プロローグ 異世界から弟と嫁がきた
連載再開です!
《佐久平 芽衣》
あたしの名前は佐久平芽衣。
2■歳。
大手出版社に務めるラノベ編集者だ。
仕事は順調。
私生活も順調で、若くて才能のあるダーリンと結婚し、一戸建てを作ってそこで暮らしている。
そう、公私ともに順調すぎるあたしには……一つの悩みの種があった。
「啓介……あいつ、どこ行ってるのよ……」
季節は、初夏。そろそろ高校生達は夏休みに入る頃。
あたしには年の離れた弟がいる。
佐久平 啓介。
今年、私立アルピコ学園高等部に入る予定……だった。
しかし、入学式の前、春休みに行方不明になってしまったらしい。
それから数ヶ月たつが、啓介のやつは見つからないで居る。
親は長野県に住んでいる。
あたしと、啓介だけが東京に来ている状態だ。
長野の父さん母さんは、啓介が行方不明になってしまって、凄く心配してる。
……あたしはどうかって?
心配は……実はそんなにしてない。
なぜかって?
☆
「ただいまー……」
深夜。仕事を終えてあたしは自宅へと戻ってきた。
ダーリンと同居人達は眠ってしまっているようだ。
あたしがリビングへと向かうと……。
『えー! すっごーい! テレビちょーうすーい!』
『でしょー!』
……見知った声が、聞こえてきたのだ。
あたしはため息をついてリビングへと向かう。
そこには……。
『これが、薄型テレビです!』
我が家のテレビの前に、一人の男の子が立っている。
身長は、年齢の割に低い。童顔。黒髪。痩せ型。
こいつは啓介。そう、失踪中であるはずの我が弟、佐久平啓介本人さまだ。
『ほえー! すごーい! ブラウン管じゃない! しゅごーい!』
……そして、啓介の隣にたつ、黒髪ロングの美少女。
背は高い。黒髪ロング。
ぱっちりとした二重に、黄金の瞳を持つ……。
こいつは、啓介のカノジョ。神坂愛。
『あ、お義姉さん! おかえりなさーい!』
『あ、姉ちゃんやっほーい』
……あたしは二人を見て、大きくため息をついた。
「ただいま……啓介。それと……神坂さん、だっけ」
二人にそう言うと、ぱぁっと二人とも笑顔になる。
『そんな! お義姉さん! 神坂さんだなんて! そんな、他人行儀なっ! わたしは佐久平家にいずれ嫁入りするんですから! どうぞ愛ちゃんとお呼びくださいっ!』
神坂さんとやらは、どうやら啓介にゾッコンらしい。
一方で啓介はというと……。
『んも~♡ アイさん、気が早いよぅ~♡ まだ僕ら結婚式すらあげてないのにっ』
『じゃあ今すぐあげちゃう?』
『あげちゃう~?』
……はぁああああああああ。
あたしはその場にぺたんとへたり込む。
『どうしたの、姉ちゃん?』
『お疲れですか、お義姉さん?』
心配そうにあたしを見てる啓介&神坂さんに、あたしが言う。
「あのさ」
『『はい』』
「改めて聞くけど……何で君ら、体、透けてるの……?」
そう……。
啓介たちの体は透明なのだ。向こうの壁が透けて見えている。
彼らは言う。
『『え? だって、魂だけこっちに来てる状態だし』』
☆
さて、あたしの弟とそのカノジョとやらが、あたしの前に初めて現れたときのことをことを話そう。
あれは一ヶ月くらい前だろうか。
六月のある日のこと。
深夜。出版社で残業していたところ、あたしのスマホに、啓介から電話がかかってきたのだ。
『もしもし姉ちゃん?』
『あんた今どこなのよ? 母さんたち心配してるよ?』
啓介は3月から三ヶ月間くらいずっと行方不明状態だったのだ。
が、ある日突然あたしのスマホに啓介から電話がかかってきたのである。
『え、だから、ゲータ・ニィガ王国』
『だから! ゲータ・ニィガって……あれでしょ? ファンタジー異世界のことでしょ?』
『そうそう。僕、ここゲータ・ニィガ王国に、勇者として召喚されたんだ!』
……我がアホの愚弟がいうには……。
どうやら春先に、啓介は異世界に勇者召喚されたらしい。
勇者とは、異世界から呼び出される日本人達のことだそうだ。
勇者にはそれぞれ固有の武具、神器というものがあたえられるらしい。
四人の勇者が呼び出され、そのうちのひとりが啓介。
そして啓介に与えられた神器は……。
なんと、カバン。
カバンなんて使えないからと、召喚主である王女ワルージョから廃棄処分になったそうだ。
廃棄先は高難易度ダンジョン。
決して生きては帰れないはずの奈落の底で、啓介は二人の女とで会ったそうだ。
大魔王スペルヴィア。
そして大勇者……ミサカ・アイ。
啓介は魔王と勇者の力、そして同様に捨てられし勇者の力を手にとり、地上を目指す。
地上に出た啓介はやりたい放題やりまくったそうだ。
カバンの勇者だった啓介は敵をバンバン倒し、ガンガン強くなっていった。
そんで、最終的に鞄の魔神へと覚醒進化。
世界の破滅を企む黒幕だったワルージョをぶっ倒し、世界の危機を救ったのだった……。
って、アホかーーーーーーーーー!
そんな与太話信じられるかぁあああああああああああああああああああああああああああああああ!
……って、話を聞いたときは、思ってたんだけどねえ。
作り話だって。
でもね、最終的に信じることにしたの。
なぜって?
……啓介と神坂さんが、魂だけの存在となって、異世界からこっちに転移きたからよ。
☆
あたしんちのリビングにて。
魂状態の啓介と神坂さんに聞く。
「もう一回聞くけど、なんであんたら魂だけなの?」
『まだ、肉体をこっちに持ってくる手段がないんだー』
啓介の隣に、小さな窓が開いていた。
「なにこれ? 窓?」
『そう。ヒキニートさんの神器』
「ひき……? 誰?」
『えと……名前なんだっけ。忘れたや』
こ、こいつ……。
そういえばこの子、昔からちょっと変なとこがあったのよねえ……。
ボンヤリしてるっていうか。他人に興味ないっていうか。
『セバっちゃんだよ、セバっちゃん!』
ミサカさんが代わりに答える。
セバっちゃんってやつが、窓の神器の勇者ってことね。
『ヒキニートさんの窓は、別の世界につなげることができるんだ』
「なるほど……でも、窓ちっさいわよ」
『そう、小さいの。だから、肉体がここをくぐれないんだ』
なるほど……。
『けど、魂だけならくぐれるってきづいたんだ。肉体がないならくぐれるかもってねー』
『けーすけくん、すごい! かしこーい!』
……頭痛くなってきた。
「で、どうやって魂を肉体から抜いたの?」
『僕の神器の力。僕、魂を肉体から引き抜けるの』
こわっ!
え、弟って勇者なのよね!?
魂を肉体から引っこ抜くって……普通に敵側の能力じゃない!?
「ま、まあ状況は理解したわよ……。でも、あんた。これからどうするの? もう悪いやつは倒したんでしょ? さっさと帰ってきなさいよ」
『そうしたいのは山々なんだけど、まだやることが残っててさ』
やること……?
『今僕がやろうとしてるのは、二つ。1つは、地球への帰還方法を見つけること』
そっか、今啓介は魂しかこっちに帰って来れないんだったわ。
「もう1つは?」
『死んじゃった廃棄勇者たちを、蘇生させる方法を探すこと』
どうやら啓介以外にも、神器が使えないからって捨てられた連中がいるらしい。
地球に帰れないまま、非業の死を迎えてしまったそうだ。
「って、あんた、それ死んだ人間を生き返らせようとしてる?」
『え、うん。それが?』
………………もう、つっこまんぞ。
弟は異世界に行って、価値観も異世界にそまってしまったんだ。
弟よ……死んだら、普通は死ぬんだよ?
『あと、封印されてる大魔王さんたちの解放もかなぁ』
スペルヴィア以外にも大魔王が、合計で七人いるらしい。
そのうち三人は封印から解放したんだそうだ。
「って、3つじゃないのよ、やりたいこと」
『そうだったね。その3つをどうにかしない限りは、帰れないかな』
ああそうかい……。
「ま、わかったわよ。あんたがヤバいことになってるってのと、それと……元気してるってことはね」
ずぅっと、この神坂さんって人は、啓介にくっついていた。
どうやらよっぽど弟のことが好きらしい。
『あー! けーすけくん、学校だいじょうぶ? 入学から数ヶ月たってるみたいだよ!』
「ああ、そこは大丈夫よ。休学届けだしておいたから」
『おー! お義姉さんなーいす! だいすき! ちゅっちゅー!』
まあ、何はともあれ弟が元気ならそれでいい。
「さっさと用事済ませて、早く帰ってきな。皆心配してるのよ」
『うん、わかったよ。ごめんね』
「いいって。じゃ、さっさと旅に戻りなさい」
『はーい!』
二人が窓の中にしゅるんと入っていった。
ばたん、と窓が閉じると、窓自体が消えてしまった。
「…………やれやれ」
弟がこんな事態になってるとはね……。
とはいえ、ま、元気そうでなによりだわ。
そのうち帰ってくるでしょ。
あの嫁を連れて。
あたしはそんときが来るのを待ってれば良い。
「母さんにいちおう連絡しておくか」
その後あたしは母さんに一部始終を話した。
で、その結果なんて言われたかというと……。
『あんたが担当編集してる、ラノベの話?』
って言われた。ですよねー。