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ダッシュ!! - ドイツリーグ9節、ハンブルクF対Rバイエルン1
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ダッシュ!!  作者: 浮雲士
第二部
58/198

ドイツリーグ9節、ハンブルクF対Rバイエルン1






「おお、今日は久しぶりリーグ戦でのスタメンだ」


 弾んだ声を上げる空也。TV画面に表示されたのは今から行われるドイツリーグ九節、ハンブルクF対Rバイエルンのスタメンだ。

 システムはいつもと同じ4-3-3。GKはアンドレアス、DFは右からフリオ、クルト、ビクトル、ブルーノの四名。

 中盤ボランチはドミニク、右SMFはアンドリーで左SMFはカミロ。主力であるロビン、アントニオを休ませるためのターンオーバー的な意味合いが強いメンバーだ。そしてスリートップの左はエリック、右は鷲介、中央はアレックスだ。


「にぃにぃ。しあいでるのー?」

「ええ。出るみたいね」


 ソファーの上で足をばたつかせるリーザにサーシャが言う。

 母親の言葉を聞いて嬉しそうな声を上げる娘を見て空也は思わず微笑む。毎日のことながら今日も可愛い。


「さて英彦君もスタメンのハンブルクFだが──」


 リラックスした状態の英彦が映ったのを見て空也は改めてハンブルクFのスタメンを確認する。

 システムは4-4-2のダブルボランチ型。GKはハンス・トイファー。4バックの右SBは元U-17ドイツ代表のガブリエル・マイヤー。昨季の中断期間からトップチームデビューを果たした鷲介と同い年の彼、すっかりスタメンに定着したようだ。左SBは先日の代表選体調不良で辞退した大文字直康。鷲介がなにかと世話になった人だ。

 次はCBコンビ。右はギリシャ代表のコスタ・ザンビディス。左はドイツU-23代表のペア・アッカーマン。双方ともフィジカルや運動量に優れたCBだ。

 続いて中盤、右ボランチはスウェーデン代表のウルリク・レイヨン。左ボランチはベテランで今季からキャプテンとしてチームを仕切るドイツ人のヤン・コルターマン。前のSMFの右はドイツU-20の主力であるヴァレンティーン・ヘルメス、そして左SMFは鷹野英彦。

 最後にツートップ。左FWはイラン代表のサイード・カリミ、右FWはペルー代表のレネ・ガルシアだ。


「さて調子が悪いとはいえ鷲介たちRバイエルンは欧州トップクラスの強豪。それとの戦い方次第ではハンブルクFの強さが本物だと判断できるな」


 ハンブルクFは今季のドイツリーグで最も勢いがあるチームの一つとされている。しかしそう言うチームは一つの敗北やつまずきで大きく失速する場合もあり複数のドイツメディアとしてはハンブルクFの最終順位の予想は例年通りの下位、中位となっている。

 そしてその勢いがあるチームの原動力の一つとなっているのは間違いなく英彦だ。プレシーズンマッチでも好調だった彼は今季八節が終了した時点で2ゴール4アシストという見事な活躍ぶりを見せている。今季引退を表明したチームの大黒柱であるセザル・パトリシオに代わる司令塔としてサポーターからはすでに多くの人気や支持を集めていると言う。


「それにしても……本当によかったです」

「何がだ?」

「英彦君です。復帰絶望と言われるほどの怪我をしたのにこうしてプロのピッチに立てているんです。

 そして怪我の後遺症を見せることもなく当時と同じ、いやそれ以上のプレーを魅せてくれています。本当に嬉しいです」


 微かに瞳を潤ませながら妻は言う。今からその英彦と鷲介が戦うわけだが、妻の喜びにそう突っ込むような野暮を空也はしない。英彦と柳家、そしてケーニヒ家は少なからず関わり合いがあるからだ。

 空也は改めて英彦について思う。鷹野英彦。そのプレースタイルから”ミュンヘンの鷹”、”東洋のマジシャン”という字と共にRバイエルンの未来を担うとされていた。

 鷲介と違い年代別代表には常に選出され続けU-20W杯以外の主な国際大会にはすべて出場。そしてチームの主力として活躍していた。ドイツにやってきたのは鷲介と同じく小学校卒業と同時だ。Jリーグの強豪であるフォルツァ大阪のジュニアユースに所属していた彼は、鷲介が活躍したU-12デザフィアンテカップにてチームを優勝に導き彼もその大会でMVPを獲得。以前より目をつけていた義兄ライナーによってRバイエルンからスカウトを受けたのだ。

 そして英彦は鷲介と同じく異例の速さでユースカテゴリーを上がっていき、18歳になった直後でプロとなり、またトップチームデビューを果たす。それから負傷するまではセカンドチームであるRバイエルン2と半年レンタルされたスペインリーグ二部を主戦場としては評価を高め、いざトップチームに正式定着する直前にて負傷。

 復帰絶望、再起不能とまで言われた怪我を負った彼は表舞台から姿を消すとリハビリをこなしながら欧州はもちろん、世界中の名医を訪ね歩いたと言う。そして故郷である日本にて手術を行い昨季ハンブルクFのトライアウトを受けて合格。鷲介が去った後チームの一員となり現在に至る。


(さてこの試合、どうなるかね)


 そう空也が思ったのと同時、テレビから試合開始のホイッスルの音とスタジアムの歓声が聞こえてきた。






◆◆◆◆◆






(さて、あれからどれだけ変わったのか。見せてもらおうじゃないか)


 試合開始の笛が鳴り響き、紺、白、黒のユニフォームを着たイレブンが動くのを見て鷲介は思う。ハンブルクF。半年間レンタルだけだが移籍し、鷲介をプロとして鍛え上げてくれたクラブ──

 右サイドへ向かっているとその前に先日、体調不良で代表を辞退した直康がやってくる。


「よう。コンディションは良さそうだな」

「ええ。戻ってきてから十分に休ませてもらいましたからね」

「韓国戦は色々な意味で残念だったな」

「……ま、反省はしています。次はアウェーですが出場してゴールを決めて借りを返しますよ」

「ははは。次の韓国戦に出られると確信したその顔。相変わらず変なところで自信家だな」


 動きながら会話を続ける二人。もちろんその間もボールは周り、両チームの選手は動いている。

 好調であり無敗、そしてホームということもあって全体的に上がっているハンブルクF。一方のRバイエルンも予定通りそれを真っ向から受け止めるように前に出ている。

 前半、それも序盤からボールと人が動く。しかしさすが自力はRバイエルンが上なのか前半十分経過してすでに二度決定的チャンスがあった。鷲介のパスを受けたアレックスのシュートにCKからのエリックのヘディングだ。

 だがどちらも得点には至っていない。エリックのヘディングはペアが体を張って防ぎ、アレックスのシュートはハンスのスーパーセーブで防がれている。


「試合映像で見ていてわかってはいましたけど、本当に好調ですね。攻守ともにチームが一つになっている感じがします」


 ハンブルクの反撃のシュートがゴールポストに当たりラインを割ったのを見て鷲介は言う。

 アレックスのシュート直後のことだ。ハンスが防いだボールを拾ったガブリエルが一気に前線に縦パス。Rバイエルン陣内のセンターサークル近くでブルーノと競り合ったレネが落し、それを拾ったヴァレンティーンがダイレクトでフリオの裏を突いたパス。

 ラインを割ろうかという際どいボールだったがサイードはギリギリ追いつきゴールへ一直線。クルトのマークを引きはがせなかったものの、シュートを放ちそのボールがポストに当たりラインを割った。

 結果だけ見ればゴールこそ入らなかったがこちらの一瞬の隙を突いた見事なカウンターだ。レネの落としやヴァレンティーのパス、サイードのミドルシュート。どれも精度が高かった。


「今の順位も納得です。これが本来のハンブルクFというわけですか。

──でも、Rバイエルン(俺達)に勝利するなんて思うには、まだ足りませんよ」


 直康にそう言って鷲介はぐるりと周囲を見渡し、動く。

 アンドレアスが高く蹴り上げたボールがセンターサークル近くに飛び、それをエリックがポストで落しアレックスが収める。

 そこへすぐさまウルリクチェックに動くがアレックスは右へノールックパス。ボールは直康を置き去りにした鷲介にやってくる。

 ドリブルで行こうとする鷲介の前にヤンが立ち塞がり、直康も右から迫る。しかし鷲介は慌てず対峙するヤンに対してフェイントを仕掛け、抜くふりをする。

 僅か左に動いた鷲介の動きに釣られるヤン。直康も鷲介の方へ距離をつめる。結果、守備網にわずかな綻びができたのを見た鷲介は即座に右に動きその穴へパスを通す。

 ハンブルクFの右サイド裏に通ったボールを収めたのはオーバーラップしていたフリオだ。もちろん彼が後ろから上がってきていることを確認した上でのパスだ。

 一気に上がっていく彼を見ながら鷲介も相手ゴールに駆け上がる。ハンブルクFのペナルティエリア近くまで近づいたフリオはやってきたザンビディスにワンフェイント入れてグラウンダーのセンタリングを上げる。そのボールへ斜めから走ってきたエリックが駆け寄るが、マークに付いていたペアが体を投げ出したスラィディングでボールを弾く。

 エリア外へこぼれるボールを下がってきたヤンが拾う。だがチェックをかけたアレックスがボールを奪い、通り過ぎる鷲介に渡す。


(よし!)


 心中で鷲介は喝采の声を上げる。ゴールまでの距離は十分。これなら行ける──

 そう思ったその時、再び直康が立ち塞がる。なんとしてもここで止めると言う気迫にあふれた顔をしている。


(面白い、やってみてくださいよ!)


 代表合宿以来の勝負。鷲介はシザースをしながら彼に近づく。

 一方の直康は中々近づかず、後ろに下がっている。そしてそのわずかな時間で綻んでいたハンブルクFの守備が立て直されていく。


(やりますね。──でも俺にミドルがあるのは忘れていませんか!?)


 大きく左へ踏み込み左足を振り上げる鷲介。直康もそれには反応して前を塞ごうと動く。

 そして直康が前を塞いたのと同時、鷲介はシュートフェイントで逆側に切り替えし突破、ペナルティエリアに侵入と同時にシュートを放つ。


「!?」


 ハンスの伸ばした手をすり抜けたのを見て決まったと鷲介が確信したその時だ、なんと左から飛び出したガブリエルの体にボールが当たり跳ね返る。

 エリックの時と同じくこぼれるボール。しかし今度はRバイエルンメンバーではなくブロックしたガブリエルが拾い、大きくクリアーしてしまった。


「くっ……!」


 見事と思うのと同時、 悔しさが鷲介の胸に溢れる。クリアーされたボールだが、ガブリエルの体勢が不十分だったためかアタッキングサードギリギリに落ちて、それを上がっていたブルーノが抑える。

 カミロとのワンツーでヴァレンティーンをかわしサイドを駆けあがるブルーノ。その間彼の鋭い視線が鷲介を射抜く。


「!」


 ブルーノの視線から放たれる意図を何となく感じ、鷲介は動き出す。そしてハンブルクFのペナルティエリア左に到達したブルーノは元のポジションに戻ったガブリエルと相対、さらに突破すると見せかけていったん後ろに下がると、センタリングを上げてきた。


(これは!)


 ブルーノのそれを見て鷲介は彼の意図を悟り一気に加速。直康たちを振り切ってペナルティエリアに侵入し、左から右に落ちる軌道でエリアを通るボールへ駆け寄る。


「スルー!」


 そしてブルーノのボールに合わせようとジャンプしたアレックスに叫ぶ。それを聞いたアレックスはヘディングしようと動かしていた頭をひっこめ、ボールは鷲介の目の前に落ちてくる。

 ブルーノからの速く、強いボール。一年前は反応するだけで精一杯だったが──


(今なら合わせられる!)


 左足のボレーで合わせる鷲介。本来右足で合わせるべきところだが、それを読んでいたのかハンスはやや右寄りのポジションを取っていた。それを見た上での判断だ。

 

(入るか!?)


 高速クロスに対して、効き足では無いシュート。ハンブルクFのゴール右に向かったシュートは大きく曲がり、ポストに当たる。

 しかしボールが当たったのはポストの内側。ボールは勢いのままゴール内側に入りネットを揺らした。


「──よしっ!」


 難易度の高いシュートを決め、ガッツポーズをとる鷲介。自チームのサポーターの前に走り、いつのもゴールパフォーマンスをしているところへアレックスやエリック、そしてブルーノが駆け寄ってくる。


「見事なボレーだったよ!」

「ナイスゴールだな!」


 肩を叩くアレックスに硬い手で鷲介の頭をかきあげるエリック。


「ま、あれぐらいは決めてもらわないとな。だがナイスゴールだったぞ」

「はい!」


 自陣に戻る最中他のチームメイトから祝福される鷲介。そして前半二十分近くで今日、二度目のキックオフの笛がピッチに響く。


(おや、変わっていない)


 先制されたハンブルクFは失点前と変わらず前に出てくる。鷲介の知るハンブルクFなら失点直後は少し下がったりするはずだが──


(まあいい。だったらこっちは遠慮なく点を取らせてもらうだけだ!)


 英彦のパスをカットしたクルトから縦一本のパスが前線に向かってくる。ハンブルクFセンターサークルまで飛んだそれをペアと競り合ったアレックスがポストで落し、それに駆け寄るのは今日SMFで出場しているアンドリーだ。

 本職こそSBな彼だが同じサイドを主戦場とするSMFも大差なくこなせる有能な選手であり、今日も普段と変わらず活躍している。

 そのアンドリーが一瞬、鷲介を見て、右足を振り上げるのを鷲介は見た。これは練習で幾度かやった攻撃──。そう判断すると同時に鷲介は動き出す。

 アンドリーからダイレクトパスが放たれ、ハンブルクFの右サイド深くに落ちる。それを予期していた鷲介は当然飛びだしておりサイドラインすぐ横でボールを収める。


「行かせねぇぞ!」


 戻ってきた直康。上がってくる味方。守備を固める敵の動きを見ながら鷲介は左──相手ゴールに向けて体勢を変えてドリブルを開始する。

 立ち塞がる先達。流石にこちらのスピードは分かっているのか不用意に飛びこんでこず、ペアのコーチングを聞きながら下がっている。


(でも俺は、そっちの守りが整うのを大人しく待つほど優しくは無いんですよ!)


 前に出る鷲介。一気に至近距離まで近づいた鷲介に直康も反応する。しかしこちらが虚を突いた動きだったためかその動きは鈍い。

 そしてそれを当然鷲介は見逃さない。右に切れ込んだ次の瞬間左へ全力で切り返し、スピードに任せて突破する。

 ペナルティエリアに侵入する鷲介。ゴール前にいたヤンが足を伸ばしてくるが、それも鷲介はスピードに任せて強引に左へ移動し、かわす。


(二点目、もらった!)


 ゴールを正面に捕え鷲介は左足を振り切る。シュートは少し左に曲がりつつもゴール前にいたペアの横を通りゴールに向かう。だが二度にわたる加速による強引な突破と聞き足でないことが災いしたのかボールは精度を欠き、ポスト上部に当たり跳ね返る。


(くそっ!)


 跳ね返ったボールにザンビディスがクリアーしようと駆け寄っているのを見て鷲介は心中で舌打ちする。だがザンビディスより早く反応した者がいた。


「ハァッ!」


 それは左サイドから走ってきたエリックだ。跳ね返ったボールに跳躍した彼は、体全体を独楽のように回してボレーシュートを放つ。

 走ってきたうえジャンプしてのボレーシュート。しかしエリックの振り切った右足は見事にボールを捉え、放たれたシュートはハンブルクFゴール右側面のネットを揺らした。


「おおおおおっ!!」


 両腕を振り上げてゴールを喜ぶエリック。サポーターも先制から間を置かない追加点に歓喜の声を上げる。エリックが世界トップレベルのストライカーと言うことを証明するかのようなスーパーゴールだ。


「どんどんボールをよこせ。俺が決めまくってやるよ!」


 威勢のいいことを言いながら自陣に戻るエリック。それを聞き鷲介は微笑し、後ろを振り返る。

 さすがに立て続けの得点にハンブルクFイレブンは気落ちしている雰囲気を隠せない。だが瞳には充分な力が残っている。

 センターサークルでレネが触れたボールをサイードが後方に返し、再び試合は再開される。さすがに二失点直後ともなると相手チームも前に出るのをやめ下がっている。


「あれ? 英彦さん?」

「やあ」


 自分の近くに何故か英彦がいることに鷲介は首をかしげる。

 だがRバイエルンに押し込まれるハンブルクFを見て気付く。中盤がボックス型から昨季のスリーボランチに移行していることに。CMFにヴァレンティーン。右DMFはウルリク、中央はヤン、そして鷲介の近くである左DMFに英彦が配置されているのだ。


「前半でこれ以上失点すれば試合が決しかねないからね。しばらく凌がせてもらうよ」


 そう言って動く英彦。連続得点したと言うこともあってより積極的に前に出るRバイエルンに対しハンブルクFは守備に力を注ぐ。

 結果としてRバイエルンにゴールチャンスは訪れるもののあと一歩のところで得点には至らない。その理由はハンブルクFイレブンがハンスにペア、そして英彦のコーチングによって的確なポジションを取っていること、陣形を崩されないようにしているためだ。


(くそ、守りが安定し始めてきた。さすがは英彦さんと言ったところか)


 英彦は日本代表の田仲のように的確なポジションを取ることが上手い。それはミュラー、フランツと同じく高い俯瞰能力──フィールド・アイを持つが故だ。

 そして今、それを生かして味方へコーチングを行い防御を固めている。もちろんそれは攻撃にも使用可能であり、彼がRバイエルン2やユースでプレイする時に見られた光景だ。

 当時は判別できなかったが今の鷲介から見たら英彦のフィールド・アイはレベル3よりの2と言ったところだ。

 カミロから鷲介に来たサイドチェンジのボール。それを収めすぐさま中に折り返したが、英彦のスラィディングがボールを弾く。こぼれたボールを前に出ていたハンスが大きく蹴り上げボールは一気にセンターサークルまで飛ぶ。

 ブルーノと競り合い、ボールを落とすサイード。ヴァレンティーンがそれを収めるが前をドミニクが立ち塞がり後ろからカミロも来る。

 ヴァレンティーンの後ろから駆けあがってくるガブリエル。そちらにパスを出すふりをしてヴァレンティーンは中に切り返し進もうとするがちょうどその時、カミロが後ろからボールに足を伸ばす。


(よし、取れる)


 そう鷲介が思ったその時だ、ヴァレンティーンは間一髪ボールを離す。彼の出したパスはピッチ中央に転がり、そしてその先にはいつの間にか上がっていた英彦がいた。

 センターサークル内でトラップと同時に滑らかな動きで前を向く英彦。そこへアンドリーが迫るが、英彦はまた抜きで彼を突破しさらに前に出る。


「!」


 英彦の活躍に湧き上がるハンブルクFサポーター。サイード、レネが動きクルトたちが英彦の次の行動に備える。


(誰かが近づくまでドリブルで突き進むか。

 それとも左サイドへ抜け出そうとしているサイードへのスルーパス、または上がってきたヴァレンティーンを経由して右サイドへボールを──)


 鷲介は下がりながら英彦の次の行動を予測していたその時だ、数メートル先にいる英彦は右足を振りかぶり大きく振りぬく。

 Rバイエルン陣内の右サイドから大きく飛ぶボール。あまりの高さと勢いから一瞬、ブルーノの後ろのスペースにパスを出したのかと思ったがすぐに違うと気づく。


「アンドレアスさん、下がって!」


 叫ぶと同時、鷲介は視線をゴールに向ける。思った通り英彦が蹴ったボールはRバイエルンのゴールに迫っている。

 そしてそれを防ごうと走るアンドレアス。しかしボールも勢いがありなかなか追いつけない。

 跳躍するアンドレアス。必死の形相で伸ばした彼の右手──指先はボールに当たり、その勢いを弱める。

 だが、そこまでだった。勢いが弱りつつもボールの動きは止まらない。アンドレアスがピッチに倒れるのと同時、ボールはゴールラインを割り、ネットに収まった。


「……!」


 鷲介が歯軋りをすると同時、ホームスタジアムが大爆発したかのような歓声が沸き上がる。

 そして三十メートル以上の距離からのスーパーロングループシュートを決めた英彦へ、チームメイト全員が群がり歓喜している。


(やられた……!)


 英彦のこう言ったプレーを見るのは初めてではない。ミドルが得意な彼は遠距離からでもガンガンシュートを放っており、かつて観戦したRバイエルン2の試合でも似た感じの超ロングシュートを放ったことがあった。その時は相手GKが防いだがボールは枠内に向かっていた。

 

「倍返しするぞ」

「ええ……!」


 ハンブルクFサポーターの声援が増量する中、エリックと鷲介はそう言いあいセンターサークルにてボールを動かし試合を再開させる。

 思わぬ形で失点したRバイエルンだが、失点前と同じく前に出て攻めたてる。崩されたうえでの失点ではないと言うこともあったが、ラッキーパンチのような一撃を受けた怒りが主な理由だ。

 だがハンブルクFの守りを崩せない。アレックスやエリックが迫るも先程と同じくあと一歩のところで迫れない。鷲介のドリブルもこちらをよく研究しているのか思うように進めず、ゴール前で何度か止められてしまう。


「以前とあまり変わってないな。それに代表戦の疲労がまだ残っているのか以前よりもキレがない。

 それじゃあハンブルクFのDFライン(俺たち)を突破するのは難しいぜ」


 英彦の挑発的な、しかし幾分か的を得た言葉に鷲介は歯噛みしつつも、挑む。

 そして繰り出されるハンブルクFのカウンター。ロングボールと少ないタッチで前にいるサイードたちツートップにボールが渡る。クルトたちDFたちがそれらを防ぎ凌ぐが幾度かゴール前にまで迫られシュートを撃たれ、そして一度だけレネに突破を許し至近距離からシュートを放たれる。

 今日の試合の、ハンブルクFの初めて訪れた決定的チャンスだったがアンドレアスのスーパーセーブで何とか同点にはならなかった。しかしそんな危険なシーンを作っているDFたちに鷲介は苛立ちを覚えてしまう。


(全く、何をやっているんだ!)


 レネにサイードはいいFWだが、鷲介たちに比べれば一段、二段も格は落ちる。普段鷲介たち相手に練習しているクルトたちが抑えきれないはずはないと言うのに。

 そしてそのカウンターの起点の一つとなっているのが英彦だ。彼はかつてのような軽やかかつ無駄がない動きでボールをさばいては近づくドミニクたちを一瞬でかわし、DFの裏を取る縦パスやキラーパスをレネ達に放ち、またオーバーラップしてきたガブリエルや直康へ正確なボールを供給する。その様はまるでミュラー、またはフランツのように思える。


(相変わらずボールをさばくのが抜群にうまい……!)


 英彦は典型的なパサーだ。しかしただパスが上手いだけではなく個人技にも長けており、先程ドミニクをかわしたように相手を一枚はがしてからパスを出すことも良くある。

 かといって彼は中神や小野のようなドリブラー系パサーと言うわけではない。ただ彼は自分にとっていいポジションを取り、同時に相手が嫌な、苦手なポジションや状況となった上で勝負を仕掛け、高いクイックネスとミカエルのような柔らかいボールタッチで相手をかわすのだ。──もちろん例外もあるが基本はそれだ。


(何とかしてこの状況を変えないと……!)


 もしかしたら前半のうちに同点にされるかもしれない。そんな嫌な焦燥感が鷲介の心中に芽生える。

 スタジアムから聞こえるハンブルクFサポーターの大声援に、それを受けて守り、鋭いカウンター攻撃を仕掛けてくるハンブルクF。その勢いは楽観できないほどのものだ。もしベンチにジーク、またはフランツがいればこんなことはないのだろうが──


「ボールを!」


 手を上げて要求する鷲介。するとスローインから入れられたボールがカミロ達を経由してアタッキングサード付近にいた鷲介の元へやってくる。


(これ以上カウンターを受け続けたら本当に同点に追いつかれかねない。俺達だけでやるしかない……!)


 ボールを収める前、アレックスとエリックに視線を送る鷲介。そしてトラップと同時に相手ゴール方向に振り向く。

 近くにいたヤンがボールを奪いに来るが鷲介は股を抜いて突破し、続いて来た英彦を加速して強引に振り切る。


「鷲介っ……!」


 英彦の驚く声を聞きながら鷲介は相手ゴールに迫る。ハンブルクFゴール前にはペアとザンビディス、直康が立ちふさがる。

 しかし近くにいたエリックとアレックス二人が動き彼らを引き付ける。結果CB二人の注力がこちらから少し逸れる。

 その一瞬の鋤を見逃さずゴールに迫る鷲介。そしてペナルティエリア目前と言う距離で直康が一気に前に出てきた。鷲介はそれを見てすぐハンスの動きを確認すると少しスピードを落とす。

 さらに距離をつめてくる直康。それを見て鷲介は急ブレーキをかけて減速すると、ボールを左側に持ち替え左足を振り上げる。


「!?」


 驚く直康。だがすぐに表情を元に戻し間合いを詰めてきた。パスコースを潰す形──鷲介の左側に寄って。


(見事、引っかかってくれたな)


 それを見て鷲介は心中で笑い、即座にボールを左側から右側へ持ち直す。そして次の瞬間トップスピードに移行して直康が空けた右側を通り過ぎる。


「しまっ……!」


 釣られたことに気づいた直康の声を聞くと同時ペナルティエリアに侵入。そして鷲介は右足を振り上げる。


(三点目、もらった──!)


 強い確信と共に放たれるシュート。前に出ていたハンスの位置を見計らってのループシュートだ。

 しかし次の瞬間、鷲介は大きく目を見開く。なんとハンスはそれを予測していたかのようにジャンプし、ボールをキャッチしてしまったのだ。


「な……!?」


 まるで予測されていたような完璧なセービングに、鷲介は思わず固まってしまう。


「想定通りだ! ハンス、ボールを!」


 後ろから聞こえてくる直康の声。そしてボールをキャッチしたハンスはオーバースローでボールを投げる。

 鷲介が慌てて振り向けばそのボールを収めたのは英彦だ。そして彼は奪取に来たアンドリーをウルリクとのワンツーでかわし前に出る。

 ハンブルクFイレブンはパスを回し一気にRバイエルン陣内へ攻め込む。英彦の的確なコーチングでハンブルクFはよどみなくボールを回す。

 しかしさすがにカウンター時の時のように一気にゴール前まではいけない。クルトたちが残っており守備を構築していたからだ。

 Rバイエルンの守備網を前に攻めあぐねるハンブルクF。だがボールが再び英彦に収まると、彼は縦パスを放つ。


(何!?)


 Rバイエルン陣内、センターサークル近くから飛んだボールはブルーノの後ろに飛ぶ。そしてそれにレネが反応しており疾走、ゴールラインを割るギリギリでボールを収める。


「ヤバい!」


 もちろんすぐさまブルーノがDFに行くが、レネの方が一歩速かった。ブルーノのブロックのほんの少し前にレネはセンタリングをRバイエルンゴール前へ上げる。

 それに飛びつくサイード。しかしクルトが足を伸ばしてエリア外へ弾き飛ばす。だがそれを走ってきたヴァレンティーンが拾いミドルシュート。しかしそれもビクトルが体を張って防ぐ。

 だがハンブルクFの猛攻はまだ止まらない。先程クルトにボールをクリアーされたサイードがペナルティエイラギリギリ外にこぼれたボールに駆け寄る。そして素早く反転してシュートを放つ。しかしそれもフリオのスライディングブロックで弾かれる。

 短い時間で二転三転する試合状況。観客からは歓声と悲鳴が交互に上がり、鷲介たち選手も焦ったり安堵したりと忙しい。


「いい加減クリアーしろー!」


 鷲介がそう叫ぶと同時、サイードからボールを奪取したドミニクが大きくボールを蹴り上げ、ラインを割る。


(やれやれ。ようやく終わったか……)


 そう思い大きく息をつく鷲介。しかしすぐにボールボーイからボールを受け取ったガブリエルがスローインでピッチにボールを入れてしまう。

 意外な飛距離を見せて飛ぶボールを見て慌てる鷲介。それに反応したのは英彦だ。だが後ろからはドミニクが迫ってきているし、近くにはカミロもいる。いくら英彦とてそう簡単にボールをさばくことは難しいはず──

 そう思った鷲介だったが次の瞬間、愕然とした。何と英彦はスローインのボールを胸でトラップすると同時に反転しては真後ろにいたドミニクの横を通り抜け、インターセプトしようと近づいてきたカミロをダブルタッチでかわしてしまう。


(あの人本当に、再起不能寸前までいった選手なのか!?)


 怪我前と変わらぬ、いやそれ以上に研ぎ澄まされた動き。一体どういう治療とトレーニングをすればあのような動きができるようになるのか──

 一瞬で二人を突破した英彦。慌ててクルトたちが動き出すがそれより早く英彦の右足がボールを蹴った。先程のハンブルクFの怒涛の攻めで不完全状態だったRバイエルンのDF陣、その間を英彦が放った早く鋭いキラーパスが通りぬける。

 ペナルティエリアに侵入したボールにサイード、そして少し遅れてビクトルが反応していた。ダイレクトでサイードがシュートに行こうとしたその時、ビクトルがスラィディングでそれを防ぐ。

 見事なブロック。だが同時にサイードはビクトルのスラィディングを受けてピッチに転がる。──そして主審の笛が鳴り響き、その指がペナルティスポットを指差した。


「……!」


 PK。その判定に当然ながらクルトたちDF全員が主審に抗議する。遠くにいた鷲介にははっきりとわからなかったがビクトルのスラィディングはボールに行っており、サイードを転ばせる意図はなかったのだろう。

 だが客観的に見ればそうみられると同時に、そうでないとみられるプレイではあった。そして主審は後者よりだと思ったのだろう。

 VARも使われたが主審の判定は覆らず前半四十分近く、レネのPKはRバイエルンのゴールに突き刺さるのだった。







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