癒着
俺は、老中 秋元喬知 (たかとも)の屋敷に匿われたまま、深いため息をついた。
高野、吉村、岡部も同行し、事の顛末を詳細に話す。
長屋での襲撃、権藤一家の差し金であったこと、町奉行の理不尽な死刑宣告、そして越後屋が間一髪で救ってくれたこと。
秋元は、重々しい面持ちで聞き入った後、肝心の道具の所在を尋ねた。
「その肝心の道具というものは、どこにある?」
俺は少し躊躇したが、正直に答える。
「長屋に置いていました。しかし、私が逮捕されたため、現状はわかりません」
秋元の眉が険しくなる。
「なるほど……急を要する。急げ。」
直ちに秋元は馬を走らせ、町奉行に道具の所在を問いたださせることにした。
捕方が奔走する間、翔馬たちは屋敷の一室に集められ、緊張の面持ちで待機する。
やがて、報告が届く。
「押収された道具は既に、町奉行の手に渡った後に勘定奉行 榊原主水の手元に移されたようです!」
胸中に、むっとした熱がこみ上げる。
権藤一家の差し金による襲撃と、勘定奉行、町奉行の癒着が鮮明になった瞬間だった。
「……やはり、思った通りか」翔馬は低く呟く。
高野が隣で肩を叩き、吉村と岡部も顔を強張らせた。
表向きの幕府の顔と、裏で糸を引く権力者の存在。
秋元は深く息を吐き、席を正す。
「ここまで明らかになった以上、私が動かねばなるまい。勘定奉行と町奉行の間に、これ以上の余計な策謀は許さん」
俺は拳を握りしめる。
ーーー
場所は勘定奉行。
秋元の護衛団が雪崩れ込むと、勘定奉行 榊原主水は慌てふためいた。
榊原の耳には、まだ町奉行のいきさつは伝わっていなかった。
「なんだ貴様ら!え?老中秋元さまの?… お、お待ちください!何事ですか?私は何も……」言い訳する声は震えていた。
「町奉行から運ばれた道具はどこだ?」
「知りませぬ。何も知りませぬ。」
しかし、町奉行も権藤一家の取り巻きも既に口を割った、と囁かれるや否や、榊原の顔色は一気に青ざめる。
「う、裏手の倉に……」力なく答える榊原。
倉の扉が開かれると、個人的に収集したと思われる金品や骨董品がゴロゴロと現れた。
その圧倒的な財宝の山に、秋元の護衛団は即座に押収の手続きを進める。
榊原は乱暴に縄で縛られ、護衛団に引きずられながら馬へと連行される。「はやく歩け!」と罵声が飛ぶ。
同時に、権藤一家にも捜査の手が伸び、翔馬が負傷させた6人を含む総勢20人が拘束された。
30数人の組織はほぼ壊滅状態である。
トップの 権藤清吉は、固く閉ざされた口をやっと開く。
「助けてくれ……無理やり汚れ仕事を押し付けられたんだ…」懇願しつつ、一部始終を吐いた。
権藤は、榊原との癒着、町奉行への裏金・便宜供与、関連する役人の名前まで詳細に語る。
その結果、死罪は免れ、他の下っ端たち含め、島流しの処分となった。
榊原は死罪。町奉行に関わる癒着役人も、同じく死罪となる。
榊原は、立場をいいことに、翔馬が披露した発明品を我が物にしようと裏で働きかけたのだが、かえって上の存在からそれを暴かれた構図になる。
金目の押収品は多岐に渡り、榊原に見せながら、どうやって入手したのかを拷問して口を割らせる。
そして、悲鳴の後、死んだ目でひとつひとつ赤裸々に話す元重鎮。
翔馬は屋敷の庭先で、冷めた目でその一部始終を見届ける。
江戸の裏社会と幕府の腐敗の一端が、目の前で白日の下にさらされた瞬間だった。