第29話〔絶対に私のこと 好きになってもらいますから〕①
「ヘレンそしてクリア、使いの任、ご苦労さまでした。貴方達は自身の持ち場へ戻りなさい」
「ハイ、預言者様」
転移後に出迎えと、ここまでの付き添いをしてくれた二人の内一人が返事をしてから隣に居る相方に触れ、行動を促し、共に部屋を出て行く。
ム。――どこかで聞いたことがあるような、声。
「どうかしましたか?」
閉まった扉を見ていた顔の向きを正面に戻し、編んだ一括りの髪を肩から前に垂らす、白のローブをフードは被らずに着ている預言者の方を見る。
「聞いたことのあるような声だなと」
「ええ、二人は以前に、洋治さまと会っていますよ」
「え。そうなんですか……?」
他の兵と違い、黒の布地を主に使う装い。
以前に会っているのなら、真っ先に気づきそうだが。
「確か洋治さまは目が見えていなかったと仰っていましたので、二人の姿は見てらっしゃらないのかもしれませんね」
――あ。
「思い出しました。初めてこっちへ来た時に聞いた声です」
「正解です。ちなみに、洋治さまを牢まで運んだのも、あの二人なんですよ」
「なるほど。ということは、鈴木さんは知ってる人達だったんですか?」
と部屋のソファに一人だけ腰を下ろし、くつろいでいる少女を見る。
「そ、ね。人を呼ぼうとすると、だいたい、どっちかが直ぐに来るし」
気怠そうに相手が言う。
「おや、随分と御疲れのようですね」
「もうくたくたよ。はやく風呂に入って、寝たいわ」
「御夕食は宜しいのですか?」
「今晩はパス。さっき、ハンバーガーも食べたし」
「ハン? なんでしょうか、それは」
そう質問する預言者の視線が少女の方へ移ると、隣の女騎士が先ほど手の甲で拭っていた頬を指の先でこそこそと擦る。
……――しかし、指輪の力があるとはいえ、鈴木さんてお構いなし――あれ?
何気なく見た少女の指にあるべきはずの物が無かった。
「鈴木さん、指輪はどうしたんですか?」
「ん、指輪? なんのこと?」
「これです」
言って、向こうで二人に拾われた結果、無事に返ってきた指輪を相手に見せる。
「わたし、そんなの持ってないわよ」
「え。なら、どうやって喋ってるんですか……?」
ん。と相手が、首に掛けていた鎖を引いて、服の内側からペンダントの装飾品を取り出す。
「ネックレスですか?」
「そ。わたしのは指輪じゃなくて、こっち」
なるほど。
「救世主様のは新作なんです。よい出来栄えだと、思いませんか?」
と物を見ながら、おそらくは作り手である預言者が手を合わせ、うっとりとする。
「そうですね。ステキだと思います。なんというか、作り手の心が表れていて。それに、付けている鈴木さんにも似合ってます」
「おや、嬉しいことを言ってくれますねェ」
そう喜ぶ一方で、付けている方は何故か恥ずかしそうな顔をした。
ム。――あまり好きな形ではないのかな?
「……――あんまり、じろじろと見ないで、恥ずかしいから。――こ、交換してほしいなら、いつでもしてあげるし」
「いや、自分がつけても似合わないので、鈴木さんがつけていたほうがいいですよ」
そもそも指輪ですら、合ってないと思うのに。
「なるほど、洋治さまは手広いのですねェ。この場合、自覚の無さは罪でしょうか?」
いや意味が分からないし、聞かないで。
「まァそれはそれとして、時間もさることながら本日は皆様お疲れでしょうから、この辺で、お話を締め括りましょう」
今晩こそは風呂に入りたい。
「では最後に、明日からの予定を連絡いたします」
ム。
「――アリエル、貴方は明日から騎士団長としての任に復帰してもらいます」
「あ、明日からですか?」
「明日からです。本来なら、数日の休暇を予定していたのですが。貴方が異世界へ行っている間に、こちらでも事件がありまして。率直に言うと、九番隊が本日の討伐任務で壊滅状態になりました。ですから蘇生期間中の穴埋めは他の隊員と共に、貴方の指揮で行ってください」
「きゅ九番隊が壊滅っ、いったい何が……?」
「詳しい話は明日します。とにもかくにも、こうなってしまった以上は悠長な事など言ってはおられません。必ず、例の話を今夜の内にしておくのですよ」
「え? ――ぁ。ぇっと」
で何故か隣の騎士に横目で見られる。
「よいですね?」
「は、はいっ」
なんの話だろう。
「なに、なんの話?」
同じく気になったのか、興味ありげな様子で少女が聞く。と隣が、何故かうろたえる。
「――救世主様には、本日の大浴場にて、御話しをさせていただきます」
「そ。なら、はやく行きましょ」
「はい。ですが、もう少々だけ御待ちください」
「ん、急いでよ」
「承知いたしました。――では次に、洋治さまですが」
ム。
「明日はアリエルと共に城へ出向いた後、ここに。そして今後、暫くは私と行動を共にしていただきますので、これからの事などはその間に、お話しをいたします」
「分かりました」
「私からの連絡は以上です。――して、部屋に入ってきた時から気にはなっていたのですが」
預言者が女騎士に顔を向ける。
「はい、何でしょう?」
「貴方その服は?」
と聞かれた相手が自身の着ている服を見て。
「こちらは救世主様からお借りした異世界の衣服で、あっ――そう、でした。預言者様っ」
「なんですか、突然」
「実は腕輪が壊れてしまったようで、収納した鎧だけが出てきません」
「なるほど、特定の物だけが? ちゃんと確かめたのですか?」
「では実際にやってみますので、見ていてください」
言って直ぐさま相談した女騎士が腕輪のある手を胸の前に。そして――。
「アリエル待ちなさ」
え。
――着ていた服が淡く輝き、白い光の球となって腕輪の中に吸い込まれる。同時に、着ていた服が球になった瞬間、腕輪から飛び出した球が体に広がり、鎧の体を成す。
「あ、あれ? 出てきました。――あれ、どうしたのですか? 預言者様」
額を指の先で押さえている相手に、鎧が出てきた事を不思議がる騎士が問う。そして、その答えが傍で見ていた少女の口から出る。
「アンタ、一瞬、裸になってたわよ」
「ハッ」
するとロボットみたいな動きで、耳まで真っ赤っ赤にした顔が、自分の方を向く。
「目、目にゴミが……」
見てません、後ろ姿しか。
「着きましたよーっ」
いい声の御者に告げられて馬車を降りると目の前には、素材感のある横長の家が。
「――ありがとうございました」
と言う自分に、馬車を転回させる御者が手を振って答える。
「それではまたーっ」
そして馬車が地を蹴る蹄の音を立てながら去っていく。
「なんか、いいですよね」
後ろに居る相手に振り返り、言う。
――駄目だ。
未だ放心状態から脱せずにいる騎士を見て、思う。