物語序章 第一版 55章
石炭発電所の新設
最初に手をつけたのは、もっとも手に入りやすい石炭火力発電所であった。
北九州と東北地方の炭鉱から安定して石炭を供給し、
各地方都市に設けられた発電所が煙を上げはじめる。
「煙は悪だという者もおる。だがな、これは国を動かすための蒸気の息じゃ。」
と、現場監督の老技師が若い整備士に語る。
炉にくべられた黒い石は、蒸気となってタービンを回し、
その力は銅線を通って遠く離れた街灯を灯す。
まだ電子制御は未熟だが、確実に“動いている”という実感があった。
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石油発電所の稼働
続いて千葉沿岸に石油火力発電所が建設された。
化学プラントで精製された燃料油がパイプラインで送られ、
巨大なタンクに貯蔵される。
夜、炎のようなタービン音が響き、湾岸の街が一斉に光を取り戻す。
「石油は血液、火は心臓。止めれば国が冷える。」
発電所長の言葉に、現場の技術者たちは無言でうなずいた。
彼らは汗にまみれ、計器の針が安定するまで離れようとしなかった。
その針が指すのは、未来の安定だった。
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水の力 ― 水力発電と大規模ダム建設
やがて、明賢は山間部を視察に訪れる。
「火だけでは足りぬ。水の力も借りよう。」
各地の川筋が調査され、地形図が机の上に並ぶ。
最初に選ばれたのは、関東西部と中部山岳地帯だった。
堰を築き、巨大な貯水湖を造り、
やがてそこに大規模ダムが建設される。
その現場では、すでに日本国建機シリーズのブルドーザーとショベルたちが唸りを上げていた。
「掘れ!押せ!これが未来の灯を支える基礎だ!」
監督の怒号とエンジン音が山にこだまする。
完成したダムは巨大なコンクリートの壁として立ち上がり、
その内部には最新式の水力タービンが据え付けられた。
落下する水が音を立てて羽根を回し、
それが遠く東京の街の灯をともす――まるで大地そのものが国を照らしているかのようであった。
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明賢の視線
完成式の夜、明賢は静かにダム湖を見つめた。
風が頬を撫で、水面に月が映る。
「国の血は、ここにも流れている。
人が生きるには食も衣もいるが――
光がなければ、文明は夜に消える。」
その声を聞いた若い技師が、小さく答えた。
「必ず、消させません。」
その夜、発電所から送られた光が山を越え、
遠く東京の空を、ほんのりと照らしていた。
燃える血脈 ― 石炭と石油の輸送・備蓄計画
都市が明るくなり、工場が息を吹き返すと同時に、
燃料という“国の血”を運ぶ道が必要となった。
明賢は会議室の窓から煙を吐く発電所を見つめながら呟く。
「光は燃料から生まれる。燃料が止まれば、国家は止まる。」
重苦しい沈黙のあと、経済局の長官が問う。
「では、まず何から始めましょうか。」
「流通の道を作る。燃料が流れれば、文明は止まらない。」
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炭の道 ― 石炭輸送の整備
最初に着手されたのは石炭の輸送網だった。
関東近郊と九州・東北の炭鉱から採掘された黒い鉱石は、
専用の貨物列車に積まれ、頑丈に敷かれた線路をゴトゴトと進む。
線路の脇には、風よけの高い柵が建てられ、
積み降ろし用の**石炭積出所**が各地に作られた。
東京湾岸の発電所では、夜明けとともに黒煙を上げる貨物列車が到着する。
「到着だ! クレーンを回せ!」
港の作業員が声を張り上げ、
巨大なスコップが石炭をすくい、ベルトコンベアで貯炭ヤードへ送られる。
燃料の山が積み上がるその光景は、まるで国の鼓動が見えるようであった。
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海の血管 ― 石油輸送と備蓄
次に整備されたのは石油輸送と備蓄体制だ。
千葉や新潟の沿岸に設けられた精製所から、
黒い金と呼ばれる石油が巨大なタンクローリーで運ばれる。
道路を走るその列は、まるで黒い蛇のように続き、
沿岸部の国家備蓄タンク群へと流れ込む。
明賢は設計図を指でなぞりながら言う。
「このタンクは、ただの鉄の容器ではない。
戦火にも、飢饉にも、エネルギーの空白にも耐える“国の臓器”だ。」
湾岸には何十もの巨大タンクが並び、
それらを繋ぐパイプラインは、見えない地下の血管のように各発電所へ伸びていった。
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余熱の知恵 ― 都市ガスとカートリッジ式燃料
やがて、千葉の化学プラントから報告が入る。
「明賢様、精製の際に大量の可燃ガスが発生しております。」
「無駄にするな。それも燃料だ。」
その一言で、副産ガスの有効利用研究が始まった。
東京の一部では、そのガスを管に通して都市ガス供給を試験的に開始。
小規模な配管が家々を繋ぎ、夜の台所で青い炎が灯る。
また、残ったガスは缶に詰められ、
**携帯式のカートリッジ燃料(プロパンのような形式)**として利用が始まった。
野外工房や屋台でも使える便利な燃料は、瞬く間に町人の生活に溶け込んでいった。
「ただの副産物を、人々の暮らしの火に変える――それが科学の力だ。」
と、研究主任の女性技師が微笑んだ。
その笑みには、確かな誇りがあった。
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静かな誓い
夜、明賢は再び東京湾の風にあたる。
遠く、タンクの列が月明かりを反射して銀色に輝いていた。
「これで、人々の灯は消えぬだろう。」
隣でメモを取っていた官僚が問う。
「次は、何を?」
明賢は少しだけ笑って答える。
「次は、“この力を国中に送るための道”を作る。」
彼の瞳には、電力網の青写真がすでに浮かんでいた。