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物理特化の回復職 - 思惑
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物理特化の回復職  作者: 昼熊
クラス対抗戦
39/42

思惑

 二回戦は六クラスしかない為に一回戦は出番のなかった4組との戦いとなる――予定だったのだが相手が棄権した為に、ライトたち6組は不戦勝となった。

 一度しか戦わないで決勝進出を決めたライトたちの相手は2組となり、会場に立つライトたちの前には、全身鎧に目元だけ空いた兜を装着した三人の神官戦士見習いが、鉄の壁となって塞がっている。

 後方に助祭見習いがいるのだが、ライトたちからは見えていない。


「神官戦士三名という構成ですか」


 中の生徒たちがどのような外見なのか全くわからないが、高身長なライトと同じぐらいの高さはある三人の鎧を見る限り、かなり体格のいい面子を揃えて来ている。

 鎧の重厚さは迫力を増し、並の対戦相手なら戦意を削がれていることだろう。ライトは相も変わらず平然と佇んでいるが。


「ライトアンロックよ。何故、チーム戦に参加したのだ。サウスノースが勝ち抜き戦で戦うのを楽しみにしていたのだぞ!」


 怒気を孕む罵声を浴びたライトだったが、その顔に張り付いた笑みが剥がれることは無い。


「申し訳ありません。私としても是非、戦いたかったのですが……クラスの方針を優先にしなければならず、苦渋の決断をしなければなりませんでした」


「そうなのか。それは仕方がないな」


 鎧の中の人は素直な性格のようで、ライトの謝罪を疑うことなく受け入れている。

 目を伏せ、如何にも後悔しているかのような素振りをしているが、その姿を目撃した6組の全員が引きつった笑みを浮かべている。

 心の中で全員が「お前が決めたんだろう!」と叫んでいるのだが、その感情を何とか抑え込んだ結果、何とも表現し辛い表情が6組の席に並んでいる。


「対抗戦が終われば直接謝罪に向かいますので、よろしくお伝えください」


「わかった。ならば、もう我らに遺恨は無い。正々堂々戦おうではないか! さあ、かかってこい!」


「では、お言葉に甘えて」


 駆け足気味の中途半端な速度で間合いを詰めるライトを見て、三人の神官戦士見習いは巨大な盾を構え、肩に片刃の剣を担ぐ。

 攻撃を放った直後は誰しも隙が生じる。まず一撃を受け止め、その後に動きが止まった相手に渾身の一撃を振り下ろす。それが彼らの必勝パターンだった。


 ライトの怪力は重々承知している彼らに油断は無い。対策として、ただの盾ではなく特殊な仕掛けのある盾を用意している。

 従来の倍はある厚みに盾の下部から鉄製の杭が飛び出す機構が内蔵された、特注の逸品だ。その杭が地面に突き刺さることにより、盾がその場に固定され巨大な魔物の突進にさえ耐えられる。

 彼らには自信があった。実際今まではそうだった。

 そんな過去の栄光が頭を過ぎる彼らは螺旋を描きながら、粉砕された盾の破片がキラキラと煌めく宙を舞っている。


「ぐぼおおおっ」


 くぐもった声と鎧が地面に激突する耳障りな音が会場を満たすと、2組の代表選手で動けるものは一人もいなかった。助祭もいつの間にかクライムが倒していたのだが、また殆どの人が気づいていない。

 こうして呆気ない結末ではあったが6組がチーム戦を制した。





「ここまでは上手くいっていますね」


 観客席で昼食を口に運びながら、ライトは午前中の成果に満足していた。

 個人戦の助祭部門一位二位独占。神官戦士部門でも三位。チーム戦では優勝。その後の勝ち抜き戦では最下位だったが、それも計算の内だ。

 今のところ総合で一位は6組。ある意味、予想通りの展開ではあったが関係者各位は未だに、この現実を受け入れ切れていない。

 それは6組も同様であった。


 興奮が抑え切れず沸き立つ生徒たちに囲まれ、称賛の渦中にいるのはライト、ファイリ、マギナマギナ、セイルクロスだけではない。ウーワ、リーワ姉妹とクライムもチーム戦での功績を認められ、株が急上昇している。

 クライムは兎も角、双子の姉妹は支援魔法を唱えただけなので、居心地の悪い思いをしているのだが。


「しかし、意外だったのは2組の奮闘だな。二位の1組と数ポイントの差だろう。個人戦で当たった相手もかなりの猛者だった。侮れんぞ2組は」


 個人戦での戦いを思い出したのだろう。セイルクロスは左手を撫で、盾で受けた衝撃を思い返しているようだ。

 1組がここまで追い込まれている一因はライトであるのは間違いないが、それだけではない。

 1組はチーム戦一回戦敗退によりポイントが伸びず、勝ち抜き戦でも決勝で2組に敗退してしまった。


 誰もが予想していなかった2組の躍進劇に一役買っているのは、ゼロの異名を持つサウスノースの存在。そして、権力により腐敗が進み過ぎたエリート集団1組の当然の末路と言ってもいいだろう。

 まず、2組は各才能を生かし、適材適所で競技に挑んでいた。それにチームワークという点では最も優れていた。

 勝ち抜き戦では他クラスがライトを恐れて主戦力を避けてしまったが故に、サウスノースの独壇場となり苦も無く勝ち進めたのも大きい。


 そもそも、何故こんなにも1組が不甲斐ないのか。その原因を突き止めるには入学式の前まで遡らなければならない。学園側としては1組にファイリが加入することが決定事項だという油断があり、彼女がいれば1組の未来は安泰だと、今年は地位は高いが大して能力のない子供を大量に受け入れてしまっていた。

 その結果、本当に優れた才能を保有する生徒と、無能な生徒の両極端なクラス編成となってしまっている。そして、その過ちは更なる悪循環を生み出す、本来なら1組に入る予定だった才能のある者が弾かれ、2組へ流れ込んでしまったのだ。


 そんな状態であるにもかかわらず、6組の存在を警戒して個人が参加できる競技を一つまでに絞ったことが、1組の首も絞める結果へと繋がった。


「しかし、こんなにも順調ですと、何かしらの妨害行為がないとよいのですが」


 クラスメイトに取り囲まれているので淑女の仮面を被っているファイリが、自分に肩を抱きしめ怯えたような素振りを見せる。


「欲という名の贅肉に包まれた、腐敗した豚共が騒ぎだしてもおかしくはないな」


 中々強烈な物言いをするマギナマギナだったが、いつものわかりにくい独自の表現により相手を特定できないので、聞かれたところで問題はなさそうだ。


「用心に越したことはないか」


 セイルクロスも同意見のようで、周囲に険しい視線を飛ばしている。


「まあ、これで組戦を制すれば優勝は確定です。皆さん頑張りましょう!」


 珍しく声を張り上げ鼓舞するライトに、クラスメイトの士気も上がり「おーっ!」と拳を振り上げる。

 その様子を関係者席から見つめている視線があった。


「今年の6組は面白いことになっていますね。カリマカ先生」


「そうですね、学園長。うちのクラス、今年はかなり生きがいいですよ」


 大司祭の席とは違い何も妨げる物のない観客席で声を潜めることなく言葉を交わす、学園長とカリマカだったのだが、周囲の職員や関係者の耳に届くことは無い。


「これは聖域の応用ですか?」


 その事に疑問を覚えながらも、ある程度は見当のついていたカリマカが学園長に訊ねる。


「ええ、そうです。本来なら魔法や物理攻撃を防ぐ聖域にアレンジを加えまして、不可視の音を遮る壁を作り出しているのですよ」


 簡単に口にしているが、それがどれ程、卓越した神聖魔法の技能が必要なことなのか理解しているカリマカは、規格外の相手を前にして背中が汗で濡れるのを感じていた。


「相変わらずとんでもないですね」


「ふふふ。おだてても何も出ませんよ」


 口元を押さえて艶やかに笑う姿からは誰もが想像できないだろう。この女性が神聖魔法を極め、幾つもの新たな魔法を生み出した、聖女を超えた神の子と呼ばれていたことを。


「しかし、学園長も曲者ですな。腐敗した学園を一掃する為に、6組に彼らを集めるとは」


「はて、何の事ですか?」


 そう言って惚けてはいるが目が笑っていない。

 この人が学園長に就任してから三年が経つ。一年目は学園の仕組みを把握するために費やし、二年目は小さな仕掛けを各方面にばらまいておいた。そして、三年目の今年、大幅な改革に乗り出す気のようだ。


「今のところ思惑通りに事が運んでいますね。あとは組戦の結果いかんによりますが」


「もしこれで優勝を逃したとしても、これまでの戦いは学園に巨大な楔を打ち込むことになりましたよ」


 何処か抜けている緊張感のない雰囲気を漂わしているので、多くの人は学園長の能力を見誤っている。魔法の才はあったが指導者としての才は無いと。

 天才は、どの方面でも天才か。カリマカは、そう思わずにはいられなかった。





 グラスの砕ける音が密室に充満し、高価な絨毯が酒で濡れる。

 手にしていたワイングラスを壁に投げつけた大司教は、それでも怒りが収まらないようで長机に両掌を何度も叩きつけた。


「暗殺者共は裏切り、あの輩のせいで息子が再び辱められたっ!」


 まるで駄々っ子の癇癪のように当たり散らす大司教を、後方で控えている聖職者たちは黙って見つめていた。それは今まで権力に媚びへつらっていた者たちとは思えない冷めた目で、そこには尊敬も憧憬も見えない。


「もういい、最後の手段だっ! お前らも傍観してないで何か思いつかないのかっ! 媚びを売るだけの無能どもめっ! 肝心な時に、あの女、秘書は何処に行った!」


 周りが見えなくなっている大司教は感情の高ぶるままに怒鳴り散らし、その行為が自分の首を絞めていることに気づこうともしない。

 もう、潮時だな。大司教を除いたこの場にいる全ての者の決意は固まりつつある。

 最終手段が大司教にとっての救世主となるのか、はたまた崩壊への道に繋がるのか、今は誰も知る術がなかった。


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