第二章3 『迷いの森』
《迷いの森》
RPG物の定番でどこのゲームにもあるけど、いざプレイヤーとなって自分たちが森に足を踏み入れると、方向感覚が狂って本当に迷ってしまいそうだ。
「どこをどう歩いてるのかわかんないよ」
困り顔の俺に、逸美ちゃんが胸の前で両手の拳を握って声をかけてくれる。
「開くん、頑張ろう。まだ森には入ったばかりだよ」
「うん、そうだよね」
まだ森に入って五分くらい。
でも、これまでの普通の森は、自然の気持ちよさがあったけど、この森では道がわからないから樹海に迷い込んでしまったような気分になる。
ただ、木の枝には変わった花が咲いているのが見られるし、新しい鳥のモンスターも枝にとまっているのがいいところ。
普通に歩いているだけでは手が届かない位置にいるから、俺たちは見るだけ。
「綺麗な鳥ね」
「そうだね」
ハナリアという鳥で、桃色の花びらでできた羽を何枚か重ねたような、体長三十センチほどのモンスターだ。美しいさえずりが沈みそうになる気分を明るくしてくれる。この森とはセットで登場するのに適している。
「最初は普通の花かと思ったよ」
と、凪がハナリアを見上げる。
このゲームの特徴として、動かないモンスターは名前が表示されたりこちらからモンスターだと気づかない仕様で、ハナリアも最初は花に見間違えた。
きっとハナリアみたいになにかに擬態するモンスターもいるだろうし、他の変わったモンスターや、カブトムシやクワガタのモンスターにも出てきてほしいものだ。
せっせと歩くが、正しい道ってのがわからないし、ここを抜けるのは手間だ。
先頭を歩いていた凪が足を止めた。
俺と逸美ちゃんも凪に倣って立ち止まる。
「二人共、分かれ道だ」
凪が指差す先は、二股になった分かれ道。
「開と逸美さんはどっちに行きたい?」
「わたしはどっちでもいいわよ」
「俺は右かな」
「ほう。どうしてだい?」
「時間はかかるけど、迷路パズルと同じ原理だからさ。壁伝いに歩き続ければ、いずれ出口に辿り着けるって寸法だよ」
たとえ行き止まりになっても、すべての壁を伝って歩くから確実なのだ。
「なるほど。開くん賢い!」
「へへん」
逸美ちゃんに褒められて胸を張るが、凪がバッサリ。
「それはやめよう」
「なんで」
納得いかない。
「《迷いの森》の規模が不明だ。それじゃ辿り着くのが深夜になるかもしれない。もっと簡単な攻略法があるはずなんだ」
「あるはず、って。まだ考えついてもないのかよ」
じっとりと凪を見るが、こいつは平然と言う。
「いまから考えよう。そして、考えるのはキミの役割だ」
「俺、ゲームのことなんてわかんないぞ」
まったく。人の意見は却下しておいて自分は無計画とは、いつもそうだけど、本当に勝手なやつだ。俺は肩を落としたが、適当に言ってみる。
「あ。じゃあ、さっきの《謎のオカリナ》は?」
「オカリナを吹いたら羊やら牧羊犬が案内してくれるんじゃあるまいし、とも思うけどね、試す価値はある」
俺はアイテム一覧から《謎のオカリナ》を取り出した。
「吹くよ」
どうやって吹くのかよくわからないけど、とにかく口に当てて息を吹きかける。すると、勝手に演奏のような音が奏でられた。
「どう?」
「ふぅむ。さっぱりだ。なにも起きない」
「これは違ったのかしら」
逸美ちゃんが首をかしげる。俺もオカリナを手に首をひねるが、それ以外にアイテムの類はないし、別の方法があるのだろうか。
凪が俺の肩にポンと手を置いて、
「いまはそのときじゃないのかもね。またあとで試そう」
「ああ。でも、どうする? 適当に歩き出してみる?」
「わたしはさっきの開くんの考えた、壁伝いの方法でいいと思うな」
ふむ、と凪はうなずく。
「仕方ない。逸美さんもそう言うんじゃ、それで行ってみるか」