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明賢の物語(日本建国物語)試作版 第一版 - 物語序章 第一版 79章
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物語序章 第一版 79章

― 太平洋門、完成す ―


汎名の熱帯雨林を背に、

太平洋に面した港湾の沖合では、

巨大な鋼鉄の門がついに形を成していた。


数か月にわたる工期を経て、

錆び止めの塗料が重ねられ、

リベットの一つ一つまで検査を終えたその門は、

太陽の光を受け鈍く光を返していた。


工事責任者の技監・伊東は

ヘルメットの縁に溜まった汗を拭いながら呟いた。


「ようやく……“海を分ける門”が立ったか。」


作業員たちは疲労の色を隠せなかったが、

その顔には、確かな達成感が刻まれていた。

重機のエンジンが止まり、あたりに静寂が戻る。


遠く、まだ掘削の続く大西洋側では、

爆薬の低い轟きが時折響いてくる。

ガトゥン湖へ通じる巨大な土木の谷が、

人の手でゆっくりと大陸を貫こうとしていた。


だが現時点で、運河はまだ“片翼”しかない。

太平洋側の水門は完成したものの、

大西洋側の水門は未だ基礎工事の段階であった。


完成した太平洋門の港には、

初の「通過予定船」となる輸送船が停泊していた。

この船には、次の工区へ送る鋼鉄部材と

大西洋側水門に必要な大型部品が積まれている。


船体の腹には白く「運輸船団・汎名壱号」と書かれていた。

ディーゼルエンジンの低い唸りが波間に響き、

冷却水が海に吐き出されている。


「この船が、最初の“利用者”になるわけか。」

伊東の言葉に、若い通信士が頷く。

「ええ。

 この門を通るのは、通商船でも戦艦でもない。

 次の門を造るための船です。」


太平洋門の水槽にはまだ水が入っていない。

試験のための注水は行われたが、

水門の開閉は、今はまだ“象徴的”なものに留められていた。

それでも、初めてこの門を通過するその瞬間は、

人々にとって運河が現実になった証になる。


翌朝、

輸送船「汎名壱号」はゆっくりと曳航ロープを解かれ、

巨大な鉄の門の前に進んだ。


「水位安定、ゲートロック解除。」

「右舷クリア、左舷異常なし!」


警笛が一度鳴る。

鋼鉄の門が、ゆっくりと軋みながら開いた。

波が足元を洗い、太平洋の水が静かに運河へ流れ込む。


輸送船は滑るように通過し、

そのまま大西洋側――まだ製作途中の地へと向けて進む。

途中の地点で停泊し、

積載してきた水門部材や工具を降ろしていく。


背後に残る太平洋門は、

初めての船を見送るように再び閉じられた。

油圧の音が収まり、鉄の板がぴたりと合わさる。

門の上部に掲げられた旗が風に翻った。


「汎名運河 太平洋門 完成。

大西洋門への工事用船団、出発。」


無線でその報が日本本土に届くと、

国土交通省と土木庁の庁舎では拍手が起こった。

大西洋の門――“もう一つの扉”が開かれる日までは、

まだ遠い。

だが、汎名の地は確かに未来へと繋がった。


この日、

パナマ運河の歴史に刻まれる

最初の「鉄の門」が、静かにその役目を果たし始めたのだった。


― 汎名運河、両洋を結ぶ ―


太平洋側の水門が完成してから一ヶ月。

熱帯の雨季が去り、再び強い日差しが汎名の大地を照らしていた。

工事の最終段階にあった大西洋側の現場では、

巨大な鋼鉄製のゲートが最後のボルトで固定されようとしていた。


「締結確認、完了!」

作業員の叫び声が響き、現場監督が深く息を吐く。

周囲ではディーゼルクレーンが静かにエンジンを止め、

重機の音が止んだその瞬間、

熱気と湿気のなかに歓声が湧き起こった。


汎名運河――

太平洋と大西洋を分かつ、

この大陸を貫く人工の水路が、ついに完成したのだ。


工期の延長、度重なる雨季の氾濫、

そして熱帯病に苦しむ労働者たち。

それでも、衛生兵の活動と医療班の努力、

そして本国から送られた冷凍食料や医薬品によって、

ついにこの巨大事業は完成へと至った。


太平洋側・大西洋側の両方の水門が閉ざされたまま、

運河の中央部で静かに注水が始まる。

ガトゥン湖から流れ込む水が音を立て、

乾いていた水路に少しずつ生命を与えていく。

水面が徐々に上昇し、

やがて両洋の水位が均衡する。


「水位安定、両門開放準備完了。」

通信士の報告が各所の有線回線を通じて伝わる。

現場の指令所には各国土交通局の職員と、

日本海軍から派遣された監督官が立ち会っていた。


「では――開門!」


鋼鉄の水門が同時に開く。

轟音と共に、太平洋の青と大西洋の深碧が、

中央の水路で一筋に交わる。

誰かが「ついに海がつながった」と呟いた。

その声は歓声にかき消され、

次の瞬間、汎名の空に祝砲が鳴り響いた。


最初の通航船となる輸送船「汎名壱号」は、

太平洋側からゆっくりとゲートを抜けていく。

エンジン音が響き、

船体はまるで新しい時代の誕生を告げるように、

穏やかな水面を進んだ。


運河の岸辺には現地の人々も集まり、

色とりどりの旗を振って船を見送った。

スペイン時代の古い町並みの一部は保存区画として残され、

その背後には新しく建設された「汎名市」の街並みが広がっていた。

港湾には新しいクレーン、整備中の倉庫、

そして国旗を掲げた通信塔。


太平洋から大西洋へ。

このわずか数十キロの道が、

数千キロかけて大陸を迂回していた長大な航路を短縮させる。


同時に日本本土では、

政府庁舎の大講堂で完成の報が伝えられていた。

壁にかけられた地図の上には、

太平洋から大西洋へと一本の赤い線が貫かれている。


「これで、我々は海を分けた。」

明賢の言葉に、

集まった閣僚や報道官たちは静かに拍手を送った。


運河はただの水路ではない。

それは新たな文明の証であり、

東と西を結ぶ“日本の手”の象徴となったのだった。


そしてこの日、

汎名の地ではひとつの記念碑が立てられた。


『汎名運河 両洋連結 記念碑』

― 太平洋の陽と大西洋の風、ここに交わる ―


潮風が碑を撫で、

海の向こうでは新しい航海が始まろうとしていた。


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