第一章20 『アルタイル』
――十五分後。
お互い目の届かないところまで出かけて、モンスターをたくさん退治してきた。
予想通りクルックモも一撃で倒せる強さで、おかではかどった。
ティラコとクルックモ以外のモンスターは出現しなかったし、本当に、ゲーム最序盤のバトル気分だ。
さて。
集合したところで。
俺たちはメニューを開いて、アイテムのボタンを押し、それから共有状態にする。これで互いの画面が見えて、アイテム一覧も確認できる。
「まず、わたしと開くんチームは、開くんが《ティラコの牙》を7つと《クルックモの綿》を4つ、わたしが《ティラコの牙》を5つと《クルックモの綿》を4つ」
逸美ちゃんが俺たちの成果を報告し、俺は鈴ちゃんと凪の画面を見て、
「で、凪と鈴ちゃんチームは、鈴ちゃんが《ティラコの牙》を6つと《クルックモの綿》を2つ。で、凪はっと…………はぁ? 凪、おまえなんで《クルックモの綿》が2つしかないんだよ。最初に試しで倒した分を除いたら、クルックモを一体しか倒してないぞ」
凪は大仰に腕を広げて、
「違うんだ。ぼくだって頑張ろうと思ったさ。でもぼくと鈴ちゃんはキミたちよりステータスが低いじゃないか。こんなの不公平だ」
「なに言ってるんですか、先輩。探険だとか言ってそこら辺歩き回ってずっとサボってたのが悪いんです」
鈴ちゃんに指摘されても、凪はなおも否定する。
「違うよ。ちょっと気になっただけじゃないか」
「それをサボってたって言うんですっ」
凪はふんぞり返って、
「てことで、ステの問題もあるし、こんな勝負無効だ」
「おい凪、この辺のモンスターはティラコもクルックモも、誰でも一撃で倒せるだろ。ステータスは関係ないぞ」
「ちぇっ。開ってば勝手なことばっかり言って」
「勝手なのはおまえだ。まあ、なんでも命令できる権利ってのが凪の手に渡らなかっただけマシか。どう使うかじっくり考えておくよ」
「ねえ、その権利って開くんにも使えるのかしら?」
逸美ちゃんはむふふと笑っている。どうせろくなことに使わないんだろうな。
「オーケーさ」と凪。
「やった~。じゃあ考えておくわね」
おい凪、とつっこんでも聞かないし、逸美ちゃんも迷惑なことに使わないだろうから、ここは一旦スルーしておくか。
「ねえ、開」
と、凪は俺の肩に手を置いた。
「今度はなんだよ?」
「あそこ。クルックモじゃなくて、なんか鳥がいるだろう?」
どれ? 目をこらして見てみると、確かに鳥がいた。白頭ワシによく似ている。といっても、モンスターみたいだしサイズはティラコくらいある。体長一メートル弱かな。しかし凶暴そうな気配はない。なぜなら、鳥は、足と羽をケガしていたからだ。
「ぼくだけ換金できるアイテム少ないし、あれを倒してくるよ。ひょっとするとレアアイテムをゲットできるかもしれないぜ」
「ちょっと待てよ。あの鳥、ケガしてるだろ。治してあげようよ」
「開はお人好しだね。まあ、見るだけ見てみるか」
近づいていくと、残り少ない真っ赤なゲージと、アルタイルという名前が表示された。
「アルタイルか。助けてあげよう」
目の前のアルタイルに歩み寄る俺の肩に、凪の手が置かれ、止められた。
「名前も表示されてゲージもあるし、やっぱりモンスターじゃないか。それにあんなワシを助けるなんて正気かい?」
「どういうこと?」
俺が首をかしげると、博識な逸美ちゃんが説明してくれた。
「あのサイズのワシはね、凶暴でサルやナマケモノなんかを捕食する種もいるし、中には小柄な人を獲物とみなすカンムリクマタカもいるわ。猛禽類は危険なの。だから、そもそもモンスターなわけだし、治してあげてもすぐに襲ってくるかも」
「でも、放ってはおけないよ。それに、この辺にいるモンスターだ、いざ攻撃してきても返り討ちにできるさ」
「そうですよね。あたしも、あの子を助けてあげたいです」
と、鈴ちゃんも同意した。
俺は凪に向き直って、
「凪、こっそりゲットしてたアイテムあるだろう?」
凪はぎくっと身体を縮めた。
「開、気づいてた?」
「当然」
今度はやれやれと肩をすくめる凪。
「プライバシーの侵害ですな。物騒な世の中になったもんだよ。まあ、ぼくだってどうしてもアルタイルを倒したいわけではないからね。ここは従っておくよ。その代わり、服を買うのに足りない分は出しておくれよ? はい、薬草」
「わかったよ。ちょっとだけならな」
サンキューと薬草を受け取って、その薬草をアルタイルに使ってやると、アルタイルの足と羽のケガは治り、ゲージも緑色に戻っていった。
体力を回復したアルタイルは、じぃっと俺を見つめる。
そして、なにも言わず、後ろへと向き直る。
五歩、六歩と歩き、一度こちらを振り返った後、東のほうの山へ向かって飛び去った。
「開、アルタイルも治ってよかったじゃないか」
「うん」
「それに、襲ってこなかったしね」
と、逸美ちゃんも安堵したように微笑んだ。
怯えてずっと凪の後ろに隠れていた鈴ちゃんも、やっと安心できたのか、地面にへたり込んでしまった。
「はぁ、怖かったぁ」
と、女の子座りで吐息と共にそう漏らす鈴ちゃんである。
「もし開が治さなかったら、ぼくが治してやるところだった。ふむ、楽しみだ」
「ん?」
さっきとはまるっきり逆のことを平然と言う凪だったが、その意味はわからなかった。まあ、あの子も治ったし結果オーライだ。