チートで産業空洞化に立ち向かう
備忘として俺のノルマを綴っておく。
(数字は優先順位)
01.ヴィルヘルム博士捜索
俺に欠けている異世界知識を全て埋めてくれそうな気がする。
02.ドランさんへの縁結び
先輩に片付いて貰わないと俺やラルフ君が堂々と女遊び出来ない。
03.漬物工房・陶器工房の再稼働
最低限の生活インフラを前線都市に取り戻すべき。
04.古文書読破
暇な時間に読み進めたいが、時間が無くて着手出来てない。
05.ベスおば追放
不細工疫病神。 この人が五月蠅いので工房に女を呼びにくい。
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冒険者ギルドにあまり頻繁に出入りすると、ドレークさんの立場をますます悪くしそうなので、ルッツ君に頼んでヨーゼフさんのパーティーハウスを訪問させて貰う。
手土産はホーンラビットのオニオンオイル漬け。
しばらく無償でばら撒いてみて、好評であればドランさんのプライベートブランドにする予定の試作品である。
『冒険者ギルドへの要請なのですが…』
「はい!」
『職工ギルドも掲示板を使用させて頂けませんでしょうか?
勿論、規定の掲示料をお支払いします。
この件について弊ギルド内で既に許可を取っております。』
「いや… 代金は。」
『いえ、きっちりさせて頂けるとありがたいです。
ギルド間に僅かなりとも軋轢を生みたくないので。』
「掲示に関しては先日の冒険者ギルド緊急会議で承諾決議が出ております。
当方としましては、試験運用も兼ねてしばらくは無償で出させて頂きたいのですが…」
『承知しました。
それでは最初の一案件だけお言葉に甘えさせて下さい。
見積もりを頂け次第、二案件目の依頼も出させて頂けると幸いです。』
「…しかと伝えます。
極力、職工ギルド様の意に沿う形に持って行きますので。」
ヨーゼフと俺は深々と頭を下げる。
ふと目が合ったのだが、片目が潰れていたとは思えないほどに回復している。
もうどちらの眼が潰れていたのかさえも推測出来ない。
「視力も完全に回復しました。」
『おお、おめでとうございます!』
「切断された腕もこの通り、手首まで生えて参りました。」
『おお!
この分ですと、完治も近そうですか?』
「はい、ルッツがここまで戻っておりますので。
おいギブスを外して見せてみろ。」
「はい、ボス!」
ルッツ君が包帯と添え木を外して俺に腕を見せる。
筋肉は最小限で細かったが、指の第二関節まで伸びてきており完治は目前の様子だった。
『ルッツ君、その手は普通に動きますか?』
「はい、この通り。
100%意思通りに動かせています。」
ルッツ君は腕を回したり、肘を曲げたりしてくれる。
『腕が細くなっちゃったのは…?』
「はい、それに関してですが。
筋肉は最低限… 恐らくは鍛錬しない自然の状態で生えて来たものと推測します。
腹部も回復部分だけ腹筋が弱まっています。
様子を見ながらしばらくは筋トレですね。」
『二人共無理をなさらないで下さいね。』
「ありがとうございます。
今までが無理をし過ぎてた気もするので、少しペースを落として励みます。」
『価格表には載せてませんが、ヨーゼフパーティーからはホーンラビット等の買取も致しますので。
引き取り先に困った時は気軽にご相談下さい。
我が師バランも「ヨーゼフパーティの戦力回復に貢献したい。」と申しておりました。』
「温かい御言葉、感謝致します。」
その後、お忍びでヨーゼフのパーティハウスにやって来たドレークギルド長とも挨拶を交わし、冒険者ギルドの掲示板の使用許可を正式に貰った。
ヨーゼフの妻子(つまりドレークの娘孫だ)からも挨拶を受け、戦死者への弔慰金調達に協力する事を約束する。
(対リザード戦の戦死者は10名
ヨーゼフは1人当たり1200万ウェンの補償金を一年以内に遺族に支払う義務を負っている。
これ位の契約内容でないと有能なベテラン冒険者はスカウト出来ない。)
村落単位でパーティーを組んでいるアンダーソンと異なり、ヨーゼフのパーティーは金銭契約で結びついたプロの傭兵集団。
討伐・狩猟作業に最適化されている反面、戦死者・負傷者が発生した場合の補償金負担は大きい。
また苦境時の滅私奉公も期待できない。
現に何人かのベテランがパーティーの退潮を察して他パーティーへの移籍を表明済である。
違約金を支払ってでも距離を取りたい組織状況、ということである。
ヨーゼフパーティーの残り戦闘員は11名。
うち6人が治療中である。
結果、馬車3台体制が裏目に出る。
馬車周りだけでも1日辺り15万ウェンの出費。
馬も御者も無料ではないのだ。
「御者も暇を持て余していましてね。
車輪・車軸のメンテをお願いしています。
おかげで狩りにも行けないのに、馬車はピカピカですw」
ヨーゼフとルッツが自嘲する。
ヨーゼフの妻が笑顔を消して唇を噛む。
先日まで日の出の勢いであった彼らにとっては相当屈辱的な状況なのだろう。
…ん?
『御者…? ですか?』
「ええ、ウチ程の規模のパーティーはどこでも騎手や御者を抱えていますよ?
アンダーソン君やパルマーさんもそうでしょ?」
『あ、いや。
御者の方って修理とかもされるんですか?』
「そりゃあ、馬車の御者は修理修繕からキャリアを進めますからね。
ウチの主任御者なんかは凄いですよ。
移籍してくるまでは運河都市で車両の整備士をしてましたし。」
『…いやぁ。 私が無知でした。
御者の方のキャリア形成とか生まれて初めて知りました。』
「いえいえ。
普通に暮らしていれば他の職業の詳細なんて知らなくて自然でしょう。
私も恥ずかしながら食肉・解体産業がどういう仕組みで動いているのか存じませんし。」
『その。
前線都市では馬車修理業を営んでいる事業者が1件も無くて…
非常に困っておりました。』
「ん?
東門の方に大手の業者さんが居たと思いますけど。
後、西地区にも車輪の製造工房があったような…」
『あ、いえ。
東門の業者というのは、《韋駄天ファクトリー》さんの事だと思うのですが。
あそこは先々月に商都に移転してしまってます。
また西地区の《ジョーンズ車輪店》も廃業されておられます。
店主のジョーンズさんも80を越えておられたようなので。
現在、ゼロです。』
「ああ、そんな事になってるのですね。
ウチは自前で車両を管理してたので思いもよりませんでした。」
『そこで… その非常に不躾なお願いなのですが…
いやお願いと言うより質問なのですが…
ヨーゼフパーティに車両修理業をお願いする事は可能でしょうか?』
「え!? ウチが!?
…あー、いや。
別に気分を害したとかそういう訳ではないのですが…
想像もした事がなかったのですが…
義父さん、如何でしょうか?」
「いや…
私も全くの想定外ではあったのだが…
やれば利益は出ると思う。
今まで意識はしてなかったが、この街の馬車はわざわざ商都でメンテナンスしている筈だから。
うん、この街に競合が無いのなら収益になると思う。
人員・設備は余ってる訳だし、場所は今の厩舎をそのまま使えばいいだろうしな。
隣の荷物置き場を片付けたら2台くらいは余分に停車出来るだろう。」
『いつも思い付きで提案してしまって恐縮ですが…
今この場で正式に要請させて頂いて構いませんか?
私、この足で職工ギルドに営業許可申請を貰ってきますので。』
「あれって許可制だったんですか?」
『はい、車両製造・修理業は自治体単位での許認可が必要です。
この状況なら明日には交付可能だと思います。』
「え? じゃあ自分で馬車作って売ってもいいのですか?」
『ええ、人力車・荷車も製造して貰って構いませんよ。
規格は守って貰いますし、車検に通った車両しか販売出来ませんが。
あ、ギルドに行った時に手引き書を購入しておきます。』
「我々にとっては願ったり叶ったりだけど…
なあ?」
「はい、義父さん。
ウチはメンテ要員も多いですし…
退職した者の中にも職人崩れは大勢居りました。
あの… チートさん?
我々としては非常にメリットのある話なんですけど…
これってチートさんの利益になってますか?」
『あー。
街の利益です。
この街が潤えば、我々全員の利益になります。』
「…。」
んー。
回答間違えたか?
『ほら、私の工房って街の中心にあるじゃないですか?
ある程度前線都市にカネが回って無いと商売にならなくて困るんですよww』
こっちでどうだ?
「…。
車両の件、御言葉に甘えさせて下さい。
冒険者ギルドの掲示板の件も、私の権限で出来得る限りの配慮を致しますので
いつでも気軽に御来訪下さい。
私も職工ギルド本部に正式に答礼に伺いますので、仲介をお願い出来れば幸いです。」
『ありがとうございます!
助かります!』
よし! 想定とは異なるが…
テナントパズル、1個クリアだな。
商業ギルドで売り出されていた車両製造工房、あそこを安く買い叩けないか模索してみよう。
レザノフ卿と話した時に売り主の名前は確かめているからな。
問題は売り主が二人共商都に住んでいることなんだが…
まあそこは手紙とかで何とかなるだろう。
俺はヴィルヘルム博士の捜索をドレークギルド長にお願いすると、職工ギルドに向かった。
余っている馬車をヨーゼフさんが貸してくれたので、御者と情報交換しながら職工ギルドに向かってもらう。
「え!? マジですか!?
ウチが車両業参入するんですか!?」
『なんか仕事増やしちゃって申し訳ないです。』
「いえいえ!
元々整備士志望でこの業界に入ったんでw
ちょっとワクワクしちゃいましたw」
『なるべく労働環境が悪くならないように配慮します。』
「あー、それ助かりますw」
『職工ギルドには職人の労働上限とかの規定ありますので。
上手く適応出来るように工夫してみます。』
「給料あげてくださーいw」
『善処しまーすw』
御者と二人で大笑いしながら職工ギルドを訪問。
ヨーゼフパーティーへの《車両製造・修理業》の開業を申請。
早くて明日、遅くても明後日の交付書送付を約束して貰った。
その後、建物内で職工ギルド長のジミー・ジンクス会長と臨時面談。
「チート君、バラン君はあの件何て言ってた?」
『は? あの件と申しますと?』
「君ぃ。 アレと言ったらアレじゃよ!」
『も、申し訳ありません。』
スキルを発動しながら様子を伺う。
「ほら、アレ! アレじゃよ!」
【えーっと えーっと アレって何だっけ?】
おいおい爺さん…
アンタにわからない事が俺に分かる訳ないだろう。
「いやいやいや!
ワシ、この前言ったよー!!」
【えーと、何を言ったっけ?】
おいおいおい…
勘弁してくれよ…
このスキル、介護にはあんまり向いてないのね…
いい勉強になったよありがとう。
『バランギルに会長が何かを命じたということですね?』
「そうだよー。
次のギルド長はバラン君なんだから!
ちゃんと引き継ぎ受けて貰わなきゃ困るよー。」
【ワシも歳じゃし。
曾孫の顔も見れたし。
もうギルドがどうなろうとあんまり興味ないんだよね。
一昨年辺りまで会長席に執着していた気もするんだけど…
正直、来るだけで疲れるんだよね。
後はバラン君に丸投げでええじゃろ。】
マジかー。
この爺さん、ひょっとして曾孫が生まれたから
勝手に人生一段落させちゃったのか?
おいおいおい、それはあまりに無責任だろう。
『バランギルは青年部長に就任したばかりで。
今、仕事を覚えるのに必死なのです。』
「ほーん。
で? いつ頃、ギルド長を引き受けてくれそう?」
【とりあえず明日ワシの家に来てくれんかの?
曾孫を見せてやっても良いぞい?】
『いえいえ!
そんな大事は私の一存では!?』
「わかった!
じゃあこうしよう!
来年! 来年就任式ね!
それまでは仮ギルド長!
バラン君は暫定ギルド長!
はい決まり!
じゃあワシ帰るから!」
【ふー。
今日も頑張ったー。
可愛い曾孫よ。
お爺ちゃん今日もお仕事頑張ったよー。
はー、疲れたー。
はい今日はこれで閉店♪】
俺は必死で食い下がろうとしたが、こちらの言葉は全て無視されてしまった。
そして会長は鼻歌交じりで専用人力車に乗って去って行ってしまう。
スキルを全開にして【心を読み続けた】が、彼の脳裏には乳児の笑顔(恐らく曾孫君だろう)で占められていた。
俺は居合わせた役員に交渉をお願いするも「バラン君もそのつもりでしょ?」とさらっと返されてしまう。
現役員は一人を除いて全員70代以上の高齢者であり何となく会長と共に引退する雰囲気と
なっていた。
【多少の使途不明金もあるけどバラン君が何とかしてくれるよね?】
等と考えている不心得者まで居る始末。
おいおいおい!
会計くらいちゃんとしてから引退しろよ!
結局、役員ではなく職員の人達と挨拶を交わして車両業周りの念を押しておいた。
ついでにヴィルヘルム博士の探索を私的に依頼。
急ぎ帰宅してバラン師匠に復命。
「押し付けられるのは確定っぽい?」
『はい、全ての役員と話した訳ではないのですが
会長副会長はダブル引退を決めておられます。
向こうの認識では《青年部部長の引き受け=ギルド長就任同意》だったようで。』
「なりたがってる人は居ないの?
ああいう役職って取り合いのイメージあるけど。」
『使途不明金が膨れてるんですよ。
会計担当役員に探りを入れてみましたが、20億ほど穴が空いてます。
ギルド内では周知の事実であるようで、誰も火中の栗を拾いたがらないというか。
「もしも自腹を切らされたらどうしよう?」と不安がってますね。
実物資産についても帳簿上にはあるのですが、実態が非常に不明瞭です。』
「田舎あるあるだよな。
ヘッピ村の青年団でもそういう話あったわ。」
『特に酷いのは鉱物資産ですね。
帳簿上では鋼鉄・銀・銅が1㌧ずつ備蓄されている筈なんですが。
銀が存在しないようなんです。』
「存在しない!?」
『誰かが私的に抜いたようで。』
「あー、要するにこれまでの放漫汚職の押し付け先を探しているのね?」
『師匠、よく冷静でいられますね?』
「職人あるあるだよー。
これで驚いてたら田舎じゃ暮らせない。
なあドラン。」
「だなw
チートは若いからわからないかも知れないけどw
フリーライダーって多いんだぜw
特に組合関係は最低だなww」
『どうしましょう?』
「俺、アイン爺さんと話してくるよ。」
『アイン爺さん?』
「裏の家具屋の経営者。
いつも半裸でタンス作ってる白髪の爺さん居るだろう。
あの人は前期の役員。
野党という訳じゃないんだけど、野党的な性格をしている。」
もはや、バランは賢者で無いにしても愚者でも無い。
少なくとも自分のポジションなりの最適解は理解出来ている。
「多数派工作とまでは行かないが、他のギルド員に挨拶を兼ねてなるべく接触してみる。
こちらから何かを要求する事はないが、聞き手に回って現在の執行部への感情を探ってみるつもりだ。
チート、オマエはテナント問題で一般の職員に接する機会が多いと思う。
…味方を増やせる?」
『やってみます!』
ああ、これ。
押そうが引こうがバランがギルド長になる流れだな。
俺も女の子相手にいい格好したさで「ウチの師匠はそのうちギルド長になる!」とふかしていたが…
軽口は己に返ってくるものだな。
師匠、申し訳ありませんでした。
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【今回の進展】
・冒険者ギルド内の掲示板使用許可取得 (初回のみ無料)
・ヨーゼフパーティーの車両製造・整備業への誘致成功。
・職工ギルドと冒険者ギルドにウィルヘルム博士の捜索依頼申請。
・バラン=バランギル暫定職工ギルド長に就任(但し口頭)
・職工ギルドの財務実態を一部把握(早急に検証の必要あり)
【伊勢海地人】
資産 現金700万ウェン強
古書《魔石取り扱いマニュアル》
古書《帝国本草学辞典》
北区冒険者ギルド隣 住居付き工房テナント (精肉業仕様)
債権10億円1000年分割返済 (債務者・冒険者ヨーゼフ・ホフマン)
地位 バランギル解体工房見習い (営業担当)
前線都市上級市民権保有者
職工ギルド 青年部書記 (青年部のナンバー2)
戦力 なし
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この小説を読んで
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