第二章8 『開と木星』
そうだ。
俺はふと思い出して、「メニューオン」とメニューを呼び出し、画面を共有状態にして、逸美ちゃんに見せた。
「逸美ちゃん! 俺も魔法が使えるようになったんだよ」
二つの魔法。
《雷火》
《天空の煌星》
どちらも頭に『ゼノ』がつく。
「昨日の《天空の剣》を手に入れたあと、魔法覧に追加されたみたいなんだ」
俺の説明を聞きながら、逸美ちゃんは画面を覗き込む。
「あら、いいじゃない。やったね! 開くん」
「うん! でさ、この『ゼノ』ってなに? もしかして、七曜に関係あるかな? 七つのアイテムじゃないけどさ。《魔剣グラム》がドラゴンキラーだったから、俺たちはこれが、《ドラゴンの涙》攻略の鍵になると考えたよね。だったら、どこかの惑星に対応しているかもしれない」
逸美ちゃんは真剣な眼差しで技名を見て、
「開くんの推測、当たってるかもしれないわ。ゼノは、木星に関するものにしばしば使われる接頭語なのよ」
「ヘルメスが水星だったでしょ? だったら木星って、ギリシャ神話では誰になる?」
この俺の問いかけに、逸美ちゃんはハッとなって答える。
「最高神ゼウス。ローマ神話の最高神ユピテルとも同一よ。そして、ゼウスとユピテルは天空神と呼ばれているの。雷・雨・雪・雲などの気象と全宇宙を支配している。ゼウスは雷火を使ったから、《雷火》ってそのままだもの」
ビンゴだ。
「なるほど。この技は木星とゼウスに関連がある可能性が極めて高いってことか」
「だと思う。でも、やっぱり開くんがゼウスだったのね。ぴったりだわ」
「だからあいつが相棒を自称してるだけだって」
と、俺は肩をすくめた。
俺は装備品の画面を移動し、《天空の剣》の説明文を見る。
ただ、『巨木のてっぺんに突き立っていた剣。天空にあることから天空の剣と呼ばれる』としか書かれていない。
この画面を開いたまま、俺は言った。
「つまり、整理すると――。これは、木星に当たるアイテムを入手するためには不可欠な剣だと考えられる」
「じゃあ木星ってもしかして」
逸美ちゃんの言葉に、俺はうなずく。
「うん。木星に当たるアイテムは、この《天空の剣》と呼ばれた《魔剣グラム》を必要とする。《魔剣グラム》がドラゴンスレイヤーであるならば、答えはひとつだ。木星のアイテムは、《ドラゴンの涙》ということになる」
またなにかに気づいた様子の逸美ちゃんは、考えるをまとめるように言った。
「だったら、メーデスさんもそうだったのかも。ゼウスの聖獣はワシ。ガニュメデスっていう美少年をワシの姿に化けてさらった話があるんだけど、ガーニュさんとメーデスさんの名前はそこから来てるのよ。ゼウス――つまり木星と結びつけるために」
「逸美ちゃん、きっとそうだよ。そんな手がかりまであったのか」
「わし座の一等星のアルタイルも、ガニュメデスをさらったときにゼウスが化けた姿とも言われているしね。あと、タンタロスがガニュメデスをさらったという説もあるから、タンタロスから守る役目とかもかけて、ストーリーが組まれたのかもね」
「なるほど。よく考えるものだ」
そうなると、また思い浮かぶことがある。
「あとさ。七曜と七つのアイテムを、他の星と関連付けたとき、《氷雪の指輪》が気になったんだ」
「どういうこと?」
「七曜の星の中で、輪っかがあるもの――つまり、環があるといえば、土星だ。土星の環ってなにでできてる?」
この知識は前に逸美ちゃんに聞いたことがあったけど、確認だ。
「氷よ。99.9%が氷でできている! そういうことね」
「そう。《氷雪の指輪》は土星なんだ。クリア条件のヒントになるかもしれない。ただ、残りはまだ、なんとも言えないな。《黄金の聖杯》がネーミング通り金星なのかとか、微妙なところだしね。《黒金の翼》なんて、《暗黒点の矢》と両方に色でのかぶりがある」
「そうねぇ。それぞれの神話と星とじゃ、幾通りにもなるから」
「七曜を人に当てはめると、凪が水星で俺が木星、鈴ちゃんの鎌が《氷晶の鎌》で氷の魔法が使える。よって、鈴ちゃんが土星。逸美ちゃんは現在のところ不明。それ以外にも、他の誰かに割り当てられるかは不明だけど、アイテム入手の鍵になるかもしれない……かな」
もしかしたら、俺が《天空の剣》を手に入れたことすら、誰かのシナリオなのかもしれない。凪が《ケリュケイオン》をさらりと手に入れたのが引っかかっているのだ。どこかで誰かの作為が働いている可能性は……?
太陽神であるアポロンが《ケリュケイオン》をヘルメスに送った。だから、凪に杖を与えた少年は太陽の象徴――すなわち、彼が日曜に当たるのかもしれない。
だったら、ヘルメスがあなただと指名するような真似ができた、その少年が……いや、だとしら……
考え込みそうになったところで、逸美ちゃんの手が視界に入る。
「!」
顔を上げると。
逸美ちゃんが笑顔で手のひらを俺に見せた。
俺はその手に自分の手のひらを当て、ハイタッチ。
パン
と、音を鳴らした。
「ヒントゲットだね! 開くん。その方向で考えてみよう」
「うん」
「これ以上は考えすぎても仕方ないし、どんどん進もう!」
「うん。だよね」
そうだ。
俺が《天空の剣》を手に入れたときだって、七曜だとかの裏設定なんか知らなくても、クエストクリアへ到達できるようになっていた。
きっと、俺が知りたいいろんな謎だって、ゲームをクリアすればわかること。
俺は逸美ちゃんたちといっしょにクリアを目指せばいいんだ。
そして、逸美ちゃんは一歩進んで、俺を振り返る。
「じゃあ開くん、わたしたちも出発する?」
「だね! 行こう」
「まずは《ミストフィード》の街まで、このまままっすぐよ」
「話に聞いた通りなら、きっとすぐに着くね」
次の街《ミストフィード》までは、ずっと草原だった。
心地よいそよ風が吹く草原を、ティラコやクルックモやモッフントなどのモンスターを討伐しながら進むと、すぐだった。