50.誤解なんです
ビアンカはフィンにベタベタと触りながら笑みを浮かべるエレナを見ていた。
持っていたペンがミシッと音を立てる。
相変わらずフィンとエレナの関係は平行線だ。
縮まりもせず、離れもせずに一定の距離を保っている。
エレナはフィンにアピールを続けているものの、やはりラヴィーニアやビアンカが邪魔になり、上手く進展しないのだろう。
それと此方の性格の変化も、物語に大きく影響を与えているのかもしれない。
フィンはエレナを友人の一人だと割り切っており、特別な感情を持っていないようだ。
表向きはラヴィーニアを庇う事はしないが、エレナ達の行動に大きな違和感を持っている。
(あの自信のある動き方……ヒロインも転生者で間違いない)
確信を得ていた。
エレナも乙女ゲームの知識があるはずだ。
何故なら、フィンとのイベントがある場所に必ず現れる。
(今回のラヴィーニアに違和感を持っているはず……)
どうにかしてラヴィーニアをシナリオ通りに動かそうと必死なのだろう。
それに本来は素直で優しいはずのエミリーですら、エレナの悪意に感化されつつある。
(嫌な予感がするわ)
*
(空が青いわ……)
ラヴィーニアは中庭で服と髪を乾かしていた。
というより、保健室の先生が居ないので帰ってくるまで日向ぼっこをしていた。
「……乙女ゲームの世界も大変ね」
最近、地味な嫌がらせが続いているが、ここにくる前"蜜柑"だった時に慣れている為、今のところは何とも思っていなかった。
何年オドオドしていると思っているのだ。
気の強いイジメっ子達の標的であった蜜柑にとって、この程度の嫌がらせなど日常茶飯事すぎて鼻くそレベルである。
筋金入りのオドオドを舐めないで頂きたい。
そんな事を考えていた時だった。
「…………貴女、いい加減にして」
「エミリー様……?」
「エレナちゃんに酷いことばかりしないで……っ!」
「え……?」
「どうしていつも知らないフリをするの!?私、ちゃんと分かってるんだからッ!!」
エミリーが何のことを言っているのか分からないままである。
それに、びしょ濡れな此方を見ても何も思わないのだろうか。
エミリーは怒りに顔を歪めて、更に責め立てる。
「教科書をボロボロにしたり、階段から突き落としたり……ッ!!エレナちゃん、いつも泣いていて……」
「何のこと……?」
「何て性格の悪さなの……!!私は皆のように騙されたりしないわ」
「エミリー様、貴女何か勘違いを……!」
「エレナちゃんが可哀想よっ!!」
この人の話を聞かない感じは、どこかで見覚えがある。
つい最近、アルノルドの時に体験したモノだ。
怒鳴りながら必死に訴えかけるエミリーを見て、どうするべきか迷っていた。
兎に角、話を出来る状況にない。
それにアルノルドルートでも出てきたエミリーは温厚で心優しい少女だった筈だ。
それが今は鼻息が荒く、殴りかかりそうな勢いで此方に迫ってくる。
ラヴィーニアは一歩また一歩と後退する。
「……貴女も同じ痛みを味わえばいいのよ」
急に低くなる声。
乙女ゲームのエミリーとは全くの別人に思えた。
手のひらの上で風がビュービューと音を立てて鳴っていた。
「……ッ!」
「コワレチャエ……」
その言葉と共に、竜巻が襲う。
ーーーバンッ!!!
「あなたも風属性でしょう?何で何もしないのッ!?」
「…………ッ!!」
「目障りなのよ……」
無数の風によって肌に擦り傷が出来る。
光属性しか使えない為、顔を覆い、防ぐことしか出来ない。