ドラグフィード学園
「ポードン様、ドンロン研究所の方からバーラト王国についての資料が届きました」
ハワード家当主・ポードンの専属護衛を務める筋骨隆々のバレルが書斎に入る。
高級店で買いそろえている質のいい仕事机で作業するポードンに茶封筒を差し出した。
「ああ……、ありがとう」
ポードンはバレルから茶封筒を受け取り、資料に目を通す。
日々舞い込んでくる仕事の影響で、連日連夜寝不足だ。
老眼のように文字が霞む。目頭を揉み込み、もう一度読み直した。
「どうも、バーラト王国で疫病が流行しているらしい。あそこの民は良い労働力になるのだが……、惜しいな」
彼は皇帝から多くの領土の管理を任されており、多忙そのもの。
大量の土地を持ち、多くの税金が集まるためどの貴族よりも裕福だが、それゆえに残業に次ぐ残業。
睡眠時間は三時間程度しかなく、徹夜の日も多い。
ヴィミの故郷であるバーラト王国も十年近く前にルークス帝国の領地として参加に入り、植民地となった。
その国が疫病により、多くの死者が出ていると報告を受ける。
「バーラト王国の国民は身体能力が高い者ばかりだ。多少の風邪なら、何ら問題ないだろう」
ポードンは睡眠不足により、思考力、判断力共に落ちていた。
バーラト王国にいる部下に「最低限の援助にとどめよ」という命令を下し、他の領土、植民地の問題に再度唸る。
だが、その軽率な判断はのちに大きなひずみを生む。
そのころ、オリオンはスキルの影響からか、悪夢を一切見ずに眠り、気持ちよく朝を迎えた。
だが、おっぱいパラダイスの夢は見られず、すっきりした頭とやるせない気分が混ざりあう。
ヴィミのおっぱいで機嫌を直す。ヴィミにとってはいい迷惑である。
☆☆☆☆
八月下旬、身支度を済ませたオリオンとヴィミは馬車に乗り、ルークス帝国の帝都であるドンロンからドラグフィード学園があるドラグフィードという名の街に移動した。
帝都から馬車で二日ほどかかる。街の検問は厳重で、多くの騎士達が鎧の内側に汗をにじませながら働いている。
ドラグフィードはドンロンに負けないほど都会だ。
人口も多く第二の帝都として若者に人気があり、貴族ばかりがいるドンロンより田舎者にとってとっつきやすく、都会に出て出世したいと夢見る若者や、学生が多い。
そのため、若い女が多く、最先端の服装をこれでもかと見せびらかして歩いている。
素足が盛大に出ているスカートを履いている女がいれば、オリオンの視線は百パーセントの確率で反応した。
「オリオン様、あまり、他の女性を凝視するのは下品ですよ」
「だが、ヴィミよ。あの女たちは、見られてもいいからあんな素肌を出している服を身に着けているのだろう? ならば、見てやらないのは失敬だと思わないか」
「いや、まあ、そうかもしれませんけど……」
ヴィミもルークス帝国の若者の感性はよく理解していなかった。
普段、脚をちょっと高くあげただけで下着が見えてしまいそうなスカートを履く必要性がない。
あんな品をオリオンが見たら、いつか自分もあのスカートを履かされるんじゃないかと察し、馬車の窓をカーテンでさっと閉じる。
「む、何だ、ヴィミ。せっかく、あのムチムチの太ももで挟まれる妄想に深けていたというのに」
「オ、オリオン様には、私がいるじゃありませんか……」
ヴィミはメイド服のロングスカートを少しだけめくり、素足を曝す。夏の暑い時期に馬車に乗っていたため、すでにスカートの中が蒸れ、汗がにじむ。
「なんだ、なんだ。嫉妬していたのか~。仕方ない奴め」
オリオンはヴィミの太ももの上に頭を乗せ、ぶひぶひと鼻息を荒くしながら彼女の汗のにおいを嗅いだ。
ヴィミは小さく息を吐いた。そのまま、オリオンの頭を優しく撫でる。痴漢されるのは嫌いだが、甘えられるのは嫌ではなかった。自分も兄に沢山甘えていたなと、遠い過去を思い浮かべる。
「ヴィミよ……、俺様以外の男の前で素足を曝すなよ。お前の脚はガラスのように綺麗だからな、目に毒だ」
オリオンは持ち上がっていたスカートを戻し、皴にならないよう布地を撫でる。
「み、見せませんよ。バーラト王国の生娘は肌を滅多にさらしてはならないんですから」
ヴィミはオリオンのちょっとした気遣いを受け、膝枕している状況に文句が言えなかった。
――ぐへへへ、ヴィミの服のにおいを嗅ぎながら脚を撫でられるなんて、実に愉快。手に届かぬ美もいいが、手に届く美もいいものだなぁ~。
オリオンはただたんに、ヴィミに痴漢したかっただけだ。
だが、ヴィミが頭を沢山撫でてくるため、何とも言えぬ暖かな気持ちが膨らんだ。頭を撫でられるのは嫌いではない。
馬車がドラグフィード学園に到着すると、オリオンとヴィミは馬車の中から広大過ぎる全貌を見て、口がぽかんと開く。
正門を通り、石畳で舗装された広い道を進むと、様々な建物が点在した。もう、一つの街なのではないかと思うほど広い。
だが、木々が生い茂った森や高くそびえる山、せせらぎが気持ちいい川なども敷地内に含まれている。
オリオンは今、驚いていたら、驚き顔のレパートリーがなくなってしまうと思い、真顔になった。
ドラグフィード学園の園舎に到着。馬車を降りて園舎を見ると、首がもげそうなほど上を向き、やっとてっぺんが視界に入るほど大きい。
オリオンたちの横に同じように口を開き、度肝を抜かれている少年がいた。
「うわぁー、でっかー、こんな場所で勉強できるのか」
短い橙色髪をかき上げ、やる気に満ちた表情を浮かべている少年は、オリオンと似ても似つかないほど鍛え抜かれていた。
身長は一七〇センチメートルを超え、剣の柄を見るとぼろ雑巾のように汚れている。
だが、泥が付いているという訳ではなく、滑り止めの布が汗を吸い、黒く変色してしまっているだけだ。
「むむ、お前も今年入学するのか?」
「お前もってことは、君も今年入学するの?」
「いかにも。俺様はオリオン・H・ハワード。リオンと呼ぶがいい」
「リオン……。ああ、僕の名前はライアン・パワー・ハートフル。ライアと呼んで」
「ライアか。これから、三年間、よろしく頼む」
オリオンとライアンは手を握り合わせ、軽く体を接触させる。