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書籍化:門番の俺、スキル【見送る】でいつの間にか国を救っていた件 - 公女セレスティーナと道化の知恵 - 5
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書籍化:門番の俺、スキル【見送る】でいつの間にか国を救っていた件  作者: 堀籠遼ノ助(ほりこめりょうのすけ)
第七章

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公女セレスティーナと道化の知恵 - 5

 三日間の教えの、最後の朝が来た。

 フィンはセレスティーナを町の門まで連れて行くと、そこでぴたりと足を止めた。


「俺が教えられるのは、ここまでだ」

 彼の声は、いつもと同じようにぶっきらぼうだった。


「フィンさん……」

 セレスティーナが不安げに彼の名を呼ぶと、フィンはわざとらしく、やれやれと首を振った。


「なんだい。まさか、この先も俺がついてきてくれるとでも思ったか? 言っただろ、俺はあんたの乳母じゃねえ。三日で生きる術は教えた。ここから先は、お前さん自身の旅だ」

「ですが、私は……」

「この先どの道を選ぶか、誰を信じ、誰を疑うか。腹が減ったらどうするか、追手に追われたらどうするか。……その全てを、あんた自身で決めろ。それが、あんたが求めた『自由』ってやつだろ?」


 セレスティーナは、黙って頷いた。この三日間で、彼女はただ教えを乞うだけの生徒ではなくなっていた。


「最後に、一番大事な教えを一つだけくれてやる」

 フィンは、彼女の目を真っ直ぐに見つめた。

「いいか。世の中にはな、キラキラして見えるガラクタが山ほどある。金、見栄、力……そういうもんだ。だが、そんなもんはすべてガラクタだ。本当に大事なもんを見失っちまう。……あんたは、自分の宝物を見間違えるんじゃねえぞ」

「私の、宝物……」

「ああ。誰かにとっての価値じゃねえ。あんた自身の心が、本当に温かいと感じるもんだ。そいつを見つけたら、何があっても手放すな」


 彼はそれだけを言うと、懐から、彼女が昨日自分の力で手に入れた、あの歪なパンの半分を取り出した。


餞別(せんべつ)だ」

 フィンが放り投げたパンを彼女はキャッチする。


「ありがとうございます」

「ああ。……その、何だ……」

 フィンはポリポリとと頭をかいた。


「? どうかしましたか?」

「……いや! やっぱ何でもない。それじゃあ、達者でな、セレスティーナ!」


フィンはそうと言うと、踵を返してスタスタと歩き出した。


「フィン!? あ、あの! ありがとうございました!」


 フィンは振り返らないまま手を振って答え、そのまま雑踏の中に消えていった。


(……初めて、名前を呼んでくれましたね、フィン。認めてくれた、ということでしょうか? ありがとうございました)


 セレスティーナはフィンのくれたパンを一口かじった。それは少し硬かったが、彼女がこれまでの人生で食べた、どんな豪華な食事よりも、ずっとずっと温かい味がした。

 彼女は涙を拭うと、顔を上げた。

 ここからが彼女の、本当の旅の始まりだった。


 彼女はフィンに教わった通り、隊商に紛れ込み、雑用を手伝うことで次の町へと移動した。町から町へと渡り歩き、酒場で働き、時には吟遊詩人の荷物持ちをした。


 ある町の酒場では、酔った客に絡まれた。

「お嬢ちゃん、綺麗な顔してるじゃないか。一杯どうだい?」

 かつての彼女なら、恐怖で凍り付いていただろう。だが、今の彼女は違った。

「生憎ですが、まだ仕事が残っていますので。それより、あちらの席で歌っている方の故郷の話は、聞きましたか?きっと、あなた様のお気に召すはずですよ」


 フィンのように、人の興味を巧みに逸らし、その場を切り抜ける。多くの人々と出会い、多くの優しさと同じくらいの裏切りを知った。

 何度も道に迷い、何度も無一文になった。だが、彼女はもう絶望しなかった。フィンに教わった知恵と、そして自分の手で価値を生み出せるという自信が、彼女を支えていた。




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 まだ残暑の残る日のことだった。

 西の街道から、一人の若い旅人が東門へとやってきた。その服装は質素だが清潔で機能的だった。その足取りは大地をしっかりと踏みしめ、その瞳は自信と、そして世界を知る者の穏やかな光に満ちていた。

 ヨハンは、その姿が、かつて見送った「籠の鳥」であるとすぐに分かった。


「ただいま戻りました、門番さん」


 セレスティーナはヨハンの前で立ち止まり、悪戯っぽく笑った。その笑顔は、かつての作り物のような微笑みとは全く違う、心からのものだった。


「おかえり、嬢ちゃん。……ずいぶんと、良い顔つきになったな」

「あなたに見送っていただけたおかげです。あの言葉を、ずっと旅のお守りにしていましたから」

「俺は何もしてはいないさ。全部、あんたが自分の足で歩いた道だ」


 ヨハンの言葉に、セレスティーナは誇らしげに胸を張った。


「ええ。……あなたが言った通り、自由とは実に不自由なものでした。ひどく腹も減るし、足は棒のようになり、時には人の優しさが刃物のように思えることさえありました」

「……そうか」

「ですが、その不自由さの中で、私は初めて、自分の足で道を選ぶことの意味を知ったのです。それら全てが、紛れもなく私自身のものですから」


 ヨハンは満足そうに頷いた。彼女はもう誰かに守られるお姫様ではない。自分の道を選ぶ、一人の人間だ。


「良い旅だったようだな」

「はい。最高の旅でした」


 彼女は深々と一礼すると、王都の中へと、堂々と歩いていった。その背中はもう、誰にも追わせないだろう。

 その姿が見えなくなるまで見送った後、ヨハンの脳裏に、ひときわ暖かな声が響いた。


《ピーン! スキル【見送る者】のレベルが42に上がりました》

《新たな能力『見送った者が、ほんの少しだけ道に迷いにくくなる』を【獲得】しました。

《旅人の偉大な成長を観測。獲得した能力が【強化】され、能力名が『見送った者が、自らの足で道を選び取れるようになる』へと変化しました》


「……自らの、足で」


 ヨハンは、セレスティーナが選び取った、その道の未来に思いを馳せた。  本当の自由とは、何もない場所へ飛び立つことではない。自らが立つべき場所を、その不自由さの中で自分の足で探し出し、そこを「自分の道」と決める覚悟のことなのかもしれない。  ヨハンは、夏の高い空を見上げ、静かにそう思った。

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― 新着の感想 ―
まだ40代。 99レベルにはまだまだ遠そうですね。 その分楽しみも増えます。
セレスちゃんから『セレスさん』へ…。 身分を詮索するのは兎も角、(一族から) それほど大事とは思われてない、 令嬢だったのだろうか? ※セレスさんが街に戻るちょっと前…。 猫「にゃーん♪」スリスリ♪ …
公女が行方不明になったら、大問題 捜索されるし、警備の人間等の首が物理的に飛ぶんじゃない? 公爵の掌の上だったという事? その後がどうなるか分からないけど、やった事は無責任だよね
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