27 再会
「ダニエル、俺たちはジルのところに行くからな」
黙って勝手に動くわけにもいかないので、オルガさんがダニエルさんにそう告げました。
「え、ちょっと待ってよ」
「なんだおまえら、新人のくせに魔獣だらけのところに飛び込むつもりか?」
「あいつらはチームメイトで、俺はそのチームのリーダーなんで」
「おおそうか。仲間思いなのはいいことだ」
「行け行け、何だったらそこまで連れてってやるぞ」
止められるかと思いましたが、意外にもヴェルリッタ領の方は協力的です。
「それは……」
「よろしくお願いします」
オルガさんが断ろうとしたので、私は急いで口を挟みました。
だって、きっとこの人たちと同じように、周りには沢山の見物人がいるはずです。不用意にジルさんに近づこうとすれば、行く手を阻まれると思うんですよね。
そのたびにチームメイトだから合流したいっていちいち説明して説得をしないといけないのは面倒じゃないですか。
そのことをオルガさんに言うと、そうだなと賛成してもらえました。
「僕は……」
「わかってる。ダニエルは魔獣に手を出せないんだろ。その場で何もできないのは立場がないって言うか、居たたまれないよな。だったら、ジルとメルンには治療してる最中だって言っとくから、一緒に来なくても大丈夫だ」
「そうだぞ。ダニエルが手伝ったらつまらないだろうが。おまえだけはここに残れ」
実際に見てはいませんが、ダニエルさんの戦い方はなんとなく把握しています。たぶん私に教えてくれたように急所を狙って効率よく倒すのでしょう。
やろうと思えば広範囲で穴を掘って埋めてしまうこともできそうです。
ヴェルリッタ領の方にここまで言われるくらいですから、そうとうな手練れなんだと思いますが、本当にダニエルさんって何物?
ジルさんとメルンローゼ様は初対面のようでしたけど、彼は貴族の話もしていました。本当に謎です。
「こいつは俺が離さないから、おまえらはさっさと行ってこい」
「ありがとうございます」
私たちは、もう一人の大剣を装備した騎士風の方に連れられて、ジルさんたちのところに行くことになりました。
合流できれば、オルガさんは戦力として十分すぎますし、私も防御だけではなく、ダニエルさんから教えてもらった方法で、今までにないほど効率のいい倒し方ができるようになりました。少しは二人の助けになれると思うんですよね。
山の中を進んでいくと、思った通り、ローブ姿の団員に何度か声を掛けられました。それでも、案内役の騎士の方が『こいつら、爺の孫の仲間なんだ。合流したいんだってさ』と赤縞のリボンを示しながら話してくれたので問題なくジルさんたちの元にたどり着くことができそうです。
「ここから真っすぐ行け。間違って相打ちにならないように気をつけろよ。それと俺たちや周りにいる奴らのことは内密でな」
途中で案内役は魔法師団の方に代わっています。この人、迷彩柄のローブを羽織っているんですが、そんな柄なんてどの部署でもないので不思議に思っていたんですよね。
私がジロジロ見てしまったせいか、実は、自前で作ったものだと教えてくれました。
なぜそんなことをしているのかと言うと、ブネーゼ魔山にいたらローブなんてすぐに汚れてしまうそうで、団から年に一度、無償支給されている背中に魔法師団の紋章が入ったローブは、式典とか用にしまってあるんですって。ここにいる人たちは、そうしていることが多いみたいですよ。
「そうだ、救援弾が残っていたら、今打ち上げておけ。この先で戦っている奴らも、それを見て誰かが近くにいることに気がつくだろう。そうしておけば、間違って攻撃されることもないだろうからな」
「はい。ありがとうございます」
その魔法師団の方にお礼を言ってから、私は救援弾を空へと放ちました。大きな音がして、空が赤く染まるのを確認。
その後、オルガさんと共にジルさんたちのいる場所に急ぎました。
「ジルさーーーーーん」
「メルンーーーーーー」
私たちは、ジルさんとメルンローゼ様の名前を叫びながら、目の前にいる魔獣を討伐して進んでいます。
ここでは、どこに人が潜んでいるかわからないので、広範囲での結界は危なくて使えません。間違って誰かの身体を圧縮したり、倒木で怪我をしても困ります。
とは言っても、私の魔法で急所を圧縮する方法は、動きが速い魔獣だと狙いが定まらないので、まずはオルガさんがロープを使って魔獣の動きを止めたところで、私が圧縮魔法を使って倒しています。
一度に何頭も刈ることはできませんが、それでも短時間で確実に数を減らしているはずなので、私も役には立っていますよね?
「見えた。いたぞ。ジル、俺だ、オルガだ」
「オルガ!? なぜここにいる!? さっきの救援弾はおまえたちか?」
オルガさんの声がジルさんに聞こえたみたいで、返事が戻ってきました。
「そうだ。助けに来た。っていうほど困ってはなさそうだが」
「そんなことはない。倒してもきりがなかったから、来てくれて有り難い。それよりダニエルはどうなった」
「それはもう心配ないぞ。説明は後でする。イリー、ジルと俺たちの間には誰もいない。まだ、足元に結界を張るだけの魔力が残っていたら、それで魔獣の足止め頼む。魔獣が動けないうちに向こうに行くぞ」
「わかりました。魔力は大丈夫です」
ここに向かってくる前に『イリーにあげる』と、ダニエルさんからドライフルーツを沢山貰ったので、それで糖分を補ったおかげか、私の体力はかなり回復しました。魔力切れになると身体が動かなくなるので、普通通りに動けるようになっているということは魔力も回復しているはずです。
「今からそっちに行くから、魔法を使うなら気をつけてくれ」
「承知した」
私が張った結界で足を取られて動けなくなった魔獣たち。
それを横目にまずはジルさんとメルンローゼ様の元へ。
「無事だったか?」
「おまえたちもな」
そこには数時間前と何も変わらない姿のジルさん。怪我もないみたいでよかったです。
でも……。
「ところで、メルンはどこだ?」
「ああ、その辺の木の上にいると思うんだが、私にもわからん」
気配を消しているメルンローゼ様の居場所は誰にもわからないようです。さすが諜報部員として抜擢される能力の持ち主ですね。
「メルンローゼ様ぁぁぁ、どちらですかぁぁ」
自分から姿を現してもらわないことには、見つけようがないので、私は呼んでみることにしました。
「そんなに叫ばなくてもここにいるわよ」
「あっ」
すぐそこにある木の上から声が聞こえてきたので、見上げると、そこにはメルンローゼ様の姿がありました。
それほど高い場所でもないし、こんなに近くにいたのにさっきまで全然気がつきませんでした。
「メルンローゼ様。ご無事で何よりです」
「あなたもね」
「まだ、メルンはそこから降りてくるなよ。討伐が終わったわけじゃないからな」
「ええ、足手まといでしょうから、全滅するまでここで待っているわ」
そしてまた、メルンローゼ様の気配が薄くなります。
「では、さっさと片付けるか。それで、この状況はどうなっているんだ?」
「イリーの結界魔法だ。イリー、ここにいる分くらいは圧縮できそうか?」
「いえ、ダメです。木が倒れてしまいますから」
「ああ、そうだったな。ジル、イリーが魔獣の足止めしている間にとどめを刺してくれ。動ける魔獣は俺が倒すから」
「承知した。イリーの魔法は都合がいい。これならいっきに灰にできる」
ジルさんも相手は動いていない方が狙いやすいそうです。あっという間に魔法陣を描いたと思ったら、そこに存在していた魔獣たちはすべて炭と化していました。
同じ要領で魔獣の数を減らしていき、そこで動いている魔獣の姿がまったくなくなるまでには、それなりに時間を要しましたが、なんとか日が暮れるまでには間に合いました。
そうして、私たちは誰ひとり怪我をすることもなくブネーゼ魔山での一日を終えることができたのでした。
今日はたぶん、お祖父様のせいで、特別な試練を与えられたのだと思います。だからきっと、明日からはもう少し楽になりますよね。
周辺で観察していた人たちも、ジルさんの実力を見て満足したのではないでしょうか。
そう言えば、怪我を治療中ということになっているダニエルさんは明日からどうするつもりなんでしょうね。