つ。


 ……しかし、待てども待てども応答は無い。

 だが、ろうは辛抱強く待った。


 女は野盗たちの性欲の捌け口にされていた。

 ろうが洞窟を襲撃していた時も、野盗に暴行されていた最中だった。

 すぐに野盗を引き剥がし殺したが、女は表情一つ変えず、ただボーっとしていた。

 だから、気分が落ち着き、準備が整うまで待つのが良いとろうは思っているのだ。



 もう……何時間経っただろうか……。

 小部屋から漏れていたランタンの光が消え、下火になった篝火が洞窟内を薄暗く照らしている。

 ろうは篝火に木をくべ光源を確保すると、再びドアの側に座り込む。


 しばらく経ち、小部屋の中から物音がすると、女が出てきた。

 しかし、女は服を着ていない。


 慌てて顔を背けようとした時、女の行動の妙な点に気付いた。

 光源は十分確保できているのに、壁に手を突き、すり足でゆっくりと歩んでいる。

 まるで、暗闇の中を歩いているかのようだ……。


「お前、目が悪いのか?」

「えっ!? 居たのですか!? あ、あ、あああ! 見ないで!!」

「見てねえよ! だから早く服を着てくれ!」


 ろうは目を閉じる。

 だが、女の言っている事に疑問を感じていた。


 最初小部屋に入った時、女は悲鳴一つ上げなかった。

 裸を見られる事に慣れているのかとも思ったが、今は「見るな」と言う。

 一体……なぜ?


 気になって女を見ると……壁の端に屈むように座り込んでいる。

 そして……ろうはその一部始終を見てしまった……。


 女が用を済ませると、顔を赤くしながら再び小部屋に戻りだした。

 そして、小部屋の前まで来るとろうに語り掛ける。


「あの……伺ってもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ……」

「私は……いつ殺されるのでしょうか?」

「何を言ってやがる?」

「8回……。あなた様が質問をした後、一人ずつ声が途絶えていきました。次は……私の番なのでしょ?」

「聞こえていたのか……」

「昔から耳だけは良いのです。でも……やっと死ねます」

「おい! 俺はアンタを殺すつもりはねえぞ!?」


 女はろうの側に座ると、小さく懇願する。


「お願いです。私を……私を殺してください……」

「…………」


 ろうは返事をしない。

 その代わり、何も言わず自分の着ていたマントを女に羽織わせると、鞄から布と水筒を取り出し、女の顔を綺麗に拭っていく……。


「俺は女じゃねえから気持ちを汲んでやれないが、こんなベッピンさんなら、貰ってくれる奴も多いと思うぜ?」

「そんな奇特な方は……おりません……」

「そうなのか? 婚約者くらい居ても変じゃねえと思うけどな?」

「私にはおりませんが……あなた様にはいらっしゃるのですね?」

「俺もいねーよ」

「でも……とても慕われた方がいるように思えます。とても羨ましいお方です」

「いや、いねーって!」

「フフフ。ご冗談がうまいお方です。……最後にあなた様に出会えて……本当に良かった……」

「だから、命を粗末にするんじゃねえっての!! アンタが死んで悲しむ奴だっているだろが!!」

「父は悲しむかもしれません。ですが……嫁に行く事もできぬ娘に絶望してしまうかもしれません……。父を……悲しませたくありません……」

「じゃあ何か? アンタの親父さんは、アンタが死んで喜ぶって言うのか?」

「……悲しむとは思いますが、苦労を掛けずに済みます」


 ろうは長い溜息を吐き出した後、少しは前向きになれるような話を始める。


「あのなぁ……。俺の知り合いに、やたらと娘を嫁がせたがるオッサンがいる。そいつは事ある毎に言うんだ。「娘が生き甲斐だ」ってよ。そんな奴が娘が死んだと分かったらどうなるよ? とち狂って身投げしかねねえ。俺が力尽くで止めても死ぬと思うぜ? アンタがやろうとしてるのは、それなんだよ」

「……どうしようも無いじゃないですか!! 父からとても好感の持てるお方を紹介すると言われて出向いて見れば、この有様!! 底辺を這いつくばる事しかできない虫が、ゴミ虫以下になってしまったのです!! もう……生きていく気力さえありません……」

「フフフ、いい顔するじゃねえか。俺は地面は這いつくばっても、泥水をすすってでも生きるべきだと思うぜ?」

「ええ! 私はゴミ虫です! どうぞお笑いになってくださいまし!」

「わ、悪りぃ悪りぃ。怒らせるつもりはなかった」

「では何ですか!? このゴミ虫を娶って頂けるのですか!?」

「俺は……駄目だ」

「……やはり、ゴミ虫はお好きではないようですわね!? なら、さっさと殺してくださいませ!」


 ろうは考える。

 この女が抱える闇は大きい。

 それがこの結果では尚更だ。

 この女を生に繋ぎ止めるには……何か策が必要だ。


 アイツなら……いや! アイツは俺の知ってるアイツじゃねえかもしれねぇ!

 だったら俺の流儀で……って、それも駄目だ。

 今の俺は、ろうだ。

 裏の顔であるろうに関わらせたら、それこそ陽の目を見れなくなっちまう。

 ちゃんと表の生活をさせるためには……そうか!


「なら、一つ賭けをするか?」

「賭け……ですか?」

「ああ。もし、その賭けにアンタが負けたなら、望み通り殺してやる」

「……殺して頂けるなら、何でも構いません!」

「俺はアンタの親父さんを知らねえが、その紹介相手とうまく行くかが勝負内容だ。アンタの親父さんの見込み通りなら、うまく行く。どうせ死ぬなら、生まれ変わらせてやるって手もあるにはあるが……アンタはそんな器用な生き方は望んでないんだろ?」

「望みません! 勝負は目に見えていますが、それなら父も納得してくれるでしょう!」

「なら決まりだな! 手伝ってやるから服を着ろ」

「いいえ! お手は煩わせません! 私一人で着替えます!」

「フフフ、やっぱアンタ……今の方が断然、魅力的だぜ?」


 女は顔を赤くした。

 そして、それを誤魔化すかのように反論する。


「見ないで頂けます? 勝負事とはいえ、嫁入り前なのですから!」

「へぇへぇ!」


 女は少し嬉しそうな顔をし、準備をするために小部屋に入っていった……。



 ◇



 徒歩で移動を始め、2日もすると村が見えてきた。

 半日もあれば到着する距離ではあったが、2日も掛かってしまったのは、女の歩くペースに合わせていたからだ。


 何度も「背負ってやろうか」と提案したが、女は頑なに拒否した。

 それは女の持つプライドであり、人として生きる事を諦めない姿勢にろうは感じた。

 だからろうは、どんなに時間が掛かろうと女のペースに合わせ歩いていた。


 村の付近まで来ると、ろうは足を止める。


「ちょっと待ってくれ。今着替えるからよ」

「……なぜ着替えるのですか?」

「この姿は……ちょっと目立つんだ。それに色々あるんだよ」

「はぁ……」


 ろうは鎧を脱ぎ、袋に詰めていく。

 持っていた剣も布で包むと、いつもの剣に持ち替える。


「そういえば、ご紹介が遅れました。私は――」

「待った! 名前は口にしなくていい!」

「……これから死ぬ女の名前ですものね? 聞きたくないのも当然でしょうしね?」

「そういう意味じゃねえよ!」

「冗談でございます。……この2日、共に過ごさせて頂いて本当に幸せでした」

「おいおい? まだ勝負は終わってねえぞ?」

「いいえ、これは予感です。私は必ず負けます。……可能であれば、もっとご一緒していたかった……」

「勝負の綾はやってみるまで分からねえ。だが勝負に勝てば、話に付き合うくらいはできるぜ? まぁ……旦那に浮気と勘違いされない程度の付き合いになるかもだけどな?」

「フフフ。あなた様なら大歓迎……と言いたい所ですが、叶わぬ夢を夢見るだけに留めておきます」

「アンタも強情だなぁ……。あのオッサンにそっくりだ」

「私の父も変な所で頑固です。似ていらっしゃいますね」

「まぁいいさ。じゃ、行くか!」


 ガルアは袋と包みを背負い、村へと歩を進めた……。


次回、水曜日

2015/3/25/7時の掲載予定です。

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