第三十六話 でかすぎんだろ
第三十六話 でかすぎんだろ
炎獅子神社からの帰り、約束通り巴君に奢る事になったのだが。
「あら、何かしらモブ太朗。そんなにモブモブした顔でこちらを見つめて」
アイスやらチョコやらイチゴやらを、とにかくトッピングしたパフェを頬張る友人の服装は、ゴールデンウイークの時同様『女物』になっていた。
それも、服自体は当然の様に別の物である。
半袖の白いワンピースは第一ボタンまでキッチリ閉められ、店に入るまで被っていたつばの広い白い帽子も合わさって深窓の令嬢の様だ。
だが大人しさだけではなく、耳には刺すのではなく挟むタイプだろうイヤリングをして、手首にはミサンガみたいなのを巻いているのはチャームポイントというやつだろう。
あと、個人的に言わせてもらうと『そのオッパイで令嬢は無理だろ』と思いました。いや、むしろいい物食べている分ご令嬢って大きいのか?教えて有識者!!
閑話休題。この服装は、巴君に似合っている。いるのだが。
「……もしかして、そういう服装にはまった?」
正直、友人の性自認がどうなっているのかが気になってしょうがない。
本人がずっと『オレは男だ』と言っていたので、可能な限り前と同じように扱ってきたのだが……今後は変えた方がいいのか?
そう困惑していると、巴君は小さく鼻で笑ってきた。
「ふっ。そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるわ」
「と、言うと」
「考えてもみなさい。───女装とは、古代の英雄も行った最も男らしい装いである……そう思わない?」
「今の君がスカートを履くのは女装に入るのか……!?」
確かに色んな英雄が女装しているけども。ヤマトタケルとか、ヘラクレスとか。
そして女装という言葉は凄く大雑把に考えれば『男性が女性の服を着る事』だから、逆に男性しかできない事かもしれない。
だが、肉体的には女性な巴君がそれをするのはもう女装ではないのでは……?
そう思うも、友人がドヤ顔でパフェを食べているので、これ以上はツッコまない事にした。
自分も巴君ほど盛っていない普通のパフェを食べて、紅茶を飲む。
うん。少しお高い店だけあって、とても美味しい。紅茶の良し悪しはわからないが、ここのパフェが美味しいのはわかる。
プリンは濃厚でしっとりしているし、クッキーもサクサクでほど良い甘さがクリームに丁度良かった。
それはそれとして。
「やっぱ目立つよなぁ」
巴君が顔を見せて外出すると、当然ながら人目を集める。
道中でも好奇と嫉妬の目が殺到したし、もしも視線だけで他者に物理攻撃ができるのなら自分の背は蜂の巣になっていたぐらいだ。
「あら。それでも私1人で外に出た時よりはマシよ?着替えて貴方と合流するほんの十数歩の間の方が、周囲からの視線の圧力は凄かったもの」
「そうなの?」
「ええ。モブ太朗のモブ力のおかげね」
「はったおすぞ貴様」
教室にいても、ガチで誰からも話しかけられない事を気にしているんだからな……!?
青い春はいずこ……桃色の春でもいいから来てほしい。むしろそっちに来て欲しい。
だが、悲しいかな。この願いはどこにも通じず、もう5月も終わり頃。春というより梅雨が近付いてきている。
気温とて随分上がったし、もう10年前なら夏真っ盛りと言われても納得する様な温度だ。
「さて……それはそうと、この後はどこに行きましょうか」
「え、もう帰るんじゃないの?」
「いやよ。せっかくの外出だもの。付き合いなさい」
「はいはい」
如月一族の一件で疲れはあるが、せっかくの休日なのだし友達と遊びたいのも事実。
そんなわけで、近くのゲーセンに寄ったり本屋で面白そうな漫画を探したり、ファーストフード店でアニメやゲームの事を話したり。
これも、ある意味で青春かなぁ……。
事情を知らない人から見ればデートの様な1日を終えて、巴君を送った後に家へ帰る。
「ただいまー」
「おかえりー」
そう言ってリビングから出てきた母さんは、少し困った顔をしていた。
「ねえ、お向かいの影山さんがお引越しするんですって」
「へぇ、そうなんだ」
「それがね、随分急だったのよ。さっき挨拶に来てくれたんだけど、もう明日の朝には出るんですって。引越しを決めたのは今日だって言っていたのに」
「え……夜逃げ?」
いや朝に出るのなら朝逃げ?
「それが違うみたいなのよ。スキップでもしそうなぐらい浮かれていたし……でも、不気味よねー」
「だねー。なんかヤバい事件とか起きていないといいけど」
「そうよね。とりあえず、戸締りとかちゃんとしないと。あんたも影山さんの家に変な人がいたら、気を付けるのよ?」
「うい」
何とも奇妙な話である。宝くじとかが当たって都会に引っ越すにしても、その日の内にというのはおかしい。
ドラマなら何らかの事件やら陰謀やらが裏で糸を引いているパターンだ。
と言っても、ここは現実。どうせ、肩透かしを食らう様な真実が待っているのだろう。
……『残り火』とかじゃないよね?ちょっとそれだと恐いんだけど。
いざとなったら、ヴァイオレットさんにすぐ電話しよう。どう転ぶかはわからないが、他に頼れる所も浮かばないし。
ポケットの中のスマホを意識しながら、『透明になっているはずの物』を手に自分の部屋に向かった。
巴君に軟膏で透明化してもらった苗木。自分にはハッキリ見えているので不安だったが、母さんが何も言っていなかったし大丈夫なのだろう。
ジャージに着替えていそいそと人工異界の中へ入り、相変わらずいい色をした土を小さい頃使っていたシャベルで掘っていく。土が柔らかいのと身体能力が上がっている事もあって、簡単に掘れた。
土や根っこの消毒は……たぶん、要らないだろう。これは普通の物ではない。
苗木を植え、軽く土をかぶせた後は確か水をかけるのだったか。ネットで見た手順を思い出しながらバケツを手に家の風呂場へ向かおうとして、足を止める。
そうだ。せっかくだし、試そうと思ってやっていなかった事をしてみよう。
バケツを置いて異界の隅っこに向かい、地面に両手をつけた。
そして、目を閉じてイメージする。土がひとりでに動き、思い描いた形に変わるのを。
自分が最初に攻略したダンジョン。コボルトの異界では、コボルトロードが地面を操って自分達をボス部屋へと引きずり込んだ。
コボルトが『鉱山を掘る』という逸話の通りああいう洞窟の地形を変えるのが得手だから、という可能性はある。
だが、異界とは『自分の世界』とも言えるのなら……。
ゆっくりと瞼を開ける。すると、そこには思い描いた物が、いいや。それ以上の物が出来上がっていく所だった。
「おお……」
地面に大きな穴が開き、ボコボコとせり出した石が整列していく。
瞬く間に立派な井戸が出来上がっていたのだ。あいにくと引き上げる為の滑車も何もないが、別にここに住む人間はいない。
適当でいいのだ、適当で。
そして近くの石を拾い上げ、両手でガッチリと握る。
「『エンチャント』……」
全力で魔力を注ぎ込む。石が砕けてしまう直前まで並々と注入し、呪文を唱えた。
「『アクア』」
それは、本来防具の表面に水の力を与えるもの。要は耐火性目的の魔法だ。
だが、今回は『水源』として活用する。
石を井戸の底に放り込めば、2メートルほど下の底へとコツンと落ちた。
何気にこの異界、新たに要石を用意して拡張済みなのである。相変わらず、畑にしか向かなさそうな所だが。
それはともかく、石に貯め込んだ魔力によって凄まじい勢いで水が生成されていく。
「……これ。水不足の地域にこそ必要な魔法なんじゃ……」
自分の付与魔法は、少し変わっている。
あまり詳しくはないが、『4枚羽』のアプリ曰く自分のは『正の付与に特化している』らしい。
デバフの類が使えない代わりに、バフの幅が広い。この水の生成もその一端だろう。
直感的にだが、この水は飲み水としても使えると思った。まあ、緊急時以外は試す気はないけど。
そんな事を考えているうちに、井戸はもう水で埋まりかけていた。
慌てて指先を上がってきた水面に突っ込み、魔力を調整して石からの放出を止める。そしてバケツで1掬いして、苗木の所へ持って行った。
「大きく育てよ~」
まだこの苗木の使い道など想像もつかないが、どの道木の成長は遅い。
桃栗三年柿八年。この苗木が自分の背を越すのは果たしていつ頃か。
水を与えた苗木が心なしかその葉を煌めかせた気がしたが、見間違いだろう。
やる事はやったし、日課のエクレールへの読み聞かせでもするとしようか。
* * *
翌日、日曜日。
今日はヴァイオレットさんのお店で、狒狒からのドロップ品の査定である。
そこで舞さんと炎獅子様の治療について話さないとだし、少しだけ気が滅入りそうだ。
まあ、無茶な要求はされないだろう。それより、ちょっと苗木の様子でも見ていくか。
人工異界で何かを育てるなんて初めてである。いっそ、成長記録を取るのもいいかもしれない。
そんな気軽なつもりでブーツを履き異界に降りて、エクレールにキャッチしてもらう。そして柔らかい地面に足をつけて、顔を上げると───。
「 」
なんか、凄かった。
大人数人どころか、10人以上が手を繋がないと1周できない太さの幹。
拡張によって高さ4メートル以上になった天井に、木の先端が触れそうになっている。深緑の葉が、前後左右にのびのびと広がった枝に茂っていた。
何より、妙に強い魔力を感じる。何の気なしに視線を井戸の方に向ければ、根っこの1つが地面から伸びて井戸の中に浸かっていた。
「大きく、なったなぁ……」
呆然とそう呟く事しかできない。
……いや育ち過ぎじゃない?
どうも、成長記録はつける必要がなくなった様だ。
むしろ、これ以上成長されたら困る。
「でかすぎんだろ……」
大は小を兼ねると言うが、限度って、あると思うな……。
読んでいただきありがとうございます。
感想、評価、ブックマーク。いつもありがとうございます。創作の励みとなっておりますので、どうか今後ともよろしくお願いいたします。