その、便利だなーって
「さてと! じゃあご飯を食べましょうか!」
「え? あ、はい。俺、邪魔しないようにどっか行ってたほうがいいですか?」
「一緒に食べるんですよー? 言っとくけどご飯代とか絶対受け取りませんからね」
「え。ありがとうございます?」
「よし。じゃあ調理手伝ってくださいねー」
言われて、流されるままにキコリはアリアと台所に立つ。
水道にコンロ、冷蔵庫……この世界には、魔石を利用したそうした器具がある。
文化としてそういうものが生まれるのは自然な流れなのだろう。
しかし……なんとなく、キコリは他の転生者の存在を疑ってもいた。
自分1人が転生した人間だと思う程、自分が特別だと思ってはいないからだ。
まあ、魔石代が高いので自分が生まれた村では神殿くらいにしかなかったのだが……。
「さて、何にしましょうかねえ。あ、お肉があるか。これでいいや」
肉の塊をドンと出すと、アリアはそれを分厚めに2枚切り出す。
「キコリ、お皿出しといてください」
「はい」
棚を探し、適当な平皿を2枚出す。
ジュウジュウと肉が焼ける音は実に豪快で。
手持無沙汰になってしまったキコリは、その手元を皿を抱えたまま見つめている。
「どうしましたー? 私の家庭的なところにビックリですか」
「その、便利だなーって。こういう魔石を使った諸々が」
「あー、確かに。私のお母さんが生まれるよりもっと前でしたかね? こういう家庭用魔石道具の基礎を作った人が居たらしいですよ」
「そうなんですか。そんな昔に……」
「凄いですよねー。馬車とか武器とかの改良にも着手したらしいですけど、そっちは上手くいかなかったみたいですね」
車や銃のことだろうか、とキコリは思う。
何故上手くいかなかったのかは分からないが……まあ、キコリに真似できる事ではないだろう。
「なんで上手くいかなかったんでしょうね」
「さあ。伝記とかだと『法則が違う』って何度も言ってたらしいですね。ま、天才にしか見えない世界があったんでしょう。晩年とか『俺はずっと間違えていた』って言いながら死んだらしいですから」
「なんか怖いですね」
「そうですねー。興味があるならそっちの本も今度読ませてあげますよ」
正直、少し興味はある。曖昧に頷く間にも肉は焼け、一口サイズに切ったらサラダと一緒に盛ってステーキセットが出来上がる。
「さ、食べましょうか! いただきます!」
「いただきます」
塩コショウで味付けしただけの、良く焼いたお肉も、新鮮なサラダも。
どちらも、物凄く美味しくて。たぶん、こんなに楽しい食事は……今世では初めてだろうと。
キコリは、そんな事を思っていた。