10 一個目のカラーボール
少し近づいてみるとそのヤギの魔獣はとても巨大でした。
頭部には真っ直ぐな角が二本生えていて、とても鋭いです。あれで、突進されたら人間なんてひとたまりもありません。
角が突き刺さったら致命傷を負う可能性だってあります。
このヤギのように草食だったり、猪のような雑食などの魔獣は何か武器になるような特徴や特技があるんですよ。常に肉食の魔獣から狙われて敵対していることもあり、草食系とはいえ気がとても荒いんです。
ということで、どんな魔獣が相手でも危険がつきものです。私とダニエルさんとメルンローゼ様は、何かあった時にはすぐに反応できるよう、杖を身構えながら、ジルさんたちの行動をちょっと離れた場所から静かに見守っていました。
まずジルさんが熱波でヤギに気が付かれる前に吹っ飛ばしました。その勢いでヤギは岩場に叩き付けられ倒れ込んでいます。
タイミングを合わせてオルガさんがそっちへ走り出しました。そして手に持っていたロープが二本びよーんと伸びていき、倒れているヤギの前足と付しろ足にぐるぐると巻き付きます。
最後はロープの先についてた大きい矢じりのようなものが魔物の急所に突き刺って、二人の華麗な連携により、討伐はすぐに終わりました。それはとてもスムーズで、本当に呆気なかったです。
ジルさんがすごいことは知っていましたが、オルガさんの魔法を実際に見て、口を開けて驚いていたのは私だけではありませんでした。
まるで生き物のように不自然な動きをしたロープたち。あれは、オルガさんが動かしているんでしょうけど、それにしても、あんなことができるなんて……。
割と単純な魔法しか覚えてこなかった私は、驚きとともに尊敬の目を向けました。
魔法は奥が深い。それが今まで知らなかった未知のものであればあるほど、それを知った喜びは大きかったです。
これはダニエルさんの魔法にも大いに期待が持てますね。
オルガさんはヤギが絶命したのを確認してから、武器であるロープを身体から回収しました。
よく見れば、ここから距離はありますが、五メートルほど段差のある岩場の崖の上に、数頭のヤギの姿が見えます。こちらに降りてくるそぶりはありませんけど……。
「とりあえず、あれは放っておいてボールを探すぞ」
「はい」
私がヤギに気をとられているとジルさんが声をかけてきました。
この辺りは山にそった岩場ではありますが、眼前が開けています。物を探すのは簡単そうなんですが、ところどころに赤い花が咲いていているので、赤色だけを目印にボールを探すことができません。
「魔法師団の指導官たちは、それをわかっていて、私たちのチームの色を赤縞にしたのかもしれないな」
「ええ、たぶん、黄色い花が咲き誇っている場所を探すチームのカラーは、黄色なんじゃないかしら」
なるほど。そういうことだったんですね。
私たちは魔獣になるべく近づかないようにして、目を凝らしチームカラーのボールを探し続けました。
「あった」
「ありました」
数分後、ダニエルさんと私の声が重なりました。見ている方向が一緒なので、間違えているわけではないようです。
「どこだ?」
「あの、岩のところです」
カラーボールはヤギたちのいる岩場の近くに咲いている花の中にありました。
あれを取りに行っている時に、上から飛び降りてきて角で攻撃されたらとても危険です。
「ここから見えるだけでも、四頭か。どうする?」
「追い払ってもいいなら、僕が試してみるけど」
「今回のメインは魔獣の討伐ではないからな。むやみに戦って危険を冒すこともないだろう。ダニエルにまかせたらどうだ」
「ああ、みんなそれでいいか?」
「そうね、私が気配を消して取りに行ってもいいのだけれど、あの崖を簡単には登れそうにないから、そうしてもらえると有り難いわ」
「はい。お願いします」
そう決まると、私たち五人はダニエルさんが良いと言うところまで、崖下に移動しました。
「ごめん。追っ払うなんて言ったけど、あいつらが襲ってくる可能性もないわけじゃないから、みんなも準備はしておいてよ」
「わかった」
そして、ダニエルさんが魔法陣を描き始めます。
その状況をヤギたちは上からこちらを眺めているようですが、今のところ動きはありません。でも、あそこから飛び降りてこないともかぎりません。
その時こそ、防御壁で皆さんを守ることが私の仕事でしょう。
私もお祖父様から贈ってもらった杖を右手にしっかりと握りました。
「石が落ちてくるかもしれないから、それも気を付けて」
ダニエルさんがそう言ったかと思うと、目の前の崖がドシャーンという大きな音とともにヤギがいるあたりが大きく崩れました。
ダニエルさんは謙遜されていましたが、この魔法もすごいです。
「べええええええ」
それに驚いたヤギたちは落石に巻き込まれないように走り出しましたが、こちらへは降りてこないで、崖を駆け上がり散り散りに姿を消しました。
そしてお目当てのカラーボールはというと……。
「ごめん、埋まっちゃったね」
崖崩れに巻き込んでしまって、砂利の下に入ってしまったようです。
「でも、大丈夫だから」
ダニエルさんが再度魔法陣を描くと、その砂利の表面が少しだけ抉れました。
「もう少しかな?」
もう一度ダニエルさんが杖を振ると、灰色の中に赤い色が見えます。
「ありましたよ」
私が取りに行こうと足を踏み出すと、オルガさんに腕をつかまれました。振り返る間もなく、私の脇をするするとオルガさんのロープがすり抜けていきます。カラーボールに先端が到着すると、それに巻き付き、オルガさんが右手を引いた動きに合わせてロープの先も戻ってきました。
「これで、まずひとつ目か」
「メルンの読みは合ってたな。次はどうする?」
「まだ、時間もあることだし、いけるところまで行ってみるか?」
「メルンとイリーは大丈夫?」
「私は問題ないわ」
「私もです」
今日はこのまま二個目を探すことになりました。
皆が凄すぎて私の出番はありませんが、私の出番はないということは安全だということなので、このまま何事もなく過ぎせるといいんですけどね。