第一章9 『ゲームスタート』
視界が暗い。
……これは、ゲーム内に入ったのか?
自分の身体があるのかないのかもわからない。
目も開いているのだろうか。まだ現実にいるのかゲーム内なのか判然としない感覚だったけど、徐々に視界が開けてきた。
「明るくなってきた!」
よーし。
これから大冒険が始まるんだ!
俺はパッチリ目を開けた。
……ん?
しかし、俺は自分の目を疑った。
なぜなら、俺が見ているのは、見慣れた景色だったからだ。
俺の目の前にある景色――
それは、いつものあの探偵事務所の中だった。なんだこれ。
ソファーに座る俺の隣には逸美ちゃんもいる。
「逸美ちゃん?」
呼ぶと、逸美ちゃんはハッとしたように目を開けて俺を見返す。
「開くんっ。近くにいてよかった~! 一瞬誰もいなかったから驚いたの~。開くんがいたらその他のことはもうなんだっていいわ。うふふふ」
そう言って逸美ちゃんは俺に抱きついた。大げさな。ていうか、これはなんだ。夢の中なのか? だったら、どこからどこまでが?
頭の中を次々と疑問がよぎっていったが、俺はまた別の人物も目に入った。
凪と鈴ちゃん。
二人もこの事務所にいる。二人に気づいてすぐに、俺に抱きつく逸美ちゃんを俺からはがすようにして普通に座らせる。
俺と逸美ちゃんの目の前にある、お客様用のソファー。そこに座っているのが鈴ちゃん。なぜか所長の机に座っているのが凪。
改めて俺はこの二人を見る。
凪は俺をじっと見つめ、
「なにか?」
「なにか? じゃないだろ。こっちが聞きたいよ」
「キミはなにが聞きたいのさ?」
微妙に会話のリズムがおかしいが、俺は気を取り直して、
「俺が聞きたいのは、これってゲームの中でいいんだよね? ってこと」
「そうなんじゃないの?」
「うん。そうなんだろうけど……」
なんだか自信がなくなってきた。だって、俺たちがやるのは中世のヨーロッパみたいなファンタジーなゲームのはずだ。
どうして現代の――それも、俺の見慣れた探偵事務所にいるんだ。
「そうですよ。ここはゲームの中です」
答えたのは、凪とは別の声だった。
少女の声。
知らない声にぐるりと周囲を見回すと、目の前を小さな光が横切った。
光はピタリと空中で止まり、テーブルの真ん中辺でその姿を現した。
俺は驚きの声を漏らす。
「え、妖精?」
「妖精ちゃん? フェアリーってこと?」
逸美ちゃんは少し驚いたように言ってキョロキョロ見回した。
「そうだよ。で、その妖精はこっちね」
と、逸美ちゃんの頭を左右からつかんでぐいっと妖精のほうへ向けてやる。
「あら、ほんと」
妖精は少女の姿をしており、金色の髪と花を逆さまにしてかぶったような衣装はおとぎ話の妖精みたいだ。
彼女は、ふわりと飛んで俺たち四人を同時に見られる場所に移動し、口を開いた。
「ここはゲームの中です。しかし、もう一つの現実でもあるのです。ゲームの中に広がる、もう一つの世界なのです」
みんなの視線が彼女に集まっている。
凪が尋ねた。
「キミは誰だい?」
妖精は自己紹介をした。
「申し遅れました。わたしは妖精のコルナ。あなた方を迎えに、ゲーム世界からやってきました」