躊躇い
そうして今、俺の目の前には、
「まさか、当たるとは思いませんでした」
それはこっちだってそうだ。いや、薄々当たる気はしていたが、出来るだけ考えないようにしていた。
「・・・ほんと。運が悪い」
「あれ?もしかしてようやく情が湧いてくれました?」
「湧いてない」
「へぇー。そうなんですか」
あぁ。前言撤回したい。こう言ってしまったら、俺が本気出さないといけなくなってしまう。
「じゃあ、本気出してくれますか?」
だろうなぁ。はぁ。前言撤回したい。
「さぁな。俺は、いつでも本気だぞ?」
「嘘つかないでください。私は知ってるんですよ?」
「知った口を聞くな。・・・何も知らないくせに」
「本当に、そう思ってるんですか?実は、知り尽くしているかもしれませんよ?」
もしこいつが転生者だったら、俺のことを知っていても無理はないが・・・おそらくこいつは転生者ではないだろう。いや、転生者ではあるのだが・・・記憶がない以上、転生者というわけではないだろう。
「じゃあ、本気出してくださいね?」
そうして、その瞬間、
「始めてください」
「私も手加減しませんし・・・手を抜いたら、怒りますよ?」
刹那、みぞれが先に動き始めた。ただ、実力がないからか・・・それとも、俺の動体視力が育ちすぎたせいか・・・動きは視認できる程度だった。俺の実力があれば、瞬殺をすることも出来るだろう。しかし、相手はみぞれ。俺に、そう言った芸当は出来ないのである。
「動かないと、重傷を負いますよ?」
この世界は、異能力が存在しない実力主義の世界。相当筋力が発達していない限り、俺に傷を与えるのはまず難しいだろう。そして、俺はみぞれの攻撃を避けながら考える。
「意外と、スピードはあるんですね」
「そりゃあな。実力がないと生きていけないからな」
「貴方は、いつも怠惰でしたから、正直そこまでの瞬発力があると思っていなかったです」
出来れば、こいつに傷は与えたくない。だって、既に俺は彼女に情が湧いてしまっているから。だから、傷をつけてしまうと、罪悪感が湧いてしまう。
「すばしっこいですね・・・!!」
少し、みぞれが声を荒げる。どうしようか。と、俺は考える。平和に終わらすには・・・方法は幾らだってある。しかし、どれも必ず良い結果だとは限らない。流石に、俺も試験に負けるわけにはいかない。
「はやく、攻撃してくださいよ。私、そういうの嫌いなんです」
「悪いな。こっちにも作戦ってもんがあるんだ」
「ふーん。そうですか。でも、こちらとしても気分が乗りません。攻撃をしてみてくださいよ」
そう促されて、俺は悩む。傷をつけない程度にだったら・・・いいか?しかし、手を抜いたら、こいつは怒るだろう。それにさっきの発言から・・・曲がったことは嫌いなんだろう。だから、一方的にみぞれが攻撃を仕掛け続ける状況というのが気に食わないんだろう。だったら、傷をつけない程度の本気で・・・。
「歯食いしばれよ?」
俺は、彼女の懐に潜り込み、
「っ・・・!!」
そのパンチは、見事に炸裂した。しかし、俺が加減をしたせいで・・・ダメージは負っていないようだ。
「それは、本気なんですか?」
「あぁ。紛れもなく本気だよ」
「そう、ですか。中々やるじゃないですか」
再度、俺は考える。どうするのが、正解だろうか?一番の平和的解決に持ち込むためには。まず、この試験の勝利条件は、相手が降参するか。もしくは相手が動けなくなるほどまでに追い詰めるかのどちらか。この時点で、追い詰める方法は無理だ。そして、降参。持ち込むことは出来るだろうが、それだとこいつの学園生活が怪しくなってしまう。
「くっ・・・」
「そんなに考え込んでどうしたんですか?その状態で私の攻撃を避け続けるのは体力が持たないんじゃないですか?」
ただ、教師は言っていた。この試験が不合格になってしまっても、退学になることはない。ただ、成績がまずくなってしまうだけ。そして、俺もみぞれも前の試験は合格をしている。だったら、そこまでマイナスを受けることはないだろうが・・・。逆に、負けてしまうと昇格が難しくなるだろう。
私は、目の前の男の子・・・無叶大和君に攻撃を仕掛けていた。しかし、何度何度、攻撃を仕掛けても、一向に攻撃が通る気配がなかった。私は、そう言ったことが嫌いだ。
「ねぇ、どうして攻撃を仕掛けてくれないの?」
「なんでだ?攻撃をしているだろ。それに、俺には作戦があるって言ったよな?」
おそらく、それ以外の思惑があるんだろう。私は、そう感じ取っていた。どうしたら、彼は攻撃を仕掛けてくれるのだろうか。彼に攻撃を引き出すには・・・どうしたらいいだろうか?
「じゃあ、どうしたら攻撃してくれる?」
「どうしてそんなに攻撃させたい?一方的に攻撃して、俺に勝ったらお前の利益になるんだぞ。そして、相手は攻撃を繰り出さない。そんなチャンスを、なぜ自分から消しに行く?」
「私は、それが気に食わないんです!!正々堂々、戦いたいんです!!だから、攻撃をしろって言ってるんじゃないですか!!」
私の怒号が、飛び交った。どうしたらいいのか、わからなかったから。・・・と、私が立ち尽くしていると。
「言った言葉、撤回するなよ?」
刹那、場の空気が一瞬にして変わった気配を、私は感じ取るのであった。