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火刑戦旗を掲げよ! - 第45話 単独ではなく、一部として
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第45話 単独ではなく、一部として

 紅華騎士団の戦陣は常識的なものだ。


 中央前列に槍歩兵を並べ、後列中央には重騎兵たる騎士が全体に睨みを利かせつつ騎馬突撃の機会を窺う。騎士を挟んで左右には弓歩兵がやはり前方に槍歩兵を盾のようにして並び、矢を放物線を描くように放つ構えだ。それらを中央として、両翼には軽騎兵が配されている。これは従騎士の中でも上位の者たちだから、比較的高い錬度を認めることができる。


 対する剣角騎士団の戦陣は一般的なそれとは異なっていた。


 中央前列に槍歩兵が並ぶところは同じだが、その戦列は両側面にも伸びており四方の内後方のみを除いて堅く槍衾を展開する構えだ。それに護られるようにして、内部前面中央には騎士たちが騎射の構えを取っており、その両脇や後ろには弓歩兵がズラリと弓射を為す備えだ。その後方、唯一開かれた背後には少数の軽騎兵が予備部隊のようにして控えている。両翼のどちらにも飛び出してくるだろう。


 それは幾度もの戦いを経て洗練されていった形である。圧倒的な機動力を誇る敵と勝負するために、自らの機動力を犠牲にしてでも堅牢さと遠距離攻撃力とを求めた結果だ。個の武功に固執しないという意味でも徹底している。想定する敵部隊を壊滅させることのみをもって至上目的としているのだ。


 他ならぬ自分のことだ、とバルセロは心中に呻いた。軽鎧の内側には冷たい汗がねばつき、視界はやや暗く狭まっているように思えた。それは久しく感じていなかったものだ。


 敗北の予感だ。


 戦った先に満足のいく勝利を見込めない。どれほどに小さな戦術を駆使したところで、この場にこの状況が現れた時点で大勢は決している。バルセロの脳裏に行われる冷徹な思考が、既にして被害の減少を模索する方向へと戦術を組み立て始めていた。


 紅華騎士団をどのようにして退かせるか。それが問題だった。


 バルセロの見たところ騎士団同士の戦いはどういう経緯を辿ろうとも紅華騎士団の敗北に終わる。総合力に差があり過ぎた。新進気鋭という評価は伸びしろに対しての賞賛であり、裏を返せば現状における未熟が誰の目にも明らかであるということだ。それでも勢いはあるから、相手の混乱を誘えたならば戦果も期待できるが……相手が悪すぎる。長く武名を誇る熟練の戦闘集団だ。


 剣角騎士団に弱点があるとすればその陣容である。軽騎兵の数が極端に少ないから、機動力で掻き乱せば全体を揺さぶることができる。速さを捨てて堅牢さを選んだことは、そのままに弱点でもあるのだ。


 しかし、無理だろう。バルセロはその予測に皮肉を感じずにはいられなかった。なぜなら、剣角騎士団に機動力への対応を経験させたのはバルセロ自身だ。幾度もの戦いが……被害を嫌って駆け引きに終始した戦闘の全てが、剣角騎士団にある種の熟達を成させてしまった。それでもバルセロならば崩せる。被害に目を瞑れば堅陣を切り裂くことができる。しかし紅華騎士団の従騎士たちにそんな真似ができるはずもなかった。


 そして、バルセロは彼らを直接に援護することができない。第三王女親衛団の騎兵たちがそれを許さない。ぶつかって圧倒されるつもりはないし、軽騎兵と重騎兵の混成部隊であれば同数でも翻弄する自信すらあった。機動力で引きずりまわして騎兵の軽重を分断し、各個に打ち破ればいいだけだ。


 それができない。味方部隊の存在がその最も有効な選択肢を破棄させる。


 バルセロが親衛団の軽騎兵と機動戦闘に入ったならば、相手の錬度から見て勝負は長距離を駆ける中に決せられるものとなろう。それによって引きずり出せるのは軽騎兵のみだ。重騎兵五百騎は残ることとなって……紅華騎士団の背後へと回るだろう。あるいは助太刀の形で横槍を入れるかもしれない。どの時機にそれが為されるにせよ、紅華騎士団はただでさえ決定事項のように思われるその敗北をより無惨で壊滅的なものとするだろう。そしてバルセロには味方貴族を見捨てた結果が残るのだ。


 紅華騎士団はその若い戦意でもって既に名乗り上げ、戦いを始めようとしている。そして破れるだろう。そうなった後の被害を減じなければならない。そのためにバルセロがとれる手段は少なく、しかも被害を避けられない。しかしやるしかない。この上は上手く被害を支払うより他に方法はないのだ。持てる技術を駆使して小さく勝利を重ね、大勢に影響していかなければならない。


 バルセロの背筋に冷たい一撃が走った。嫌な閃きと言ってもいい。それは戦慄の既視感だ。


 無形の力に圧迫されつつ、勝利の見えない状況の中で戦術的打開を模索する……これは初めてのことではない。この息苦しさには覚えがあった。まるで巨大な手の平の上で弄ばれるような感覚。


 サロモン。これはサロモンの感触だ。バルセロの全身が粟立つ。目が見開かれる。乾いた口からは声もない。しかし俄かに鮮明となった視界が敵を探していた。ひるがえる旗は白流旗ばかり。あの旗があるわけもない。アスリア王国義勇軍の旗はもうどこにも在りはしない。


 バルセロ率いる軽騎兵千五百騎が為す術もなく見守る中、ついに騎士たちの戦いが始まった。


 矢の射掛け合いは明らかに紅華騎士団の劣勢だ。矢の量、密集度、精度、どれ一つとっても剣角騎士団が優れている。紅華騎士団の矢が広い面に放たれる疎ら雨であることに対して、剣角騎士団の矢は面を絞った集中豪雨のようにして飛来している。狙われているのは弓歩兵だ。今は右の隊に、次は左の隊にと、不規則でありながら息を合わせた密の矢雨を浴びせてくる。高い熟練による弓射だ。さもあらん、それは高速で機動するバルセロらを捉えるために磨かれた技術である。


(そのまま射殺され続けるつもりか!? どうした、なぜ動かん……!)


 紅華騎士団の動きは鈍いにもほどがあった。矢の行き交う量は差を決定的にしつつある。敵の効果的な弓射により弓歩兵が壊滅しようとしている。それなのにまるで動じず平然としている風だ。その理由を察し、バルセロは舌打ちした。己の千五百騎に命令して動き出す。


 騎士の頭上に矢が来ないからだ。それが伯爵家の次男たる団長をして危機感を鈍らせているに違いない。騎馬突撃に栄光を覚える猪騎士たちの間には矢戦を浅ましい戦いと見る傾向がある。両軍の矢が尽きた後が本当の戦とでも夢想しているのかもしれない。会戦ならばそういう手順を踏むこともある。しかしこの規模の戦闘で、その練度の相手との戦闘で、そんなことを判断しているとしたら致命的だった。


 こちらに合わせたとでも言うつもりか、ようやく両翼の軽騎兵を駆けさせたようだ。遅い。今更動かしたところで矢の的だ。そもそも矢の装備量からして違うのだ。防御と遠距離攻撃とに特化した剣角騎士団は、下手をすれば弓矢のみでも紅華騎士団を壊滅させかねない。バルセロは歯ぎしりした。


「軽騎兵と重騎兵の間を抜く。千騎は陽動として左へ駆ける。五百騎で抜けろ。重騎兵を牽制しつつ背後へ回れ。剣角騎士団の動きを抑えろ」


 徐々に加速しつつ、バルセロは口頭で命令を伝達した。部隊を分けなければならない。それは親衛団騎兵隊を撃破することを諦めるという選択だ。そうまでしても騎士たちを中心にした機動戦を展開しなければならない。そうすることで重騎兵と剣角騎士団の双方に影響するのだ。背後に回ることが最も効果的だが、それを易々とさせてくれる相手ではない。今も息を合わせて加速してくる様子が窺える。


 だから、変化するよりないのだ。隙を作ってそこを穿つ。問題は軽騎兵千騎だ。地形の差もあって速さでは向こうが優ろう。動きにも鋭さがあり、こちらの意図を察することも早いと思われる。あれを戦場から離さなくてはならない。大きく左へ回れば自然と反応もしようが、千五百騎でそれをやれば重騎兵が自由を得てしまう。さればこその五百騎の別働だ。


 どちらも難しい役割だが、戦闘目標が限定されるという意味では五百騎の方が難度が低い。千騎の方は上手く収束させないと泥沼に引きずり込まれる恐れがある。親衛団の歩兵隊が見えないからだ。


 バルセロの知る第三王女親衛隊は三千人規模の戦闘集団である。この場には騎兵のみが千五百騎いるきりだ。今やもう確認する手段もないが、どこかに残る千五百が伏せていてもバルセロは驚かない。そうであるほうが自然だ。軽騎兵を誘引した千騎は、足元のどこに罠があるとも知れない野を駆け回ることになる。しかも主戦場から離れ過ぎてはいけない。難度が高い役割と言える。バルセロが率いるべきだった。


 速歩から駈足へ。親衛団の軽騎兵千騎へと向けて緩やかな坂を駆け上がっていく。互いに正面からぶつかる形だ。しかし右手に重騎兵五百騎も出てきているから、このままいけば軽騎兵同士が争うその脇腹を抉られるだろう。それに対処する擬態のため軽く馬列を蛇行させる。重騎兵の側へ一挙に当たるようにも見せたい。向こうもまた重騎兵の動きが心憎い。こちらに来るとも、無視して紅華騎士団の後背へ出るとも思わせる動きだ。狭まる間合いの中に虚々実々の駆け引きがある。


 そして駈足から襲歩へ。弾けるようにしてバルセロは部隊を分けた。自らは千騎を率いて左へと旋回していく。当然のように敵の軽騎兵千騎もまた同方向へ、あちらから見て右へと旋回してきた。やはり鋭い。ここから始まる機動戦闘は僅かな気の緩みも許されない。バルセロは視線で切りつけるように敵の千騎を見やって……愕然とした。


 視線の先で、後列から分かれた五百騎が隊列を千切れさせているのが見えたのだ。あの速度の旋回だから重騎兵が機動で応じられるはずがない。だというのに、馬列は砕かれて十騎や二十騎といったまとまりに散らかされてしまった。既に被害も相当に出ているようだ。


 騎射だ。重騎兵による強力な騎乗射撃が直撃したのだ。


 バルセロは信じ難いものを見た思いだった。それはあり得ないことだからだ。重騎兵は大弓を持つがゆえに正面から左側にしか弓を射ることができない。馬体が邪魔するからだ。五百騎は重騎兵隊の右側を駆け抜けたのだから矢を浴びるはずがない。しかし現実には射られてしまった。


 遠ざかりつつある光景の中に、その解答を見ることができた。部下の五百騎は剣角騎士団の後背にあって、追う重騎兵らによって今も射られ続けている。重騎兵らの機動は剣角騎士団の側へ膨らんだ弧を描いている。バルセロは呻き声を漏らした。敵の見事を知ったからだ。


 バルセロが部隊を分けたあの瞬間、親衛団の重騎兵隊は己の右手に迫る五百騎を無視して左へ旋回したのだ。左手に見えていただろう剣角騎士団の側へ鋭く旋回し、それを右手に見ることになったならば、果たして弓手の方向の後方から飛び出してくる敵影があるのだ。ご丁寧に並走する形で、側面を晒して、バルセロの分けた五百騎がそこに的として並んでいるのだ。


 恐るべき判断だった。


 突撃してくる敵を前に槍に持ち変えることもなく弓矢を携え、敵の巻き起こした風を右に感じながら逆へと旋回し、そして襲歩で駆け抜けんとするその馬列に対して強弓の一射を見舞う。敵がぶつからずに抜けることを確信していなければできないことだ。軽騎兵の速度に慣熟している必要もある。


(読まれていたか……!)


 バルセロは敗北感に打ちのめされていた。戦術とは突き詰めれば機先を制して敵の力を封じることに尽きる。主導権を握った側が有利な状況を作るのだ。敵が対応せざるを得ない点を衝くことが肝要だ。


 今、バルセロは剣角騎士団の後方へと五百騎を突破させることを狙った。そのために千騎を陽動として駆けさせた。千騎の数と速度、そして迂回行動を示すことによって敵が応じざるを得ないようにした。機動戦闘の先を取ったつもりだったが。


 しかし、騎士たちの戦いが劣勢であることを嫌った時点で、既に親衛団の主導する戦の形へとはめ込まれてしまっていたのだ。剣角騎士団の後背へ回る道は三つあった。騎士団と重騎兵の狭間、重騎兵と軽騎兵の狭間、そして軽騎兵の更に外側の三つだ。


 最初の道は死の道だ。剣角騎士団は側面にも長槍部隊を配しているし、そこはまさに重騎兵の弓手の方向である。挟撃されるばかりだ。最後の道はバルセロらにとっては最も安全な迂回路だが、これは重騎兵を自由にすることであり、紅華騎士団に危機が到来する。味方の被害を減らすために動くのならば、初めから二つ目の道しかなかったのだ。


 敵を動かしたつもりが、動かされていたに過ぎなかった。読まれていたのだ。だからこその効果的な一撃が放たれ、それによって別働の五百騎は手ひどい被害を受けてしまった。後の先とでも言うべきものをかくも鮮やかに被ったことを自覚し、バルセロは却って冷静になる。


(……これまでだな)


 千騎同士の機動戦闘を継続することは無意味だった。敵の練度からいって短期決着は望めず、時間が掛かれば掛かるほどに味方が追い込まれる。別働の五百騎は散り散りになり、紅華騎士団は壊滅の危機をいや増しに増していく。被害が広がりゆく前に変化を生じせしめなければならない。ここに命の支払いどころが訪れていた。


「中隊を直率する。残るは左へ旋回して味方騎士団を援護しろ。その後は上手く退けよ」


 一個中隊は二百五十騎だ。バルセロは伴う中隊を選択すると、残る者たちへ目線のみで意思を伝えていく。勝つことも難しいが負けることは尚の事難しい。命の取捨選択もある。託すものもまた、在った。


「……行け!」


 敢えて口頭で指示し、バルセロは二百五十騎の決死隊を率いて右へ旋回した。敵は四倍の千騎だ。勝てるわけもない。しかし喰らいついて時間を稼ぐつもりだった。死に物狂いの猛攻は状況を覆しはしなくとも混乱させることがままある。その死中に活を見出すよりなかった。


(第三王女親衛団の軽騎兵隊か……お前はそこにいるのか?)


 応じて避ける間も与えずに、ぶつかった。旋回した分だけ速度を失い、敵千騎の先頭よりは下がった位置が目の前にある。強引に割り込むようにして槍を振るっていく。強い。槍先に感じる練度があった。二騎、三騎と討ったところで限界がきた。側頭部に強い一撃を喰らって兜が吹き飛んだ。意識が霞む。咄嗟に屈んだものだが、反撃に転ずるまでの余裕はない。


 グイと馬体ごと押される感覚があった。部下が分け入って来たようだ。古株の男だった。黒い戦外套をことのほか大事にしていて、雨の日にそれを懐に抱えて濡れていた姿を思い出す。相討ちだった。槍は両者の腹部を共に貫き合っていて、奇妙な結合の二騎と成り果てた。馬は窮屈でもそのままに駆ける。その在り様は戦いの中にも目を見張るものがあり、それが僅かな空虚をその場にもたらした。


「将軍、御免つかまつる!」


 横から伸びてきた手が手綱を奪い、それをグイと引き寄せた。バルセロの周囲を部下たちが固めていた。一個の魚群のようになったその集団は、突破を諦め、再び左へと旋回していくようだった。半ば包囲されつつあったが、激しく槍を繰り出し続け、ついには離脱に成功したようだ。バルセロは股下の震動でそれを察していた。目には血が入り視界がどうにもいけない。


「一番分隊十二騎、行けぇ!」

「おうさぁ!」


 中隊長が指示し、それを分隊長が了解したようだ。バルセロはどこか遠い出来事のようにそれを聞いていた。槍は手放していない。しかし他人の手であるかのように持っている感覚も遠い。耳鳴りがしていた。


「次! 二番分隊、死んで来い!」

「おうとも!」


 どうやら死兵を逐次ぶつけて追っ手を阻んでいるようだった。それは命の支払いだ。戦場における敗北の形の一つだ。バルセロは急速な眠気に抗い、耳に届く部下たちの声を拾い続けていた。聞き逃してはならないと知っていた。二度と聞けない声と知っていた。


 バルセロは生き残った。


 直率した二百五十騎の内の百八騎が失われた。半減に近いが、千騎を相手にしては極少の被害とも言える。敵が死兵の相手を嫌ったことと、馬の質においてバルセロらが優ったこととが逃げ切れた理由であった。持久力の違いが大きかった。


 紅華騎士団は大敗を喫していた。弓射によって両翼の軽騎兵を封じられ、槍歩兵同士のぶつかり合いも押し負けた。更には中央を強引に押し広げられ、そこへ騎兵突撃である。分厚い槍歩兵もそれに追従したため、剣角騎士団総員による中央突破を成し遂げられた形であった。


 そこへバルセロが分けた軽騎兵七百五十騎が来援し、その後の殲滅戦だけは避けることができた。再びの堅陣を組ませるまでに牽制し、味方が壊走するその背中を襲わせなかった。伯爵家の次男が逃げ遂せたことは大きい。貴族にも死者は出たが、それでも多くが死なずに済んだのだ。


 重騎兵の騎射に晒されていた者たちも、三々五々、後方に逃げ延びてきた。バルセロは頭部に応急処置をした身でそれらを迎えた。敗将の姿を隠さなかった。生き残った一人一人と目線を交わした。


 バルセロ軽騎兵連隊二千騎は、この戦いで二百八十五騎を失った。二千騎の内では一割と少しだが、実際に戦闘に参加した千五百騎からすれば二割に近い損害だった。紅華騎士団は文字通りに半壊したため、軍旗を下げて一時活動を停止することとなった。


 与えた損害を知ることはできなかった。それどころではなかったからだ。この敗北はそれまでの勝利を帳消しにするほどの衝撃で帝国軍を揺らす。再び第三王女親衛団が現われ、またも帝国に痛撃を与えた。それは三度目を予感させるものだからだ。


 しかし、刀剣住蛇の軍旗は依然として掲げられ、動揺は沈静化していく。バルセロは幾度となく味方を救い続け、今回もまたそれを成したと見なされたからだ。ベラスケス伯爵も謝意を表明した。帝国軍の黒蛇は、忌み嫌われて在った者は、ここに帝国軍の守護者としての名声を得たのである。負傷した姿を隠すことも無い当人は、笑顔の一つもなく、ただ毅然として屹立していた。


 死すものが死に、生きるものが生きる。


 それは行禍原の夏の一幕であった。


 決して唯一無二のものではない。ただ繰り返されるだろう光景でしかなかった。

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