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モブ顔高校生とTS魔女の現代ダンジョン - 閑話 狂乱はどこまでも
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モブ顔高校生とTS魔女の現代ダンジョン  作者: たろっぺ
第三章 崩れていく日常
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閑話 狂乱はどこまでも

閑話 狂乱はどこまでも





サイド なし



 東京都千代田区。国会議事堂のとある一室。


「どうなっているんだ、これは!」


 防衛大臣の怒声が室内に響く。


 総理レクのまっ最中な状況で、しかし誰一人冷静ではいられなかった。


 しかしそれも無理からぬ事である。なにせ、『全国()()()()で同時に魔物の侵攻が行われている』のだから。


 4月からここ、ずっと想定外の事態に遭遇してきた日本政府だが、今回ばかりは想定外過ぎた。


「千葉、神奈川、埼玉。それ以外にも複数の県で魔物による被害が出ております。各都市の防災マニュアルではとても対応できておらず……」


「その辺はダンジョン対策庁の管轄じゃないのか!」


「そうだ。これは責任問題じゃないのかね?」


 じろり、と議員達が睨まれるのは、先日ダンジョン対策大臣に任命されたばかりの高木大臣であった。


 彼は広い額に浮かんだ汗をハンカチで拭いながら、もう片方の手で眼鏡の位置を直す。


「そ、それにつきましては、何分できたばかりの庁ですので……」


「責任の追及は後です。今すべきは、現状をどうにかする事でしょう」


 助け舟を出した竹川臨時総理に、しかし他の議員達の目は冷たい。


 高木大臣は竹川派である上に、現在国会内の派閥は大半が『小早川派』。そして、そのパワーバランスは後者が圧倒している。


 それでもここでこれ以上ぐだつくのはまずいと思ったか、議員達が自分の秘書や官僚達に視線を向けた。


「どうにかと言っても、なぁ」


「おい。各地の被害状況は」


「それが、現地とは電波が繋がらず……これまでの侵攻と同じく何らかの妨害電波が出ているものかと」


「なら現地周辺から、遠目でもいいから情報を集めろよ!あと、あれだ。衛星の写真!」


「はい。……こちらです」


 元々衛星経由で現地を調べていたのか、秘書の1人が数秒程でタブレットを議員に差し出す。


「おい、こっちにも映像を回してくれ」


「……この黒い点が、魔物ってやつか?」


「画像がぼやけているな。だが、そもそも魔物は異能者とやら以外の目にも見えるものだったか?」


「いや。そのはずは……」


「魔物側がわざと姿を見える様にしているのです」


 キッパリとそう言ったのは、線の細い初老の男だった。


 小早川大臣。現在与党内における最大派閥のトップである。しかし、その実態はお飾り。議員達にとって都合の良い政治をしてくれる人物を、神輿に仕立て上げたに過ぎない。


 そんな理由で派閥の長に選ばれるだけあって、普段の彼はオドオドとした気の弱そうな男だ。


 しかし、今は自信に満ち溢れた表情で背筋をピンっと伸ばしている。


「理由は不明ですが、奴らはあえて姿を見せている様です。不幸中の幸いですが、そのおかげで民間人もその脅威を認識できている様ですね」


「……しかし、見えていても攻撃が効かないのでは」


「そうですな。自衛隊や警察に支給されている一般装備では無理だ。『残り火』は何をしている?」


「帝都と京都の守りを固める、だとさ。今回も現地には行かないつもりらしい」


「……まあ、専門家には専門家の理由があるんだろう」


「そうだな。しかし、助言も聞きたいし国会には人を寄越してほしいものだ」


 日本政府お抱えの霊能組織は、現地の救援に向かわない。


 その事を、室内の誰も責めなかった。何よりも我が身が大事というのは、政治家も民衆も変わらない。


 強いて言うのなら、次の選挙に響かないか不安になる程度であった。


「現在、対策庁のメンバーを神奈川と千葉に向かわせています。そちらが解決次第、埼玉に向かう旨を指示しています」


「たしか、公安から出向しているのも含めて6人ぐらいだろう?やれるのか」


「やらせるしかないだろう。その為の部署なんだ」


「まったく、木下元総理ももう少し『責任感の有る行動』をしてから辞職してもらいたかったものですな」


「その通り。立つ鳥跡を濁さずと言うが、あの人は糞をばら撒いていった様なものだ」


 話がそれかけた所で、竹川臨時総理が小さく咳ばらいをする。


「自衛隊と警察にも、魔物や異能関連に対応する部署があったはずです。そちらは?」


「はい。彼らはマニュアルに則り、東京の守りに入っております」


「一部でも、現地に向かわせる事は?」


「できません。現場の混乱を招きます」


「そうです、臨時総理。よけいな被害を出そうものなら、党の存続に関わります」


 議員達が、内心で『耄碌(もうろく)狸が何を言っている』と、あざ笑う。


 自分達がいる東京の守りを減らす、などと言う考えに、誰も賛同しようとは思わなかったのだ。


「それで、結局どうする?米軍に出動要請をするか」


「いや。あちらも魔物相手の戦いは想定していない人員ばかりだ。あてにはならん」


「何より、今回も日本だけじゃないらしい。今外務省の奴らがあっちこっち走り回っているよ」


「それでも責任の所在をだな」


「私に」


 好き勝手言い合う議員達に、小早川大臣が右手を上げながら力強い声を発する。


 真面目くさった顔で、しかし鼻息を若干荒くしながら。


「私に、いい考えがあります」


「……まさか、例の『彼』になんとかしてもらうつもりかね」


 竹川臨時総理からの問いに、小早川大臣はニコリと笑う。


「ええ。こういう時こそ、人の縁が役にたつものです」


 小早川派の議員達まで互いに顔を見合わせて心配そうにする中。


 竹川臨時総理は、ただ小早川大臣を睨みつける。


 その視線に───慌てて視線を逸らしながら、小早川大臣はどこかへと電話を始めるのだった。



*     *     *



 ピンポーン。


「はーい」


 天気が良くならないからと、エアコンの下に洗濯物を干していた中年の女性が玄関へと向かう。


 彼女こそ、川内幸太朗の母親であった。


 血のつながりを感じさせる、平凡な顔立ち。最近やや腰回りの体重が増えて来た彼女は、スリッパを鳴らして早足で玄関に。


 内心で宅配かと思いながら、扉越しに呼びかけた。


「どちらさまですかー」


「私です。真壁です」


「あら」


 この前引っ越してきた老婦人を思い出し、幸太朗の母親はすぐに玄関の鍵を開けた。


 最近は色々と物騒なので、家にいる時も鍵をかけている。しかし、知り合いであり何より物腰柔らかな老人である真壁に対して、警戒心など彼女は持っていなかった。


「はい、何か……」


 玄関を開けて、しかし幸太朗の母親……川内母の言葉は止まる。


 記憶にあった和服の似合う老婦人が、軍服に防弾チョッキという出で立ちで立っていたのだ。こうもなろう。


 唖然とする川内母に、真壁は小さく礼をした。


「混乱なさるのもわかります。しかし、どうか現状を先に理解してください」


「は……え?」


「魔物がこの町を襲っております。急ぎ避難する必要があります。川内様……御子息より、自室にある『人工異界』をシェルター代わりに使う許可は得ております。まずは、そちらに」


「あの、何の事か……本当に魔物が来ているのなら、息子の部屋じゃなくって近くの学校に……」


「通常の災害とは異なります。一般的な避難場所では」


「来るぞ!」


 2人の会話を断ち切ったのは、真壁の夫だった。


 彼もまた普段は好々爺然した顔で作務衣を着ているのだが、今は妻同様軍服に防弾チョッキ姿である。


 だが何より川内母の目を引き寄せたのは、彼が持っている物だった。


「じゅ、銃!?」


 そう、彼はアサルトライフルを持っていたのである。


「川内様、奥に!」


 動揺する川内母を家の中へと押し込みながら、真壁が黒く塗装された木製のゴーグルを装着した。


 ほぼ同時に、銃声。翁がライフルを空に放ったのである。


 弾丸が向かう先には、イナゴと人間を掛け合わせたような怪物。その胸に弾丸が突き刺されば、一撃で拳大の風穴が開けられた。


 しかし、向かってくるのはその1体だけではない。


『ギギギ……』


 飛びかかってくる魔物どもに、真壁翁は落ち着いた表情でライフルをフルオートにし、発砲。


 老体ながら鍛錬を欠かした事のない身体は、老いによる身体能力の低下を僅かながら抑えている。身長こそ平均的だが、筋肉量はそこらの若者を上回っていた。


 引き金を引きながら敵をなぞる様に銃口を動かすが、その姿勢はぶれない。


 十数体のイナゴ人間を纏めて蹴散らした彼は、手に持った銃を見つめる。


「凄まじいな……反動はそのままに、ただのライフル弾が20ミリ相当の破壊力を出しているぞ。重機関銃でも撃っている様だ……」


「言っている場合かね」


「おっと、すまんな」


 妻の鋭い声に、真壁翁がゴーグルを取り出しながら振り返る。


「川内様の御母堂を頼んだぞ」


「ああ。あんたも死ぬんじゃないよ」


「善処しよう」


 ゴーグルを装着し、ライフルを構え直す真壁翁。そして、彼とは別に川内家を囲う様に立つゴーレム兵達。


「一匹たりとも通すな!体当たりしてでも止めろ!」


 そう吠えた彼と、ゴーレム兵達のもとに。


 再び、数十に及ぶイナゴ人間達が押し寄せて来た。


「撃てぇ!!」


 家の外から響く発砲音に小さく悲鳴をあげながら頭を抱える川内母の肩を、真壁夫人が支える。


「川内様。夫が敵を食い止めている間に、お早く」


「あ、あの……!」


 事前に口頭で梓と幸太朗から、部屋の位置を教えられていた真壁夫人。


 移動しようとする彼女の腕を、縋りつくように川内母が掴む。


「じょ、状況はわかりません。でも、魔物が町を襲っているのなら、息子と夫は……!」


 涙さえ浮かべて不安そうにする彼女は、しかし家族の安否が先だと足を止めていた。


 それに対し、真壁夫人が一旦ゴーグルを外して視線を合わせる。


「旦那様の方には我々とは別の隊が向かっております。位置的に異なる場所に避難する事になりますが、後で再会できるかと」


「む、息子は!」


「……ご子息でしたら、私どもが心配するまでもございません」


 小さく、真壁夫人が首を横に振った。


「この様な状況です。僭越ながら、ご子息の事を……幸太朗様の事を、簡単にですがご説明させて頂きます」


「………」


「ですが、それは安全を確保できてから。さ、こちらに」


「……はい」


 わけが分からず、川内母は真壁夫妻を信用など出来ていなかった。突然の事に思考が追い付く事はない。


 しかし真壁夫人の腰に拳銃が下げられている事に、川内母も気づいた。真壁翁の銃撃を見た後で、偽物などとは思えない。今は、彼女に従う事にした。


 同時に──息子の抱える秘密を、知らなくてはならないと。本能的に感じ取っていた。



*    *     *



『邪魔じゃぼけえええ!!』


 飛び回るサーベルがイナゴ人間共を引き裂き、回転する矢が集団を纏めて吹き飛ばす。


 浮遊する鍋で自宅の真上を陣取った巴が、獅子奮迅とはこれこそという言う勢いで周囲の魔物を蹴散らしていた。


 そして、ある程度イナゴ人間を撃滅した所で少しだけ蓋を開け、家にいる母親に大声で呼びかける。


「絶対に外出るなよ、母さん!絶対だぞ!!」


「でも、あんたが!」


「危ないんだよ!言いたくないけど足手纏いだ!!」


 蓋を閉じ、巴は鍋の中で冷や汗を流す。


 外観こそ少女1人が手足を折りたたんで入るのがやっとの鍋だが、内側は思いのほか広い。そのうえ空調まで効いている。


 だが、今だけ魔女はこの中を息苦しいと感じていた。


 空を覆い尽くす化け物の群れ。それらが突如町を襲い、あちらこちらで惨劇を繰り広げている。


 地獄絵図の様な光景を直に目にするのは初めてではないが、それでも吐き気を催す景色であった。何より生まれ育った地で起きた惨劇というのは、余計に精神を削っていく。


「巴様!!」


 屋根の上から警戒する魔女へ、凛とした声が届いた。


 黒いワゴン車が猛スピードで真島宅の前に位置付けるなり、そこからゴーレム兵と巫女服姿の葛城が降りて来る。


『葛城ちゃん!ナイスタイミング!』


「いえ、お待たせしました」


 ゴーグルを着用し、油断なく拳銃を構える葛城。彼女の率いるゴーレム兵達も、サブマシンガンやショットガンを周囲に向けている。


『悪いけどここを頼んだ。中に母さんがいる。ついでに何故か近所の人らも逃げ込んで来たけど、邪魔だったら追い出していいから!』


「了解。巴様は」


『オレはちょっと行ってくる!母さん、葛城ちゃんって巫女さんがいるから、その人を頼れ!もう1回言うけど、良いって言うまで外に出んなよ!!』


「ちょ、巴!?」


 捲し立てる様に葛城と母親へ告げた後、大鍋は猛スピードで飛行し始めた。


 流石に車よりは遅いが、それでも空を飛ぶ事で道をショートカットできる。目的地には、すぐにつくと巴は判断した。


「巴様!せめて行先を!」


『モブ太朗のとこだよ!どうせあいつも巻き込まれてる!』


 怒鳴る様に返事をし、振り返りもせずに巴は鍋を動かした。


 再び頬を伝い細い顎から滴り落ちた汗。大鍋の中で膝上の手を強く握りながら、魔女は血肉と黒煙にまみれた町を進む。


『あのモブ太朗……無事なんだろうな……!』


 目指すは学校。4月より不登校を続ける巴だが、ある程度の場所ぐらいは覚えていた。


 再び通い直すかもと、母親に告げれば跳びはねて喜んだのを思い出す。その学び舎が、無事であるとは思えなかった。


 また心労をかけるかと考えて、この状況では今更かと巴は苦笑を浮かべる。


『あん?』


 違和感を覚え、鍋の動きを止めた巴は鍋の蓋を開けて顔を外に出した。


「……なんだ、こりゃあ」


 疑問符を浮かべる魔女の視線の先では、イナゴ人間達が大移動をしていた。


 町の人々を襲うのも忘れたかのように、押し合いへし合い、競う様にどこかへと向かっている。


 その光景に、ふと巴は誘蛾灯に群がる虫を連想した。


「……まさか」


 直後、魔女にとって慣れ親しんだ魔力の波を感じ取った。だが、あまりにも自然過ぎて存在に気付きづらい普段のそれとは違う。むしろ、『我を見よ』とばかりに吠え散らかしている様にさえ思えた。


 緑あふれる山々が、突如鳴動しその怒りと悲しみを溢れさせた様な、そんな気配。


 大自然の叫びとでも言うべきそれは、真っ当な生物なら本能的な恐怖を感じる事だろう。これに喚起して群がる存在は、尋常ならざる生物だけだ。


 それこそ、魔物の様な。


 頬を引き攣らせ、巴は鍋の蓋を閉じた。そして、すぐさま最高速で移動を再開する。



『あの馬鹿太朗!後でケツが割れるほど叩くからなぁ!!』



 怒声を上げながら、大鍋が天を駆ける。


 ()()を追いかけるイナゴ人間達の後続に、サーベルをけしかけながら。





読んでいただきありがとうございます。

感想、評価、ブックマーク。いつもありがとうございます。どうか今後ともよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
[一言] >>でケツが割れるほど叩く 参照:あそびあ⚪︎ばせ すごろく回
[良い点] ついにバレてしまったけれど、元々こういうのに備えてのことだったからもはや隠す意味もないか。 >『あの馬鹿太朗!後でケツが割れるほど叩くからなぁ!!』 巴は激怒した。必ず、かのムボウ(無謀…
[良い点] 如月家は本当に頼りになりますね 社会性のある味方はいくら居ても良い [一言] とうとう強制イベントで親バレか…… ところで巴くんってなんかやたら尻好きだよね乳好きな幸太郎とフェアトレード…
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