両国からの依頼と入学式 61
宇宙を夢見る一人の女子高生と、最先端AIが導く日常。
地球と宇宙を舞台に繰り広げられる、テクノロジーと絆が交差する日常を描いた物語。
これは——とある家族と、その未来を切り拓く少女の軌跡。
静かに、しかし確かに進む“日常”の中に、宇宙の鼓動が聞こえる。
「融合炉エコなエネルギーですしね」
とゆきなが笑顔で言う。
その流れで、ジャックが本題に入った。
「今回のご用件は……実は、自前で月からの抽出も可能ではあるのですが、少しヘリウム3を分けていただけないかと」
「なるほど。効率的な観点から、非効率なことを続けるより交渉して手を組む方が得策だと判断したのね。交渉の余地はあるわ」
ゆきなは画面を見つめながら、さらっと加える。
「あと言っておくわ。こちらの融合炉の効率なら、70%近く向上する可能性があるの。今の出力の15倍が実現できれば、正式な相手として画面表示できるわ」
「副艦長、今使っているこの本艦の融合炉。真ん中に構造図を入れてくれる? 技術的な解説はいらないから」
「はい、表示します」
画面に切り替わる出力グラフとエネルギー供給量に、両国の担当者が息を飲む。
「見て。この供給量でこの出力、そして安定性。参考までに写真、撮ってもいいわよ」
「どうぞ。今回の件、実験が継続できるようにこちらも協力するわ」
その瞬間、画面越しの2人の表情がふわっと安堵に染まった。
「それとね、地球にも少しいいことしてあげたいの。この余剰電力で、地球上の二酸化炭素をドライアイスとして1×10×1メートル単位で確保してくれないかしら? その量に応じてこちらから支給する」
「なるほど……」
「地球のCO₂削減にもつながり、かつエコに。宇宙空間に投棄するなり他の用途に使うなり発表は、お任せするわ。達成した段階で連絡ちょうだい」
「承知しました。検討させていただきます。ところで、どれぐらいの量をご希望されますか」
「あればあるだけ受け取るわよ」
「一本に対してどれぐらいのヘリウム3が欲しいなども合わせて検討しておいて。何か見えてくるかもしれないわ」
一通り話が終わると、相手がふと思い出したように尋ねる。
「今回の件を受けて、宇宙ステーション救助に“隣人”がいるということを公表してもよろしいでしょうか?」
「それはお任せするわ。両国にとって利益になると考えるなら、ぜひ発表して。あと、あの英雄たちに慰労と報奨をお願いしたいわ」
「ご配慮、感謝いたします。では、また通信いたします」
通話が終わり、エレナが笑いながらつぶやいた。「艦長、すごいですね。あの燃料がキーだって、よく見抜きましたね」
「人間の進歩の原点はね、欲望と夢のかたまりなのよ。始まってしまったら、止まりたくない。どれだけ進まなくても、今できていることを手放したくないの」
「……なるほど、理解しました。でもCO₂の件は見事でしたね。」
「でもなんで液化CO2でないんですか?」
「単純に輸送しやすいだけよ・・圧力容器もいらないしここから10分で着くじゃない。」
「それはそうですね!これで私はあまり何もしなくて済みそうです」
「ひどいわね。私は効率的で、楽で、そしてどちらの夢も叶う形を考えてるのよ」
「そこが、素敵なんです」とエレナは優しく笑う。
——ほんの短い時間だったけれど、確かに成長を感じるやり取りだった。
そして転送装置が起動し、2人は無事、自宅へ戻ってくる。
「お母さん、晩ご飯なにー?」
リビングからそんな声が響く。
新学期は、もう明日だ。
次の日の朝。
「あーあ、ついに私、三年生かあ……」
春の風にスカートが揺れる中、ゆきなはそうつぶやきながら十字路の階段を降りていた。
そのとき──
「せんぱーい!」
元気な声が後ろから飛んでくる。振り向けば、理科部の後輩たちが数人、制服に袖を通して集まっていた。
その中に、ちょこんとみすずちゃんもいる。えれなも隣に並んで照れたように笑っていた。
「高校入学式だねー」
ゆきなが言うと、えれなもみすずちゃんも、少し恥ずかしそうにうなずいた。
「さてと、私はどのクラスになるのかなー」
去年と同じ校舎、同じフロア。3年生のクラス分けが掲示されていて、ぞろぞろと人が集まっていた。
──見た瞬間、ゆきなは固まった。
「あら……浅香先生、三年の担任になってる……って、私の担任!?」
掲示板の前で絶句。
「……これ、どう考えても何かの策略よね……」
そうつぶやいて、荷物を持ち直し、3年2組の教室へ向かう。
教室に入ると、聞き慣れた声が響いた。
「はーい、担任になりました浅香です!」
相変わらずテンション高めの先生が前に立つ。
「今まで1年生の担任だったけど、いきなり3年! まあ、大人の女性仲間としてよろしくね」
「えーーー!」とクラス中から笑いが起こる。
「……って、そこのゆきなさん! 年齢とか、そういうのはバラさないの!」
「はいはい……」と苦笑しながら返す。
「じゃあ、始業式いくわよ! 入学式も控えてるからねー」
繰り上げ組の生徒たちは朝から準備担当。新入生とその保護者は午後から来校予定。
ちなみに、ゆきなの両親は今日は弟くんの入学式の方へ。
「お姉ちゃんよろしくね」と、頼まれていた。
始業式を終えて教室へ戻ると、三年生向けの教材や制服の案内、年間スケジュールの配布。
その後は入学式までフリータイム。2年生は午前中で帰宅らしい。
ゆきなは部室へ向かっていた。
ドアを開けると、あっ……やっぱり来てくれてた。
可愛い2年の後輩たちが、少しそわそわしながら待っていた。
「さーて、えれな、お願いがあるの」
腕時計にそっと声をかける。
『はい、なんでしょうか』
「昨年の1年間を8分程度のスライドショーにまとめてくれる?」
『承知しました。……精製中。ムービー形式で作成完了。部室PCへ転送済みです』
「こうやって見ると、やっぱり濃い一年でしたね」
「ほんとにねぇ……今年は新入部員、もう2人は決まってるけど、もっと増えるといいなぁ」
ゆきながムービーを再生すると、後輩たちは目を輝かせる。
「うわぁ! かっこいい〜〜〜!」
──スライドショーには、文化祭、観測会、種子島合宿、研究発表、宇宙船ミッション……
理科部の濃厚な一年が詰め込まれていた。
『昨年、お姉様が作ったものを参考にして、同じ雰囲気に仕上げています』と、えれなが言う。
「びっくりしたわよ、雰囲気がもうベストすぎて」
「ほら、ここまでは2人で作ったの。あとは……可愛く感想をムービー中に書き込みなさい。私は見ないから」
後輩たちは笑いながら頷く。
「可愛い次の世代の理科部のために! 書き込みしなさーい」
「ゆきな先輩、厳しい〜〜〜」と言いつつ、後輩たちは真剣な表情に切り替わっていった。
「今回は、ここの作業、後輩に任せるからね。明日は部活紹介あるし、今日来たことをちょっとだけ後悔するくらいには、頑張って(笑)」
思い返せば、去年はルンルンで1人で作ったっけなぁ……
ふと、懐かしくなって旧理科部のグループLチャットを開く。
まだ文字が入っていない状態のムービーを添えて、
『先輩方、一年間でここまで来ることができました。あなた方の思いは、次の代へちゃんと受け継いでいます』
と、メッセージを送信。
すると、続々と返信が。
「わーーーすごーーい!」
「やりすぎじゃない?(笑)」
「JAX⭕️の感謝状とかもらってるし!」
「夏休みに合宿あるなら絶対呼んで!」
「ぜひーーーーー!」と、卒業生からの反応も次々と返ってくる。
そのやり取りを見ているだけで、ちょっと胸が熱くなった。
入学式の時間が近づき、後輩に一言。
「じゃあ、後はよろしくね」
「はーい! 行ってらっしゃーい!」
これで、私がいない来年も、きっとちゃんと回っていく。
見届けることはできなくても、今度は卒業生として呼ばれる日を楽しみにしよう。
──うわ、今の思考……おばちゃんくさいかも。やばい。
ゆきなが苦笑いしていると、体育館からアナウンスが聞こえた。
「新入生、入場です!」
ゆきなは拍手しながら、一年生たちを静かに見守っていた。
さあ 新規の新入部員ははいるのでしょうか!
たのしみです!
お好きなところにアクション・評価・ブックマークをお願いします。
モチベアップのためにぜひ・