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モブ顔高校生とTS魔女の現代ダンジョン - 第六十八話 罪人をむさぼり食う者
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モブ顔高校生とTS魔女の現代ダンジョン  作者: たろっぺ
第三章 崩れていく日常
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第六十八話 罪人をむさぼり食う者

第六十八話 罪人をむさぼり食う者





『ギギギギ!!』


「『エンチャント───』」


 迫る巨大な口に合わせ、こちらも前に出る。この通路は狭い。梓さんが前に出ようとしている気配があるが、今は位置を交代できないだろう。


 サンドワームは巨体だ。それに見合った口の大きさであり、普通に受ければ腕が飲まれる。まるで採掘機械の様に歯を回転させている中に己の腕が入るというのは、想像したくない。


 故に、自分から奴の口端へと体ごと盾を構えてぶつかりに行く。


「『サンダー』!」


 衝突と同時に電撃を付与した盾。バチリ、という音が表と裏両方で響く。


「っ!」


 盾に電撃を付与するのは初めてだが、自分にもくるか!だが、予想の範囲内……!


 こうなる事は、一応想定していた。対して、相手は奇襲じみた電撃に大きく怯む。


 そのままサンドワームの頭を盾で押しやり、鞭を構える様なイメージで警棒を握った。


 普通に袈裟懸けで振ったら天井に当たる。なら……!


「『エンチャント───』」


『ギギギギ!!』


 怒りなのかはわからないが、奇怪な声をあげて仰け反ったサンドワームが再びこちらの頭を飲み込もうと口を向けてきた。


 しかし、今度は歯ではなくピンク色の触手が放たれる。


 拘束しようと迫るそれに、下を潜る様に飛び込んだ。


「シィ!」


 勢いそのまま、左膝を床にぶつける様にして足を畳みながら、思いっきり警棒を振り下ろす。


 この姿勢なら、天井にはぶつからない。


 ───メリィ。


『ギッ……!?』


 ブヨブヨとした奴の身体に、警棒が食い込む。押し返してくる弾力を不快に思いながら、魔力を流し込んだ。


「『ウインド』!」


 警棒を中心にして、爆発的に広がる風の刃。めり込んだ状態でその様な事が起きればどうなるかは、サンドワームが身をもって教えてくれる。


 分厚い肉の鎧は引き裂かれ、臓腑さえもズタズタに。至近距離で血飛沫と肉片を浴びながら、警棒を振り切った。


 床に先端がぶつかり、快音を鳴らす。同時に、右脚に力を籠めて後退した。


 痛みにのたうつサンドワームが、付与魔法の風で引き裂かれた傷口を広げて自壊する。盛大に千切れた体が、床に転がった。


 下の部分は落とし穴の底へと落ちていくが、床に転がった方が魔力の粒子に変わっていくし仕留めたと考えていいだろう。


 安堵の息を吐いた所で、開かれていた床がゆっくりと閉じていった。


「大丈夫、幸太朗君!左腕は……」


「問題ないよ。もう治ったし」


 軽く盾を振りながら答える。そもそも、強めの静電気程度のダメージだったし。


 そう答えるのだが、梓さんは眉を八の字にして言葉に迷っている様子だった。


 ……心配してくれるのはありがたいけど、正直訓練の時に木刀でボコボコにされた時の方が痛かったのだが。


 その事に文句はないので、口には出さないけど。


『おーっす、お疲れー』


「おう」


『なんで触手に捕まらなかったのお前』


「シェイクすんぞ貴様」


『ウェイウェイウェイ!冗談!イッツアジョーク!』


 大鍋を抱えようと近づけば、全力で後退する巴君。


『でもちょっとは考えるだろう?だって触手生えてたんだぜ!?お前だって触手と魔法少女のエロアニメ好きじゃん!』


「今言うなよ!?梓さんもいるんだぞ!?」


 咄嗟に梓さんの方を確認すれば、彼女は凄く優しい顔で微笑んでいた。


 待って、気持ち悪がられるのも辛いけど、その生暖かい視線もそれはそれで辛い!


「だいたい現実とアニメじゃちげーよ!」


『そんな……せっかくカメラ構えていたのに……』


「よし、わかった。帰ったらシェイクする」


『冗談!本当は武器構えてました!信じて!』


 山刀をふよふよさせる馬鹿もとい巴君。


 ちっ、命拾いしたな……。


「だいたい、あの触手はそういうのじゃないぞ?」


『ワッツ?』


「近くで見たら、めっちゃヤスリみたいだった……」


 頭上を通り過ぎた触手は、明らかに人体には使っちゃいけないザラザラ感があった。


 エロ漫画でも『ヤスリみたいな~』という描写はあるが、アレは()()()()じゃない。金属とかにかけるタイプのヤスリだ。


「アレ、人体に絡みつこうものならR18の後ろに『G』がつくぞ」


『そんな……嘘だ!じゃあ全男子の夢は!?世界中の男が願う、触手によるエロイベントは!?』


「主語をでかくするな。……少なくとも、あのサンドワームじゃ叶えられないだろうな」


『ちくしょう……そんな事が、許されていいのかよ……!』


 何やら大鍋の中で涙を流している巴君。ん~、お馬鹿。


 ……僕の頑丈さならワンチャン巻き付かれても無傷な気がしないでもないが、そこは黙っておこう。


 というか、自分の様な野郎が触手に絡みつかれていったい誰が喜ぶというのか。需要がねぇよ。


「ほら、嘆いてないで進むぞ馬鹿」


『うう……変わっちまったよ、幸太朗……。お前は悲しくねぇのか……!』


「いや、別に……。リアル触手にはそういうの求めてないし。むしろ近くで見たら今後エロい目を向けられなくなるぞ、アレ」


 大鍋を軽く蹴って動くように促す。マジでどんだけショック受けてんだよ。


『許せねぇ……サンドワームも、このダンジョンの主も……!駆逐してやる!一匹残らず!!』


「さよけ」


 どうしようもない理由だが、モチベーションが上がった様なのでスルーした。


 まったく……。



 重要なのは触手ではなく、触手で縛られる事で強調される『乳』だと何故わからない?



 触手そのものはどうでもいい。それが、僕の意見である。


 まあ、性癖は人それぞれだと気にせず歩き始めた。


「幸太朗君」


「はい?」


「触手はちょっと無理だけど、縄なら受け入れるからね……?」


「今この話やめましょう!」


 だからその優しい目をやめて!心が!痛い!!


 興味はあるけども!駄目だから!今『セッ!』したらたぶん命中して、貴女戦えなくなるから!本人が『刀は振れるよ?』とか言っても前線出せなくなるから!人として!


 くっ、魔物の侵攻どうこうがなければ、今頃如月姉妹とめくるめく桃色な生活があったのに……!


「許さん……許さんぞ魔物ども……!」


『ぶっ飛ばす……!ここの魔物どもは、全て……!』


「2人とも冷静にねー」


「うっす」


『はーい』


 落とし穴のある個所を『フロート』で飛び越え、更に奥へ。


 やたら曲がり角の多いこのダンジョンだが、基本的に上へ向かう形になっているらしい。


 だが階段だけでなく急な角度の坂も上らねばならず、異能者の肉体でなかったらただ歩くだけで力尽きていたかもしれない。


 今もまた、壁と錯覚するほど急な坂道を登っている。


 しかし、少し妙だ。ここまでの坂や階段は、角度こそ厳しいが短い造りだった。


 だと言うのに今踏みしめている所は、妙に長い。これは───。


 ────ガシャン。


「っ、なんだこの音……!」


 エクレールと梓さんが共に反応する。それが意味するのは、


「敵だ!」


 そう叫んで、反射的に盾を構えて前へ出る。


 直後、『ズッ……』という音と共に坂の上に大きな影が現れた。


『ァァ……ァァァ……!』


 マミーのうめき声。しかも、1つや2つではない。


『ァ、ギ……ィィ……』


『ガァァァ……!』


『ヴヴヴ……』


 思わず愕然とする。


 マミー達が、球体に固められていた。乾いた肉体を、強引に丸めて団子にした様な状態。互いの手足が絡み合い、巨大な玉となっている。


 この坂道だけ、やけに天井が高いと思ったが……これを転がすためかよ!



『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』


「ふっっっざけんなぁ!?」



 ───ゴロゴロゴロゴロ!!


 マミー玉が転がり落ちてくる。かなりの勢いがついており、時折石畳の罅で僅かにバウンドしながら。


 流石にあれは、自分では受け止めきれない!


「エクレール!」


 呼び出した守護騎士が、目の前で大剣を構える。


 いかに他より天井が高いとはいえ、それでもエクレールにはやはり低い。


 だが───自分に出来た事が、エクレールに出来ないなんて事はないのだ。


「『エンチャント:タイタス』!」


 衝突の寸前、付与魔法でエクレールの筋力を強化。同時に、騎士は膝を折り曲げて片膝をつく。


 それは忠義の姿勢ではない。眼前の敵を叩き切る為の、剣技。


 膝をついた分天井は遠くなり、八双に近い構えから放たれた巨剣は切っ先を僅かに天井の石にかすめさせ火花を散らせながらも、減速する事無く振り下ろされた。


 腹の奥に響く重い音が轟き、ダンジョンを小さく揺らす。


 エクレールの放った斬撃は見事、マミー玉を叩き潰したのだ。6割ほどめり込んだ刃が、そのまま振り切られて床に奴らを叩きつけている。


『ア……ァァ……!』


 合体を解こうとして動くマミー達だが、遅い。


「『エンチャント:メイジ・ハート』」


 騎士の背に付与するのは、『ウィズ・ワンド』の消費魔力以外は上位互換の魔法。それを受けたエクレールが、大剣に雷を纏わせる。


 放電。一瞬だけ松明の明かりだけの薄暗い通路が、眩い光に包まれた。


 そして、黒い煙を上げ始めるマミー達。その身体が魔力の粒子に変わり始めたのは、5秒も経たぬ事だった。


「ふっ……流石ですエクレール」


 剣を引き、こちらへサムズアップした後に戻っていくエクレール。それにこちらも親指をたてて答える。


 去り際もクール。ちょっとうちの騎士最高過ぎない?


「もうエクレールの像を建てるべきなんじゃないかな……」


「お望みなら用意するけど?」


「あ、いえ冗談です……」


「そう?」


 あっぶね。思い付きで言った事を叶えちゃいそうな人が背後にいたんだったわ。


 若干心惹かれるものはあるが、流石に銅像はいきすぎである。それぐらいの理性は残っていた。


『つうか何だったんだ今の……』


「いや、それはさっぱり」


 巴君の疑問にこちらも首を捻りながら、警戒しつつ坂を上り切る。


「ん?」


 すると、左手側に部屋が有る事に気づいた。


 扉もない、くり抜いた様な部屋。梓さんと目配せさせ、敵がいない事を確認して中に入る。


「これは……」


『おおっ!すっげぇ!』


 そこには純白の石と金細工で作られた犬や鷹の像。犬の頭に人の身体をした黒い胸像に、黄金のスカラベ。宝石がふんだんに使われた首飾りなどが飾られている。


 絵に描いた様な宝物庫。なるほど、あの奇怪なマミー玉は門番の様なものだったのか。……いやあれ門番と言うには一発屋感ない?


 ────ガシャン。


「おっと」


 エクレールの警告音に踏み入ろうとした足を止め、盾で他2人も押しとどめる。


『あー、こりゃ随分とあっちこっちに呪いが用意されてんな』


「どうにかできそう?」


『あたぼうよー。梓さん、物理的な罠がないかチェックお願いしゃーす』


「うん。わかった」


「なら、僕は入口の見張りを」


 久々に、こういう宝物庫があるダンジョンに当たった気がする。


 入口の所に立って周囲を警戒しながら、飾られている宝物が少しでも多く魔力で構成された物ではなく実体を持っている事を祈るとしよう。


 背後から巴君の一喜一憂する声を聞きながら、15分ほど。


『いやー、大漁大漁!!数年は遊んでくらせんじゃねーかな、これ!』


「そんなにあったの?」


『おうよ!抱えきれないぐらいお宝があったぜ!』


 巴君が鍋から右手を出し、親指をたててくる。凄いハイテンションだ。これは期待できる。


「代わりに危険な呪いが幾つもあって、あたしは寿命が縮むかと思ったけどねー……」


 逆に、梓さんの方が遠い目をしている。何だか珍しい。


『それ言ったら壁の中に吹き矢とかあってオレもビビったわ。てか、呪いの中には幸太朗にあえて踏み抜かせようかと迷う様なのもあったっけ』


「ちなみにどんな?」


『服だけ風化して朽ちる呪い』


「僕君に恨まれる様な事したかなぁ!?」


 なんでそんなに自分の弱みを握りたがるの……?


 思いつくのはせいぜい、『鼻にロケット人参突っ込むのは可哀想だから腹に巻き付けて、人工異界の天井に打ち上げた』とか、『ゲロ吐く直前まで大鍋をシェイクした』とかぐらいだぞ。


 ……いや普通に恨まれる事しているな。でもどれも先に巴君の方からアホな事言ってきたのが原因だけど。


「洒落にならないから、止めたけどねー」


「それは本当にそう」


 全裸にする呪いとか、敵地で使われたら死ぬわ。よしんば警棒と盾は残るかもしれないけど、それ以外が消えたら防御力とか色々やばい。


 何より、全裸で戦えるほどメンタル戦士じゃねぇ。


『ま、オレも半分冗談だよ』


「全部冗談にしておけ。マジで」


『まあまあ。それよりこの宝物庫の奥、更に道が続いているっぽい』


「……秘密扉が?」


 軽く室内を見渡すが、それらしい物は見えない。


「ちょっと下がっていてね」


 そう言って、梓さんが部屋の奥へと向かう。そして壁の一部に触れたかと思うと、ずるり、と押し込んだ。


 ガコリ、とどこかから音が鳴り、続いて大きな歯車が回る様な音。


 数秒程して、梓さんから1メートル横の壁がひと1人通れる分引っ込んだ。それが重々しい音と共に右側へスライドし、秘密の通路が現れたのである。


「……僕、このダンジョン好きかもしれない」


『オレも。なんか感動した』


 なんだこの、男心を滅茶苦茶くすぐるギミック。リアルでこういうのをお目にかかれるとは思っていなかったぞ。


「浪漫だよね……」


 梓さんも胸の下で腕を組んでうんうんと頷く。すみません、別の意味で浪漫なものが強調されて、そっちに目が行きます。


「さて。それはそれとして、終わらせにいこうか」


「だね」


 何だかんだ、このダンジョンに入って結構な時間が経っている。いい加減、迷宮の主を倒して帰りたい。


 真っ直ぐに続く通路。松明すら設置されていない暗闇を、巴君が飛ばしたランタンの光に導かれて進む。


 道の途中から床が砂で埋もれていき、緩やかな下り坂になり始めた。


「『エンチャント:マイティ・ウォーリアー』『タイタス』……」


 通路の先に明かりが見え始めたので、念のため付与魔法を全員にかけながら歩いて行く。


 そして遂に、ダンジョンの最奥へとたどり着いた。


『グルルルル………』


 地の底から響く様な唸り声。それに呼応するかのように、自分達が通ってきた通路が石の壁で塞がれる。


 目の前には、床が全て砂に覆われた巨大な部屋が広がっている。体育館2つ分はあるのではないだろうか。


 松明が飾られた石柱が幾本も建ち並び、高い天井へと続くこの場所の中央に、奴はいた。


 灰色の皮膚をした、巨大なワニの頭部。その下には雄獅子の鬣が続き、上半身はそのまま百獣の王の姿を。そして、下半身はどっしりとしたカバの形をしている。


 金色の瞳でこちらを見下ろす巨躯は、四足歩行の体勢だと言うのに頭の位置が3メートル以上の高さにあった。


『アメミット』


 エジプト神話に記される、『むさぼり食う者』。冥界神アヌビスの天秤によって、悪と断じられた存在を食い殺すとされている。特に、心臓を食らうとか。


 死後の復活を考えるエジプト神話にて、この怪物に食われた者は二度と生き返る事はないという。


 それでも、善と判断された者には守護者となってくれるという話もあるが……。


『ガァッァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛────ッ!!』


 どうやら、自分達は悪人として認識されているらしい。


 広い室内に轟く咆哮。それに合わせ、守護騎士を召喚し素早く付与魔法を発動させる。


「やっちゃってください、エクレール!」


 こちらの言葉が合図となったかのように、両者が疾走する。


 しかし、


「なっ!?」


 1歩目で、エクレールの姿勢が崩れた。


 砂に足が飲まれている!?


 エクレールの重量は200キロオーバー。しかも慣れない環境に、いつもの様な疾走は見られない。


 対してあちらにとってここはホーム。カバの後ろ脚が力強く砂の地面を踏みしめ、真っすぐにこちらへ向かってくる。


『『A・A』!』


 背後からサーベルがアメミット目掛けて飛んでいく。回転しながら向かっていくそれに、奴は巨体に見合わぬ俊敏さで獅子の前脚を振るった。


 鋭く伸びた爪が白刃を弾き飛ばし、明後日の方向に剣は飛んでいく。


「はぁ!」


 だが、その一瞬の隙に間合いを詰める少女がいた。


 黒髪をなびかせ、怪物の懐に飛び込んだ巫女。彼女が放った軍刀が、アメミットの脇腹を引き裂く。


『ガァッ!』


「浅い!」


 血を流しながらも爪を振るう怪物に、梓さんが舌打ちしながら飛び退く。


「一端戻って、エクレール!」


 砂に足をとられて動けない騎士を戻し、自分も怪物へと駆ける。


 しかし、本当に走りづらいな!一歩踏み込む度に足首まで砂に沈む。これは、普通の砂ではない!


『ガア゛ア゛!』


 咆哮をあげてズラリと並んだ牙を覗かせるアメミット。驚異的な走破性でもって、砂をものともせずにこちらへと突っ込んできた。


「巴君、ドリル準備!」


「ドリル言うな!」


 下手に動くよりはと、立ち止まって盾を構える。直後、衝撃。


「ぐ、うう……!」


 砂ごと掬い上げる様に下顎が足元へと潜り込み、頭の方からは上顎が迫ってくる。


 下の牙の隙間に足をいれ、上には盾を掲げた。突っ張り棒の様になった身体に、凄まじい圧力が加えられる。


 あ、これやばい。


「幸太朗君!」


 梓さんが刀を構えて向かってくるが、アメミットが振るった鞭の様な尻尾で弾かれた。軍刀でガードはしたものの、彼女の身体が数メートル吹き飛ぶ。


「『エンチャント:サンダー』!」


 このままではまずいと、盾に電撃を付与する。


 手加減抜きの全力放電。自分の腕にも電流がくるが、構っていられない。


『グオ゛オ゛……!?』


 小さく悲鳴をあげて口を開けるアメミット。そこから脱出し、砂の上に着地しようとして失敗する。


「くっ……!」


『そのまま伏せてろ!』


 ────ギィィィァァァアアアア!!


 立ち上がろうとした自分に発せられた鋭い声と、悲鳴のような回転音。咄嗟に盾で頭を庇いながら言われた通りその場に伏せる。


『『グシスナウタル』!』


 頭上を通り過ぎた一矢。音を置き去りにしたそれが、空気中の魔力をかき回しながら直進する。


 自分を放り捨てた直後の、無防備なアメミットの右肩に螺旋の矢が直撃した。


『ギャア゛ア゛ア゛ア゛ア゛────ッ!!??』


 轟く悲鳴に、思わずマスクの下で顔を歪める。鼓膜が破れそうだ。


 それでもこれで、と考えながら顔を上げ、すぐに頬を引き攣らせた。


 確かにアメミットは重傷を負っている。右肩の付け根が抉られ、滝の様に血が流れ出ていた。


 しかし、その黄金の瞳からは戦意が消えず、獰猛な唸り声を顎から響かせている。


 頑丈過ぎるだろう、こいつ!?


『ヴオ゛オ゛オ゛オ゛オ゛────ッ!!』


 咆哮をあげながら、アメミットが巴君の方に走り出した。


「エクレール!」


 呼び出した騎士が、足を砂に取られながらもアメミットの後ろ脚に組み付く。


 一瞬だけ動きが止まった所に、自分も跳ね起きて警棒を奴の脇腹に叩き込んだ。


 梓さんが刀で裂いた箇所に直撃し、ずぐり、と傷口にめり込む。


『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!!』


 絶叫と雄叫びの中間の様な声をあげ、アメミットが暴れる。自分もエクレールも弾き飛ばされ、砂の地面を転がった。その隙を狙われてはまずいと、騎士を再度引っ込める。


「くっそ……!」


 なんだこの強さ、オルトロス級だとでも言うのか!?


 だが、それにしては妙だ。ダンジョンボスがこれだけ強いのに、道中の魔物が弱すぎる。


 オルトロスの時も、バロンの時も襲い掛かる魔物達は強力なものばかりだった。それなのに、これは……。


『おい、こいつやべーぞ!』


 いつの間にか大きく距離をとっていた巴君が、鍋から声を響かせる。


『アプリで見たら、アメミットのやつわけわかんねーぐらいバフが盛られてやがる!』


 バフ?自分で自分にかけたのか?それとも、別に術者がいる?


 そう疑問符を浮かべた所で、アメミットに斬りかかりながら梓さんが叫ぶ。


「さっきの部屋の財宝!全て投げ捨てて!速く!」


 ……そうか!


『アメミットは悪人を食い殺す』


 つまり、自分達は『窃盗犯』か『強盗』として悪人認定され、結果的に奴の力が増しているのか!


 ……いやあの部屋も罠かよ!?


『ちくしょぉぉぉおおお!』


 本気で悲し気な声をあげながら、巴君が大鍋から上半身を出してバッグを開く。


 すると、砂の地面に宝石や金細工の施された装飾品がキラキラと散らばった。


『ガ、ァァ……!』


 直後、梓さんの軍刀を爪で弾いたアメミットがつんのめる。まるで、突然脱力したかの様に。


「畳みかける!」


「応!」


『やったらぁ!』


 警棒に電撃を付与し、盾を構えて吶喊。仲間達と前後右側面の三方向からアメミットへと攻撃をしかけた。


『グ、ォォ……!』


 迎撃しようと、こちらに爪を振り上げる怪物。しかしその動きは先程までと比べてあまりにも鈍い。


 鋭く伸びた爪へと警棒をぶつけ、あっさりと打ち砕く。


 それで怯んだ所に後ろ左足を軍刀で切断され、回転するサーベルが右前脚を深々と切り裂いた。


 がくり、と落ちてきた頭。眼前にある黄金の瞳に、吠える。


「エクレェェェエルッ!!」


 己のすぐ背後に顕現した白銀の騎士が、大剣を振り上げる。


 足場が悪かろうが関係ない。エクレールの斬撃は、見事アメミットの頭蓋を叩き割った。


 沈黙し、数秒程して粒子に変わり始めた怪物。それに、ほっと安堵の息を吐く。


「なに『終わった』みたいな顔してんだ!手伝え!!」


「はい?」


 巴君の言葉に慌ててそちらを向けば、砂の中から必死に散らばった宝石を回収しようとしていた。


 だが、どういうわけかズブズブと装飾品が砂の奥へと沈んでいく。


「ちょ、マジか!?」


「あちゃー」


 自分もすぐに巴君の所に行こうとするが、やはり砂が邪魔で途中ですっ転び。苦笑を浮かべながら梓さんが軍刀を鞘にしまった所で。


 ダンジョンは完全に消え失せたのである。


 ……やっぱ僕、このダンジョン嫌いだわ。





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