原因を探す
一二月二〇日、午前八時頃。
イーグル冒険者ギルドの食堂でオリオンとアレックス、ライアンは朝食を取りながら計画を立てていた。
オリオンの前に二〇人前のサンドイッチが鎮座する。
そのほぼ全てが、彼が頼んだ品だった。
「こいつ、ほんとよく食うな……」
「寮でも、こんな感じですよ。頬袋にどんぐりを溜めまくるリスみたいでかわいいですよね」
「リス? そんなにかわいくないだろ」
オリオンはサンドイッチを無我夢中で食べる。意識を持っていかれており、アレックス、ライアンは彼が食事を終えるまで話合いは出来ないと判断した。
すべて食べ終わったころ、オリオンは昨日、たどり着いた考えを二人に打ち明ける。
「毒物で魔物が狂暴化しているのか?」
「そんなことって、ありえるの? リプバリク王国って、ルークス王国と仲がいいんじゃなかった?」
「あくまでも可能性の話だ。まだ、何の根拠もない。だが、一パーセントでも可能性がある。危険視した方がいいと判断した」
オリオンは両手を握り合わせ、揺るぎない瞳を両者に向ける。
「少なからずスタンピード紛いな事態は起こり得る状況だ。冒険者ギルドにすぐ働いてもらわないといけない。俺様達は本職じゃないからな、調査の方に専念するのはどうだろうか?」
「できれば魔物の討伐に専念したいところなんだがな」
「リオンの考えはちょっと行き過ぎている気もするんだけれど」
アレックスとライアンはオリオンの考えに賛同しかねた。話が大きく、まだうまく理解できていない。
ルークス銅貨一枚やルークス銀貨一〇枚ならすぐに想像できる。だがルークス金貨一万枚といわれても、どれだけの価値があるかわからないのと同じだ。
「では、魔物を倒しながら調査する。それで文句はないな」
オリオンたちは各所で魔物を討伐しながら魔物の狂暴化と魔石が消失している原因を探る。
オリオンから一番遠い席に座っていたフードを被る冒険者たちの視線が彼に向けられているのを、アレックスだけが二日酔いの残る状態で察した。
昨日と同じく、東の森に足を運ぶ。昨日の夜中に振った雪が、三〇センチメートルほど積もっており、足場はかなり悪い。
「こりゃ、別の場所に行った方がいいかもな」
「これだけ足場が悪いと走るだけで体力を奪われますからね」
アレックスとライアンは腕を組みながら引き返そうとする。
「では、馬ゾリで移動するとしよう」
オリオンは財力を惜しみなく活用し、雪道でも移動を可能にする。
ルークス帝国の危機に金を残しておいても何の意味もないと判断した。
「結局金か」
「リオンって、お金持ちなの?」
「金は手段でしかない。必要なのは結果だけだ。では、行くぞ」
「お前は座っているだけだけどな……」
アレックスは手綱を握りながら馬を操る。歩行よりもはるかに早く、雪道を進んだ。凍てつく風が吹きっ曝しのそりに乗る三人の体を凍えさせる。
「あぁ、女の温もりが恋しい。ヴィミの胸に包まれたい」
「おまえ、一五歳だよな?」
ロッドドッグに襲われた場所に到着し、アレックスは馬をいったん止める。
死体は魔法で焼いたため、残っていない。辺りを見渡しても、魔物がいる気配はなかった。
「毒物を魔物に食わせるならば、水に含ませるか食い物に混ぜ込むのが手っ取り早い。川ではなく、水溜まりや泉を探す」
オリオンの指示の下、アレックスとライアンは魔物に警戒しながら、水源を探した。冬場の水源は凍っている場合が多い。毒物が地面に流れず、残っている可能性は高い。
「鳥やリス、兎を探せ、奴らは雪を食わん。水を飲みに向かうはずだ」
オリオンの言う通りに動物を探すが、見当たらない。冬場とうえど少しはいるはずだ。なのに、足跡すら見つけられない。
「アレックス先生、リスの巣穴を見つけました」
ライアンの指さす先に、木に空いた小さな穴が見える。アレックスが魔物に気を付けながら穴を覗く。
「眠っているのか?」
巣穴を広げ、取り出すがリスは動かなかった。
「これは冬眠ではなく死んでいるな。冷たすぎる」
冬眠していたとしても、生き物ならば微かに暖かい。しかし、リスは氷よりも冷たくなっていた。
寒さのおかげで腐敗は進んでおらず、新鮮そのもの。冬眠する種類のリスではないのに加え、寝床に大量に木の実が詰まっていた。餓死ではない。
ただ、体の毛を無理やりむしったような妙な跡がいくつも残っていた。苦しみ藻掻いたように見えなくもない。
「ここら辺にある水辺を探すとしよう。何かしらわかるかもしれない」
「なら、お前達だけで行け。俺は馬を守っている」
「ちょ、アレックス先生、生徒だけに森の中を進ませるんですか」
「雪は降っていないし、まっさらな地面を踏んでいくんだ。迷いようがないだろ」
「まあ……、そうですけど」
「狭い場所で固まっても仕方がない。馬を野蛮な奴らに取られるかもしれないだろう。それに俺がいなくても、オリオンとライアンだけでも、魔物は無理なく倒せるはずだ」
「三人が森に入って皆、遭難してはドンロンまで助けを呼びに行くことも出来ない。一人残るのは悪くない判断だ。大人の体格より、まだ、俺様達の方が木々の間を移動しやすい」
オリオンは雪を踏みながら、森の中に入る。
ライアンは白い息を吐きながら、躊躇なく歩いていく大きな背中を追った。
水辺を探して歩いていると、清流のせせらぎが聞こえた。真っ白な紙に黒い線を書いたように流れる小川を見つけた。ギリギリ凍らない水の量が森の地面を抉ってくぼんだ部分を流れている。
「この流れの弱さなら、そう長く続いていないはずだ。近くに水が溜まった箇所があるかもしれない」
小川の流れる道に沿って歩く。小川を歩いたほうが楽だったため、躊躇なく飛び込む。水は死ぬほど冷たいが、靴は防水性で内側にしみてこない。