第一章5 『マスターズ・カンパニー』
秋葉原の街をしばらく歩いて、角を曲がると。
マスターズ・カンパニーに到着した。
自動ドアを抜けて、ビル内に入る。
白を基調とした、ホテルのロビーのような空間。
そこには、何人もの社員がいた。ただ、その出で立ちはどこか異様だ。白衣姿の彼らは、星のようなマークと「M」の文字を組み合わせて図形化した、会社のロゴが描かれたアイマスクをしている。
「ようこそお越しくださいました。当社はマスターズ・カンパニー。ゲーム制作を行っている会社です。お客様はどのようなご用件でしょうか。招待状はお持ちですか?」
アイマスクで目を隠した白衣の社員から声をかけられた。二十代後半だろうか、顔がハッキリ見えないから判断できないが、落ち着いた感じのお姉さんだ。
「お姉さんだれ?」
凪が聞き返すと、お姉さんは機械的に答える。
「わたくしはマスターズ・カンパニー社員のゲートと申します。お客様をお出迎えするのが仕事です」
「ふうん。本名?」
「いえ。違います。コードネームです。あなたは?」
「ぼくはコードネームなんてないよ」
俺は凪を小突いて、小声で言う。
「そんなこと聞かれたんじゃないよ」
逸美ちゃんがゲートさんに向かって、
「招待状をもらって来ました。これがその招待状です」
バッグから招待状を取り出し見せる。お姉さんは読み込むようにじっくり見て(視界があるってことはアイマスクに穴でもあるのだろうか)、
「鳴沢千秋様の御一行様でしたか。改めましてようこそ。ゲームのテストプレイですね。ご案内いたしましょう」
確かこの人、お客様をお出迎えするのが仕事って言ってたよな? じゃあ、案内役はまた別の人なのか?
そう思ったとき。
「ようこそお越しくださいました」
急に、背後から声がした。
いつのまに背後に。
声は男の人のものだ。
振り返ると、そこにいたのは、やはりあの変なアイマスクをした白衣姿の男性だった。
「わたくしはナビ。案内役です」
アイマスクで目が見えないのが、特殊な研究施設にいるみたいで相変わらず気味が悪いけど、新しいゲームを作り出す会社っていうのはこういうものなのだろうか。それも、凪曰く《ルミナリーファンタジー》は幻のゲームってことみたいだし。
「ナスビって変なお名前」
と、凪が不思議そうにぼやく。
そして「ね~」と同意する逸美ちゃん。
「二人共、ナスビじゃなくてナビだよ」
「ひねりもない単純な英訳の名前なんだから間違えないでください」
そう言って、鈴ちゃんはしまった……! というように口を押える。ただの英訳って本人の前で言うのも失礼だもんな。
「すみませんっ」
慌ててナビさんに謝る鈴ちゃんだが、ナビさんは気にした様子もない。
「いえ」
と、淡泊な返事をすると、ナビさんは歩き出した。
「どうぞこちらへ」
案内されてエレベーターへと乗り込んだ。
ビルは十階建てだった。
ナビさんとは特になにか話すこともなく、俺たち四人もしゃべることなく、エレベーター内での時間が流れる。
エレベーターに入ったとき、ナビさんは七階のボタンを押した。
つまり、俺たちが行くのは七階の部屋だ。
俺と凪が並んでエレベーターの階数表示を見上げていると。
エレベーターは途中で止まることなく、七階に到着した。
「降りてください」
ナビさんに手で示され、俺たちはエレベーターを降りた。
全員が降りると、再びナビさんが先頭に出て歩き出す。
そして。
似たような部屋をいくつも通り過ぎ、
ナビさんは、とある部屋の前で、その足を止めた。
部屋の番号は、『703』。
コンコンコンコン。
ナビさんは四回、扉をノックした。
「鳴沢千秋様の御一行様、お連れしました」
それに対して、
「どうぞ」
と。
部屋の中から、男の人の声が聞こえてきた。
声を聞き、ナビさんはドアを開け、俺たちに言った。
「わたくしの役目はここまでです」
ナビさんは扉を押さえたまま、俺たちに目礼した。
「ゲームの世界を、存分にお楽しみくださいませ。では、お入りください」