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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ− - 蒼槍城 その二
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今はただ「この」己に掛けて −複数の加護と前世の「知識」を持つ俺は、親友勇者と離れアイデンティティを保つ−  作者: ダメ親父
第一章 追憶の中の旅立ち、秘密を共に

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蒼槍城 その二

「ハハ、気にせずともお座り下さい。

どうしてもと思われるのでしたら、着替えられてはどうですか。

少しは気持ちが楽になると思いますよ。」

ノックに続いて名乗ったガスリーさんに入ってもらったら、困り顔で立ち尽くすアーネスを見て言った言葉だ。


クラウディアさん、イザイルさんが出て行った後、しばらく固まっていたが、結局俺達は腕を組んで唸りながら立っている事しか出来なかった。

寝室を覗くのも正直ちょっと怖かった。

好奇心より怖さが勝るのは初めてだったし、アーネスのそんなところを見たこともなかった。

アーネスは目で「どうするよ?」と言ってきたが、俺にもわからなかった。

アイツの知識にも、貴族の屋敷での振る舞い方なんて無いし。


二人してただ困惑していたところに、ノックが響いた。

入ってもらったガスリーさんの生暖かい表情に、顔が熱くなったけど、今は真面目に助けて欲しかった。

「伯爵様に報告に上がる前に気になって来てみましたが、どうやら感が正しかったようでなによりです。

日が射して少し暑いようですね。

窓開けますか。」

そう言って窓に寄ると、外開きの窓を開け放った。

深いワイン色のカーテンの両脇に下がった、先に赤い玉が付いた革紐がスッと上がる。

大きな窓を閉めるのに身を乗り出すのは、ちょっと怖かったけど、アレを引けば閉まるのね。

「寝室にはバルコニーがございます。

出てみて下さい。

当家自慢の庭が一望出来ます。

気持ちいいですよ。」

振り返ってそう言ったガスリーさんの顔は、相変わらず優しげだ。

「さて、この後の事ですが、お食事の後で伯爵様がお会いになられるでしょう。

その際に何か希望がないか聞かれますので、考えておいて下さい。

余程無茶な要求でも無い限り、聞き入れてくださいます。

入り用な物は何でもクラウディアにお申し付け下さい。

マローダ殿は明日、みえられます。

お二人について打ち合わせがあるので、日暮れ前までは残られます。

伝言があるなら、それもクラウディアにどうぞ。

それと一応食事は我々と同じ物を用意する事になっております。

私が言うのもなんですが、貴族の饗す料理はお二方には合わないでしょうしね。

ではこれで。」

そう言って立ち去ろうとしたガスリーさんをアーネスが呼び止める。

「あの。」

「何かございますか。」

「トイレって。」

「これは失礼。

私の実家も庶民なのですが、この暮らしに慣れすぎて失念しておりました。

途中一つだけ意匠が違うドアがあったでしょう。

あちらでございます。

クラウディアにはトイレの案内は必要無いと、申し渡しておきましょう。」

「あの、俺からもいいですか。」

ガスリーさんは眉だけ動かし促す。

その仕草、格好いいな。

「服を見てもらいたいんです。

持っている服で失礼が無いか聞きたくて。」

俺の言葉に微笑むように目を細めたガスリーさんは、ドアの脇の革と赤い布を編んだ少し太い紐を指すと、

「練習だと思って隣室に控えているクラウディアを呼んで、彼女に聞いて下さい。

彼女の方が相談にふさわしいでしょうから。

彼女は普段、オシャレでね。」

そう言って一礼すると出て行った。

「俺、トイレ。」

続くようにアーネスも出て行く。

本当にトイレに行きたかったのかい。

俺は一人になって小さく溜息を吐くと、とりあえずクローゼットを開けて衣類を詰めた鞄を取り出すと、まだ袖を通していない麻の生成りのシャツと、濃紺のズボンを出して着替えた。

ソファはまだ気が引けたので、椅子を引いて座る。

背もたれに背中を預けると、自然と溜息が出た。


あの日。

親のメスが狩られた日。

別動隊が全て戻ると、騒ぎは最高潮に達した。

その前から酒盛りが始まったが、俺達は指を咥えて見てるしかなかった。

戻った別動隊が混ざり正に最高潮って時に、頭の上に「ソワァ」を幾つも浮かべていたアーネスが動いたのに釣られて俺も混ざろうとしたら、いつの間にか背後に立っていたアイザックさんに、二人して首根を掴まれテントに引き摺り戻された。

テントの上に頭を擦り、突き破る勢いで仁王立ちするアイザックさんに無言で睨まれ、ちょっとだけ泣いた。

アーネスも。

何だあの迫力。

ちなみに姐さんは、引き摺られる俺達を見て、ミラさんの首を極めながら爆笑してました。

高速でタップするミラさん。

そっと離れるザラさん。

クソ、楽しそうだったな。


その後、三度目の麦粥を持って来たアイザックさんに、溜息を吐いたアーネスが額を擦り合わされながら睨まれて、半泣きで謝ったり、酔ったアイギスがけたたましく笑いながら入って来て、半裸になるまで脱いだ後、ワザとらしく、「間違えちゃった〜」とか言ってそのままの格好で、サイズがおかしい胸を揺らしながら出て行ったり、姐さんが何故か号泣しながら入って来て、俺達に首がもげるかと思う勢いのビンタして出て行ったりした。

思い返してつくづく思う。

何だあのカオスな時間。


その後は、警備隊の人達やバロウズさん、グレンさんが入れ替わりやって来て、お礼やねぎらいの言葉を掛けてくれたり、会った事がなかった騎士隊長のボルドーさんが来て、やっぱりお礼とねぎらいの言葉をもらった。

その時にボルドーさんが、

「我々は明日の早朝帰還する。

この村には二班が残りおよそ一月程度、交代で探索と警戒を続けるので安心してくれ。」

と言ってから出て行った。

確かに安心だ。


俺達はシーツを被って横になったが、騒ぎが割と遅くまで聞こえて来てたり、大きな勝鬨が聞こえた後、お開きになったかと思ったら、それぞれのテントに歌いながら戻る冒険者達の声が聞こえたり、高笑いする姐さんと、それをなだめるミラさんの声が聞こえたり、高笑いするアイギスの声が聞こえたりで、なかなか寝付けなかった。

クソが。


翌朝、ほぼ同時に目覚めた俺達は外に出て深呼吸すると、軽く屈伸をしたりして体を伸ばした。

やっぱりちょっと牛糞臭かったり、それに焦げた匂いが仄かに混ざってたりしたけど、気持ちのいい朝だった。


丸八年。

同じ生活ペースで暮らした俺達は、眠気が来るのも、起きるのも殆ど一緒だ。

「勇者を打倒出来る者」

コレが無ければ、もう少し晴れやかな気分になれてたのかもしれない。

無二と言える親友の隣で。

「出来る」ってだけならいい。

そうならないように立ち回る事も出来るし、アイツの話の自称神々が介入して来なければ、どうとでもなる。

だけど。


「早いね。お前達。

おはよう。」

テントから出てきた姐さんに挨拶され、俺達も頭を下げる。

酒が残ってる雰囲気はない。

「イヤァ、昨日はしこたま飲んだね。

あんまり覚えて無いよ。」

そうですか、幸せそうで何よりです。

器を取りに来たアイザックさんにスルーされて、夕べあなたに殴られたところがまだ痛いんですよ。

アーネスが頭を上げて駆け寄る。

理不尽ビンタの後でもまだそれか。

忘れられない俺と違って、根に持たないお前が羨ましいよ。

「いい天気じゃないか。

お前達も、心置きなく帰れるね。

本当にいい日だ。」

姐さんはそう言って、ニカっと笑いながらアーネスの頭をくしゃくしゃにした。

全く。

この人には勝てそうに無い。


その後、俺達は顔を洗って身支度を整えた。

壊れた革鎧をどうしたものかと思っていた所に、姐さんが呼びに来た。

「あ〜、鎧は駄目だね。

特にアーネスのは。

古布として売っちまいな。

タダ同然だろうけど、石鹸位なら買えるだろうさ。

手甲と脛当ては伸びちまってる所から切って、分割にして貰えばいいんじゃないかい。

買い替えより、加工賃の方が安く済むし、物は悪くないからね。」

そうアドバイスをくれた姐さんに感謝だ。

そんな手があったのか。

「ありがとうございます。全部買い替えかと思ってました。」

「まあそれも領都に戻ってからさ。

それに王都に行くならそっちで買ってもいいじゃないか?

物は質も量も王都の方が豊富だって言うからね。」

確かに。

朝はアイザックさんの許可が出たので、姐さん達と取った。

ザラさんが作ってくれた、刻んだ干し肉と野菜のスープ。

美味かった。

特に大きく切って入っていた、芋がホクホクしてて美味かったな。


「報酬は、金貨三十八枚と大銀貨十五枚、小銀貨三枚です。」

「は?」

「一人金貨七枚、大銀貨十五枚、銅貨六枚ですね。」

「マ、マイラさん?」

「それと、まだ受け取られてないと警備隊から預かっている報酬が、お二人には大銀貨三枚づつあります。

またミラさん、ザラさんには二日目以降の参加報酬と、発見した死骸の魔石分は後日、別途支払われます。」

「いや、あの。」

報酬の確認に来て、告げられた金額に戸惑う。

混乱する俺の肩に姐さんが手を置く。

「何も間違っちゃいない。」

イヤ、おかしくくない。

金貨一枚かそこらだと。

「昨日のお前達の様子から、親の魔石や討伐報酬の一人占めは嫌がると思って、あらかじめ話を付けてある。」

なら、なおさらおかしいでしょ。

混乱し続ける俺にマイラさんが、スッと書類を差し出した。

報酬の内訳だった。

「ムカデ四体討伐、大銀貨三十二枚

魔石四個、金貨五枚

頭部買取(通常買取)、大銀貨三十二枚

親ムカデ(オス)討伐、金貨二十枚中八枚(騎士団:他のパーティ:俺達 ニ:四:四)

魔石、金貨二十五枚中十枚(上記同様)

頭部買取、金貨三枚(騎士団、他のパーティは辞退)

探索で発見された焼死したムカデ五十二体討伐、大銀貨四枚小銀貨三枚(全体の一割、死骸で発見された物のみ)

探索で発見された焼死したムカデの魔石五十二個、金貨六枚大銀貨十枚(上記同様)

参加報酬一日、大銀貨四枚

以上。」

あれ、意外と妥当だ。

「銅貨になってる分はお前達にやるよ。いいよなミネア。」

「ああ、それくらいならいいさ。」

「お前等の三日分の食費は返すぜ。ミネアは食ったから返さん。」

あれ、小金持ちになった?

俺達。

計算あってるかなぁ

検算したけど自信なし


次回 蒼槍城 その三

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