事件のあと
聖人インゴルフの悪行はメルヴ・ウィザードが装着していた魔導眼鏡を通して、完全な状態で記録された。
なんでもエーリク様は悪魔対応の魔導眼鏡を開発することに成功していたらしい。
ただ、人間に使いこなすことは難しかったようで、メルヴ・ウィザードが装着することとなったようだ。
襲撃された日、メルヴ・ウィザードが一緒に眠ろうと言ったのは、聖人インゴルフがやってくるならば私の元だろうと予想を立てていたからなのかと思っていた。
けれどもそれは違っていて、単純にメルヴ・ウィザードが私と眠りたかっただけだったらしい。
エーリク様は襲撃を受けるならば真っ先に王太子殿下だろうと判断していたという。悪魔対応の魔導眼鏡が完成してからは、メルヴ・ウィザードは王太子殿下と過ごすように命じていたのだとか。
もしかしたら夜に何か起こるのではないか、とメルヴ・ウィザードは察していたのかもしれない。
精霊の勘というものだろう。
エーリク様は聖人インゴルフの襲撃をずっと予想していて、備えていたようだ。
異変が起きたさい、マルベリーさんを召喚しメクレンブルク大公の護衛に付いてもらう、というのも作戦の一つだったという。
マルベリーさんのおかげで、あの日は誰の犠牲も出すことなく終えることができた。
翌日、聖人インゴルフの襲撃を記録したものを、エーリク様と一緒に国王夫妻に届けることとなった。
もしかしたら受け入れられないかもしれない。
特に王妃は聖人インゴルフに特別な想いを抱いていたのだ。
何もかも覚悟の上、観ていただく。
その結果――国王夫妻は聖人インゴルフの悪行をその目で確認し、あっさり認めた。
国王陛下は普段から違和感を覚えつつも、王妃が信じていたので言い出せなかったという。
双子の片割れを亡くしてからというもの、国王陛下は強く言えなくなっていたらしい。
子どもを亡くしてしまったきっかけの旅行は、国王陛下の提案で実施されたものだったからだという。
王妃は私が書いたルーベン様との闘病生活に関する記事を読んで、心を入れ替えたようだ。
「ずっと間違っていると、認めたくなかったと思っていたの。でも、亡くなったメクレンブルク大公のご子息の言葉に、降伏することによって、気持ちが楽になれたとあったでしょう? それを見て、ずっと頑なになっていたと思って……」
聖人インゴルフに依存してしまったのは、心が弱っていた証拠だ。
もっとできることがあったのではないか、と後悔したという。
「これからは誰の手も借りずに、私の力だけであの子に向き合うつもりよ」
王妃の表情は晴れ晴れとしていた。
◇◇◇
事件解決後、すべてがよかったと言えるわけではなかった。
ジール先生がルーベン様や王太子殿下の病気について、解明したのだ。
「彼らは〝血族病〟という病気みたいなんだ」
初めて耳にする病気である。それはエーリク様も同様だったようだ。
血族病――それは簡単に言えば出血時に血が止まりにくくなる病気だという。それはケガをしたさいの出血だけでなく、内出血も含まれる。
「血族病と言うからには、親が原因で発症する病気というわけなのか?」
「ご名答!」
ジール先生曰く、この病気は王妃から王太子殿下やルーベン様に受け継がれたものだという。
「では、王妃様も血族病というわけなのですか?」
「いいや、王妃様は単なる血族病の保菌者なんだ」
少し難しい話になると前置きしてから、ジール様は話し始める。
「人という存在は体に遺伝情報があって、女性は++、男性は+-という情報で構成されているんだ。それで血族病というのは+の部分の異常で、女性は+が二つあるから病気を発症しない場合がほとんどなんだって」
父親が保菌者の場合、+の遺伝情報を受け継がないため、血族病にはならない。
けれども女性側が保菌者である場合、+の情報を子どもが受け継ぐので発症してしまうという。
「女性側が保菌者だと生まれた男児は血族病に、女児は保菌者となる」
ただそれもすべての子どもが受け継ぐというわけではないという。
「おそらく亡くなった王太子殿下の双子の片割れは、血族病じゃなかったと思うんだ」
王太子殿下は二卵性の双子で、別々の遺伝情報を持って生まれたのだという。
惜しい方を亡くしてしまったというわけだ。
「ここからは完全に推測なんだけれど、王太子殿下の血族病の症状が和らいだのは、聖人インゴルフの吸血行為が絡んでいる可能性がある」
吸血鬼である彼が血を吸うことにより、症状が緩和されたように見えた。
ある意味奇跡的な出会いだったのだろう。
「血族病か……よく気付いたな」
「王妃様の親族で、同じような症状を訴える人がいたからね」
血族病については徹底的に隠されているようで、王妃も知らないうちに保菌者となっていたようだ。
保菌者である女性王族が各国へ嫁ぎ、子どもへ受け継がせる。なんとも恐ろしい話だ。
今後どうするのか、というのはエーリク様が国王陛下に相談するという。
病気と向き合って、今一度、在り方を考えなければならないのだろう。